報道発表資料


不整脈と生活習慣病の関連性を解析する臨床研究を開始
-脈の揺らぎを自己管理するスマホアプリを公開-
<2016年4月21日>
国立大学法人東京大学
株式会社NTTドコモ
- 発表者
藤生 克仁(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター 健康空間情報学講座 特任助教)
小室 一成(東京大学医学部附属病院 循環器内科 教授) - 発表のポイント
- 脈の揺らぎを検出するスマートフォンのアプリケーション(以下、スマホアプリ)「HearTily(ハーティリー)」を開発し、このアプリを用いた臨床研究を開始しました。
- 「HearTily」はスマートフォン本体のみで脈の揺らぎを管理・記録することができます。本研究の参加者が医療機関を受診する際には、「HearTily」で記録された情報が診療の参考になる可能性があります。
- 本研究により、脈の揺らぎをスマートフォン経由で大規模に収集し、データを解析することによって、将来的に不整脈に関係する病気の予後の改善が期待されます。
- 「HearTily」の臨床研究と同時に、潜在的な不整脈検知が有効であるかを検証することを目的として、hitoe®を活用し、これまで計測が困難であった長時間にわたる心拍・心電位計測を行う小規模研究も実施します。
- 発表概要
このたび、東京大学と株式会社NTTドコモとの社会連携講座として設置された東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター 健康空間情報学講座では、Apple社のResearchKit(注1)を用いて、脈の揺らぎを管理・記録するスマホアプリ「HearTily(ハーティリー)」を開発し、成人(20歳以上)を対象に、このアプリを用いた不整脈と生活習慣病の関連性を解析する臨床研究を開始しました。
「HearTily」はスマートフォンのカメラを活用して脈を検知し、脈拍を定期的に収集することによって脈の揺らぎを簡単に測定することができるアプリです。一般的に初期の不整脈は短い時間しか生じず、また数日に一回しか生じないため、健康診断時の心電図では捉えることが難しいものも多く存在します。本研究では、参加者に脈の揺らぎを自己管理できるスマホアプリを提供し、日常生活内で1日1回、脈拍を記録していただきます。継続的に記録していただく脈拍の情報とスマートフォン内に記録される運動量等の生活情報を組み合わせた大規模なデータを解析することによって、不整脈と生活習慣病の関連性を調べることができるので、不整脈の発生を予測することへの応用に役立ててまいります。 - 発表内容
脳梗塞を発症した患者のうち約3割は、心臓の異常動作を引き起こす不整脈のひとつである、「心房細動」により心臓の一部に血液が滞留し、それにより発生した血のかたまり「血栓」が脳の太い血管に運ばれ詰まることが原因であるということが分かっています(出典1)。しかし、実際に脳梗塞になった患者のうち、事前に心房細動の疾患があると診断を受けていた方は5割程度です(出典2)。心房細動は、日本では70万人以上に発生していると推定(出典3)されていますが、一過性であったり不定期に発生したりするため日常生活の中で発見することは困難です。脳梗塞の原因となりうる心房細動をはじめとする不整脈を早期に発見することは、不整脈に起因する重篤な疾患の予防にもつながります。
東京大学医学部附属病院と株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)が、2009年から共同で実施している社会連携講座「健康空間情報学」(以下、健康空間情報学講座)では、日常の中でより簡単に自分自身の脈拍の揺らぎを数値的にとらえ、自分自身で把握し管理するためのスマホアプリ、「HearTily(ハーティリー)」をApple社が提供するResearchKitを用いて開発・公開し、「HearTily」による臨床研究を開始しました(アプリの提供方法は図1を参照)。
本臨床研究(研究期間最長5年間)は研究参加に同意した20歳以上の日本在住の方が対象で、1年間継続して自身のデータを記録していただきます(アプリ利用開始時に、利用許諾およびデータの研究利用についてアプリ利用許諾として承認する必要があります)。参加者は「HearTily」を用いて、利用開始時と終了時に身長・体重などの基本情報と高血圧の有無などの既往歴や症状などを入力し1日1回(1分程度)脈拍を記録、1〜2週間ごとに動悸の有無等の質問に回答していただきます。また、Apple社が提供している「ヘルスケアアプリ」を経由して計算された歩数等のデータを記録します。測定とデータの記録は参加者の任意です。測定結果はグラフで表示され(図1)、参加者はこのグラフから脈のゆらぎを確認することができます。「HearTily」で計測した脈拍データは、利用開始時に登録したデータ(生活習慣病の有無など)とともに、日常生活の中で脈の揺らぎを調べ、不整脈(心房細動など)の発生傾向などを分析する研究データとして使用します。参加者から提供される、測定データ、生活習慣情報、簡単な病歴を大規模に収集・解析することによって、不整脈と生活習慣病の関連性を明らかにし、不整脈に起因する病気の予後の改善などへの応用に役立ててまいります。
