
生成AIで橋の診断を支援!
~大幅な業務効率化・技術継承を
実現する橋梁診断支援AI~
概要
橋梁をはじめとするインフラ業界では、技術者不足が深刻化しており、業務効率化や技術継承が喫緊の課題となっています。
こうした背景を受け、ドコモは持続可能なインフラ管理の実現に向けた取組みを推進しています。
その一環として、橋梁の診断業務を支援するため、点検データから新様式国調書にもとづく診断案を自動生成する「橋梁診断支援AI」を開発しました。
本技術は、橋梁診断業務の効率化や技術継承、修繕コストの最適化に貢献するとともに、将来的には橋梁のメンテナンスサイクル全体を対象とした、より効率的な橋梁維持管理の実現をめざしています。
インフラ運営・維持管理の課題
橋梁をはじめとする日本のインフラは、その多くが高度経済成長期に集中的に整備されました。
2033年度には全国約73万橋のうち建設から50年以上経過する割合は6割以上に達すると予測されています。
また、橋梁の安全確保のために5年ごとの定期点検が義務付けられており、年間約15万橋にもおよぶ膨大な件数に対応するには多くの技術者が必要となる一方、少子高齢化に伴う人材不足が深刻化しているのが現状です。
さらに、2024年の道路橋定期点検要領の改訂により診断品質の均質化や診断根拠の詳細記録、被害リスクを踏まえた技術的見解の記述など診断業務が高度化し、技術スキルや作業負担も増大しているため、診断業務の効率化と技術継承が喫緊の課題となっています。
橋梁のメンテナンスサイクル
橋梁の運営・維持管理におけるメンテナンスサイクルは、大きく「点検」「診断」「措置」「記録」の4段階に分かれます。
本取組みでは、点検結果をもとに技術者が行う「診断」業務を主な対象としています。
橋梁の維持管理では、2012年に発生した笹子トンネル天井板崩落事故を契機に、すべての橋梁・トンネル・道路付属物の定期的な点検が義務化され、点検業務の強化が図られました。
さらに、2024年に改訂された診断要領では、所見の記載内容が高度化され、より詳細かつ専門的な報告が一層重視されています。
このような状況下で、点検データを活用した診断支援技術の開発は、作業の効率化や診断の均質化・品質向上に寄与し、橋梁のあんしん安全な維持管理を実現する上で重要な役割を担っています。

橋梁診断支援AIの概要
橋梁診断支援AIは、点検調書(橋梁の基本情報や点検データ)を入力すると、新様式国調書(診断案)を生成するシステムで、RAG*1技術を活用しています。
橋梁点検に関する国のマニュアルや自治体独自のマニュアル、現場の技術者が持つ診断ノウハウなど多様な知見を参照し、現場の状況に応じた診断案を作成します。
2025年4~5月に産学間連携*2で行った実証実験では、1橋あたりの診断にかかる作業時間の57%が削減されることが確認できました。また、ノウハウの継承・技術者育成の観点でも本技術を活用可能であること、診断結果が均質化されることで補修判断の適正化や修繕コスト最適化につながる示唆が得られることが評価されました。
- RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)とは、外部の情報検索機能を組み合わせてAIの応答精度や信頼性を高める技術です。
- NTTドコモソリューションズ株式会社、国立大学法人長崎大学、株式会社溝田設計事務所、公益財団法人長崎県建設技術研究センター

技術的な課題
さまざまな点検フォーマットへの対応
地方自治体や道路管理者ごとに点検フォーマットが異なるため、すべての様式に対応可能なシステムの設計が重要な要件でした。この課題を解決するために、生成AIの自然言語処理*3技術を用いることで、各種点検票の柔軟な読み取り・解析を実現しています。
技術者ノウハウの活用
デフォルトの大規模言語モデル単体では、現場技術者のみが知るノウハウや専門知識を十分に担保できません。
RAG技術により、必要な知識を外部情報として加えることで、診断の精度と汎用性を向上させることができました。
- 自然言語処理とは、人間が日常的に使っている言語(自然言語)をコンピューターに処理させる技術です。
橋梁診断支援AIのデモ動画
点検票をシステムにアップロードすると、AIが自動で読み取り、診断案の生成に適したデータ形式へと変換します。変換したデータに誤りがないか、ユーザー自身で確認・修正後、診断案を生成します。診断案には所見案、特定事象の有無、健全性の診断区分、技術的な評価結果が含まれ、これらの診断案を参考にすることで、迅速な診断が可能になります。

まとめ
私たちドコモは、「あんしん安全な未来」の実現をめざし、本技術をはじめとする研究開発を通じてインフラが抱える課題の解決に取組み、インフラ業界の発展に貢献してまいります。
本技術にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
主な対外活動
<リリース>
<展示>
- メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025 @東京ビッグサイト(2025/07/23-25)
- YRPオープンイノベーションデー2025 @横須賀リサーチパーク(2025/10/04-05)
<講演会>
- 産業基盤維持管理技術研究会 @長崎大学(2025/06/23)
- 第45回定期技術講習会 @シーハットおおむら/さくらホール(2025/10/01)
