ドコモR&D 共創ストーリー
熟練農家の「眼」をAIへ。
画像認識で進化する自動操舵トラクターの最前線
日本の農業が抱える高齢化や労働力不足という深刻な課題。その解決策として期待されるスマート農業において、NTTドコモは北海道の岡田農場と連携し、「画像認識AIを活用したトラクターの自動操舵システム」の実証実験を進めています。GPS衛星の弱点を補い、より高精度な農作業を実現するこの技術は、どのようにして生まれたのか。
プログラムを牽引するドコモ クロステック開発部のメンバーと、共創パートナーである岡田農場の岡田昌宏氏に、開発の舞台裏と未来への展望を聞きました。
はじめに
「画像認識AIを活用したトラクターの自動操舵」とはどのような取組みなのでしょうか?また、ドコモはどんな役割を担っていますか?
(岡田農場 岡田氏):現在普及し始めているトラクターの自動操舵は、主に衛星のGPS情報(RTK-GNSS)に頼っています。しかし、横に傾斜のある畑などでは位置が数センチずれてしまい、機械除草の際に大切な作物の畝(うね)を踏んでしまうリスクがありました。また、通信環境が悪い場所や遮蔽物がある場所では精度が落ちてしまうという課題もあり、どうにか解決できないかと考えていました。
(ドコモ 水野・北出):そこで、GPSだけでなく、トラクターの前方に搭載したカメラと画像認識AIで作物の畝を直接認識し、自動的にハンドルを制御するシステムを開発しています。ドコモはこれまでロボット制御などで培ってきた「画像認識AI」や「ロボティクス」の技術アセットを持っており、今回はその強みを活かしてシステム全体の開発・インテグレーションを担う役割として参画しています。
具体的に、どのようにしてトラクターを動かしているのでしょうか?
(ドコモ 水野):仕組みとしては3つのステップがあります。まず、トラクターに付けたカメラで前方の映像を撮影します。次に、その映像から「どこが作物で、どこが畝か」をAIで判定します。最後に、その認識した情報をもとに、「右へ行くべきか、左へ行くべきか」という操舵信号を計算し、トラクター本体へ電気信号を送って制御します。ドコモは主にこの「撮影」「認識」「操舵信号の計算」の部分を担い、ハードウェアとの連携も含めてトータルでシステムを構築しています。現状はこれらの処理をローカル環境で行っているのも特徴です。
共創の始まり
岡田農場が、このシステム開発に取り組まれることになったきっかけを教えてください。
(岡田農場 岡田氏):農業の規模拡大を進める上で、最大のボトルネックになるのが「除草」などの人力作業です。農業従事者が減少するなか、国が推進する環境に優しい農業(化学農薬・肥料の削減など)を実現するためにも、人力作業の効率向上は不可欠であり、強い危機感を持っていました。
ドコモがAIやロボティクスの高い技術(シーズ)を持っていることは以前から知っていました。ゼロから自社で作り出すよりも、すでにある技術を現場に持ち込み、実践のなか中で一緒に開発していく方が、圧倒的に早く「現場で使えるもの」ができると期待し、共創がスタートしました。
ドコモとしては、なぜ「農業」という分野にR&Dとして深く入り込むようになったのでしょうか?
(ドコモ 北出):ドコモは通信事業者として、全国の支社・支店を通じて地域のみなさまと接点を持っています。そのなかで上がってくる課題のなかに、「農業の担い手不足」がありました。約10年前にグループ会社の現場の話を聞いた際、「夏のハウス内の雑草処理が過酷で後継者がいない」「海外からの働き手に頼っているが、それも一過性だ」といった深刻な悩みを耳にしました。
「それなら、私たちの持つAIやロボティクスの技術で解決できないか」と考えたのが、農業分野に足を踏み入れた最初のきっかけです。現場の切実な課題と、私たちの画像認識技術というケイパビリティがマッチした結果、現在の岡田氏との共創にもつながっています。
取組みの過程
開発や実証実験のなかで、一番大変だったことや工夫した点はどこですか?
(ドコモ 小圷・水野):最も苦労したのは、「大自然が相手」であることです。作物の生育ステージに合わせて実験を行う必要があり、冬の間は雪でテストができません。また、机上の計算通りにいかないのも現場の常で、ある条件ではうまく動いても、日照や土の条件が変わるとAIが期待通りの動きをしないことが多々ありました。そのため、日々北海道の現場に足を運び、トラクターの動きを観察し、開発したシステムはすぐに現場に持ち込んでテストと改善を繰り返しました。
システム開発者と農家の方とでは、視点の違いから苦労することも多かったのではないでしょうか?
(ドコモ 水野・北出):通常であれば、「何がほしいのか」「どういう技術なら実現できるのか」というお互いの共通言語を作るだけで膨大な時間がかかり、そこで失敗するプロジェクトも多いです。しかし今回は、岡田氏ご自身が自動操舵システムなどへの深い知見をお持ちで、「こういう機能がほしい」という具体的な要求を提示していただけました。岡田氏のシステムへの深い理解と高い要求定義能力のおかげで、私たちは「共通言語」をもって深く対話することができました。これにより、現場のニーズとシステムの間にズレが生じず、開発をスムーズに進めることができました。
実績と成果
この共創で生まれた価値や、現場での手応えはいかがですか?
(岡田農場 岡田氏):出来上がったシステムに実際に乗ってみて、既存の衛星GPSによる自動操舵と遜色のない、現場で十分に使えるレベルに仕上がっていると実感しました。
実は既存のロボットトラクターは、安全装置(LiDARなど)の仕様上、作物が育っている畑では作物を障害物とみなして止まってしまうため、「畑に何もない状態」でしか自動操舵が使えないという課題がありました。しかし、この画像認識AIの技術を組み合わせることで、作物が育っている期間の「除草」などにも自動操舵が使えるようになります。ロボットトラクターの稼働率が上がり、人間が乗らなくても他の作業ができるようになれば、作業時間は大幅に短縮されます。これは農家にとって非常に大きな価値です。
未来への展望
今後の目標や、このプロジェクトをどう発展させていきたいとお考えでしょうか?
(ドコモ 北出):「技術的に実現可能であり、現場で使える」という技術的な完成度は証明できつつあります。次のフェーズは「社会実装」、つまりビジネスとしていかに世の中に広めていくかです。
農家の方が導入しやすい価格感はどれくらいなのかというビジネス性の見極めや、一般のユーザーが迷わず操作できる製品としての完成度の向上など、乗り越えるべきハードルはまだあります。今後も岡田農場や農機メーカーなどと連携を深めながら、ドコモR&D発の技術が日本全国の農業の課題を解決し、持続可能な食を支えるインフラとなるよう、挑戦を続けていきます。
私たちはR&Dとしての技術的検証を終え、今まさに「社会にどう根付かせるか」という大きな壁に挑んでいます。しかし、この壁はドコモ一社だけで乗り越えられるものではありません。
私たちの技術に、みなさまの知見やアセットを掛け合わせ、新しい農業のスタンダードを一緒に作り上げませんか。このプロジェクトの「完成」を、共に分かち合うパートナーを募集中です。

担当者

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