Activity Reports

2023年ITU無線通信総会(RA-23),世界無線通信会議(WRC-23)報告

立木 将義(たちき まさよし)
谷田 尚子(たにだ ひさこ)
新  博行(あたらし ひろゆき)

電波企画室

あらまし
国際電気通信連合の無線通信総会が2023年11月13~17日に,世界無線通信会議が11月20~12月15日にアラブ首長国連邦のドバイで開催され,ITU-R決議,勧告の承認や,ITU無線通信規則を改正して新たなIMT周波数の特定を行うための審議などが行われた.本稿ではこれらの会議の審議状況や,主要結果を報告する.

01. まえがき

  • 国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は, ...

    開く

    国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は,国際連合の専門機関の1つで,電気通信(無線通信および有線通信)の利用に関する国際的秩序の形成を受けもっている.ITUの部門の1つである無線通信部門(ITU-R:ITU Radiocommunication sector)では,有限な資源である周波数および衛星軌道の国際的な管理や調整を行う役割を担っており,無線通信に関する規則の制定や標準化を行っている.通常3~4年に一度開催される無線通信総会(RA:Radiocommunication Assembly)と世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conference)は,ITU-Rの活動において重要な会議であり,ITU加盟国(193カ国)の電気通信にかかわる主管庁やその関係者が多数出席する.

    2023年の11月から12月にかけて,アラブ首長国連邦のドバイで行われた無線通信総会(以下,RA-23)では116カ国の主管庁などから約500名が,世界無線通信会議(以下,WRC-23)では163カ国の主管庁などから約3,900名が参加した.

    本稿では,RA-23およびWRC-23の審議状況と主要結果の詳細を報告する.

02. RA-23の審議内容と結果

  • RAはITU-Rの総会であり,作業方法などを規定したITU-R決議(Resolution)の承認や ...

    開く

    RAはITU-Rの総会であり,作業方法などを規定したITU-R決議(Resolution)の承認や,RAに提出されたITU-R勧告(Recommendation)やITU-R研究課題(Question)の承認を行う.さらに,ITU-Rの研究体制の検討として,研究委員会(SG:Study Group)の構成の適宜見直しや,議長,副議長の任命などを行う.

    2.1 ITU-R決議,勧告などの承認

    ITU-R決議については,RA-23において4件の新規決議の策定,26件の既存決議の改訂,4件の既存決議の削除が承認された.

    RAやSGなどの作業方法はITU-R決議1に定められている.RA-23ではこの決議1の見直しを行い,SG配下の作業部会(Working Party)議長の任期が新たに定められ,原則として2期,やむを得ない場合は最大3期とする規定が盛り込まれた.

    また,IMT(International Mobile Telecommunications)*1の名称を定義するITU-R決議56の改訂が行われ,いわゆる第6世代移動通信システム(6G)を念頭に,新たにIMT-2030の名称が追記された.これにより,IMT-2030の名称がITU-Rにおいて公式なものとなった.さらに,ITU-Rにおける将来のIMT開発プロセスの原則に関する決議であるITU-R決議65についても改訂が行われ,IMT-2030の開発プロセスの追加が承認された.

    加えて,ITU-Rの活動におけるジェンダー平等への取組みを強化・加速することを求めた新たなITU-R決議72が承認された.

    ITU-R勧告については,通常は各SGでの採択後,ITU加盟国による郵便投票によって,正式にITU-Rで承認される.しかしながら,RAで承認するのがふさわしいと判断された場合などには,RAで承認を行うことも可能である.2023年9月に,地上業務を所掌するSG5においてITU-R勧告M.2160(IMT-2030の枠組みや目的をまとめた勧告)が採択され,12月〆切でITU加盟国からの郵便投票による正式な承認待ちとなっていた.一方で,上記のITU-R決議56と65がITU-R勧告M.2160を参照する形を取っていたため,これらのITU-R決議の承認に合わせて,RA-23においてITU-R勧告M.2160の承認も行われた.

    2.2 ITU-R SGの議長・副議長の任命

    RA-23では,周波数管理にかかわるSG1と衛星業務にかかわるSG4の各議長は2期目として再任された.また伝搬にかかわるSG3,地上業務にかかわるSG5,放送業務にかかわるSG6,科学業務にかかわるSG7の各議長は2期を経て任期満了となり,新たな議長がそれぞれ任命された.この中にはSG6の議長であった日本の西田 幸博氏(NHK)も含まれる.

