Technology Reports

ユーザの多様なニーズに対応するためのドコモトランスポート網高度化技術

トランスポート網 トランスポート・スライシング SDNコントローラ

吉野 剛(よしの つよし) 山部 和章(やまべ かずあき)
天野 智貴(あまの ともき)

インフラデザイン部 トランスポートデザイン室
河上 章太郎(かわかみ しょうたろう)
ドコモ・テクノロジ株式会社 コアNW事業部
竹原  隆(たけはら たかし)
株式会社ドコモCS中国 ネットワーク運営部
髙科 翔一(たかしな しょういち)
株式会社ドコモCS モバイルネットワーク構築部

あらまし
近年,ドコモのトランスポート網では大容量データ通信,低遅延性,多接続,ユーザ間の秘匿性などユーザの多様なニーズへの対応が求められている.
このような要求に対して,ドコモではネットワークトポロジの見直しによる伝送遅延値の低減,トランスポート・スライシングを用いたネットワークリソースの論理分割,SDNコントローラを用いた通信経路の一元的な管理・設定・変更などを行ってきた.本稿ではこれらの取組みについて解説する.

01. まえがき

  • 第5世代移動通信システム(5G)の導入やIoT(Internet of Things)の ...

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    第5世代移動通信システム(5G)の導入やIoT(Internet of Things)の発展などにより,ドコモのトランスポート網では大容量データ通信,低遅延性,多接続,ユーザ間の秘匿性などユーザの多様なニーズへの対応が求められている.このような要求に応えるために市場では,ネットワーク・スライシングなど新たな技術が提案され導入実績も増えてきており,ドコモもトランスポート網においてさまざまな取組みを行ってきている.

    また,大容量,低遅延などの通信を実現する場合,そのニーズに応じた通信経路を選択する必要があるが,大量の通信経路を保守者が個別に制御することは運用上困難であり,一元的かつ効率的にコントロールする手段が必要となる.

    本稿では,ドコモトランスポート網の概要をまず述べ,その後に各種の取組み(ネットワークトポロジ*1の最適化,SR-TE(Segment Routing Traffic Engineering)/トランスポート・スライシング,SDN(Software-Defined Networking)*2コントローラの導入)を解説する.

    1. ネットワークトポロジ:ホスト名など事業者内のネットワーク構成にかかわる情報のこと.
    2. SDN:ネットワークを構成する機器の設定・動作をソフトウェアで制御すること.

02. ドコモネットワークにおけるトランスポート網の位置付け

  • トランスポート網という場合,物理層*3・データリンク層*4を主に扱う ...

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    トランスポート網という場合,物理層*3・データリンク層*4を主に扱うNE(Network Element)*5(WDM(Wavelength Division Multiplexing)*6,FTM(Fiber Termination Module)*7など)で構成されたネットワークと,ネットワーク層*8を主に扱うNE(ルータ,スイッチなど)で構成されたネットワークが含まれるが,本稿ではネットワーク層を対象として解説する.

    ドコモネットワークでは,図1に示すとおり,大量の基地局を効率的に収容するためのネットワーク(AR(Access Router)網)と,コアノード*9が設置されたビル(以下,コアノードビル)間でやり取りされる大量のトラフィックを処理するためのネットワーク(BR(Backbone Router)網)の,大きく分けて2種類のトランスポート網で構成されている.

    図1 ドコモネットワークにおけるトランスポート網の構成

    AR網は,ユーザの利用エリア拡大のために広範囲に設置される基地局を効率よくコアノードビルに収容する役目を担っている.AR網はACR(Area aCcess Router)とAGR(Area aGgregation Router)と呼ばれる2種類のNEで構成されている.ACRは基地局の上位に配置され複数の基地局エリアとその通信を集約しAGRと接続する役割を担っている.また,AGRは各ACRを集約して上位のBR網と接続する役割を担っている.ACR,AGRの監視・制御・設定などを担うNE-OPS(NE OPeration System)*10もAR網に含まれる.

    なお,AR網のNE-OPSはResource Assurance*11と呼ばれる外部システムと接続されており,監視情報の一覧化や装置の状態確認といった簡易的な制御を行っている.

