コラム:イノベーション創発への挑戦

最高デジタル責任者(CDO)の任務が象徴すること

最高デジタル責任者(CDO)の任務が象徴すること

先日、日本学術振興会の安西祐一郎理事長とIT(情報技術)に関連する話題で話す機会があった。私が「日本企業には最高デジタル責任者(CDO)の重要性が認識されていない」と言ったところ、安西理事長はこう返した。「CDOは技術と事業を両輪で回して既存組織を変革する象徴だ。デジタル化時代の戦略的組織体制の整備には欠かせない。」今回はCDOについて説明したい。

8月の終わり、私は米国西海岸の街、サンラモンにいた。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のソフトウエア開発部門、GEデジタルを訪問するためだ。

「スーツ姿の管理職が待ち構えていて儀式的な情報交換の場が設定されている。」私が抱いていたこんな予想は裏切られた。ジーンズにTシャツ姿の技術者が2,000人ほどいて、データを解析するための仕組み(プラットフォーム)や「イマ風」のソフトウエア開発手法を、目を輝かせながら説明してくれた。

GEデジタルはGEの産業別部門である航空、エネルギー、健康医療、鉄道のデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)を進めている。

デジタル変革とは何か。
(1)アナログからデジタルへ
(2)ハードウエアからソフトウエアへ
(3)部門最適から全社最適へ
(4)自社最適から業界最適へ
(5)製品志向から顧客志向へ
こうした方向へ組織を転換することだと私は理解している。

それには組織構造や使用技術、人事制度、企業文化の変革を伴う。それをGEは、デジタル変革を行う部門を既存産業別部門に横串を刺す形で作った組織に任せている。それがGEデジタルだ。

GEデジタルは新規事業でもある。

ジェットエンジンにその運用履歴を計測するセンサーを付けて部品交換時期を計算したり、天候予測に基づいて発電量を最適にしたりするといったソリューションを社内だけでなく、外部にも提供する。ITを活用する数千人規模の新規事業部門を既存部門にかぶせてつくってしまうGEの実行力はすごい。

GEのCDOはGEデジタルのウィリアム・ルー社長が務めている。CDOはチーフデジタルオフィサーの略だ。ここ5年間、欧米を中心にCDOという役職が注目されている。

  • CDOの役割とは何か?

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    「フォーチュン500(米国を代表する大企業500社)」のうち、20%がCDO職を設けている。主に広告や放送、製薬、金融といった伝統的な産業で採用されている。いずれも部門横断的にデジタル変革が求められている産業だ。

    CDOはマーケティングや営業出身者が多い。ついで技術系となる。前者の視点では顧客と接する業務を変革することに重きが置かれる。最近、注目を浴びている顧客管理の自動化や顧客データに基づく商品企画が相当する。

    技術系のCDOは「攻めの情報システム部長」タイプとなるだろう。IT化により、営業支援だけでなく、既存事業運営の効率化や新サービスの開発を行う。

    ネット企業からみれば「今頃、デジタル変革って遅いよ。ソフトウエア中心なんて当たり前でしょ」となる。だが、そこがまさにCDOの「ツボ」だと思っている。

    新興のネット企業が持ち合わせない既存事業がIT化で競争力の原資になる。それに気づいた海外の伝統的企業はCDOを置いて、デジタル変革に取り組んでいる。日本企業は何をすべきか明らかだろう。

    実はデジタル変革が終わればCDOは不要になる。既存事業部門と向き合うCDO、デジタルマーケティングやデータ解析、人工知能(AI)といった最新技術を見渡すCDO。それらの任務は我々が直面している課題を明快に語っている。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤による2016年10月20日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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