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AIトランスフォーメーションに向けた挑戦
~技術開発・ユースケース創出・風土醸成
から生まれる共創~

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第1章:はじめに ― 生成AIは「試行」から「社会実装」のフェーズへ

膨大なテキストデータから学習するLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の進化により、多くの企業が業務改革に生成AIを活用しています。ドコモにおいても、マーケティングやコンタクトセンターでの応対支援、ネットワーク部門でのデータ運用保守、さらに全社的なマニュアル検索など、各事業領域で実運用が進んでいます。
しかし、このような最先端の技術を全社規模で本格利用し、真の「社会実装」へと進めるにあたっては、企業に立ちはだかる3つの大きな壁が存在します。

エンタープライズ水準の安全性と品質の確保

機微情報の意図せぬ学習やプロンプトインジェクションへの対応、倫理的規範を守る仕組みに加え、AIエージェントがシステムへアクセスする際の権限管理など厳格なセキュリティ・ガバナンスの統制が必要です。同時に、LLM特有のハルシネーション(もっともらしい嘘)を抑えて自社固有のナレッジを安全に反映させる技術や、特定のモデルへの依存(ベンダーロックイン)による陳腐化を防ぐアーキテクチャなど、企業が安心して生成AIを使える高度な要件が問われます。

技術の事業適用と真の価値創出

R&D部門が持つ高度なAI技術を、そのまま現場に渡すだけでは業務改善は進みません。現場のリアルな課題と技術を深くすり合わせ、単なるPoC(Proof of Concept:概念実証)で終わらせずに、収益向上や抜本的な業務改革に直結する価値あるユースケースとして実装し、全社へスケールさせる必要があります。

AIを使いこなす現場への定着

高度なシステムや優れたユースケースを用意しても、現場が使いこなせなければ意味がありません。全社員が日々の業務フローのなかで自然にAIを使いこなし、自らの業務を効率化できる環境とカルチャーを創る必要があります。

さらにAI技術の進展は加速しており、現在、単なるコンテンツ生成から、自律的に業務を実行するAIエージェント(Agentic AI)への移行が始まっています。長期的にはフィジカルデバイスとの融合も進み、人とAIの協調のあり方は再定義されていくでしょう。Agentic AIをエンタープライズ環境で安定稼働させるためには、社内の多様なシステムと安全に接続しワークフローを標準化するための連携といった、前述の壁を突破するより高度なシステム要件が不可欠になります。
本記事では、これら3つの壁とエージェント時代の技術要件を乗り越えるためのドコモR&Dのアプローチを紹介します。技術を作るだけでなくタイムリーに使いこなすための全体像として、私たちが取り組む戦略と技術基盤の具体的なアーキテクチャ、そしてそこから生まれる共創の姿を提示します。

第2章:全体戦略 ― 3つのサイクルで回す「生成AI民主化」の全体像

私たちが掲げるビジョンは、社内外の先進AI技術を早期に事業適用し、生産性向上と収益拡大を図ることです。このビジョンを実現し、組織全体でAIを活用する生成AIの民主化を進めるため、以下の3つの統合アプローチをサイクルとして回しています。

基盤開発

迅速かつ安全にLLMを活用できる共通プラットフォーム。情報漏洩の懸念払拭や出力内容の正確性担保、非倫理的な回答から利用者を守る仕組みを備えた生成AI活用基盤を整備しています。企業が安心・安全・便利に利用できるよう、既存技術の深化と新技術の探求を続けています。

ユースケース創出

現場の課題をアセット(資産)に変えるサイクル。社内外のステークホルダーとの連携や、多様なデータの掛け合わせを通じて収益性に貢献するユースケースを開拓しています。現場のリアルな課題を解決し、ドコモならではの新たな価値提供を目指すことで、そのノウハウ自体をパートナーとともにスケールさせるアセットへと変換しています。

風土醸成

誰もがAIを武器にできる環境づくり。技術とユースケースを活かすのは「人」です。全社員が自身の業務効率化にAIを自然に組み込めるよう、定着に向けた人材育成や風土醸成を強力に推進しています。

第3章:技術詳解 ― エージェント時代を見据えたアーキテクチャとコア技術

LLM付加価値基盤全体像

本章では、全社で広く活用されている直感的なGUIや、多様な社内システムとの連携を可能にするAPIの裏側で稼働している、ドコモ独自の強みを活かした生成AI活用基盤のシステムアーキテクチャと、中核となる技術コンポーネントについて解説します。

