TCFD提言に基づく情報開示(気候変動への対応)

TASK FORCE on CLIMATE-RELATED FINANCIAL DISCLOSURES

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)1が2017年6月に報告した最終報告書「気候変動関連財務情報開示タスクフォースによる提言」に対して、ドコモは2019年6月に賛同を表明しました。TCFDの提言を踏まえ、気候変動リスク・機会について適切な情報開示を行っていきます。

  • G20からの要請に基づき2015年にFSB(金融安定理事会)により設立されたタスクフォース。最終報告書では、企業の気候変動リスク・機会を適切に評価・格付けするため、組織運営における4つの中核的要素(ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標)を中心に情報開示することを推奨。

ガバナンス

ドコモグループでは、気候変動に関するKPIや課題への取組みについて、経営層が定期的に確認し、議論するために、サステナビリティ推進委員会を設置し、年2回開催しています。
サステナビリティ推進委員会は代表取締役社長を委員長とした取締役会の主要なメンバーで構成され、取締役会は半期ごとに気候変動に関する取組み状況や今後の方針について報告を受けるとともに、その進捗に対する監督を行い、対応を指示しています。
従って、取締役会での事業戦略の見直し・指示は、気候変動への対応を含むサステナビリティ推進委員会での議論を踏まえて実施されています。
また気候変動に関するKPIを役員報酬に反映しています。

リスク管理

リスク管理プロセス図と7つの領域

「リスクマネジメント規程」に基づき、毎年度気候変動を含む会社を取り巻くリスクを定期的に洗い出し、代表取締役社長を委員長とする内部統制委員会において全社横断的な管理を要するリスク(全社リスク)を特定しています。
リスクの特定についてはまず、現状の評価に加え、社会状況の変化を取り込むため、内部・外部状況を踏まえ、新規にリスクを抽出します。その後、影響度・発生頻度などによる評価・分析を経て、重要性評価を通じて全社リスクを特定しています。
サステナビリティ推進室では、内部統制委員会において特定された全社リスクおよび全社リスクとしては特定されなかった気候関連リスクをあわせて、取組むべきリスク・機会を決定し、「リスクおよび機会登録表」を作成しています。
また、ドコモグループの活動・製品・サービスを7つの「領域」に整理し、この7つの領域において、環境によい影響や悪い影響を与えるものを抽出することで、取組むべき課題を識別します。

戦略

シナリオ分析

ドコモグループでは、「あなたと世界を変えていく。」をブランドスローガンとして、あらゆる「あなた」と一緒に新しい世界の実現に向けて挑戦しています。ドコモグループの挑戦を実行する4つの柱の1つに「事業運営とESGを一体的に推進しサステナブルな社会の創造に貢献」を設定していることからもわかるように、事業の根本にサステナビリティを据えて、ドコモグループを取り巻く多様なリスクと機会を踏まえながら、その実現に取組んでいます。
リスク・機会の中でも特に気候変動については、全事業領域への財務上の影響が大きいと評価し、これまでもドコモグループ環境目標「Green Action Plan」のもと活動を進めてきましたが、TCFD提言を受け、さまざまな気候関連のシナリオ下で、事業影響・戦略のレジリエンスを検討しています。

シナリオ分析のプロセス:STEP 1 気候関連シナリオを参照しシナリオを設定→STEP 2 事業が影響を受けやすいリスク要因を特定・評価→STEP 3 特定したリスク・機会要因に対し潜在的な対応を検討シナリオ分析のプロセス:STEP 1 気候関連シナリオを参照しシナリオを設定→STEP 2 事業が影響を受けやすいリスク要因を特定・評価→STEP 3 特定したリスク・機会要因に対し潜在的な対応を検討

