コラム:イノベーション創発への挑戦

AIスタイリスト

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雑誌の表紙、街角の看板を見る時、「これは人工知能(AI)で生成したものではないか」と常に観察するようになった。ここ1年、文章、画像、音楽を人の指示で半自動生成するAIの利用が急展開している。

先日、ソーシャルメディアでエジプトを旅する友人の写真が目に止まった。よくみたら合成だ。本人はエジプトに行っていない。その旅行画像がきれいだったので、彼女に連絡をとった。

彼女はコロナ禍の影響で、故郷のコロンビアの首都ボゴタに戻り、画像生成AIを駆使して新たなビジネスを始めているとのこと。彼女は元来、世界を旅するイラストレーターであり、ビジュアルナラティブの専門家である。会議、本、商品の内容や学会の議論など複雑なアイデアと物語をイラストを駆使して視覚的に訴える才能を持つ。

その才能でできる仕事に加えて、今は生成AIを駆使して、料理、宝石、服飾を画像にして表現する仕事をしている。「今の職業をなんと呼べばよい」と尋ねると「AIスタイリスト」との答えがかえってきた。

きっかけは、Midjourneyという言葉から画像を自動生成するサービスを用いて、友人のヘアスタイルをデザインしたことだ。美容院に行って、どういう髪型にするか悩む友人に、さまざまな髪型、メイクの提案をした。

今では、食品画像サンプルを生成している。その画像生成AIの顧客は食品会社やレストランだ。料理の本質をとらえた目に麗しい画像を生成する。「柑橘類のゼスト(外皮)と絶妙にマッチしたアボカドを添えた、華麗に構築されたサーモンのタルタル」「厳選されたマグロ、サーモン、エビが一つ一つ丁寧に握られ、熟練の職人技で引き立てる和風寿司プラッター」などが、本物と勘違いする画像として仕上がっている。

この技術が進化するとどうなるか。仕入れの関係で、マグロ、サーモン、エビがハマチ、鯛、ホタテに変わっても瞬時に提供できる料理の画像を作ることができる。画像と食材とレシピを関連づけてAIが知っていれば、柑橘類のゼストがない時、代わりにレモングラスを用いたときの画像とそのレシピを瞬時にシェフが確認できる。

多くのウェブサイトでは、画像生成AIを活用した対価を得る手法が紹介されているが、特に注目すべきはクリエーターが生産性を劇的に向上させる機会が増えている点だ。具体的にはゲームなどの視覚資産、映画やアニメーションのコンセプトアート、さらには建築や衣装ファッションデザインまで、一連のクリエイティブプロセスが高速化しそうである。

このような動きは企業の内部利用はもとより、個人事業主に至るまで、広範にわたりそうだ。特に、個人事業主としてできることには、髪型、インテリア、新作料理、宝石装飾、服飾の提案といった顧客対応がある。実行前に結果を予測可能となり、マスカスタマイゼーションの事業機会が広がりつつある。

AIスタイリストが新世代のクリエーターとして多様な産業で価値を創出し、職業として成立することに期待したい。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2023年12月4日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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