A)用途に合わせて柔軟に使いわけるマルチLLM

本基盤は、単一のモデルにロックインされないマルチLLM構成を採用しています。バックエンドでは、Microsoftの「Azure OpenAI Service」、Googleの「Vertex AI(Gemini・Claude)」、NTT研究所が独自開発した軽量・高精度な「tsuzumi」などを統合しています。GUIを利用する一般ユーザーや社内システム開発者は、自身の用途(レイテンシ、コスト、推論の複雑さ、マルチモーダル要件など)に合わせて、最適なモデルを画面上やAPIから柔軟に選択・切り替えができる仕組みを提供しています。

B)ガバナンスと安全性を担保するフィルタリング機能

セキュリティとガバナンスを確保するため、ユーザーからの入力とLLMの間にフィルタリング機能(ガードレール)を配置しています。プロンプトインジェクションの検知・ブロック、有害な出力のフィルタリング、機微情報の外部送信防止などを行います。これは開発者向けの機能にとどまらず、全社員がリスクを恐れずAIを活用できる安全な環境という全社的なリスクマネジメントを実現します。

C)エージェントと外部環境をつなぐ外部連携ゲートウェイ

Agentic AIを全社で安全に稼働させるため、各エージェントの開発・動作に不可欠なバックエンド機能を外部連携ゲートウェイとして集約し、提供していくための開発を進めています。具体的には、エージェントが外部サービスを実行するためのAPI/外部MCP(Model Context Protocol)連携、異なるエージェント同士を協調させるA2A(Agent-to-Agent)通信、そしてこれらを安全に実行するための認証認可といった共通機能群です。これらをゲートウェイ経由で提供する基盤を整えることで、開発者はセキュリティや通信制御を気にすることなく、強固なガバナンスのもとでエージェント開発に専念できる環境の実現を目指しています。

D)AIエージェント開発環境(Dify)の提供と運用

LLMアプリを創出するため、エージェント開発環境 Difyを社内に提供しています。現場の開発者がPoCから本番導入まで迅速に進められるよう、この開発環境自体の運用整備や機能開発もR&D部門が実行しています。開発者は自前のエージェント環境構築などの「車輪の再発明」を回避し、ロジック開発や新たな共創に専念できます。開発環境の整備により、業務ドメインに特化した多様なエージェントが社内に生み出されています。将来的には、利用者が自身の業務に最適なエージェントを自由に選択し、シームレスに組み合わせて利用できる環境の実現を目指しています。

E)社内アセットと安全に結合するデータ連携ゲートウェイ

企業がLLMの真価を引き出すには社内データとの結合が不可欠です。この内部データへのセキュアなアクセスを担うのがデータ連携ゲートウェイです。自社が保有する1億超のdポイントクラブ会員基盤や位置情報を保持しているデータ基盤(構造化データ)から、SharePoint、Slack、Google Workspaceなどのナレッジ(非構造化データ)まで、多種多様な社内アセットと安全に連携する仕組みを構築しています。
これにより、Difyをはじめとする多様なエージェントから社内ナレッジへシームレスかつセキュアにアクセスできる拡張性の高い環境が整います。結果として、利用者は生成AIを通じて社内アセットを横断的に活用できるようになり、業務に直結した高度な分析や意思決定を実現できる環境の構築を進めています。

第4章:実装プロセス ― 高速な「ユースケース創出」

ユースケース創出のイメージ図

生成AIを実業務に深く根付かせるためには、技術や基盤と同じくらい「実装のプロセス」が重要となります。本章では、R&Dが単なる技術提供に留まらず、いかにして現場の課題を吸い上げ、短期間で価値へと変換しているか、その具体的なプロセスを詳解します。
従来のシステム開発のように、要件定義から数か月かけて構築する手法では、進化の激しい生成AIの波を捉えきれません。そこで私たちは、現場の課題発掘から仮説検証までを極めて短いスパンで回すアプローチを取り入れています。具体的には、現場社員との対話を通じて、彼らが日常業務で感じている「不の解消(不便・不安・不満)」を言語化します。ここでは、AIで「何ができるか」ではなく、現場が「何に困っているか」を起点にすることで、技術の押し付けではない、実用性の高いユースケースを導き出します。
さらに、実際の担当者と膝を突き合わせ、運用フェーズで直面する「回答精度の揺らぎ」や「UIの使い勝手」といった細かな課題をともに解決する「現場へのダイブ」を重視しています。R&Dが「作る側」、現場が「使う側」という壁を取り払い、一つのチームとして実装を推進する「共創の文化」こそが、実用化のラストワンマイルを埋める鍵になると考えています。どれほど優れた基盤があっても、最後にそれを使うのは「人」です。私たちは、現場のユースケースに寄り添い、実用化まで導く「伴走支援」を重視しています。具体的な取組み事例は以下のとおりです。

