3GPP Release 19における5G-Advanced無線技術概要
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熊谷 慎也(くまがい しんや)
6Gテック部
閔 天楊(びん てんよう)
大川 立樹(おおかわ りき)
RAN技術推進室
北川 竜(きたがわ りゅう)
プロダクト技術部
あらまし
3GPPでは,5G向けの新たな無線アクセス技術であるNRの標準仕様がRel-15として策定され,その後,Rel-16/17において技術拡張が行われてきた.さらに,Rel-18以降の5G仕様を5G-Advancedと位置づけ,さらなる技術拡張が行われている.本稿では,2023年12月から2025年12月にかけて仕様策定されたRel-19における5G-Advanced無線の高度化技術について概説する.
01.まえがき
第5世代移動通信システム(5G)向けの新たな無線アクセス技術であるNR(New Radio)*1が3GPP(3rd Generation Partnership Project)*2 Release 15(以下,Rel-15)で仕様策定された.その後,Rel-16/17においてはモバイルブロードバンドの高度化(eMBB:enhanced Mobile BroadBand)*3や高信頼・低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communication)*4向けの高度化技術に加えて,産業分野でのIoT(Internet of Things)を促進するIIoT(Industrial IoT)*5といった新規事業を創出するための拡張技術が規定された.Rel-17ではさらに,新規シナリオ・ユースケースに対応するために,高周波数帯のより一層の開拓や非地上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)*6のサポート,さらにウェアラブル端末向けなどの低コストNR端末カテゴリ(RedCap(Reduced Capability)*7)も追加規定された.
3GPPではRel-18以降を5G-Advancedと定義し,2020年代後半の商用化をターゲットにした機能追加を行っている.また5G-Advancedを,2030年ごろをターゲットとした第6世代移動通信システム(6G)へのステップとも位置付け,①モバイルブロードバンドの進化とさまざまな業界への5G展開,②短期的なニーズに対応する技術と中長期的なニーズに対応する技術,③デバイスの進化とネットワークの進化,のそれぞれの観点でバランスのとれた検討/仕様化を行い,5Gが新たな価値を提供することに貢献している.Rel-19は5G-Advancedとしては2番目の仕様である.Rel-19で仕様化した主な機能を図1に示す.本稿では,これらのRel-19で仕様化された主な拡張技術と,その検討で考慮された背景を概説する.
- NR:5G向けに策定された無線方式規格.4Gと比較して高い周波数帯(例えば,6GHz帯以下や28GHz帯)などを活用した通信の高度化や,高度化されたIoTの実現を目的とした低遅延・高信頼な通信を可能にする.
- 3GPP:移動通信システムの規格策定を行う標準化団体.
- モバイルブロードバンドの高度化(eMBB):高速大容量を必要とする通信の総称.
- 高信頼・低遅延通信(URLLC):低遅延かつ,高信頼性を必要とする通信の総称.
- IIoT:工場などにおける機器など,産業分野向けのIoT.
- 非地上ネットワーク(NTN):衛星やHAPSなどの非陸上系媒体を利用して,通信エリアが地上に限定されず,空・海・宇宙などのあらゆる場所に通信エリアが拡張されたネットワーク.
- RedCap:Rel-17 NRにおいて導入された簡易端末カテゴリの名称で,通常のNR端末よりサポートする送受信アンテナ数や帯域幅を減らすことでデバイスの複雑さを低減する.
02. 産業創出・ソリューション協創向け高度化技術
2.1 A-IoT向け無線アクセス技術
近年,IoT端末のさらなる展開として,環境中の電波・光・熱・振動などから得られる微小エネルギーを用いて動作する,電池レスまたは極小エネルギーのみを蓄える超低消費電力IoT端末が注目されている.3GPPでは,超低消費電力IoT端末をセルラシステムに統合することを目的として,A‑IoT(Ambient IoT)*8の検討がRel-18より開始された.Rel-18ではA-IoTに関するユースケース,要求条件,トラフィック特性,設計目標などが整理され,これらに基づいてRel‑19では,屋内での在庫管理や簡易制御を代表例とするユースケースを対象に,A-IoT向け無線アクセス技術の本格的な仕様化が進められた.Rel-19において仕様化されたA‑IoTデバイスは,µW級のピーク電力で動作し,能動的な送信を行わず,外部から供給される搬送波を後方散乱方式*9により送信する点を特徴とする.これにより,eMTC(enhanced Machine Type Communication)*10やNB‑IoT(Narrow Band-IoT)*11といった既存の3GPP IoT規格と比べて,狭カバレッジ*12・低データレートとなる代わりに消費電力・端末コスト・端末サイズを大幅に低減することが可能となり,数十億~数百億台規模の端末展開が期待される.
2.2 多様な配置・接続形態を可能とする5Gトポロジ高度化技術
近年,通信インフラの柔軟な展開や迅速な復旧能力の重要性が高まる中,無線バックホール*13を活用したアクセスノード技術が注目されている.また,一般家庭,オフィス,商業施設,医療機関,物流倉庫などの屋内環境において,高度な通信インフラへの需要が急速に高まっている.これらを背景にRel-19ではWAB(Wireless Access Backhaul)*14と5Gフェムト*15の検討・仕様化が進められた.