なお、健康空間情報学講座では同様の発想から、着用するだけで心拍・心電位などの生体情報を取得できる機能素材「hitoe」を活用したウェア「C3fit IN-pulse(シースリーフィットインパルス)※1 」をNTTドコモグループに勤務する男性社員が着用し、長期間(60日間以内に30日間、24時間連続着用)にわたって連続的に心拍・心電位の状態を計測し、不整脈の早期発見を検証する臨床試験も開始しました。「C3fit IN-pulse」で計測した心拍・心電位などの生体情報をスマートフォンを介して※2 クラウドサーバーにアップロードし、循環器専門医が確認します(図2)。健康に勤務している企業労働者における「心房細動」の発生率や傾向分析や、「hitoe」の予防医療ツールとしての有用性を検証します。日常生活の中で心房細動を早期に発見できれば、脳梗塞のリスクを発症前に検知できる可能性があります。
今回開始する「HearTily」および「hitoe」を用いた研究は、は東京大学大学院医学系研究科・医学部 倫理委員会の承認を得て実施しています。
今後も東京大学医学部附属病院とドコモは健康空間情報学講座を通じて医療をICTでサポートする研究を推進してまいります。
【出典】
(1)脳卒中データバンク 2015
(2)Hannon N, et al., Cerebrovasc Dis 2010; 29: 43-49.
(3)Inoue H, et al., Int J Cardiol 2009; 137: 102-107. - 用語解説
ResearchKit : 医学研究をサポートする目的でAppleによって開発されたオープンソース・フレームワークのこと(http://www.apple.com/jp/researchkit/)
- 「C3fit IN−pulse」は株式会社ゴールドウインが販売するウェア型のトレーニングデータ計測用デバイスです。
- 生体情報の取得には、hitoeトランスミッターSDKを利用して開発されたアプリケーションを使用しています。hitoeトランスミッターSDKとは、「hitoe」から計測可能な生体情報を自由に活用したサービスを開発するためにドコモが提供している開発ツールです。
参考資料
図1 脈の揺らぎを自己管理するスマートフォンアプリ『HearTily』
実際に得られた脈拍とそれを解析した図を履歴として可視化できます。脈のゆらぎをパーセントで表示します。参加者はこの情報から自身の脈の揺らぎを管理することができます。
- 主な機能 :
- 脈拍の測定
- 脈拍の揺らぎ度表示
- クラウドサーバーへのデータ格納
- 専門医によるデータ閲覧機能
- 配信開始日 :
- 2016年4月21日(無料配信)※1
- 対応OS :
- iOS 8.0以降※2
- ご提供方法 :
- (URL)
http://apple.co/1qTydDm ※3
(QRコード)
- (URL)
- 本アプリによる臨床研究参加者の皆様へ :
- 本アプリで計測した心拍データは利用開始時に登録したデータ(生活習慣病の有無など)とともに、生活の中で不整脈の発生傾向などを分析する研究データとして使用します。そのため本アプリの利用開始時に、データの研究利用について利用者に承認いただく必要があります。
<ご参考>
健康空間情報学講座では、2型糖尿病・糖尿病予備群を対象としたスマホアプリ『GlucoNote』による臨床研究も行っています。(2型糖尿病・糖尿病予備群を対象としたスマホアプリによる臨床研究開始)図2 機能素材「hitoe」を活用した長時間心電図モニタリング
実施期間 : 2016年4月21日〜2016年6月下旬
- NTTドコモグループに勤務する社員100名がhitoeウェアを使用したTシャツを着用し、日常生活を送りながら長期間(実施期間のうちのべ30日間)にわたって心拍・心電波形を計測します。
- hitoeトランスミッター01のBluetooth通信機能によりスマートフォン内の専用アプリケーションに心拍・心電位のデータを送り、クラウドサーバーにアップロードします。
- クラウドサーバーにアップロードされた心拍・心電位の状態を循環器専門医が確認・分析します。
- 別途パケット通信料がかかります。
- iPhone・iPod touch利用者対象。
- AppStoreでダウンロードできます。
- 「hitoe」は東レ株式会社および日本電信電話株式会社の登録商標です。
- iPhoneはApple Inc.の商標です。
- iPhone商標は、
アイホン株式会社のライセンスにもとづき使用されています。
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