コラム:イノベーション創発への挑戦

相づちコミュニケーション

相づちコミュニケーション

「栄藤さん、遠隔会議システムは米国製ではだめなことがあるのですよ」とNTTコムウェア執行役員の松木氏に言われてハッとすることがあった。お互いの会社で開発している遠隔対話サービスがどうあるべきかと意見交換したときだ。彼は「日本ならでは」のシステムが必要だと言う。

日本の遠隔会議、参加者が10人を超えていたとしても、相手はほぼ無言で聴いている。参加者の反応が見えない。活発な対話を前提とした遠隔会議システムと参加者の多数が無言となる遠隔会議システムが同じでよいはずがない。

彼のシステムでは会議中のリアクション表示をアイコンで表現できる。「ですよね」「やっぱり」「さすが」「遅くなりました」などの感情表現や、「見えません」「聞こえません」という疎通確認までがワンクリックでできる。米国製とは表現の粒度が違う。名前を出さず、その会議結果に満足か不満足かという「空気を読む」投票機能もある。賛否はあるだろうが、日本の会議ならではだ。

もう一つ。日本の会議では、商談相手が話を聞かずに資料を先めくりすることがある。言葉が中心の欧米の会議に比べると日本は会議資料が中心となる傾向がある。話者の言葉よりも資料の文字が大事だ。そのために彼のシステムでは話者の発表スライド、発言に関係なく資料を手元で操作して前後を確認できるという機能がある。

私の取り組んでいる対話サービスについても述べたい。遠隔対話では傾聴モードの日本人でも必要な時は話す。そこで重要なのは「雰囲気の共有」だ。欧米の対話は言葉で意思を伝える。日本の対話は文脈・状況の共有から意思を伝える。ここが違う。

日本語から英語への翻訳は難しい。「あの時のアレ、どうなった」を英訳するのは非常に難しい。ある大学の研究によれば。日本語の会話密度は英語の7割ほどしかないそうだ。

外国人から見て、特徴的な日本語の会話様式に相づちという間投詞がある。「はい」「ええ」「ほんとに」「なるほど」という言葉で頻繁に使われる。日本語を母語にしない人からみれば、同意にしか聞こえないが、そうではない。相づちを頻繁に入れて微妙に、合意形成を制御しているのが日本語の会話様式だ。

言いたいことをまとめて言い切る欧米の会話様式では遠隔では通信遅延があってもよいが、短い文と相づちの連発で成り立つ日本の会話様式では通信遅延が0.2秒を超えると円滑な対話が難しくなる。携帯電話は0.15秒の遅延だ。

低遅延であることが「日本ならでは」の遠隔対話サービスとして重要だと思っている。普段、接している遠隔対話サービスを日本語の対話様式から見直すと、まだまだ進化できる余地がある。相づちコミュニケーションは侮れない。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2022年12月23日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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