コラム:イノベーション創発への挑戦

AI 4つのあるべき未来

AI 4つのあるべき未来

コミュニケーションサービスを手がけるLINEには「AIカンパニー」と呼ばれる人工知能(AI)技術を実用化する部門がある。この部門が2020年11月25日、今後の研究開発の方向性と目指すゴールを「R&Dビジョン」として発表した。私はLINEの技術顧問としてこのR&Dビジョンの策定に関わった。その意義を説明したい。

R&Dビジョンは今後5年間、AIがどのように発展すべきかを4つの技術コンセプトで示した。その4つとは「個人のデジタル化」、「生成するAI」、「信頼できるAI」、「ダークデータ」である。情報サービスは利用する時、本人確認が重要になっている。個人の生体情報が安全に記録・管理されているなら、表情、声、しぐさ、質問応答からより簡単に本人確認ができるようになる。その上で個人の体調や医療診断記録も利用できれば、より個人に最適化したヘルスケアが可能になる。「個人のデジタル化」は個人に福音をもたらす技術開発の方向性を示している。

「生成するAI」は音声を聴いて文章にする、文章を読んで対応する画像を自動合成するといった音声・映像・文章などの情報を相互に関連づけるAIが進歩する技術を意味する。例えば言葉から映像を自由に作ることができる。これからのAIは映画でもないゲームでもない新しい娯楽コンテンツを作るだけでなく、教育コンテンツを別モノにする破壊力を持つ。

シナリオを書いて実際にはなかった映像を生成する時、開発者は「信頼できるAI」を実現することが必須となる。AIの進化に伴ってプライバシーとデータのガバナンス、結果が妥当性について明快に説明できることが必須となる。さらに、データ自体の信頼性に関わる問題にも対処しなければならない。

4番目の技術コンセプトが「ダークデータ」。ビッグデータという言葉が生まれて10年近くになるが、我々はまだ使えるデータの10%も使っていないと言われている。紙のままの書誌、使われていないマニュアル、退蔵された議事録、メイル、大量のインターネットコンテンツ、コンピュータの操作ログ、工場設備の運転記録などだ。ここで「ダーク」とは悪い意味ではなく、これまで日が当たらなかったという意味だ。ダークデータの利活用とは、世界の全ての文書を入力して、それらを一般常識、業界知識、各社のノウハウ、個人のスキルとしてAIに取り込むことを意味する。教育、金融、法律、医療などのサービス事業に大きなインパクトを与えるだろう。

ここで示した4つのAIの技術コンセプトは個人にデジタル化の恩恵をもたらし、心を潤す新しいメディアを登場させ、各産業における知識の扱い方を変えていくだろう。5年後にAIが見せる景色は今とは大きく違うものになる。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2020年12月25日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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