    またSGの副議長については,RA-23では副議長候補という形で承認された.日本からはSG4副議長の河野 宇博氏(スカパーJSAT)が前会期に続く2期目の副議長候補として承認された.またSG5は新 博行(筆者の1人)が2期の任期を終え,新たに今田 諭志氏(KDDI)が,SG6は大出 訓史氏(NHK)がそれぞれ新たな副議長候補として承認された.通常は,RAにおいて副議長の任命を完了するが,今回は,今後開催される各SG会合においてRA-23が承認した副議長候補に基づいて正式な任命を行う形となった.

    1. IMT:ITUにおいて標準化されている国際移動通信システム.IMT-2000(3G),IMT-Advanced(4G/LTE),IMT-2020(5G)など.

03. WRC-23の審議内容と審議結果

  • WRCはITUの無線通信規則(RR:Radio Regulations)*2の改訂を ...

    開く

    WRCはITUの無線通信規則(RR:Radio Regulations)*2の改訂を審議する会議であり,その議題は前回のWRCで決定される.議題決定後,次のWRCまでの3~4年の間,ITU-Rの各SGの作業部会においてWRCでの議論に必要となる研究が行われ,WRCではその研究結果に基づいた審議が行われる.WRC-23では前回のWRC-19で設定された30程度の議題の審議を行った.

    3.1 IMT周波数の追加特定(WRC-23議題1.2)

    前回のWRC-19に続きWRC-23でも,IMTシステムに用いる周波数の特定をRRに行うための検討が,WRC-23議題1.2として審議された.WRC-19では24.25GHz以上の周波数帯を対象としたIMT特定の議題(WRC-19議題1.13)であったが,議題1.2では,3,300~3,400MHz(第1地域および第2地域),3,600~3,800MHz(第2地域),6,425~7,025MHz(第1地域),7,025~7,125MHz(全地域)および10.0~10.5GHz(第2地域)のIMTへの特定を検討した.なお,第1地域とは欧州,中東,アフリカ,旧ソ連諸国を含む地域,第2地域とは米州地域,第3地域とは日本を含むアジア・太平洋地域を指している.

    本議題において,最も審議が難航した周波数が,6,425~7,025MHzと7,025~7,125MHzである.審議の結果,7,025~7,125MHzは第1地域と第3地域,および第2地域の一部の国でIMTに特定された周波数となった(表1).一方,6,425~7,025MHzは,第1地域全体がIMT特定されるとともに,第2,第3地域の一部の国についてもIMT特定が行われた.

    WRC-19での議題設立時の議論における議題1.2のスコープは,6,425~7,025MHzのIMT特定の検討対象を第1地域のみとする想定であったが,WRC-23では第2,第3地域の一部の国からIMT特定を求める提案がなされた.議題1.2のスコープとして,このような提案を認めるか否かが大きな議論となり,ITU-Rでの検討が十分でないことを理由にIMT特定に反対する意見も多数出されたが,最終的に第2地域ではメキシコとブラジルに対して,第3地域ではカンボジア,ラオス,モルディブに対して,6,425~7,025MHzの周波数をIMT特定することが合意された.

    なお,6,425~7,125MHzについては,同じ周波数帯を共用する固定衛星業務の無線局の保護の観点から,この周波数帯のIMT無線局の送信電力を規制するため仰角ごとの等価等方放射電力(EIRP:Equivalent Isotropically Radiated Power)*3の上限を定めた規定が新たに行われた.IMTを推進する国々と衛星業務保護を主張する国々との間でEIRPの上限の規定に関する提案内容に大きなかい離があり長い議論となったが,最終的には合意が図られた.

    議題1.2の検討対象であるその他の周波数帯のIMT特定については,3,300~3,400MHzは第1地域の対象国数が増加するとともに,第2地域では地域全体に拡大された.3,600~3,700MHzについては第2地域全体にIMT特定が拡大され,3,700~3,800MHzについては新たに第2地域の一部の国にIMT特定が行われた.さらに10~10.5GHzも,第2地域の一部の国でIMT特定がなされた.

    表1 周波数のIMT特定結果

    3.2 その他の関連議題(WRC-23議題1.3および1.5)

    WRC-23議題1.3は第1地域における3,600~3,800MHzの移動業務への一次分配*4を,WRC-23議題1.5は第1地域における470~960MHzの既存業務の周波数の利用および需要の見直しとそれに基づく規則条項を検討する議題である.議題の記載にはIMTの特定に関する言及はないものの,いずれの議題においても一部の国からIMT特定を併せて実施する提案があり,議論が行われた.

