コラム:イノベーション創発への挑戦

意思決定のルール

意思決定のルール

社会システムデザインセンターに理事として参加している。このセンターは人工知能(AI)などの情報通信技術を駆使して社会問題解決ができる人材育成に取り組んでいる一般社団法人で、その顧問である大力修氏から意思決定法を教わる機会があった。大力さんの説明を受けているとなんとまぁ、我々はブレインストーミングとかクリティカルシンキングとかという言葉を使って適当な議論をやってきたかということを思い知らされた。

経営とは十分な情報、評価基準、時間がない中でする意思決定である。そこで、より正しい意思決定を行うためには、素質、学習、訓練、経験を必要とする。

組織における意思決定法を体系的に説明する良書がある。「決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント」(マイケル・A・ロベルト著)だ。

それをまとめると、組織の意思決定には(1)コンセンサス法(2)弁証法的討議(3)悪魔の代弁者的手法の3つが重要という。

(1)は皆で意見を述べ合い、合意するプロセスだ。これは日本企業が得意とする方法だが、大きな落とし穴がある。得られた決定が真のコンセンサスに基づかないことがあまりに多いということだ。

真のコンセンサスは参加者がその決定の実行に同意して協力すること、つまりコミットメントを必須とする。

ところが「俺は反対だった。やらせてみて様子を見よう」という輩がいる。コンセンサスとは全員賛成ではなく、反対意見を持っていても、合意したらその実現に全力を尽くすことだ。

重要な案件決定には(2)の弁証法的討議が必要となるが、これが日本企業には難しい。2グループに分ける、1グループが提案する、他方はそれを否定する案を作る。それを繰り返し、より良い最終案をまとめるというもので、慣れてないと感情的対立が残る。

さらに重要な案件は(3)悪魔の代弁者的手法まで使う必要がある。提案の全てに根拠を要求する悪魔の代弁者を置いて、その悪魔の代弁者の反論を乗り越えるまで提案を修正する。

この(2)と(3)を使うことは相手をどう論破するかという訓練と経験が必要で、この手法を知らないと、人の意見を否定する者は悪者となる。「否定的な意見を言う。」との誹りは当たらないこともある。

大力さんから会議を無意味にする手軽な方法も教えていただいた。

(1)全文読み上げ。準備した資料をひたすら読む。(2)議題のすり替え。議題そのものに異を唱え、議題の是非を議論することに終始する。(3)手段の目的化。特定の手段に議論を集中し、本来の目的から目をそらす。(4)結論の曖昧化。決定を曖昧にし、なし崩しにする。(5)目的の拡散化。一応賛成したように見せて他の議題に話を拡散する。

この会議つぶしを我々の多くが経験していなかったか。弁証法的討議が日本では文化的に難しいと言う以前の問題である。コンセンサス法すらも成り立っていない。有能なリーダーは個々の重要案件に正しい決定をするよりも、感情的対立を抑えながら、正しい決定とコンセンサスを得るプロセスを作ることを肝に銘じたい。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2021年7月7日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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