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ブロードバンド無線アクセスにおけるMIMO多重法を用いた5Gbit/s超高速パケット信号伝送屋外実験〜3.MIMO送受信実験装置構成

試作した実験装置の送信機、受信機構成を図2に、MIMO送受信実験装置の外観を写真1に示す。

図2 MIMO 送受信実験装置構成

写真1 MIMO 送受信実験装置外観

キャリア周波数、周波数帯域幅はそれぞれ4.635GHz、101.4MHzである。送信機/受信機は、12送信/受信アンテナ、D/A(A/D)変換部を含む無線部およびメモリ部から構成される。本実験装置では、送信機でのD/A変換前の送信信号生成処理、および受信機でのA/D 変換後の受信信号復調処理などのベースバンド処理は、ワークステーションにおいてオフラインで行う構成となっている。しかしながら、実際の無線機、送受信アンテナを用いて信号伝送を行うため、得られる無線伝送特性はリアルタイム信号伝送装置とほぼ同等である。RF(Radio Frequency)無線部の基本仕様を表1に、ベースバンド信号処理部の基本仕様を表2に示す。

表1 RF 無線部基本仕様
キャリア周波数 4.635GHz
周波数帯域幅 101.4MHz
アクセス方式 12アンテナ(送信/受信)
基地局送信電力 20W(合計)
D/A(A/D)変換量子化ビット数 14bit(D/A)/12bit(A/D)
クロックサンプリング速度 270Msample/s
メモリ容量(ブランチ当り) 9Gbyte(送信部)/18Gbyte(受信部)
ハードディスク容量 480Gbyte

表2 ベースバンド信号処理部基本仕様
無線アクセス VSF−Spread OFDM
サブフレーム長 0.5ms
サブキャリア数 1,536(サブキャリア間隔:65.919kHz)
OFDMシンボル長 Data 15.170μs+CP 2.067μs
拡散率 1
チ ャネル符号/復号 ターボ符号( =8/9、 =4)/
Max−Log−MAP復号
シンボルタイミング検出 パイロットシンボルを用いる相互相関検出
チャネル推定 2次元MMSEチャネル推定フィルタ
信号分離法 ASESSを用いるQRM−MLD法

送信機は、約480Gbyteのハードディスク搭載のワークステーションと、ブランチ注意1当り9Gbyteのメモリ、14bitのD/A変換器、IF(Intermediate Frequency)注意2およびRF送信回路、12ブランチの送信アンテナにより構成される。ワークステーションにおいて、2値の情報ビット系列を拘束長注意3 4bit、R=8/9のターボ符号化およびビットインタリーブ注意4した後、64QAMデータ変調マッピングする。データ変調後の送信シンボル系列は、1,536サブキャリアに直並列変換された後、送信アンテナ固有の直交パイロットシンボル注意5を、サブフレーム(サブフレーム長は0.5ms)内に時間多重され、各送信アンテナのシンボル系列が生成される。このシンボル系列を、2,048ポイントの逆フーリエ変換(IFFT : Inverse Fast Fourier Transform)注意6により、OFDMシンボルに変換し(有効シンボル長は15.170μs)、2.067μs長のCP(Cyclic Prefix)注意7を付加した。CP付加後の同相/直交成分のベースバンド変調信号注意8を、送信機におけるメモリ部に蓄積し、270Msample/sのサンプリングレートで、この信号をD/A変換後、直交変調、RF信号に周波数変換して各アンテナより送信する。

受信機は、12ブランチの受信アンテナ、RF およびIF 受信回路、12bitのA/D変換器、ブランチ当り18Gbyteのメモリ、約480Gbyteのハードディスク搭載のワークステーションにより構成される。各アンテナの受信信号をIF帯において自動利得制御(AGC :Automatic Gain Control)増幅器による線形増幅を行った後、直交検波、A/D変換した同相/直交成分のベースバンド変調受信信号を受信機の大容量メモリに蓄積する。ワークステーションでは、この信号を用いて、高速フーリエ変換(FFT : Fast Fourier Transform)注意9におけるウィンドウタイミング注意10を検出した後、CPを除去し、FFTにより各サブキャリアの信号成分に分離する。その後、各サブキャリアのチャネル推定値注意11を2次元MMSE(Minimum Mean Square Error)チャネル推定注意12[7]により求める。信号分離部では、チャネル推定値を用いてASESSを用いるQRM−MLD法による信号検出を行う。信号分離部の出力信号から、軟判定注意13ターボ復号のためのビットごとの対数尤度比(LLR :Log Likelihood Ratio)注意14を計算[8]し、デインタリーブ注意4後、ターボ復号器(Max−Log−MAP復号注意15)に入力して、送信信号系列を再生する。