(1)WAB
WABは,無線バックホールを利用してネットワークへ接続する移動型アクセスノードを実現するアーキテクチャである.WABの主な適用シナリオとしては,バックホールインフラが十分に整備されていない地域における補完通信や,災害時における暫定的な通信確保が想定されている.既存の通信インフラが損傷した場合でも,WABノードを迅速に展開することでネットワークの早期復旧が可能となる.また,WABノードを衛星プラットフォームに搭載し,NTNリンクを介してバックホール接続を行う構成も検討されており,地上系ネットワークと衛星通信を統合的に運用するための手段としても期待されている.
(2)5Gフェムト
5Gフェムトは,4Gフェムトの後継として策定された小型ローカルアクセスノードである.4Gフェムトでは基本的に単一セル構成が前提となっていたが,5Gフェムトでは複数セルの運用が可能となり,より広域な屋内カバレッジの提供や,小規模な屋外環境への適用をすることができる.この拡張により,住宅環境のみならず,企業施設や商業施設など多様な環境での利用が想定されている.さらに,3GPP Rel-16で導入されたNPN(Non-Public Network)*16機能と連携し,特定の加入者のみがアクセス可能な閉域型ネットワークを構築することで,企業ネットワークや工場などにおけるセキュアな通信環境を実現できる.
2.3 NTNにおける無線アクセス高度化技術
3GPPにおけるNTN向け通信技術は,従来の地上ネットワークでは通信インフラの整備や十分な通信品質および可用性の確保が困難であった利用シーンを対象に,Rel-17以降段階的に拡張されてきた.Rel-19のNTNでは,下りリンク(DL:DownLink)*17カバレッジの改善,上りリンク(UL:UpLink)*18容量の拡大,配信サービスのサポート,多様な衛星システムや接続形態への対応,RedCap端末への対応などを通じ,実利用を見据えたNTNの普及に向けた仕様化が行われた.
(1)DLカバレッジ改善
Rel-19では,電力上の制約や衛星の物理的な制約を補償するためのカバレッジ改善に主眼が置かれた.DLビームの強度が十分に確保できない場合にこれを補償するため,DL制御チャネル(PDCCH:Physical Downlink Control CHannel)*19および一部のDLデータチャネル(PDSCH:Physical Downlink Shared CHannel)*20の繰返し送信に対応した.また,セルのカバレッジ網羅に必要なビーム数に対して,衛星が同時に利用可能なビーム数が少ない場合でも運用を可能にするため,同期信号ブロック(SSB:Synchronization Signal Block)*21の送信周期を延長可能にした.
(2)UL容量の拡大
NTNセルでは限られた帯域に多数の端末が接続し,特にULの容量がひっ迫することが想定されるため,ULデータチャネル(PUSCH:Physical Uplink Shared CHannel)*22に対する直交カバー符号(OCC:Orthogonal Cover Code)*23による符号領域多重を導入して接続可能な端末数の向上を実現した.
(3)配信サービスサポート
NTNセルは広いカバレッジをもつため,配信サービスやETWS(Earthquake and Tsunami Warning System)*24を細やかな対象エリアにのみ配信することができない点が問題だった.そこで,報知情報*25によって意図するサービスエリアを通知する,マルチキャスト・ブロードキャスト機能*26によってNTNセルの一部にのみ情報を配信することを可能にした.また,ETWSの対象エリアを指定できるようにした.
(4)再生中継型通信のサポート
Rel-19以前のNTNセルでは,gNB(gNodeB)*27機能が地上のNTNゲートウェイ*28に搭載される透過中継型(transparent payload)のみを想定していたが,多様な衛星システムや接続形態に対応してNTNの実装自由度を広げるため,衛星内にgNBの機能を搭載する再生中継型(regenerative payload)のアーキテクチャをサポートすることが明確化された.
(5)RedCap端末サポート
Rel-17やRel-18で導入されたRedCap/eRedCap(enhanced Reduced Capability)*29端末について,NTNによる広範なカバレッジをIoTユースケースなどに活用することを見込み,NTNセルに接続するための端末RF(Radio Frequency)*30要件が定義された.
- A-IoT:エナジーハーベスティング技術,エネルギーストレージ技術,後方散乱通信(バックスキャッタ通信)(*9参照)技術,低消費電力信号生成・処理技術などを組み合わせることで,バッテリ交換やメンテナンスが極力不要となるようなデバイス.
- 後方散乱方式:端末が自ら搬送波を生成せず,外部から供給される搬送波を反射・変調することで情報を送信する通信方式である.極めて低い消費電力で通信可能な点が特徴.
- eMTC:狭い周波数帯域により低速データ通信を行うセンサなどのローエンドIoT端末のためのLTE仕様.
- NB‑IoT:eMTCよりもさらに狭い周波数帯により超低速データ通信を行うセンサなどのローエンドIoT端末のためのLTE仕様.
- カバレッジ:基地局当りの端末との通信を行うことができるエリア(セル半径).カバレッジが大きいほど設置する基地局数を低減できる.