    BR網は,コアノードビル間のデータ転送を主に受け持っており,AR網やコアノード間のユーザ・制御トラフィックを転送している.また,BR網は,CER1/2(Converged Edge Router 1/2)*12,SAS2(SAtellite Switch2)*13,CR2(Core Router2)*14と呼ばれる3種類のNEで構成され,CER1/2,SAS2は各種システムの収容,CR2は収容されたシステムからのトラフィックをBR網内で転送する役目を担っている.AR網と同様にNE-OPSによりNEの制御・設定を行っている.なお,機器の監視についてはResource Assuranceを用いて行っている.

    1. 物理層:通信機能を分類定義したOSI参照モデルの第一層で,物理的な接続や伝送方式を定めたもの.
    2. データリンク層:通信機能を分類定義したOSI参照モデルの第二層で,直接接続された機器間でのデータ転送方式を定めたもの.
    3. NE:ネットワークを構成する装置の総称.
    4. WDM:波長分割多重装置.
    5. FTM:加入者の光ファイバ回線を収容する配線装置.
    6. ネットワーク層:通信機能を分類定義したOSI参照モデルの第三層で,ネットワークを経由して宛先の機器までデータを転送する方式を定めたもの.
    7. コアノード:呼処理サーバ,加入者情報管理装置などの上位ノード.
    8. NE-OPS:NEを監視制御するシステムの総称.EMS(Element Management System)に該当する.
    9. Resource Assurance:NE-OPSとのデータ連携により機器の稼働状況や警報発報状況などの監視を集約し管理する外部システム.
    10. CER1/2:エッジ層においてユーザを収容するNE.なお,機器としてはCER1およびその後継機種となるCER2の2種類のNEが存在するが,本稿ではCER1/2とまとめて表現する.
    11. SAS2:エッジ層において1Gbpsや10Gbpsのユーザを収容するNE.
    12. CR2:コア層においてネットワーク内におけるデータ転送を行うNE.

03. 各種取組みの概要

  • 3.1 ネットワークトポロジの最適化

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    (1)AR網のネットワークトポロジ

    AR網では,基本的にAGRの下位にACRが複数接続されるスター型*15トポロジで構成される.一方で,隣接のACRとACR間を直接接続するトポロジも考えられ,これによりAGRを収容するビルをまたぐ長距離伝送路の構築を回避し,伝送路のコスト削減や新規ACRの追加時に柔軟かつ容易にネットワークトポロジを拡張することができる.

    また,ACRとAGRの接続に際しては物理回線を冗長化させることで,ネットワークの耐障害性を高めている.さらにAGRは各エリア内の通信を集約しており障害時の通信影響が大きいため,装置を冗長化することで片方の装置が故障した場合でも,通信を継続することができる[1].

    (2)BR網のネットワークトポロジ

    従来はIPルータ網*16と呼ばれるトランスポート網を使用していたが,後継として新たにBR網を新設した.IPルータ網では,図2で示すように東日本と西日本を拠点とする2スター型トポロジのネットワーク構成を採用していた.ドコモでは,IPルータ網を2004年から運用してきているが,ユーザ需要の増加によるNEの新設や増設によって,アクセス層の機器種別が増え,ネットワークトポロジが複雑化してきていた.

    図2 IPルータ網・BR網のネットワークトポロジ

    BR網では,新たにトポロジを見直し,コア層を複数の地域ブロックに分けてCR2を配置するパーシャルメッシュ型*17トポロジを採用している.

    耐障害性については,IPルータ網ではコア層のNEに障害が発生すると配下のエッジ層のNEも影響を受ける構成となっていたが,パーシャルメッシュ型トポロジの採用により,BR網ではコア層の障害の影響を分散することが可能となった.これにより激甚災害などへの耐障害性を高めている.また,BR網の各層はA/B面の2面の構成となっており,片面における障害発生やメンテナンスの場合でも逆面で通信は継続される.

    BR網ではコア層の内部,およびコア層とエッジ層の間の接続はすべて100Gbpsの回線で構成している.また,1Gbpsや10Gbpsのユーザについてはエッジ層のSAS2を用いて収容することで,IPルータ網で存在していたアクセス層を廃止している.これによりネットワークの層数を減らし,複数のNEを経由することで発生していたNE間の通信遅延を低減した.

