コラム:イノベーション創発への挑戦

「ハッカソン」価値を創造

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「ハッカソン」という言葉をご存じだろうか。「ハック」と「マラソン」を結合した造語である。ハックとは、コンピューターを知り尽くした「ハッカー」と呼ばれる技術者がする、システム解析やプログラミング作業のことだ。そのハッカーたちが集まり、マラソンのように数時間から数日間集中してシステムを作る催しをハッカソンと呼ぶ。

最近、インターネットで検索してみると、毎週のようにどこかでハッカソンが催されている。主催者はIT(情報技術)サービス企業、投資会社、NPOなど多様。参加者も社内技術者から自営プログラマーまで多岐にわたる。

ハッカソンには必ず「お題」があり、その背後には主催者の「狙い」がある。ここではITサービス企業主催のハッカソンに絞って「狙い」がどこにあるのか見てみよう。

先週、世界最大の携帯電話見本市「Mobile World Congress(MWC)」がスペインのバルセロナで開催され、初日の基調講演に米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が登壇した。彼はフェイスブックが注力している課題に新興国のインターネット普及があり、他のITサービス企業や通信機器・端末メーカーと協力して、新興国でいかに効率よくデータを転送するか、というお題のハッカソンを開いたと述べた。

そこでは通信速度の遅い新興国での環境が再現され、参加企業の技術者がそのような環境で彼らのサービスがどのように振る舞うかを理解する教育の場となった。フェイスブックの狙いは、新興国での自社サービスの拡大にある。ここでのハッカソンの役割は業種を超えたシナジー創出だ。

写真やメモなどを全てクラウドに保存するサービスを展開する米エバーノートも、ハッカソンやそれを拡大した開発大会を開いている。

エバーノートは、データをクラウドに格納し検索するという基盤機能を提供する。お題はその基盤機能と他社が提供する機能や端末が持つ機能を組み合わせた新たなサービスの開発。狙いは同社のサービス領域拡大だ。

  • ハッカソン成功の鍵とは?・・・

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    鍵となるのはAPI(Application Program Interface)だ。APIは自社のシステムが持つ機能を社内外のサービスで利用するための「切り口」を規定する。米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾスCEOが、2003年に社内全てのサービスやシステムのAPI化を指示したことはよく知られている。

    ITサービス企業にとって技術資産とは、他社が追随できないデータであり、基盤機能だ。だが、それが自組織・自社で閉じていては意味がない。米グーグルの地図データやウェブ検索機能は広く利用されている。技術資産があるからこそAPIが規定できる。そして、そのAPIを通じて技術資産を別のサービスと組み合わせ、新たな価値を創造できる。それを加速するのがハッカソンの役割である。

    逆に言えば、ハッカソンが開催できるということは、その企業にAPIで表現された技術資産があり、社内外にそれを利用できるハッカーがいることを意味している。

    ハッカソンの役割は、人材採用、社内人事交流、開発テーマ発掘など多岐にわたる。楽天、リクルート、ヤフーといった日本企業もハッカソンを開催している。自社はコア事業やコア技術の開発に集中し、その周辺に多数のサービスを他社に作ってもらう。あるいは自社だけではできない市場展開を、他社と共同で進めるという活動をハッカソンが象徴している。

    イノベーションに必要なのは技術資産、スピード、そして人材だ。ハッカソンが主催できるかできないかは、ITサービス企業にとっての発展への試金石だ。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤による2014年3月7日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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