コラム:イノベーション創発への挑戦

IoTデザインガール

IoTデザインガール

2021年9月、IoTデザインガール鹿児島という勉強会のキックオフに講師としてオンラインで参加した。 鹿児島の企業や自治体などから38名の女性が参加して、地域の問題を解決しようと集まった。これから半年、新規事業立案スキルを学びながら、国、企業、人、モノをつないでいく能力を鍛えていく。地域の問題は生活密着型が多い。東京では観光、教育・文化、少子高齢化という大きな枠組みで語られる言葉が、鹿児島では老々介護、空き家対策問題、事業承継問題、豪雨対策という具体的課題になって現れてくる。 課題と解決策が見つかったとしよう。それを実現するのに大事なのが共感力だ。 例えば老夫婦が嘆いている。「街に出ようにもバスが2時間に1便しかこない」と。その嘆きを切り取って「バスの運用費をそのままにしてバスを1時間に1便にする方法」を他地域のバスを共同運行することで解決できそうなことがわかった。 その時、周囲を動かすには、共同運行システムを開発した技術者だけでは無理だ。関係者を説得していく周りを巻き込む共感力のある人が必要だ。 共感力とは何か。一言で言うと「相手を腹落ちさせる力」だ。 相手が納得する言葉を論理だけでなく情緒で伝える。

この能力を持った人を育てることがIoTデザインガール活動の主旨だ。

振り返ると2017年7月に総務省で地域IoT(モノを接続する通信技術)官民ネットという組織が地域の課題解決を官民で行う目的で設立された。その目玉の施作としてIoTデザインガールという女性だけの活動が始まった。私はこの創設に関わっているが、正直に言うと設立当初は、「女性だけの組織を作ることへの違和感」があった。

東京でスタートしたIoTデザインガールは50名ほどの女性が企業、自治体から選抜され、年5回の勉強会を行っており、育成されたIoTデザインガールは200名になる。参加企業は情報通信業界だけでなくエネルギー、保険、地方自治体、食品、旅客、商社など多岐にわたっている。 東京で始まった活動は鹿児島に広がった。IoTデザインガール鹿児島は東京から独立して2019年から開始され今回、3期目がスタートしている。

デザインガール活動のビジョンはなんだろうか? 私の理解はこうだ。

「女性の共感力と横のつながり力で 地域社会・産業の持つ諸課題とそれを解決するデジタル技術を結びつけ個人が願う生活向上に貢献していく」ということだと理解している。

今、イノベーションの機会は身の丈にあった解決すべき問題をどう切り取るかという「デザイン」が重要になってきている。IoTデザインガールの支援者の一人である経営学者、野中郁次郎氏が述べた部分を紹介する。「彼女たちは相手への共感から入るため、知の共有が加速される。『人のために役立つ』という共通善を志向するため、多様な当事者を引きつける引力をもつ。多種多様な組織や人々を結びつけ、巻き込んでいく利他や共感といった、人間の生き方に根ざした人間力がそこにある。」

女性は共感している人から褒められると嬉しい。上も下もない。ただそこに共感があるかどうか。組織のロジックでは動かない。この特性が組織間の架け橋となる。人数合わせのダイバーシティ施作など関係ない本質がそこにある。デザインガールはこれからも人と人を紡いでいく。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2021年9月27日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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