- 無線バックホール:基地局とコアネットワーク,または基地局間を接続するバックホール回線に無線通信を用いる方式.光ファイバの代替として用いられ,迅速なネットワーク展開や柔軟な接続構成を可能とする.
- WAB:アクセス回線とバックホール回線の双方を無線で構成するネットワーク形態を指す.
- フェムト:住宅や小規模オフィス向けに設置される超小セル基地局を指す.
- NPN:特定の企業,組織,または施設などの限定された利用者を対象として提供される専用のモバイルネットワーク.
- 下りリンク(DL):基地局から端末方向への情報の流れ.
- 上りリンク(UL):端末から基地局方向への情報の流れ.
- DL制御チャネル(PDCCH):DLにおける物理レイヤの制御チャネル.
- DLデータチャネル(PDSCH):DLでデータパケットを送受信するために用いる物理チャネル.
- 同期信号ブロック(SSB):SS(Synchronization Signal),PBCH(Physical Broadcast Channel)から構成される同期信号/報知チャネルブロック.主に端末が通信開始時にセルIDや受信タイミング検出を実施するために周期的に送信され,NRでは各セルの受信品質測定にも流用される.
- ULデータチャネル(PUSCH):ULでデータパケットを送受信するために用いる物理チャネル.
- 直交カバー符号(OCC):異なる符号同士の内積がゼロになる数学的性質をもつ符号.時間と周波数を共有する複数の信号を多重化するために用いられる.
- ETWS:PWS(Public Warning System)の一種.地震や津波などの発生を知らせる緊急情報配信の仕組みで,速報性を重視する特徴がある.
- 報知情報:移動端末がセルへの接続手順を実施するために必要となる規制情報,共通チャネル情報,ランダムアクセスチャネル情報などを含み,セルごとに一斉同報される.
- マルチキャスト・ブロードキャスト機能:セル内に存在する複数またはすべての端末に対してユーザデータを配信するための機能拡張.公共安全・ミッションクリティカルサービス,V2Xアプリケーション,ライブ動画配信などといったサービスを念頭に導入された.
- gNB:5Gの無線技術NRにおける無線基地局.
- ゲートウェイ:プロトコル変換やデータの中継機能などを有するノード機能.
- eRedCap:Rel-18 NRにおいて導入された簡易端末カテゴリの名称で,RedCap端末からさらにデータレートを削減することでデバイスの複雑さを低減する.
- RF:無線信号の搬送波に使用される周波数.
03. モバイルブロードバンド向け高度化技術
3.1 MIMO高度化
Rel-15以降の各リリースでは,継続的にMIMO(Multiple Input Multiple Output)*31の技術拡張が行われてきた.Rel-19のMIMO高度化では,ユーザスループットの改善を目的に,イベント契機のビーム報告,DL CSI(Channel State Information)*32の拡張,3アンテナUL送信,および上下リンク非対称セルシナリオの仕様化が行われた.
(1)イベント契機のビーム報告
Rel-19では,MIMOビーム管理のさらなる高度化を目的として,ユーザ端末*33が自律的にビーム品質の変化を検知し,必要なタイミングでビーム報告を送信するイベント契機のビーム報告が導入された.端末自身が,測定結果に基づき,周辺環境の変化により事前に設定されたイベント条件を満たした場合にのみ,ビーム品質を送信する.これにより,端末は低いULオーバヘッドでかつ必要なタイミングでのビーム報告が可能になる.
(2)DL CSIの拡張
特にsub-6GHz帯域においては,アンテナ技術の高度化や小型化により,超多素子アンテナを備えた基地局の実装が進んでいる.従来端末が測定やフィードバックできるCSI-RS(CSI-Reference Signal)*34ポート数は最大32までしか仕様化されていなかった.そこで,基地局側がもつアンテナの性能を最大限引き出すために,CSI-RSの最大128ポートへの拡張が行われた.より高解像なCSIを活用することで,目標となる端末に信号電力をより集中させて通信を行うことが可能になる.これによって,通信が混雑する環境やセルエッジにおけるDLスループットの改善が見込まれる.
(3)3アンテナUL送信
ULの通信品質やスループットの向上を目的として,新たに端末の3送信アンテナ(Tx)が仕様化された.これまでの3GPP仕様においては,端末のUL送信は1,2,4,8Txがサポートされているが,特にスマートフォンなどにおける実際のデバイス実装においては,アンテナの実装スペースやRF素子のコストなどの制約から,いまだ2Txが広く普及するにとどまっている.一方でDLでは,4受信アンテナ(Rx)などの高度な受信方式が実装されており,ULがシステム全体のボトルネックとなる課題が生じていた.そこで普及している2Txから4Txに飛躍させるのではなく,ハードウェアの負担を抑えてMIMOによるスループットや通信品質を底上げするために,Rel-19にて3Txが仕様化されるに至った.3Txの導入,特にランク3のUL MIMO送信のサポートにより,ULのスループットは理論上2Tx比で最大1.5倍に拡張される.