STEP 1 設定したシナリオ

今回、ドコモグループでは、物理的リスクの極端なケース、移行リスクの極端なケース双方についてシナリオ分析を実施した結果を報告します。

①物理的影響が顕在化するシナリオ(平均気温が4℃上昇する未来) ・有効な気候変動対策がとられない ・気温上昇、降水量の地域差拡大、海面水位の上昇、北極圏海氷域の消失 ・異常気象の増加 など
②急速に脱炭素社会が実現するシナリオ(2℃未満の目標(1.5℃など)が達成される未来) ・社会全体が脱炭素社会へシフトし、CO₂削減に向けた動きが急速に進行 ・世界でカーボンプライシング等の規制強化 など

(バウンダリ)ドコモグループの全事業を対象
(時間軸)2040年までを時間軸として、短期・中期・長期で設定

各シナリオで参照したものは以下のとおりです。

  1. 物理的影響が顕在化するシナリオ:
    Intergovernmental Panelon Climate Change(IPCC)第6次評価報告書、IPCC1.5℃特別報告書
    IEA The Future of Cooling 2018 Baseline scenario
    電力中央研究所 気候変動関連リスクに係るシナリオ分析に関する調査 Current Policyシナリオ
    国土交通省 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会 気候変動を踏まえた治水計画の在り方提言 RCP8.5シナリオ
  2. 急速に脱炭素社会が実現するシナリオ:
    International Energy Agency(IEA)
    World Energy Outlook 2023 Net-Zero Emissions Scenario(NZE)
    IEA The Future of Cooling 2018 Efficient cooling scenario
    電力中央研究所 気候変動関連リスクに係るシナリオ分析に関する調査 NZEシナリオ

上記に基づき、将来起こりうる事象と、今後の自社の事業展開を踏まえ、「ドコモグループへの影響」を特定しています。
その上で、想定される影響に対してどのように対応していくか、「ドコモグループの取組み」を整理しました。

STEP 2 シナリオ分析実施結果

①物理的影響が顕在化するシナリオ(平均気温が4℃上昇する未来)
物理的シナリオ ドコモグループのリスク 評価した財務影響 財務影響額1 時間軸2 ドコモグループの対応策
急性 大雨・豪雨
洪水の増加
台風の増加
  • 基地局の停波
  • 通信サービスの不安定な供給
  • 信頼性の低下
  • 製品・サービスの需要の減少、売上の減少
  • 洪水による自社ビル等の復旧費用
  • 洪水による基地局の復旧費用
  • 洪水による休業損失
中期
  • 災害に強い通信ネットワークの構築
  • 基地局の損傷
  • 異常気象関連システムの導入/サービスの開発
  • 基地局や通信ビルにおける物理的な災害対策
  • 販売代理店(ドコモショップ)の操業停止、収入の減少
  • サプライチェーン寸断による製品・サービスの中止
慢性 真夏日の増加
  • 設備冷却用空調電力の消費量増加による電力コスト増加
空調電力使用量の増減 長期
  • 通信設備・データセンターの空調エネルギー効率改善
スクロール
②急速に脱炭素社会が実現するシナリオ(2℃未満の目標(1.5℃など)が達成される未来)
移行シナリオ ドコモグループのリスク 評価した財務影響 財務影響額 時間軸 ドコモグループの対応策
政策・法規制 規制強化(エネルギー効率向上、カーボンプライシングなど)
  • 地球温暖化対策税の引き上げ
  • 新たなカーボンプライシング
  • エネルギー効率向上に関する規制が導入されることによる、電力コストの増加
炭素税コスト増 3 長期
  • 通信事業の電力効率化の推進
  • 証書等の購入、インターナルカーボンプライシングの導入
業界団体(GSMAなど)からの提言
  • 「2050年までにCO₂排出ゼロ等」提言が課された場合の5Gへの移行・IoTの拡大等への障壁
業界/市場 エネルギー価格の変動
  • 電気料金の上昇
電力料金の増減 長期
  • 太陽光発電の導入やEVシフト等の再エネ導入
  • 通信事業の電力効率化の推進
  • 環境に配慮した製品の販売等の省エネ活動
顧客・法人顧客などからの脱炭素化要求の高まり(調達要件化)
  • 取組みが不十分とみなされた場合の新規契約減少・解約の増加
評判 気候変動対策に対する評判リスクの高まり
  • 取組みが消極的であるとみなされた場合の顧客離れや株価への影響・企業イメージの低下
スクロール
  • 財務影響額は関連する財務指標に与える影響の大きさを鑑みて、大・中・小の三段階で評価
  • 時間軸は、短期(3年未満)・中期(3~6年未満)・長期(6年以上)の三段階で記載
  • 2040年度におけるCO₂排出量(Scope1・2)を2022年度と同等と仮定した場合の財務影響額は約330億円となるが、2040年ネットゼロの達成により回避することができる想定