    議題1.3の審議の結果,第1地域において3,600~3,800MHzの移動業務(航空移動業務を除く)への一次分配に合わせて,第1地域の中で3,600~3,700MHzは6カ国で,3,600~3,800MHzは59カ国で新たにIMT特定された.また,議題1.5の審議の結果,614~694MHzが第1地域の11カ国で新たにIMT特定された.

    以上の議題1.2,1.3および1.5の審議結果を踏まえたIMT特定の状況を表1にまとめる.

    3.3 HIBS利用の検討(WRC-23議題1.4)

    WRC-23議題1.4は,2.7GHz以下のIMT特定された周波数帯における,HIBS(High altitude platform station as IMT Base Station)*5利用を検討する議題である.

    審議の結果,HIBSに利用可能な周波数が拡張されるとともに,既存業務を保護するため,HIBS運用条件の規定を定めた決議の策定が行われた.その中でHIBSは高度18~25kmとし,またHIBSの運用に際してはITU-Rへの通告を必須とすることなどが定められた.さらに,地上で運用されているIMTを含む既存システムの保護を目的として,地表面におけるHIBSからの電力束密度*6の上限値が対象システムごとに規定された.

    HIBSに特定された周波数を図1に示す.WRC-23に向けてITU-Rで検討されていた候補周波数帯はおおむねHIBSでの利用が可能となったものの,第3地域では700~900MHzにおけるHIBSの利用が可能な国は一部にとどまり,またHIBSからの干渉を懸念する周辺国との調整の結果,日本を含む8カ国においては,700~900MHz帯の一部の周波数帯のみHIBSでの利用が認められることとなった.

    図1 HIBS特定周波数

    3.4 WRC-27向けの新議題(IMT周波数特定,WRC-27議題1.7)

    WRC-23に続いて新たなIMT周波数特定の検討が,次回WRC-27の議題となった.

    これまでWRCの議題として検討がされていなかった7~24GHz帯を中心に,IMT特定のための候補周波数が提案され,一部の国からは衛星業務保護の観点から議題化することへの反対意見があったものの,全体としてはIMT周波数の特定の検討に関する議題をWRC-27向けに設定する方向で議論が進められた.

    一方で,具体的な候補周波数帯をどこにするかは,国や地域によって意見が分かれた.図2は,WRC-27において追加特定を行うIMTの候補周波数帯の提案状況である.WRCに向けては,世界各地域の国々が構成する地域団体からの共同提案を受け付ける仕組みがあり,旧ソ連地域,中東地域,米州地域の各地域団体であるRCC(Regional Commonwealth in the Field of Communications),ASMG(Arab Spectrum Management Group),CITEL(Inter-American Telecommunication Commission)からは,それぞれ地域共同提案として候補周波数帯の提示が行われた.一方,日本を含むアジア・太平洋地域の地域団体であるAPT(Asia-Pacific Telecommunity)では,候補周波数帯の意見集約ができず,地域共同提案を行えなかった.そこで日本は単独で12.75~12.95GHzの周波数を候補とすることを提案し,さらにWRC-23の審議中に14.9~15.2GHzを候補とすることを追加提案した.

    提案された候補周波数帯は図2に示すとおり多岐にわたり,議論をまとめることが難しいと判断されたため,WRC-23期間中に前述の地域団体に,欧州の地域団体(CEPT:European Conference of Postal and Telecommunications Administrations),アフリカ地域の地域団体(ATU:African Telecommunications Union)を加えた各代表による地域間会合で議論を行い,候補周波数帯の絞り込みが行われた.限られた出席者により周波数帯の絞り込みを行ったことに対して多くの国々が不満を示したが,時間的制約がある中で,多数の国が集まる大規模な会議で候補周波数帯の1つ1つを議論することは現実的ではないとして,最終的には地域間会合の議論結果を採用することになった.

    候補周波数帯は,地域団体から提出された提案が優先され,4,400~4,800MHzまたはその一部(第1地域,第3地域),7,125~8,400MHzまたはその一部(第2地域,第3地域),7,125~7,250MHzと7,750~8,400MHz,またはその一部(第1地域),14.8~15.35GHz(全地域)となった.日本が提案した12.75~12.95GHz帯は,国際的には衛星業務に多く使われていることからIMT特定候補とすることには反対が多く,また支持も少なかったことから候補周波数帯とすることは見送られた.一方,14.9~15.2GHzの追加提案は反映される形となった.

