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「IEEE MTT-S Japan Young Engineer Award」および「植之原道行記念賞」受賞

6G-IOWN推進部の濱田 裕史は,2022年12月1日に,「IEEE MTT-S Japan Young Engineer Award」および「植之原道行記念賞」を受賞しました.

「IEEE MTT-S Japan Young Engineer Award」は,米国電気電子学会(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers)の専門部会「マイクロ波の理論及び技術に関するソサイエティ(MTT-S:Microwave Theory and Technology Society)」の組織であるIEEE MTT-S Japan Chapter, IEEE MTT-S Kansai Chapter, IEEE MTT-S Nagoya Chapterから,マイクロ波の理論および技術の分野に貢献する論文を発表した若手の研究者個人に贈呈される賞です.

「植之原道行記念賞」は,その年の「IEEE MTT-S Japan Young Engineer Award」受賞者のうち顕著な貢献が認められる者へ贈呈されることになっています.2022年度の「IEEE MTT-S Japan Young Engineer Award」受賞者は3名で,「植之原道行記念賞」受賞者は1名でした.

今回,受賞対象となった論文は,IEEE MTT-Sのレター論文誌である,IEEE Microwave and Wireless Components Letters(現在,IEEE Microwave and Wireless Technology Letters)2021年6月の国際マイクロ波会議(IMS:International Microwave Symposium)特集号[1]に掲載されており,IMS2021においてはTOP PAPERSに選定されました.

第6世代移動通信システム(6G)では,100Gb/s級の無線通信を実現するために,これまでの移動通信では利用されていない超高周波数帯,を活用することが検討されています.今回の論文は,その中でも300GHz帯において無線通信を行うために必要となるトランシーバ(TRX:Transceiver)の重要な要素回路の1つである,差動増幅器に関するものです.

既報告の100Gb/s級の300GHz帯TRXは,シングルエンド構成が多く,これらにはTRX内で発生する不要波(LO(Local Oscillator)リーク*1)除去のために,集積回路での実現が難しい高Q値*2フィルタを用いる必要がありました.そこで,集積回路内でLOリーク除去可能な差動構成のTRXに着目し,その重要な要素回路である差動増幅器を検討しました.

本論文では,独自の広帯域同相除去*3回路を用いた差動増幅器アーキテクチャを提案し,提案回路のInP-HEMT(Indium Phosphide- based High Electron Mobility Transistor)*4による試作と特性評価を行いました.300GHz帯では差動信号の回路への入力が困難で,同相除去比(CMRR:Common Mode Rejection Ratio)が測定できないため,疑似同相除去比(QCMRR:Quasi CMRR)という指標を新規提案し,同相除去の評価を検討しました.試作した差動増幅器は,220~325GHzにおいて,小信号利得25±3.5dB,飽和出力3dBm以上,QCMRR25dB以上の広帯域動作と高同相除去を達成しました.これらは,報告されている300GHz帯DA(Differential Amplifier)において,世界最高クラスの値です.さらに,QCMRRにより,世界で初めて300GHz帯DAの同相除去の評価に成功しました.

  1. LOリーク:TRXの重要な機能の1つに,周波数変換機能がある.周波数変換は,ミキサという回路にて行われる.ミキサは,3端子回路であり,2つの入力端子に,LO信号とIF信号とを入力することで,出力端子から無線通信に用いる周波数帯の信号(RF信号)を得ることができる.このとき,LO信号の一部は,ミキサのIF信号入力端子や,RF信号出力端子に漏洩することが知られる.これはLOリークと称される.LOリークは,TRXにさまざまな悪影響(増幅器の飽和や不要信号の発生など)を生じさせるため,TRXにおいて望ましくない事象である.
  2. Q値:ここでは,フィルタの急峻さの度合いを表す指標.Q値が大きければ大きいほど,フィルタとしては望ましい.
  3. 同相除去:差動増幅器の重要な機能の1つで,差動増幅器に入力された同相信号を除去するというもの.同相除去は,差動増幅器の差動信号に対する利得を同相信号に対する利得よりも十分大きくすることにより実現される.
  4. InP-HEMT:高い高周波特性で知られる,トランジスタの1つ.高周波特性に優れるInGaAsを電子走行層に適用するために,基板材料にInPを用いたHEMTのことを指す.
  • 文献

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    • [1] H. Hamada, T. Tsutsumi, A. Pander, H. Matsuzaki, H. Sugiyama, H. Takahashi and H. Nosaka:“220–325-GHz 25-dB-Gain Differential Amplifier With High Common-Mode-Rejection Circuit in 60-nm InP-HEMT Technology,” IEEE Microwave and Wireless Components Letters, Vol.31, No.6, pp. 709–712, Jun. 2021.
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