    また,IPルータ網ではエリア間の通信は必ずコア層に配置された2スターのCRを経由して行われていたが,BR網では同一の地域ブロックに収容されているエリア間であれば,直接通信を行うことができる.これによりIPルータ網で発生していた通信遅延を低減している.

    コア層は,100Gbpsの物理回線を束ねて論理的な大容量回線の構成を可能としている.また,将来のさらなるトラフィック増に備えて,400Gbpsの物理回線の適用も可能とした構成となっている.

    3.2 SR-TE,トランスポート・スライシング技術の導入

    ネットワーク・スライシングとは,同一の物理ネットワークを仮想ネットワーク*18の要件ごとに「スライス」として分割する技術である.携帯端末からコアノードまでネットワーク・スライシングを実現するためには,トランスポート網内でも対応した制御が必要であり,本稿ではそれを可能とする技術をトランスポート・スライシングと呼ぶことにする.

    (1)SR-TE

    (a)概要

    現在,トランスポート・スライシングを実現するためのさまざまな方法が議論されているが,その中でドコモではSR-TEを用いた方法を採用している.SR-TEを用いると動的で柔軟な経路選択が可能となる.これまでは,IGP(Interior Gateway Protocol)*19のメトリック*20(パスコスト*21など)による経路選択が行われてきたが,SR-TEでは,経路選択の要素としてIGPのメトリック以外にも下記のようなオプションが使用できる.なお,メーカによってオプションの実装状況は異なる.

    • 伝送遅延値
    • 保証帯域値
    • リンク利用率

    これらのオプションを用いて,例えば低遅延サービスに対応した通信経路など,ユーザの要望に合わせた経路を作成することができる.

    (b)経路作成

    SR-TEを用いた経路作成では,一般的にPathと呼ばれる経路の組合せを使用する.PathにはExplicit PathとDynamic Pathの2種類が存在する.

    • Explicit Pathでは,あらかじめユーザが経路の一部またはすべてをSID(Segment IDentifier)*22 Listと呼ばれるリストに明示的に指定し,NEはその経路を用いて通信を行う.
    • Dynamic Pathでは,入口と出口のルータを指定することで,PCE(Path Computation Element)*23が取得した情報を用いてSID Listを自動的に生成し,NEはその経路を用いて通信を行う.

    また,TE affinity*24などの技術を用いることでリンクに属性をもたせ,特定の経路を通らないPathを生成するなど,柔軟な経路設定が可能となる[2].

    なお,ドコモトランスポート網ではDynamic Pathの方式を採用しており,TE affinityは現状使用していない.

    (2)低遅延経路の実現方法

    ドコモトランスポート網では各NEで収集したリンクの伝送遅延値に基づき,最低遅延経路での通信を実現している(図3).

    図3 低遅延経路の実現方法

    具体的には,Point-to-Pointで接続されるNE間の伝送路長などに基づく伝送遅延値を,TWAMP Light(a Two-Way Active Measurement Protocol Light)*25 [3]に基づくPerformance Measurement機能*26を使用することで測定している.

    その後測定された各NE間の伝送遅延値を,正規化により数百マイクロ秒オーダの粒度で整形し,BGP-LS(Border Gateway Protocol-Link State)*27[4]によって任意のNEが代表して後述のSDNコントローラへ転送する(図3①).SDNコントローラは,自身のPCE機能により計算した最低遅延経路をSR-policy*28として転送し(図3②),通信の始点となるNEがそれを受け取ることで,従来のOSPF(Open Shortest Path First)*29に基づく通信経路に加えて,SR-TEによる伝送遅延値に基づく通信経路を選択することが可能となる(図3③).

