コラム:イノベーション創発への挑戦

デジタルと組織の「型」

デジタルと組織の「型」

導入する情報通信技術(ICT)に合わせて商売のやり方を変える必要がある。例えると、自分の体型を変えずにオーダーメイドの服を買い続けますか? それとも既成服に合わせて体型を変えますか? という話だ。

デジタル変革の究極の目的はICTによる新規事業創出だが、その手前にICTによる業務効率化がある。日本では、これが進まない。その主因の一つは、デジタルに合わせて商売のやり方を変えない、変えられない日本企業があまりに多いということだ。いまだに企業文化・組織を変えずに、ICTサービスを導入すれば、デジタルが進むと考えている企業が多い。

米国セールスフォース・ドットコム社が提供するSalesforceという営業支援システムがある。日本の法人営業で、この支援システムを知らない人はいないと思うくらいに普及している。Salesforceは大規模ホテルチェーンの顧客管理、住民サービス支援、建設の施工管理など応用範囲は広いが、その社名が表すように、製品としては営業支援が最も知られている。この営業支援システムは営業の案件管理自動化を行う。商談ごとに成約見込み・予実管理を行い、商談の見極めから成約まで、一連の営業活動の効率化を支援する。

こう聞くと、このシステムは「今ある営業部門」を支援してくれるICTサービスに見える。そう考えたら甘い。今の営業のやり方を変える必要がある。

米国の法人営業の定石は、マーケティング、インサイドセールス(内勤営業)、フィールドセールス(外勤営業)を、それぞれ別組織で分業して一気通貫で連携して行うというものだ。マーケティングの仕事は何か? その会社の商品を買ってくれそうな客を増やすことだ。その見込み客には、資料請求しただけという客から、すぐにでも導入したいという客までいる。インサイドセールスは見込み客の中か成約の可能性の高い顧客を抽出する、さらには商品説明を通じて有望な顧客を作り出すという重要な役目がある。フィールドセールスの役目は、インサイドセールスが絞り込んだ・育てた有望顧客を成約に導くことだ。これが「型」だ。

フィールドセールスは米国では、会社の売り上げ目標を達成すべくインサイドセールスから引き継いだ有望顧客の商談をまとめる成約担当者だ。日本では、顧客開拓・管理・商談の全てを担当している法人営業担当者に相当する。 ここが違いすぎる。

先日、現場向けラベル印刷、バーコードプリンターといった自動認識ソリューションを提供する最大手、サトーホールディングスのグローバルマーケティングを統括する武井美樹執行役員に話を聞くことができた。「米国や欧州では、Salesforceがそのまま使える。なぜならマーケティング、インサイドセールス、営業を別組織として連携させる

『型』が機能しているから。日本では『営業』が見込み客獲得から、商談成約まで全てをやろうとする。組織・文化が変わらない限り、米国の営業支援システムが想定する『型』が機能しない。」と彼女は言う。

営業支援に限った話ではない。世界の様々な自動化システムの根っこには業務の型が存在する。デジタルを活用するには、今の会社に合わせるのではなく、システムに合わせて会社を作ることが重要だ。そこに商機がある。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2023年2月8日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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