コラム:イノベーション創発への挑戦

結果が呼称をつくる

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「ビッグデータ」という言葉とともに「データサイエンティスト」という職業がにわかに脚光を浴びている。人材が不足している、どうやって育成するかという議論も活発である。しかし、彼らはいったいどういう人たちなのか?

文部科学省のプロジェクト「データサイエンティスト育成ネットワークの形成」を統括されている、統計数理研究所の樋口知之所長と丸山宏副所長に尋ねてみた。樋口先生によれば、データサイエンティストは平たく言うと、「データ処理と統計数理ができて、ビジネスの適用分野への深い知識があって、実際にデータの価値化(お金もうけ)ができる人材」とのこと。両先生によるとその数は、日本国内で1,000人ほどらしいが、私は100人くらいだと思っていた。このずれは、データ価値化に対する私の大きな期待にある。

2007年、以下の言葉にシビレルほど心を動かされた私は、データマイニングの研究を始めた。「ウェブ2.0」という概念を提唱したティム・オライリーは、2005年にこう語った。「データは重大な価値を持っている。今後の競争はあるクラスのコアデータを保持することである。集約したデータが臨界量に到達し、システム化されたサービスへと転用した会社が勝者になるだろう」

この現象を「データ指向イノベーション」と私は呼ぶ。米グーグルの検索サービス、米アマゾン・ドット・コムの商品推薦システム、米イエルプの店舗紹介サービス、米23アンドミーの遺伝子解析サービスはその代表例だ。サービスを通じてデータが集まり、そのデータがサービスをさらに良くするという、正のスパイラルを設計できる人が欲しい。しかし、そういうスーパーなデータサイエンティストはめったにいない。

データ価値化には別の分野もある。小売業では商品販売・在庫管理システムが普及し、顧客管理、財務等の企業内業務システムと連結して運用されるようになった。業務システムの膨大なデータを蓄積・分析・加工して企業の意思決定に活用しようという「ビジネスインテリジェンス」(略してBI)が2000年以降、脚光を浴びるようになった。BIは意思決定支援のみならず、システムの最適化や業務改革を含み、小売業に限らず多くの産業で重要な機能となっている。

  • データサイエンティストがデータを価値化する・・・

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    データ指向イノベーションとこのBIの二つが、データ価値化の主流だろう。大多数の企業にとって前者はIT(情報技術)業界のとがった話だが、後は大多数の企業の関心事だ。企業内システムがオンライン化した企業では、データ解析により業績が向上する可能性がたくさんあり、そこにデータサイエンティストが活躍する場がある。

    こんな業界の笑い話がある。「靴の小売業者がビッグデータ神話に乗り、多額の費用で解析した結果、冬にブーツが売れ、夏にサンダルが売れることがわかった」。似た話には「シャンプーを買う人はリンスも買う」「夜は新橋が丸の内より混んでいる」がある。何が問題かお分かりだろう。データからもうけになるシナリオが作れていない。

    データサイエンティストならば「灰色っぽいブーツをそろえて売り上げを20%増やします」と言うだろう。私は同僚に言っている。「ビッグデータと言うなら近未来を予測し、もうけ話にできなきゃ意味がない」と。

    改めて、データサイエンティストとはどんな人か? 育成側から見ればスキルセットが重要だが、経営側から見れば結果が全てである。呼称は結果についてくるのではないか。どれだけ価値を創造したか、実績で示していこう。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤による2013年10月17日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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