    (3)トランスポート・スライシングの実現方法

    (a)VPNのLSPへの紐づけ

    トランスポート・スライシングは図4のように,トランスポート網の物理ネットワーク上にOSPFパスコストに基づく通信経路と,SR-TEによる伝送遅延値に基づく通信経路がLSP(Label Switched Path)*30として生成される.このLSPがトランスポート網内での「スライス」に相当し,このLSPに対してサービスに応じたVPN(Virtual Private Network)*31を紐づけることで,多様なユーザニーズに応じた通信を実現することができる.ただし,トランスポート網では,3GPP(3rd Generation Partnership Project)*32で規定されているS-NSSAI(Single-Network Slice Selection Assistance Information)*33のようなネットワークスライスを判別する識別子を認識する機構がないため,CE(Customer Edge)*34から届いたパケットの情報に基づいてVPNをどのLSPに紐づけるかを選択する必要がある.

    図4 トランスポート・スライシングの実現方法

    なお,識別子としては,上記の方法以外に,宛先IPアドレスなどの情報を利用することも可能である.

    (b)LSPにおける異常検知

    LSPの起点となるNEをLER(Label Edge Router)*35と呼び,ラベルが付与されたパケットを転送するNEをLSR(Label Switching Router)*36と呼ぶ.

    LERは,SDNコントローラから受け取ったID SID listを用いて,通信経路に異常がないかを確認するためのプローブ*37信号を定期的に送信し,疎通確認が一定間隔で確認できなくなった場合に,SR-policyの経路上に異常が発生したことを検知する.

    LSPでは,Primary PathとSecondary Pathの2本のPathが計算によってあらかじめ作成され,通常時はPrimary Pathを使用する.LSPの異常を検知した場合には,SR-TEの機能の1つであるTI-LFA(Topology Independent–Loop Free Alternate)*38によりBackup Pathへ高速迂回が実施される.その後,SDNコントローラ側でも異常を検知した段階でSecondary Pathに切替えを行う.

    3.3 SDNコントローラの導入

    (1)SDNコントローラの概要

    今後,ネットワーク・スライシングを用いたサービスが多様化すると,大多数のサービスがオンデマンドで提供されることが考えられ,その場合,前述のSR-TEを用いたトランスポート・スライシングでも多数の経路設定を効率的に実現することが必要となってくる.そのためにSDNコントローラの導入が必要となる.

    SDNの概念を取り入れると,トランスポート網はデータを転送するNEと,設定・制御を集中的に司るSDNコントローラの2つに分類される[5].

    SDNコントローラは主に①PCE機能,②装置設定機能,③ネットワーク情報可視化機能の3つの機能から構成される.

    ① PCE機能

    PCE機能では,NEからのSR-policy従った経路の要求をPCEP(Path Computation Element communication Protocol)*39と呼ばれるプロトコルを用いて受信し,SDNコントローラでパスの経路を計算した後に,PCEPを用いて計算結果のパスの経路をNEに対して伝達する[6].このとき,SDNコントローラはBGP-LSなどのプロトコルを用いてNEのトポロジを把握することで経路計算を可能にしている.

    通常,1つのIGPドメイン*40を管理するSDNコントローラは1つであり,特定のIGPドメイン内で終端する経路を計算する.ただし拡張機能があり,SDNコントローラ同士を接続することで,複数のIGPドメインを経由するパスの経路計算が可能となる.

    ② 装置設定機能

    装置設定機能では,設定に必要なコマンドをSDNコントローラからNEへ投入する.

    例えば,NEに対してVPNの設定をすることで,トランスポート・スライシングをVPN単位で実現することが可能となる.

    SDNコントローラは,他のコントローラからの要求を受け付けるNBI(NorthBound Interface)*41を具備していることが多く,サービスオーケストレータなどの,サービスのSLA(Service Level Agreement)*42情報を所持した外部システムと連携することで,サービスに応じたトランスポート・スライシングが実現可能となる.

    ③ ネットワーク情報可視化機能

    ネットワーク情報可視化機能では,SNMP(Simple Network Management Protocol)*43などのネットワーク情報収集プロトコルを用いてネットワークから収集した情報をGUI上に表示する.GUI上に表示する情報は,トポロジ状態やVPNの状態,作成したSR-TEの経路状態など多岐にわたる.また,将来的にはSNMPのようなSDNコントローラとNE間で相互通信が必要なプロトコルではなく,Telemetry*44といったNEからSDNコントローラへ一方的に情報を送信するプロトコルを使用することで,ネットワーク全体の負荷を下げることができ,これによりGUI上でネットワークの状態をより迅速に可視化することが期待される.