STEP 3 特定したリスク・機会への対応

物理的リスクへの対応

リスクタイプ リスク要因 リスクの詳細
物理的リスク 慢性的 設備冷却用空調電力の消費量増加による電力コスト増

異常気象に伴う洪水などの自然災害の発生や、長期的な気温上昇に伴う海水面の上昇など気候変動に起因する物理的リスクが顕在化する中、ドコモグループでは、平均気温上昇により、設備冷却用空調電力の消費量が増加することによる、電力コストの増加をリスクとして認識しています。ドコモグループの情報通信サービスを担っている通信設備やデータセンター用の機器は全国に設置・運用されています。これらは常時、周囲の温度条件を10℃~35℃に設定していますが、平均気温の変化により、35℃を超える状況となってしまった場合、オペレーションシステムのシャットダウンや故障の発生など通信サービスの継続が困難になる事象が発生し、ドコモの8,000万人以上の契約者に影響が出る恐れがあります。そこで、ドコモグループでは内部統制委員会において、「故障・障害時の対応遅れによる収益悪化」を全社リスクとして特定しました。
リスク管理手法としては、最適なバックアップ体制の確立や可用性の高い設備などの構築・運用などの適切な対策を取るという管理方針を決定し、ネットワーク部などが主管部となり、対応策を実施しています。当該リスクが発生した際には、主管部にて、技術支援体制・緊急体制の立ち上げ、早期の故障回復措置、フロント/お客さまへの情報展開、幹部への報告など、幅広い対応を行います。物理的リスクは長期的視点での管理が必要であり、リスクの最小化を図るため、同委員会においてモニタリングを行っていきます。

移行リスクへの対応

リスクタイプ リスク要因 リスクの詳細
移行リスク 政策および法律 炭素税の導入および炭素クレジット(排出枠)
の購入に係るコストの増加
業界/市場 エネルギー価格の上昇によるコストの増加
  • 移行リスク:気候変動に関する規則や、技術開発、市場などの変化によってもたらされるリスク

脱炭素社会への移行に伴い、法規制、技術、市場などさまざまな変化をもたらす移行リスクについて、炭素税の導入や電力料金などの上昇によるコストの増加は、自社に重大な財務的影響をもたらすと捉えています。
この考えのもと、ドコモグループの環境目標「Green Action Plan」では、温室効果ガスの排出削減や通信量あたりの電力効率を目標として設定しています。具体的には、自社(Scope1・2)の温室効果ガス排出量を2030年までにカーボンニュートラル、サプライチェーン(Scope3)も含めた温室効果ガス排出量については2040年までにネットゼロを達成することで、炭素税の導入によるコストの増加を回避することができる想定です。

「Green Action Plan」の達成に向けて、環境マネジメント推進体制のもと部会の設置、その部会ごとのアクションプランの策定、全代表取締役が参加する幹部会議「サステナビリティ推進委員会」への取組み状況の報告、対応の審議、決定を行っています。引き続き同委員会において、リスクの最小化を図るため、移行リスクに関するモニタリングを行っていきます。

