コラム:イノベーション創発への挑戦

グロースハック、思想は普遍

グロースハック、思想は普遍 イメージ

最近、私の周辺で「グロースハック」という言葉が飛び交っている。 この言葉は2010年に生まれた。「グロース(成長)」「ハック(IT=情報技術を駆使する)」を連結した造語で、製品に注力して、その成長を促す施策と市場評価を高速に行い、製品を育てる手法である。 グロースハックの専門家を「グロースハッカー」という。2012年の米大統領選で、ロムニー陣営がグロースハッカーを雇い寄付金獲得目標を達成したことで世に知られるようになった。 ここで私が適当に考えた架空のサービス製品「写真で話そう!」を考えてみよう。これはスマートフォンで撮った写真を、即座に友人と共有でき、同時に電話で写真の感想を交換できる製品である。 成功仮説は「写真を撮ったら、それをきっかけに誰かと話したくなるに違いない。同じ写真を眺めながら電話が同時にできる製品は、人気を集めるはず」というものだ。 もし、あなたが、この製品の開発責任者になったら、どうするか?

製品の仕様と価格が分からないので、アンケート調査やグループインタビューを繰り返して市場動向を把握し、この「写真で話そう!」のあるべき仕様と価格を調査する。綿密に事業計画書を作り数々の稟議(りんぎ)を経て市場に出すというのはよくある話。従来の市場動向を読むマーケティング手法だ。

  • グロースハックでの手法とは?・・・

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    一方で、グロースハックでは、マーケティングと製品開発を統合して考える。その製品が売れるための「仕組み」を製品と一緒に安く作ることを主眼とする。

    仕組みとは例えばこうだ。「写真で話そう!」を利用すると、ソーシャルネットワークに同時に写真が投稿される。また友人招待機能も作っておき、5人の友人にメールで紹介すれば、特典が得られるとする。結果として友人の輪に製品が売れるはずである。

    さらに「写真で話そう!」に常に少し異なる2つの仕様A、Bを用意しておき、もしBの利用率がAより高ければBを残し、Bとは少し異なる仕様を新たなAとして試す。これは「A/Bテスト」と言われる手法だ。常に製品のイケテル度合いを計測し、そのデータに基づき仕様を改善する。製品そのものに成長の仕組みを入れること、データに基づいて試行錯誤を繰り返す点がこれまでと大きく異なる。

    ネットワークを利用して顧客反応が多様な媒体を通じて伝搬し、かつ実時間で計測できるようになったのに加え、ソフトウエアの開発環境が進化したため可能になった。インターネット企業の知られている製品のほとんどがグロースハックを活用している。

    グロースハックはバズワード(流行言葉)だろうか? 否。実はこれは、プロジェクト管理で良く知られているPlan(計画)、Do(実行)、Check(結果分析)、Action(改善)の繰り返しである「PDCAサイクル」を高速で回すことと同じ思想が根っこにある。

    この思想は「リーンスタートアップ」という米国シリコンバレー発の起業手法とも似ている。コストをかけずに基本製品を作って顧客の反応を見て、改善した製品を市場に出すサイクルを続けていくというものだ。そこでは開発と運用を統合して行うこと、高速に開発サイクルを回すことが日常的に行われている。

    その中でマーケティングを統合して、結果分析から改善を行うのがグロースハックだ。顧客基点の製品開発を突き詰めていくと、高速PDCAを回すという明快な答えとなる。グロースハッカーは成長請負人とも呼ばれる。彼らの名前は廃れても広い意味でこの成長請負の枠組みは生き続けるだろう。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤による2014年8月14日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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