(4)上下リンク非対称セルシナリオ
従来のセルシナリオでは,基地局の送受信点(TRP:Transmission and Reception Point)*35の場所はDLとULで同一であった.しかし,端末の送信電力は基地局の送信電力より小さいことが多いため,ULの性能が十分に出ない場合があった.そこでRel-19では,従来のTRPに加えてUL用のTRPを追加設置したシナリオを対象に,端末がより近い上りTRPにUL送信することでULの性能を改善できる仕様化が行われた.UL用のTRPは,DLのデータ送信をしない簡素な構成が想定される.これにより,従来のTRPと比べて,ハードウェアのコスト低減効果や基地局消費電力の低減効果が期待される.
3.2 ハンドオーバの高度化
近年の5Gネットワークでは,低遅延かつ高速なセル切替えを実現するため,レイヤ1*36/レイヤ2*37レベルでのモビリティ制御*38であるLTM(Lower-layer Triggered Mobility)*39が導入され,Rel-19ではその拡張が検討・仕様化された.
(1)基地局をまたぐLTMのサポート
従来のLTMは主に同一基地局内のセル切替えを対象としていたが,ネットワークの柔軟な展開や分散アーキテクチャに対応するため,基地局をまたぐLTM実行を可能とする拡張が仕様化された.在圏セルと異なる基地局内のセルを候補セルとして設定するために,CSIリソース*40設定や早期同期設定などを含む,必要な情報を基地局間で交換するシグナリング*41が導入された.また,基地局をまたぐセル切替え時に必要となるセキュリティ関連情報をMAC CE(Medium Access Control Control Element)*42で通知する仕組みも仕様化された.これらにより,基地局をまたぐLTMによる高速なセル切替えの実現が期待される.
(2)LTM向けの測定拡張
LTMの効率的な実行を支援するため測定機能が強化された.特に,候補セルに対するビーム管理やチャネル品質の把握を目的として,CSI-RSを利用した測定フレームワークの導入が仕様化された.具体的には,候補セルに対して周期的または準静的なCSI-RSリソース構成を設定することで,端末が事前にビーム品質を評価できるようにする仕組みが導入された.さらに,セル切替え前後における早期CSI取得を可能とするため,CSIリソース構成や報告方式の拡張も仕様化された.また,ビームベースの測定イベントを導入することで,在圏セルや候補セルのビーム品質に基づいたイベントトリガが可能となる.端末はこれらのイベント発生時にMAC CEなどを用いてネットワークへ測定結果を通知することで,LTMの実行判断に必要な情報をネットワーク側へ提供できるようになる.
(3)CLTM(Conditional LTM)*43のサポート
ロバスト性*44の高いLTMセル切替えを目的として,端末が実行条件の評価結果に基づきセル切替えを実行するCLTMの導入が仕様化された.CLTMでは,基地局があらかじめ候補セルや実行条件を端末に設定しておき,条件が満たされた場合に端末が自律的にセル切替えを実行する.この仕組みを実現するため,端末が複数候補セルに対するTA(Timing Advance)*45を事前に取得・維持する方法が検討された.TAはPDCCH orderによるランダムアクセス手順*46や,端末によるTA測定によって取得することができる.TAが有効な状態で保持されている場合には,ランダムアクセス手順を省略したセル切替えも実現可能となる.
3.3 複信方式の高度化
Rel-18以前の時分割複信(TDD:Time Division Duplex)*47方式では,基地局は同一周波数帯域・同一時刻において下り信号の送信または上り信号の受信のいずれか一方のみを行う半二重通信*48が想定されていた.また,実運用では隣接する周波数帯域への影響を避けるためにTDDスロット*49におけるULシンボル*50とDLシンボルの構成がほぼ固定的となっており,特にULリソースが限定的であった.
Rel-19では複信方式*51の高度化について議論され,基地局側においてSBFD(SubBand non‑overlapping Full Duplex)*52が仕様化された.SBFDの導入により,ULトラフィックが多い場合にULリソース割合を増加することが可能となり,ULの高速・大容量化が期待できる.また,時間リソースを多く必要とするULの繰返し送信の適用が可能となり,カバレッジ改善が期待できる.さらに,ランダムアクセス用のリソースを増加させることで衝突確率や遅延の低減も期待できる.
3.4 XRユースケースに向けた最適化
XR(eXtended Reality)*53は高データレート・低遅延・マルチメディア同期を同時に要求する,将来モバイルネットワークで重要なユースケースであり,3GPPではRel-18からXRユースケース向けの技術拡張が導入された.Rel-19ではXR通信の性質に適応したさらなる技術改良が複数導入された.
(1)マルチモーダル*54通信への適応
XRアプリケーションは通常,映像・音声・加速度情報・触覚通信など複数のモダリティ*55からなる複合的な情報伝達を要求する.さらにこれらのモダリティは相互依存性をもつため,モダリティ間の同期や協調によってユーザの没入体験が向上する.Rel-18のXR機能はこれらの情報をQoS(Quality of Service)フロー*56単位で分別して伝達することを志向したが,Rel-19ではモダリティ間の同期を実現すべく,MMSID(Multi-Modal Service ID)*57の導入やU-plane*58の動作拡張が行われた.