機会への対応

機会のタイプ 機会要因 機会の詳細
資源の効率性
  • エネルギーの効率化
  • 交通・輸送手段の効率化
  • 製造・流通プロセスの効率化
  • 効率性のよい建築物
通信事業の電力効率化の推進によるコスト低減
  • 基地局スリープ機能の高度化や仮想化無線基地局の導入
通信設備・データセンターの空調エネルギー効率改善によるコスト低減および売上拡大
  • DCにおける新たな技術による空調、IT機器の電力効率化(Green Nexcenter)や各種電力削減施策の実施による電力使用量の削減
エネルギー源
  • 低炭素エネルギー源の利用
  • 政策的インセンティブの利用新規技術の利用
  • カーボン市場への参画
太陽光発電等の再エネ導入によるエネルギーコスト安定化
  • グリーン基地局の建設、オフサイトPPAの導入
  • 水素・燃料電池研究開発
カーボン市場への参画による事業拡大
  • パートナー企業とのJクレジット創出
製品・サービス
  • 低公害商品・サービスの開発・拡大
  • 研究開発・イノベーションによる新規商品・サービスの開発
  • ビジネス活動の多様化、消費者選好の変化
CO₂排出量削減に寄与するサービス・技術の開発・提供による売上拡大
  • CO₂削減量を見える化するサービス「カボニューレコード」や「Green Program for Employee」の提供
環境に配慮した製品の販売等の省エネ活動による売上拡大および企業イメージの向上
  • 環境に配慮したサービスの提供やスマートフォンなどの販売
  • 機種ごとの環境配慮レベルを掲載し、「カボニューレコード」と連携することで、お客さまの選択による環境貢献の見える化
レジリエンス
  • レジリエンス確保に関連したサービスの需要拡大
  • 資源の代替・多様化
災害に強い通信ネットワークの構築による信頼性強化
  • 複数基地局によるエリアカバー及び遠隔でのエリアコントロール、中・大ゾーン基地局の整備
  • 衛星回線およびマイクロ回線の活用
異常気象関連システムの導入やサービスの開発による企業価値向上および事業機会拡大
  • 災害用伝言版、災害用音声お届けサービスの開発
  • オンライン手続き比率の向上、オンライン来店システムの導入
スクロール

今後の取組み

シナリオ分析から導き出された「気候変動が将来ドコモに与える可能性のある影響」は、現在、中期戦略である「新ドコモグループ中期戦略」およびドコモグループ環境目標「Green Action Plan」の達成に向けてドコモが進めている取組み(備え)によって、おおむね対策が講じられていることがわかりました。シナリオ分析の結果をもとに、今後も温室効果ガス削減に向けた取組みを進めていきます。

指標と目標

ドコモグループは、中間目標として自社(Scope1・2)の温室効果ガス排出量を2030年までにカーボンニュートラル、サプライチェーン(Scope3)も含めた温室効果ガス排出量を2040年までにネットゼロにします。
気候関連のリスクと機会を管理する目標と実績の開示は以下のとおりです。
GHG排出量の実績は「環境パフォーマンスデータ」を参照ください。

指標 目標 達成年度
温室効果ガス排出量 ネットゼロ(Scope1・2・3) 2040
カーボンニュートラル(Scope1・2) 2030
一般車両のEV化率 100% 2030
通信事業の通信量当たりの電力効率 10倍以上(2013年度比) 2030
  • 自社の事業活動によるCO₂排出の削減(GHGプロトコルのスコープ1,2を対象)
  • 再エネ指定の非化石証書などの活用による実質再エネ分含む

対象範囲:NTTドコモ、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ、エヌ・ティ・ティ・コムウェア、機能分担子会社11社ほか国内外連結子会社を含むドコモグループ

Green Action Plan

温室効果ガス排出量(スコープ1、2)のグラフ
一般車両のEV化のグラフ
通信事業の電力効率(2013年度比)のグラフ
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