    (2)AR網におけるSDNコントローラの実装

    AR網では,ACRとAGRの2種類のNEの監視・制御・設定を,NE-OPSとSDNコントローラの両者で機能を分担して実現している.この機能分担のうちSDNコントローラは,PCE機能とネットワーク情報可視化機能を担っている.AR網のSDNコントローラは,図5のとおりBR網以外の他ネットワークを所掌するSDNコントローラと接続している.これらの構成とすることで,下記の効果を実現する.

    図5 SDNコントローラ(AR網)の構成
    ① スライス制御機能(PCE機能)

    AR網のSDNコントローラだけではAR網外のトポロジを把握できないため,AR網内で完結する経路しか計算ができない.他ネットワークを所掌するSDNコントローラを接続したことにより,他ネットワークのトポロジ情報をAR網とともに把握することができるようになるため,AR網から他ネットワークまでのSR-TEの経路を計算可能となる.前述したとおり,Performance Measurement機能を用いてNE間の伝送遅延値を測定しておくことで,AR網から他社網までの間で極力小さな伝送遅延値の経路を計算・選択して,ユーザの通信を通すことが可能になり,低遅延サービスへの寄与が期待される.

    ② ネットワーク情報可視化機能

    AR網から他社網までのトポロジやVPNをGUI上に可視化表示できるようになる.これにより,トランスポート・スライシングの状況を一目で判別できるようになり,ネットワーク・スライシングを利用するユーザへの影響をいち早く確認できるようになることが期待される.

    (3)BR網におけるSDNコントローラの実装

    BR網のSDNコントローラは,図6のようにNE-OPSに統合されている.このため,NE-OPSは自身のNE制御などの各種機能に加え,BR網内のスライスを管理・制御する機能も備えている.具体的な機能と効果を以下に示す.

    図6 SDNコントローラ(BR網)の構成
    ① スライス制御機能(PCE機能,装置設定機能)

    BR網の各NEは,リンクごとの帯域使用率や伝送遅延値を定期的に計測しNE-OPS(SDNコントローラ)へ通知している.SDNコントローラはそれらの情報を用いて各ユーザのSLAに応じた最適な経路を定期的に計算し,よりSLAに適合する経路がある場合にはPCEPメッセージにてNEへ該当するSR-TE LSPの経路を変更するよう指示する.この機能により,BR網内の状態が変化しても低遅延などのサービスを要求するユーザに対し最適な通信経路を適宜提供できるようになる.

    ② ネットワーク情報可視化機能

    BR網内のリンク単位・ユーザ単位のトラフィック転送量を定期的に収集しており,しきい値判定に基づき異常を検知することができる.BR網内において異常が発生した場合には,保守者はどのユーザのどの区間(NEまたはNE間リンク)に影響があるかを,過去に遡って確認できる.また,Resource Assuranceなどの外部システムは,NE-OPSが収集したトラフィック情報やアラーム情報を,NBIを経由して取得することも可能である.

    ③ その他機能(NE遠隔制御機能など)

    保守者のBR網機器へのCLI(Command Line Interface)*45アクセスは,ネットワーク内回線経由・監視専用外部ネットワーク経由・緊急接続用コンソールサーバ経由の3経路が準備されている.すべての経路への接続をSDNコントローラの操作だけで実現することができる.