(2)ULスケジューリングの最適化
XR通信でボトルネックとなり得るULのシステム容量を改善するために,MAC層*59の送信優先度変更やDSR(Delay Status Report)*60の報告粒度改善,ULレート制御MAC CEの導入などといったスケジューリングの機能拡張が行われた.
(3)Measurement gap*61制御の柔軟化
gNBは端末に対してMeasurement gap機会での測定動作をキャンセルするよう指示できるようになった.また,端末はgNBにキャンセルするMeasurement gapの比率を要求できるようになった.これによりユーザデータ伝送のためのシステム容量を拡大することができる.
3.5 端末RF機能拡張
Rel-15以降,端末送受信系統数の拡大によるスループット性能の向上が続けられている.Rel-19ではFR1(Frequency Range 1)*62において,以下に示す端末送受信系統数の拡大が仕様化された.また,FR2*63においては,以下に示す端末送信電力バックオフ*64規定の拡張が仕様化された.
(1)FR1向け送信系統数の拡大
スマートフォンなどのHandheld UE*65向けに,CA(Carrier Aggregation)*66/DC(Dual Connectivity)*67におけるUL最大3系統への拡張が導入された.本機能は,実装制約の少ないFWA(Fixed Wireless Access)*68端末やCPE(Customer Premises Equipment)*69端末向けにすでに導入されていたが,制約の多いHandheld UEにも拡張された.また,最大送信電力29dBmまでの範囲内において,CA/DCにおけるHPUE(High Power UE)*70の拡張も導入されている.
(2)FR1向け受信系統数の拡大
スマートフォンなどのHandheld UE向けには,2.5GHzを超える周波数において,シングルキャリア*71送信におけるDL最大6系統(最大4layer DL MIMO)への拡張が行われた.実装制約の少ないFWA端末やCPE端末向けにはDL8系統がすでに導入済みであったが,DL6系統(最大6layer DL MIMO)も導入された.
(3)FR2向け端末送信電力バックオフの改善
端末の送信電力バックオフ規定に関して,従来はULとDLで共通の局部発振器*72を用いる構成を前提としていたが,独立の局部発振器を用いる構成に規定が拡張されたことで,ULの帯域幅に基づいた送信電力バックオフの算出が可能となり,端末送信電力増強によるFR2のカバレッジ改善が期待される.
- MIMO:送受信それぞれに複数のアンテナ素子を配置し,多重波環境における複数の電波伝搬経路を利用して並列に伝送することで高速伝送を実現する技術.
- CSI:信号が経由した無線チャネルの状態を表す情報.
- ユーザ端末:3GPPに準拠した機能をもつ移動機.
- CSI-RS:端末が無線チャネル状態を測定するために基地局から送信される参照信号.
- 送受信点(TRP):基地局において,1つの場所に設置された,1つまたは複数の送受信アンテナポートの集合.1つの場所に設置された送受信アンテナポートのみを用いる基地局構成をシングルTRPと呼び,複数の場所に設置された送受信アンテナポートを用いる基地局構成をマルチTRPと呼ぶ.
- レイヤ1:OSI参照モデルの第1層.物理層を指す.
- レイヤ2:OSI参照モデルの第2層.データリンク層を指す.
- モビリティ制御:端末の移動管理に関する制御.
- LTM:MAC層(*59参照)やPHY層などの下位層において検知されたリンク品質の変化や通信状態の情報をトリガとしてモビリティ制御を開始する方式.これにより,従来のRRC主体のモビリティ制御と比較して,より高速かつ効率的なハンドオーバ(*85参照)や接続先セルの切替えを実現することが可能となる.
- CSIリソース:無線チャネルの状態を測定・取得するために,ネットワークから端末に設定される無線リソースを指す.
- シグナリング:端末と基地局間の通信に使用する制御信号.
- MAC CE:MAC層(*59参照)において制御情報を伝達するための制御要素であり,端末とgNB間でMACレイヤの制御に必要な情報を効率的に通知するために用いられる.
- CLTM:あらかじめネットワークから指示された条件に基づき,下位レイヤ(主に物理層/MAC層)における測定結果をトリガとして端末がセル切替えを実行する方式.
- ロバスト性:無線環境の変動(フェージング,干渉,負荷変動など)や装置・リンクの不確実性に対しても,通信品質やサービス提供を安定的に維持できる能力.
- TA:端末から基地局へ送信される上り信号の到達タイミングを調整するための制御パラメータ.端末と基地局との距離に応じて無線伝搬遅延が発生するため,基地局は端末に対して送信タイミングを前倒しするよう指示することで,上り信号が基地局において適切なタイミングで受信されるよう制御する.
- PDCCH orderによるランダムアクセス手順:基地局が端末に対してランダムアクセス手順の開始を指示し,端末はPRACH(Physical Random Access CHannel)を用いてランダムアクセス用プリアンブルを送信し,基地局に対して上り同期確立のための信号を通知する手順.
- 時分割複信(TDD):双方向の送受信方式の1つ.ULとDLに同一の周波数帯を使用し,異なる時間(タイムスロット)を割り当てることにより双方向通信が可能.
