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ドライブレコーダーの映像データに関するエッジ・クラウド分散処理,および物体検知AI技術

車載カメラ 画像認識AI エッジ・クラウド分散処理

北出 卓也(きたで たくや)
加藤 文彦(かとう ふみひこ)

サービスイノベーション部
難波 幸博(なんば ゆきひろ)
クロステック開発部
三谷 秀行(みたに ひでゆき)
近藤 達成(こんどう たつなり)
北村 彩香(きたむら あやか)

NTTコミュニケーションズ株式会社 プラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部

あらまし
近年日本においては,大小問わず多くの自動車にドラレコが搭載されるようになり,その普及が顕著である.ドラレコの主な用途は事故発生時の映像記録であるが,平常走行時のデータをクラウドにアップロードすることができる機種も開発されている.一方で大量の映像データから目的の映像を人手で検索することは困難であり,そのデータ活用が課題となっている.そこでドコモおよびNTTコミュニケーションズでは,ドラレコのデータ活用を念頭に,ガス管や水道管など地中埋設インフラに損傷を及ぼす可能性がある工事作業を検知するシステムを開発した.本システムでは通信帯域の有効活用のため,ドラレコ本体(エッジ端末)にて工事作業に関連する物体の一部を検出した上で,物体が検出された映像データのみクラウドへアップロードし,クラウド上で複数の工事関連物体を検出することで,当該映像が本当に工事現場であるかどうかを精査する.これにより,映像データアップロードのための通信量を最低限にしながら,広くドラレコの映像を収集・解析することが可能となる.

01. まえがき

  • 自動車などの車両に搭載可能なドライブレコーダー(以下,ドラレコ)は,走行時 ...

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    自動車などの車両に搭載可能なドライブレコーダー(以下,ドラレコ)は,走行時常時録画撮影を行うとともに,急加速や急ブレーキなどの特定条件下で映像の自動保存を行うことができるため,事故時の映像記録を残すためのツールとして,大小問わず多くの車両へ搭載が進んでいる.また,通信機能付きドラレコの普及も進んでおり,撮影されたデータをクラウド上から確認することが可能となっている.

    一方で,撮影された膨大な映像データの活用には課題が残る.しかしながら,データの有効活用のためにすべての映像データをクラウド上にアップロードし,一元管理するのは性能面からもコスト面からも現実的ではない.

    そこでNTTコミュニケーションズでは,通信機能および画像認識AI*1を備えたドラレコにより,撮影された映像データをドラレコとクラウドで分散管理し,必要なデータのみアップロードすることが可能なシステムであるモビスキャ®およびドコモが開発する画像認識AI技術を活用したAI道路工事検知ソリューション(仮称)を開発している.

    本稿では,モビスキャの仕組みと特長,AI道路工事検知ソリューションについて解説する.

    1. 画像認識AI:画像入力に対して,機械が判断,推定などを行い,結果を返却するAI.

02. モビスキャの仕組み

  • モビスキャは,自動車などの車両に搭載されたドラレコの映像データに ...

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    モビスキャは,自動車などの車両に搭載されたドラレコの映像データに関する位置情報や撮影時刻などのメタデータ*2のみをリアルタイムでクラウドに蓄積し,映像データ自体を必要に応じてアップロードする,NTTコミュニケーションズが提供する映像分散管理プラットフォームサービスである.本サービスでは図1に示すように,モビリティパートナーが運用する,車両に搭載されたドラレコが収集した映像データをモビスキャに蓄積するとともに,蓄積された映像データを解析・加工してデータ活用パートナーへ提供することで,映像データの活用を可能にする.ここで,モビリティパートナーとは,バスやタクシーなどの事業者や運送事業者など,車両を恒常的に運用し,ドラレコを搭載することで広く映像データの収集を行うことが可能であるパートナー企業を指す.また,データ活用パートナーとは,モビスキャに蓄積されたデータを活用するパートナー企業を指す.

    モビリティパートナーは,既存業務を行う車両に専用のドラレコを取り付けて走行するだけでモビスキャへデータ提供を行い,新たな収益源に繋げることができる.また,データ活用パートナーは,これまで点検や見回り作業など,対象まで足を運んで目視で確認していた業務の一部を,モビスキャのデータを活用して実施できるようになるため,コスト削減を実現可能である.

    図1 モビスキャのサービス提供イメージ
    1. メタデータ:コンテンツデータそのものではなく,そのコンテンツデータに関連する情報.例えば,画像ファイルに対する撮影場所の位置(緯度経度)情報などが該当する.

03. モビスキャの特長

  • モビスキャでは,複数の車両から街中の映像データを逐次収集することが ...