    1. スター型:ネットワークトポロジの一種.複数の通信機器が,中心となる通信機器に接続するネットワーク構成.
    2. IPルータ網:BR網の前世代のトランスポート網であり,今後ドコモでは計画的にBR網へ移行していく.
    3. パーシャルメッシュ型:ネットワークトポロジの一種.複数の通信機器が,部分的にメッシュ構造で通信機器に接続するネットワーク構成.
    4. 仮想ネットワーク:VLANなどの管理ドメインを分離する技術を用いて,ネットワーク上に論理的に独立して構成された仮想的なネットワーク.
    5. IGP:AS(Autonomous System)内部での経路選択に用いるルーティングプロトコルの総称.
    6. メトリック:ここではIGPにおいて経路選択をする場合に用いる指標のことを指す.
    7. パスコスト:宛先までの経路上の距離(重みづけ)を累積した値.
    8. SID:Segmentの識別子.
    9. PCE:SR-policyに従ったパス計算を実行する装置.
    10. TE affinity:TEにおいてリンクなどに情報を付与して経路を制御する技術.
    11. TWAMP Light:ネットワーク品質を測定するためのプロトコル.
    12. Performance Measurement機能:TEメトリックを計算するために,遅延などのネットワーク内の状況を計測する機能.
    13. BGP-LS:IGPドメインのリンクステート情報をアドバタイズするためのプロトコル.
    14. SR-policy:SR網内の転送経路を指定するポリシー.
    15. OSPF:ルータが隣接している接続情報を基に経路を選択するプロトコル.
    16. LSP:入口から出口までの一方向のコネクションのこと.
    17. VPN:サービスごとに論理的に構成された仮想ネットワーク.
    18. 3GPP:移動通信システムの規格策定を行う標準化団体.
    19. S-NSSAI:ネットワーク・スライシングにおいて,呼処理信号上でスライスを示すための識別子.
    20. CE:トランスポート網に収容するユーザ機器.
    21. LER:ラベルスイッチングを行うネットワークの出入口にあたるルータで,ラベルの付与・削除を行う.
    22. LSR:LERを除くルータのことで,ラベルの付け替えを行い転送するルータ.
    23. プローブ:ネットワークに流れているデータを取得し,プロトコル解析を行う機器.
    24. TI-LFA:ループを発生させないBackup Pathを作成する機能.
    25. PCEP:SR-policyに従った経路計算のリクエストをPCEへ送り,計算結果をPCEから受け取るためのプロトコル.
    26. IGPドメイン:特定のIGPプロトコルで通信経路が制御されているネットワークの範囲.
    27. NBI:ここではSDNサービスにアクセスし,管理タスクを実行するための統一された手段を指す.
    28. SLA:提供するサービスの品質保証.
    29. SNMP:IPネットワーク上のネットワーク機器を監視・制御するための情報の通信方法を定めるプロトコル.
    30. Telemetry:機器のパフォーマンスに関するデータを収集し,遠隔地のシステムに転送する技術.
    31. CLI:コンピュータやソフトウェアへの指示をすべて文字によって行う方式.

04. あとがき

  • 本稿では,ドコモネットワークにおけるトランスポート網の ...

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    本稿では,ドコモネットワークにおけるトランスポート網の高度化の取組みとして,ネットワークトポロジの最適化,SR-TEを用いたトランスポート・スライシング,それを効率的に実現するためのSDNコントローラの導入に関して解説した.

    さらに,それらの技術やシステムをドコモトランスポート網に導入したことで,代表例として低遅延通信を求めるユーザに対してより低遅延な経路を提供するなどのさまざまなメリットを解説した.

    将来的には,ドコモトランスポート網のSDNコントローラが,上位のユーザのサービスを司るサービスオーケストレータと連携することにより,ユーザからのサービス要求に応じて,携帯端末からコアノードまでのEnd-to-End間で,ネットワーク・スライシングのサービスを迅速に提供することが期待される.

  • 文献

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    • [1] 伊賀上,ほか:“5G MBHにおけるSegment Routing対応ルータ装置の開発,”本誌,Vol.29,No.4,pp.55-64,Jan.2022.

      https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol29_4/vol29_4_010jp.pdf(PDF形式:2,259KB)PDF

    • [2] IETF RFC 8402:“Segment Routing Policy Architecture,”Dec.2018.
    • [3] IETF RFC 5357:“A Two-Way Active Measurement Protocol(TWAMP),”Jan.2020.
    • [4] IETF RFC 8571:“BGP-Link State(BGP-LS) Advertisement of IGP Traffic Engineering Performance Metric Extensions,”Mar.2019.
    • [5] IETF RFC 7426:“Software-Defined Networking (SDN): Layers and Architecture Terminology,”Jan.2020.
    • [6] IETF RFC 8664:“Path Computation Element Communication Protocol (PCEP) Extensions for Segment Routing,”Jan.2022.
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