- 半二重通信:同じキャリア(*71参照)周波数,周波数帯域を用いて,交互に信号伝送を行う方式.
- スロット:データのスケジューリング単位.複数のOFDMシンボルから構成される.
- シンボル:伝送するデータの単位であり,OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の場合は複数のサブキャリアから構成される.各サブキャリアには複数のビット(例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)なら2bit)がマッピングされる.
- 複信方式:相対する方向で送信が同時に行われる通信方式をいう.一般に,周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex),TDDがある.
- SBFD:TDDキャリアにおけるDLシンボルまたはフレキシブルシンボル内にULサブバンドとDLサブバンドを設定し,基地局側においてDLサブバンドでの送信とULサブバンドでの受信を同時に行う機能.
- XR:ウェアラブル端末などを用いて,現実と仮想の環境が融合する体験を提供する技術の総称.
- マルチモーダル:複数の種類の情報を掛け合わせること.ここでは,音声データや画像データなどの複数のメディアデータを入力情報として扱うことを指す.
- モダリティ:XR通信の文脈では,伝達する情報の種類や形式を指す.音声・映像・加速度などの複数のモダリティを伝達する通信をマルチモーダル通信という.
- QoSフロー:アプリケーションまたはサービスごとに異なるQoS(通信品質)要求を識別し,個別に制御するための単位.1つのPDUセッション内に複数のQoSフローが存在し得る.
- MMSID:XRサービスにおいて,映像,音声,触覚など複数のメディア要素を統合的に識別・管理するための識別子.複数ストリーム間の関連性をネットワーク側で把握することで,QoS制御の最適化を可能とする.
- U-plane:音声データやWebブラウジング,動画ストリーミングなどの実際のユーザパケットを送受信する通信経路や機能.
- MAC層:通信回線を複数ノード間で共用する場合に,お互いの通信が衝突しないように制御を行う機能を有する.OSI(Open System Interconnection)7層モデルでは,データリンク層の下部副層に相当する.
- DSR:端末が基地局に対して,データ通信の遅延状況を報告する機能.
- Measurement gap:端末が,別の周波数帯や他の基地局の信号を測定するために,データの送受信を一時的に停止する時間枠.
- FR1:周波数レンジの1つ.410~7,125MHzを指す.
- FR2:周波数レンジの1つ.24,250~71,000MHzを指す.
- 送信電力バックオフ:送信電力の低下.本稿では,端末が担保すべき最大出力電力の規定に対する緩和を指す.
- Handheld UE:いわゆるスマートフォンのような,ユーザが手に保持して用いるデバイスを指す.
- CA:1つの基地局でサポートされる複数のキャリアを用いて同時に送受信を行うことにより,高速伝送を実現する技術.
- DC:端末が2つの基地局と接続し,それぞれの基地局との送受信を同時に行うことで広帯域化を実現する技術.
- FWA:無線通信規格の1つで,固定無線アクセスシステムを指す.FWA端末はスマートフォンのような携帯端末とは異なり固定されて使用する想定のため,一般的に,携帯端末と比較して大きなデバイス容積で各種無線信号処理ハードウェアが実装しやすい.
- CPE:無線通信規格の1つで,顧客の敷地内に設営される無線システムを指す.一般的に,携帯端末と比較して大きなデバイス容積で各種無線信号処理ハードウェアが実装しやすい.
- HPUE:基準となる23dBmより大きな最大送信出力で送信できる端末.
- キャリア:情報を伝達するために変調される電波(搬送波).
- 局部発振器:ベースバンド信号をRF信号に変調する,あるいはRF信号をベースバンド信号に復調するための,搬送波信号を生成する発振器.
04. RANインテリジェント化・自動化技術
4.1 無線区間へのAI/MLの活用
Rel-19ではAI(Artificial Intelligence)/ML(Machine Learning)*73の無線アクセスへの活用として,ビーム予測とチャネル予測技術,および位置測位技術が仕様化された.
(1)AI/MLを活用したビーム予測
Rel-18までのNRでは,使用周波数帯の広帯域化,高周波数帯化を背景としてビームフォーミング*74技術の機能拡張が継続的に行われてきた.特に近年では,massive MIMO*75と呼ばれる多数のアンテナ素子を用いた高指向性ビームの活用が広まっている.多数の候補ビームから最適なビームを選択するビーム管理を行うためには,端末での多数かつ高頻度なビーム測定やビーム報告が必要であり,オーバヘッドや端末消費電力の増加が課題となっていた.
Rel-19では,AI/MLを用いた無線制御機能の1つとして,AI/MLを用いたビーム予測が仕様化された.具体的には,空間的に疎なビーム測定結果から,AI/MLを用いてビーム間の測定を補完して空間的に密なビーム受信電力を予測する空間的予測と,過去のビーム測定結果から,AI/MLを用いて時系列的に将来のビーム受信電力を予測する時間的予測の2パターンが仕様化された.これらの予測によって,オーバヘッドや端末消費電力の低減が見込める.
(2)AI/MLを活用したチャネル予測
前述のビーム予測と同様に,Rel-19ではAI/MLを用いたチャネル予測が仕様化された.具体的には,時系列的に過去のCSI測定結果からAI/MLを用いて将来のCSIを予測する時間的予測が仕様化された.