  • 注意1 ブランチ : 本稿では、アンテナおよびRF送受信機の総称。
  • 注意2 IF : 無線受信回路において周波数選択性と受信感度を向上させるため使用する一定の周波数。中間周波数と訳される。移動通信システムでは、複数の異なる無線周波数を使用するが、受信回路内では復調する前に中間周波数に周波数変換することが多い。
  • 注意3 拘束長 : 出力を得るのに必要な過去の入力ビット数を表す。拘束長を大きくすると誤り訂正能力が高くなるが、復号時における処理量が多くなる。
  • 注意注意注意インタリーブ : 本稿では、移動通信においてフェージング変動により発生するバースト誤りをランダム化する技術を指す。誤り訂正符号化との組合せにより、高い訂正能力が得られる。また、データ変調前のビット系列に対して行うインタリーブをビットインタリーブと呼ぶ。デインタリーブは、受信側においてランダム化された送信信号の順序を元に戻すことを指す。
  • 注意5 パイロットシンボル : 移動通信システムにおいて、送信側および受信側ともに既知のシンボル。受信側におけるシンボル同期、無線伝搬路(チャネル)での振幅変動、位相変動量の推定および受信した信号電力、干渉電力や雑音電力の推定などに用いられる。
  • 注意6 逆フーリエ変換:高速フーリエ変換(注意9参照)の逆変換。各周波数成分の信号の畳み込みにより、時間波形の信号を生成する。
  • 注意7  CP : OFDMにおいて、マルチパスの遅延時間に応じて発生するシンボル間干渉および隣接サブキャリアへのサブキャリア間干渉を取り除くために、OFDMシンボル間に設けられるガード区間。
  • 注意8 同相/直交成分ベースバンド変調信号 : 直交変調前(検波後)のデジタル信号の同相(In−phase)および直交(Quadrature)成分。
  • 注意9 高速フーリエ変換 : 信号の中に含まれる周波数成分とその割合を抽出する処理を高速に計算する手法。
  • 注意10 ウィンドウタイミング : 高速フーリエ変換を行う際の受信タイミング。
  • 注意11 チャネル推定値 : パケットフレームごとにデータシンボルに時間多重したパイロットシンボルを用いて推定した伝搬路(チャネル)変動量
  • 注意12 2次元MMSEチャネル推定 : MMSEは平均2乗誤差最小の略.時間方向および周波数方向の2次元のチャネル変動の相関を考慮することにより、ある一定のサブキャリア間隔、時間間隔で多重された複数のパイロット信号を用いて、推定誤差が最小となるように、パイロット信号の間に多重されているデータ信号での周波数、時間のチャネル変動を高精度に推定する。
  • 注意13 軟判定 : 受信シンボルに信頼度情報を付加して、これに基づいて受信信号の値そのものを利用して復号を行うこと。受信信号の値を0 もしくは1に二値化して復号する硬判定と比較して、高い誤り訂正能力が得られる。
  • 注意14 対数尤度比 : 軟判定復号において必要な各受信データが0となる信頼度情報(尤度)と、1となる信頼度情報(尤度)の比の対数値。
  • 注意15 Max−Log−MAP復号 : チャネル復号アルゴリズムの1 つで、最適な復号アルゴリズムである最大事後確率(MAP: Maximum Aposteriori Probability)アルゴリズムと比較して、事後確率の計算において近似を用いることで演算量を大幅に削減しながらほぼ同等の特性を実現可能なアルゴリズム。

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.15 No.2に、掲載されています。