コラム:イノベーション創発への挑戦

クラウド世代の台頭

クラウド世代の台頭イメージ

私はNTTドコモで研究開発戦略を担当している。2013年3月まで米シリコンバレーにある関連会社ドコモ・イノベーションズの社長も兼務していた。
この連載では太平洋の両側で見たこと、感じたことをみなさんに伝えようと思う。

2013年4月の初め、東京の桜がもう散ってしまったころ。そのシリコンバレーで、マイルズ・ワードという米アマゾン・ドット・コムの技術者に会った。名刺の住所はアマゾン本社があるシアトルなのだが、彼は風光明媚(ふうこうめいび)なサンタバーバラで在宅勤務をしている。

「毎日夕陽に染まる海を眺めてるんだろうな。いいなぁ」という私の思いを知ってか知らずか、彼は眼を輝かせながら楽しそうに、オバマ米大統領の再選にいかにクラウドコンピューティングが活躍したか、ボランティア技術者がクラウド上に選挙支援システムをいかにカッコよく作り上げたかを語ってくれた。

そのシステムは、有権者ファイル、ソーシャルメディア、携帯電話の連絡先など、様々なデータベースを一本化し、電話する相手、戸別訪問の相手、広告の打ち方など、選挙戦術の最適手を生み出す。投票へ向かわせられる確率を年齢・性別・人種・居住地などから分析、確率が高い有権者から電話するようリストを作成する。「西海岸に住む40〜49歳の女性に好感度な俳優はジョージ・クルーニー」と出れば、彼と関連させた資金集めパーティーを開催する。

ビッグデータに基づく選挙活動の最適化も面白いが、私が伝えたいことはクラウドを前提としたシステム開発手法がいかに「イケてる」かだ。

  • 「イケてる」開発手法とは?・・・

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    前述の選挙システムには、3つの「なぜ」がある。「なぜ、限られた予算と時間で巨大な選挙支援システムが構築できたのか」「なぜ、異なる開発言語を使うボランティア技術者が協調できたのか」「なぜ、ハリケーンが東部を襲ったときに、全システムを数時間で中西部に退避させ、運用を続けられたのか」だ。

    これは、複数のコンピューターによるシステムを遠隔で瞬時に構成できるクラウド特有の機能と、異なる部門システムを緩く統合する「疎結合」という今風の仕組みを使ったからである。

    昨年、「クラウドネーティブ」という言葉が生まれた。これは米アマゾンの最高技術責任者(CTO)のワーナー・ボーゲルズ氏が「最初からクラウド上で動かすことを前提に作られているサービスやその提供企業」を形容する言葉として使い、一躍有名になった。

    私はクラウド上で当たり前のようにサービスを作っている若い技術者を「クラウドネーティブな人たち」と呼びたい。クラウドネーティブである彼らは、前述の「3つのなぜ」なんて、そもそも感じてすらいないはずだ。

    クラウドネーティブたちはいつ現れたのか? マイルズは「3年ほど前」と言う。彼らの登場前後で、システム開発手法は大きく変わった。

    オバマ陣営の選挙支援システムの構築費用は、対立候補のミット・ロムニー氏の陣営よりも、1450万ドルも少なかったそうだ。その差を生み出したのは、オバマ陣営に集まった、クラウドネーティブな若きボランティア技術者たちだと思う。

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤による2013年4月19日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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