コラム:イノベーション創発への挑戦

コロナ収束後の大学教育

コロナ収束後の大学教育

コロナ禍で悪いことばかりでないと思ったのが、会議や授業のデジタル化だ。何しろ全ての資料がオンライン化されており、会議と同時並行で資料を修正・作成するのだから、量と質の掛け算で考えると意思決定の生産性はデジタルで格段に向上したのではないか。朝夕の通勤も不要になったし、訪問先への移動も瞬時にできる。これはオンライン授業にも言えることで、通学からの開放、外部講師の招へい、授業選択の自由度、質疑の量、講義資料の利活用の観点でデジタルの恩恵を受けている。所属する大阪大学の学生にアンケートを取ると、「コロナ禍収束後もオンライン授業を続けて欲しい」との声が3年生以上に多い。

一方で、1.2年生を中心に友達作りができないことへの不満が強い。「専門教育はオンラインで効率的にやればいい。でも一般教養課程では他学部の学生と机を並べ、食堂で話し合い、留学生との交流イベントに参加したい」とのこと。友を作り交流する場を提供することも大学の役割だと思い知った。

大学の基本機能の提供はどうあるべきか。

それを探してミネルバ大学2年生の成松紀佳さんにインタビューした。同大学は全ての授業がオンライン。キャンパスがない全寮制の総合大学だ。1年目は本部のあるサンフランシスコの寮に滞在するがその後は半年単位でベルリン、ソウル、ロンドン、台北など学生寮を移動していく。

今、ソウルに滞在している成松さんから聞くミネルバ大学の生活は先進的であった。オンライン授業に求められる集中度が格段に高い。90分の授業を受けるためにその2倍もの時間をかけて予習する必要がある。世界のどこかから参加している教員の助言を受けながら、学生は宿題を論拠に議論する。予習なしには授業が成立しないという過酷な状況で、1日1科目、多くても2科目へ全集中する毎日を暮らしている。

デジタルにより、宿題、授業活動が常に計測され自身の達成度と改善点がリアルタイムに可視化されている。定期テストはない。彼女は「いつも何かに追われている感じ。テストで終わる授業の方が楽だと思う時がある」と言う。

さて、交流の場としての大学はどうなのだろうか。彼女には約60カ国から来た150人ほどの同級生がいる。全寮制で暮らすので気心が知れた友人ができる。半年単位で移動する都市には大学と提携したパートナー企業が待っている。学生はパートナー企業でインターン生として実務を学ぶ。ソウルでは芸能チームのプロモーション企画や新しいカフェの開発を実習する。それを通じて、同級生と現地の人と仲良くなれる。

授業の効率化だけが教育ではない。温かい人の交流も重要だ。それを両立させる大学を設計したミネルバ大学に注目したい。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2021年4月23日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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