    WRC-23でIMT特定された周波数帯と,WRC-27に向けて検討が行われるIMT特定の候補周波数帯の関係をまとめたものを図3に示す.

    図2 IMT特定候補周波数帯の提案、図3 WRC-23のIMT特定周波数とWRC-27のIMT特定候補周波数

    3.5 新議題(地上系IMT端末と衛星との直接通信)

    昨今,非地上ネットワーク通信(NTN:Non-Terrestrial Network)*7が注目されており,WRC-23においても,携帯電話として利用されているIMT端末と衛星との直接通信を可能とするため,移動衛星業務への周波数分配や各種運用条件を検討することがWRC-27の議題として合意された.日本からは2.2GHz以下の非静止衛星とIMT端末の直接通信を検討対象とする提案をしていたが,衛星業務を推進する国や地域から5GHz以下や3GHz以下の周波数を検討対象とするなどさまざまな提案が示され,審議の結果,対象を静止衛星および非静止衛星,周波数を2.7GHz以下としつつ,地上IMTシステムで用いられている周波数配置を考慮した検討を行うこととなった.また,IMT端末と衛星との直接通信は地上IMTシステムのエリア補完の役割であり,隣接周波数を含めた既存業務に干渉影響を及ぼさない運用や規定を検討していくことが定められた.

    1. 無線通信規則(RR):電波利用に関する規則をまとめたもの.WRCでの合意内容が反映される.国際電気通信条約の一部を構成する外交文書として,条約批准国に対して強制力を有する.
    2. 等価等方放射電力(EIRP):電波放射空間上に設けられた規定点における送信電力.
    3. 一次分配:無線通信規則における一次業務への周波数分配.周波数分配を受ける業務は一次業務と二次業務に分類される.一次業務は,他の一次業務または二次業務に対して有害な干渉からの保護を受けることができるが,二次業務は一次業務に対して,有害な干渉を与えてその運用を妨げることはできず,また干渉保護を求めることもできない.
    4. HIBS:IMT基地局としての高高度プラットフォームステーション.上空に位置し,地球からは相対的に定位置にある.
    5. 電力束密度:単位面積を通過する電波の電力の強度.
    6. 非地上ネットワーク通信(NTN):衛星やHAPSなどの非陸上系媒体を利用して,通信エリアが地上に限定されず,空・海・宇宙などのあらゆる場所に通信エリアが拡張されたネットワーク.

04. あとがき

  • WRC-23では新たな周波数がITU無線通信規則においてIMT特定され ...

    開く

    WRC-23では新たな周波数がITU無線通信規則においてIMT特定され,さらにWRC-27においてもIMT周波数の追加特定を検討することとなった.これにより,2015年のWRC以来4回連続で,IMT周波数特定のWRC議題化がなされたことになる.

    一方で,WRC-27向けの新議題検討において,IMT特定の議題で検討する候補周波数帯の絞り込みは各地域団体からの限られた出席者による会合で行われ,そこでの検討結果を追認する形で合意が図られた.このようなやり方は過去のWRCでも行われてきたものであり,会合出席者からの不満は多くあるものの,現実的には,会議規模が大きくなり,議論が複雑化する中で,今後も同様のやり方を続けることはやむを得ないと思われる.このような背景を踏まえると,WRCの場で単独あるいは少数国からの共同の提案を通すことは難しくなるため,日本でいえば所属する地域団体であるAPTのWRC準備会合の場において,他のアジア・太平洋地域の国々との間で協力関係を構築しつつ,日本のプレゼンスをさらに上げていくことが重要になる.

    またWRC-23ではHIBS向けの周波数帯の拡張が認められ,さらにWRC-27では携帯電話として利用されているIMT端末と衛星との直接通信にかかわる検討が議題1.13として設定された.これは,NTN関連の技術開発の進展に伴い,その実現に必要な周波数などの議論も必要となり,ITU-Rの果たす役割の重要性がますます高まっている状況であると考える.NTNは従来の携帯電話システムとは異なる利用形態であるため,WRC-27議題1.13の審議に向けたITU-Rの検討は,SG4配下において移動衛星業務の検討を所掌する作業部会(Working Party 4C)が責任グループの役割を果たしつつ,SG5配下においてIMTの検討を所掌する作業部会(Working Party 5D)が検討に必要な情報を提供して進めることになった.

    このような背景を踏まえ,ドコモはWRC-27に向け,今後も上記のITU-Rの作業部会やAPTのWRC準備会合に積極的に参加し,各種提案や情報収集を行っていく.

このページのトップへ