(3)AI/MLを活用した端末位置測位
NRでの端末位置測位技術はRel-16からRel-18にかけて仕様化とその機能拡張が行われた.これらの技術では,基本的に基地局と端末間に遮蔽物のない見通し(LoS(Line of Sight)*76)環境を想定しており,LoS環境における直接波の到来時刻や角度から幾何学的に位置関係を計算することで測位を可能にしていた.しかし,遮蔽物の存在する非見通し(NLoS(Non-LoS)*77)環境では測位精度が低下してしまう問題があった.そこでRel-19では,NLoS環境下においてもLoS環境と同等の測位精度を出すことを目標に,AI/MLを用いた測位技術が仕様化された.
4.2 AI/MLを用いた基地局の制御高度化
Rel-19では,AI/MLを用いた基地局の制御高度化として,ネットワークの状態や将来の変化に関する情報を収集・共有する仕組みが導入されている.これらの機能は,AI/MLを活用した自律的なネットワーク管理を実現するための重要な基盤技術として期待されている.
(1)AI/MLを用いたネットワークスライシング*78最適化
AI/MLを活用したネットワークスライシングの最適化を目的として,gNB間でスライス関連情報を収集・共有する仕組みが仕様化された.本機能では,スライスごとの無線リソース状況,利用可能容量,端末性能などの予測情報を収集対象として設定できる.
(2)AI/MLを用いたカバレッジおよび容量最適化
AI/MLを用いたカバレッジや容量最適化では,gNBが将来的に発生する可能性のあるカバレッジ問題や容量問題を予測し,その影響を受けるセルやビームの将来状態を算出する.これらの情報は,原因や適用タイミングとともに基地局設定更新手順を用いて近隣gNBへ通知される.また,CU(Central Unit)*79-DU(Distributed Unit)*80分離アーキテクチャ環境では,gNB-DUが予測されたカバレッジや容量問題に関する支援情報を受信し,それに基づいてセルやビームの将来のカバレッジ設定をgNB-CUへ通知する仕組みも仕様化されている.
4.3 SON/MDT機能の高度化
近年の3GPP仕様では,LTMやCHO(Conditional HandOver)*81,DC環境におけるPSCell*82変更など,多様なモビリティシナリオに対応したモビリティ機能の拡張が進められている.Rel-19 SON(Self Organizing Network)*83/MDT(Minimization of Drive Test)*84では,セル切替えやハンドオーバ*85にともなう接続失敗をネットワーク側で検出・分析し,モビリティ関連パラメータやセル選択を最適化する機能の検討・仕様化が行われた.さらに,NTN環境やネットワークスライシングに対応した測定や分析機能が導入され,より多様なネットワーク環境における性能評価と最適化が可能となった.
- AI/ML:モデルを用いて推論すること,および,推論に用いるモデルを機械学習により生成すること.
- ビームフォーミング:送信信号に指向性をもたせることで,特定方向の信号電力を増加/低下させる技術.
- Massive MIMO:複数素子のアンテナによって無線信号を空間的に多重伝送するMIMO伝送方式において,より多数の素子アンテナの採用により,鋭い電波ビームの形成や,より多くのストリームの同時伝送を実現する技術.
- LoS:送受信間に遮蔽物がなく,直接波を使用した通信が主となる状態.
- NLoS:送受信間に遮蔽物が存在し,回折波を使用した通信が主となる状態.
- ネットワークスライシング:単一の物理ネットワーク基盤上に,サービス要件に応じて論理的に分離された複数の仮想ネットワーク(スライス)を構築・提供する技術.各スライスはそれぞれ独立した通信特性やネットワーク機能をもつように構成することが可能であり,産業用途,IoT,モバイルブロードバンドなど異なるサービス要求に応じた柔軟なネットワーク提供を実現する.
- CU:無線基地局装置のデジタル信号処理部分.ベースバンド処理部や保守監視機能を備える.
- DU:無線基地局装置の分散制御部分.無線信号の送受信や処理を行う.
- CHO:ネットワークがあらかじめ端末に対して複数のハンドオーバ(*85参照)候補セルおよび実行条件を設定しておき,端末が所定の条件を満たした場合にハンドオーバを自律的に実行する方式.
- PSCell:DC構成において,SN(Secondary Node)側で端末の無線接続を代表するセル.PSCellはSN側の主要セルとして機能し,SN側の無線リソース制御や測定管理などに用いられる.
- SON:無線ネットワークの設定,最適化,および障害回復などの運用管理機能を自動化する技術.基地局やネットワーク要素が収集した情報を基に,自律的にパラメータ調整やネットワーク構成の最適化を行うことで,運用コストの低減およびネットワーク性能の向上を実現することを目的とする.
- MDT:端末から収集される測定情報を活用することで,従来のドライブテストによる無線品質測定を補完または代替する技術.端末が収集した無線品質や位置情報などのデータをネットワーク側で分析することにより,カバレッジや通信品質の評価およびネットワーク最適化を効率的に行うことを目的とする.