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    モビスキャでは,複数の車両から街中の映像データを逐次収集することが可能であるが,すべてのデータをモビスキャに蓄積してしまうと通信,データ処理および蓄積コストが増大してしまうため,後述する分散処理および映像共有の仕組みを活用することで,運用コストと映像網羅性の両立を計っている.

    3.1 エッジAIおよびクラウドAIによる分散処理

    モビスキャでは,ドラレコに搭載されたエッジAI*3が映像データを選別し,データ活用パートナーが求める映像データのみをクラウドへアップロードすることで,通信コストおよびデータ保存コストの削減を図っている.エッジAIでは,データ活用パートナーが必要とする映像データが網羅されるよう,画像認識AIを用いて,検知対象の特定物体が一部のみ含まれる場合であっても反応し,一般的なドラレコ同様に前後数秒間の映像を保存してクラウドへアップロードすることを実現する(図2).

    一方で,モビスキャを構成するクラウド上で動作するクラウドAIでは,エッジAIによりフィルタされたデータすべてに詳細な画像認識を行う.この処理により,データ活用パートナーが求める事象のみを抽出することが可能となる.

    図2 クラウドAIとエッジAIの連携イメージ

    3.2 分散データ管理

    前述したとおり,モビスキャではドラレコ側に搭載されたエッジAIを用いて,必要な映像データのみクラウドへアップロードすることが可能である.また,データの活用方法,すなわち認識対象を変更した際にも既存の映像データを活用できるように,ドラレコ側に保存された映像の指定アップロード機能を備える.クラウド側ではドラレコが保持する映像データの一覧データを保持しており,映像データをドラレコ側へリクエストすることで,ドラレコ側は追加の映像解析に必要な映像データをクラウドにアップロードすることができる.例えば地図上でユーザが指定した場所に対して,メタデータを用いてドラレコ側にデータが保持されていることが分かれば,ドラレコ側はリクエストに従ってそのデータをクラウドへアップロードし,未撮影であれば次回ドラレコが撮影した際にクラウドへアップロードするように予約される.

    1. エッジAI:本稿では,デバイス上で処理するAIを示す.

04. モビスキャ活用事例「AI道路工事検知ソリューション(仮称)」

  • ガスや電気などのインフラ事業者は,埋設された設備が意図しない ...

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    ガスや電気などのインフラ事業者は,埋設された設備が意図しない地中切削により破損することのないよう,設備が埋設されている道路上で工事が行われていないかを確認するため,社用車でのパトロールを行っている.一方で,パトロールを行う作業者の人件費や車両走行に必要な燃料費,車両維持費にコストがかかるほか,作業者を確保することが難しいという課題がある.

    そこで,「モビスキャ」を活用した「AI道路工事検知ソリューション(仮称)」を開発した.本ソリューションで街中の映像を解析することにより,実際の街中を走行して目視確認していた作業を代替することが可能である.

    モビスキャを活用したAI道路工事検知ソリューション(仮称)の概要を図3に示す.モビリティパートナーの車両走行により収集した映像に対して2段階でのAI判定を行うことで,AIの精度を担保しながら不必要なデータ通信を抑制する.

    具体的には,データ収集時にエッジAIによって,工事を構成する要素の1つである工事用コーンが検知されると,検知時点から前後5秒間の映像をクラウドへアップロードする.クラウドAIでは,アップロードされた映像から,工事看板やコーンバーなどの工事を構成する複数の要素を画像認識AIにより検知し,複数フレームにわたって分析・スコア化する.そして,一定以上のスコアに到達した映像のみ位置情報とともにデータ活用パートナーに提供する.提供される映像には,プライバシーに関する顔やナンバープレートなどへマスク処理が施されている.

    なお,クラウドAIの画像解析に活用されている画像認識AIは,「AIやビックデータなどを活用して社会インフラ保全のデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)*4を推進することでサステナブルな社会の創造に貢献するドコモの取組み」として開発された.

    データ活用パートナーは,UI(User Interface)画面のマップからクリック1つで工事箇所の映像確認が可能となるため,社用車でのパトロールを減らしながらマップ上で工事把握のためのパトロールを行うことが可能となる.

    図3 モビスキャのサービス提供イメージ
    1. DX:IT技術を活用してサービスやビジネスモデルを変革させ,事業を促進するとともに人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させること.

05. あとがき

  • 本稿では,ドラレコから取得した映像データを効率的に蓄積および分析する ...

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    本稿では,ドラレコから取得した映像データを効率的に蓄積および分析する映像分散管理プラットフォームサービスであるモビスキャの概要と,モビスキャの活用事例である「AI道路工事検知ソリューション(仮称)」を解説した.本事例ではインフラの維持管理におけるモビスキャの活用であったが,街中の映像データは防災や都市計画など,さまざまな分野での応用が期待されるため,モビスキャにおける映像解析AI技術の高度化を通して,さらなるドラレコの映像データの活用へ貢献したい.

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