- ハンドオーバ:端末が接続先のサービングセルを切り替えること.
05. サステナビリティ向け高度化技術
5.1 ネットワーク消費電力削減技術
近年の環境問題への関心の高まりに加え,多様なデバイスやサービスの普及にともなうデータ通信量の急増,さらに無線ネットワークの高度化によるアンテナ数・帯域幅・周波数帯の拡大により,ネットワーク側の消費電力削減は通信事業者にとって喫緊の課題となっている.こうした背景の下,3GPP Rel-18では,ネットワーク側の電力消費を抑制する技術としてNES(Network Energy Saving)が導入された.Rel-18ではRRC(Radio Resource Control)接続状態*86の端末や端末個別の信号に対する省電力化を主眼に,データ送信時の基地局の空間電力制御や間欠送受信制御などの技術が仕様化された.これにより,通信品質を維持しつつ,トラフィック状況や端末の状態に応じて省電力運用が可能となった.
さらに,5Gの高度化をめざすRel-19では,NESの適用対象が拡張され,より多様な運用シナリオにおいて省電力効果が得られるようになった.具体的には,セカンダリセル*87におけるSSBやシステム情報のオンデマンド型の送信制御,セル共通信号の送信間隔の適応制御など,送信信号の最小化を実現する技術や基地局の送信休止を制御する技術が導入された.これらの技術により,基地局は不要な信号送信や待受け状態を抑制し,より深いスリープ状態を長時間維持することができる.結果として,環境負荷の低減と運用コストの最適化を両立した持続可能なネットワークの実現が期待される.
5.2 端末消費電力削減の技術
5Gでは,モバイル通信に加えて多様な産業用途も想定されており,端末のエネルギー効率の向上は重要な課題である.特に,待受状態でのページング*88監視やRRM(Radio Resource Management)測定*89,ならびにRRC接続状態での制御信号*90監視は,端末の待受時消費電力に大きく影響する.また,小型の二次電池やコイン電池で動作するセンサやウェアラブル機器はより長い電池寿命が求められる.
この課題に対し,Rel-18で低消費電力起床受信機(LP-WUR:Low-Power Wake-Up Receiver)*91や低消費電力起床信号(LP-WUS:Low-Power Wake-Up Signal)*92が検討され,Rel-19でLP-WUSが仕様化された.Rel-19のLP-WUSはLP-WURにより低消費電力で信号を監視して必要な場合にのみ通常の受信処理へ移行させる省電力化技術であり,待受状態やRRC接続状態の信号設計・手順・設定(同期用信号や測定負荷の緩和を含む)が仕様化された.これにより,ページングや制御信号監視に伴う不要な受信動作を抑え,端末の省電力効果を高めることで端末電池寿命を延伸し,ユーザ体感の向上が期待される.
- RRC接続状態:端末とネットワークの間で無線接続が確立され,データ送受信や制御信号監視を行う状態.
- セカンダリセル:CAにおいて複数用いるキャリアの中で,接続を担保するキャリアであるプライマリセル以外のキャリア.
- ページング:着信時に待受け在圏中の端末を呼び出す手順および信号.
- RRM測定:端末がセル選択・再選択,受信品質把握のために行う無線測定.
- 制御信号:制御信号を扱うコントロールプレーンのこと.
- 低消費電力起床受信機(LP-WUR):通常の受信機(MR)よりも低消費電力で,LP-WUSや同期・RRM測定に用いる信号を監視するための受信機である.必要な場合にのみMRを起動し,通常の受信処理へ移行させる.
- 低消費電力起床信号(LP-WUS):LP-WURにより低消費電力で信号を監視して,必要な場合にのみ通常の受信処理へ移行させる省電力化技術.
06. あとがき
本稿では3GPP Rel-19仕様で策定された5G-Advanced無線の高度化技術について概説した.ここで紹介した産業創出・ソリューション協創向け高度化技術,モバイルブロードバンド向け高度化技術,RANインテリジェント化・自動化技術,およびサステナビリティ向け高度化技術については本特集別記事でより詳細に解説しているので,参照されたい[1]~[4].3GPPでは2025年6月から,5G-Advancedの3番目の仕様としてRel-20仕様の策定や6Gの技術検討を開始している.ドコモは,3GPPにおける5Gや6G標準化の推進に寄与しており,今後も5Gや6Gの標準化のさらなる発展に貢献していく.
- [1] 吉岡,ほか:“3GPP Release 19における産業創出・ソリューション協創向け高度化技術,”本誌,Vol.34,No.2,Jul. 2026.https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol34_2/002.html
- [2] 松村,ほか:“3GPP Release 19におけるモバイルブロードバンド向け高度化技術,”本誌,Vol.34,No.2,Jul. 2026.https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol34_2/003.html
- [3] 島,ほか:“3GPP Release 19におけるRANインテリジェント化・自動化技術,”本誌,Vol.34,No.2,Jul. 2026.https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol34_2/004.html
- [4] 七條,ほか:“3GPP Release 19におけるサステナビリティ向け高度化技術,”本誌,Vol.34,No.2,Jul. 2026.https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol34_2/005.html