営業データ分析のエージェント化

営業戦略の策定におけるデータ抽出・分析を効率化するため、「データ分析AIエージェント」の開発を推進しています。実務者間での定期的な協議を通じ、要件定義からエージェントの実装、プロジェクト管理に至るまでを伴走型で支援する体制を構築しています。

コンタクトセンター業務の高度化

お客さま応対において、マニュアルに基づく回答案の生成や、問い合わせ対応後の要約作成、AIによる自動応答などの取組みを支援しています。オペレーターがよりお客さまへの高品質な応対に専念できるよう、現場のフィードバックを取り入れながら実務に役立つ機能実現を支援しています。

ネットワーク運用業務の効率化

ネットワークの故障時の措置や、工事における注意点を迅速に検索・参照できるシステムをLLMによって高度化しています。膨大な保守マニュアルや過去のナレッジを即座に引き出せる環境を構築することで、オペレーション業務のスピードアップと品質向上に寄与しています。

第5章:社会実装の加速 ― DevRel活動による風土醸成と市民開発

AI Winter 2026 活動イメージ画像

技術基盤を有効に機能させるためには、全社的なリテラシー向上と、社員自らが技術を使いこなす風土醸成が不可欠です。

全社的なポジティブループの構築

DevRel(Developer Relations)活動の基軸として、認知から実践、称賛へとつながる施策を展開しています。その一環として実施した「+AI Winter 2026」では、最新事例を紹介する「+AI Day」や職種別ハンズオン「+AI Connect Week」を開催しました。最終的に、人的交流・モチベーション向上の場である「+AI 超会議」までを一連のサイクルとすることで、社員の行動変容を促すポジティブループを構築しています。

市民開発の推進と教育基盤

専門家以外の社員自らがAIを活用する「市民開発」の環境を整備しています。「GenAI講師コミュニティ」を通じた有志講師の育成支援や、AI人材育成プログラム「X camp Select」を提供しており、多様な職種において多数の受講実績を数えています。こうした教育基盤とコミュニティの存在が、現場主導のAXを支える土壌となっています。

第6章:展望 ― 境界を越え、AIと人間が「共創」する未来へ

私たちは今、単にAIに「問いかける」フェーズから、AIが自律的に「動く」フェーズへの転換点に立っています。第3章で触れた「外部連携ゲートウェイ」や「A2A通信」といった技術基盤は、単一のAIの利便性を高めるためだけのものではありません。

エージェント・オーケストレーションが変える業務の景色

今後は、各専門領域で誕生した「特化型エージェント」たちが、MCPによるツール利用の標準化と、A2A通信を組み合わせることで、相互に連携しながら複雑なワークフローを完結させる「エージェント・オーケストレーション」の実装を加速させます。これにより、人間は細かな定型処理の調整から解放され、より創造的で人間味のある意思決定に注力できる環境が整います。

共創による価値最大化

本稿で紹介した「3つの壁」を乗り越えるための知見、安全なマルチLLMアーキテクチャ、そして現場主導の市民開発を支える仕組みは、ドコモ一社に閉じるものではありません。

私たちが社内実装を通じて磨き上げた「技術基盤(Difyやデータ連携ゲートウェイ)」と「現場へのダイブから生まれたユースケース」は、外部パートナーとの共創においても極めて強力なアセットとなります。独自の軽量LLM「tsuzumi」や各社の先進モデルを組み合わせ、業界固有の課題に最適化する技術の共創、そしてドコモのDevRel活動(+AI Winter 2026など)で得られた「人を動かすノウハウ」を共有し、パートナー企業のAIトランスフォーメーションを支援する文化の共創。これらを掛け合わせることで、一社では成し得ないスピードで、新たな社会価値を創出していきます。

主役は常に「人」である

AI技術がいかに進化し、エージェントが自律性を増したとしても、その羅針盤を握るのは常に「人」です。
私たちが目指すのは、AIが人間を代替する未来ではありません。第4章で見た現場の「不」を解消する情熱や、第5章で芽生えた「自らAIを使いこなす」文化こそが、テクノロジーに命を吹き込みます。
ドコモR&Dは、強固な技術基盤の構築と、現場の熱量に寄り添う実装プロセス、そして挑戦を称え合う風土醸成を三位一体で推進し、「AIと人間が最高のパートナーとして響き合う社会」を、みなさまとともに切り拓いてまいります。

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問い合わせ先

サービスイノベーション部 事業共創担当
si-biz-cocreation@ml.nttdocomo.com

担当者

郭 心語
XINYU GUO
サービスイノベーション部

担当者

片山 源太郎
GENTARO KATAYAMA
サービスイノベーション部

担当者

黒瀬 絢也
JUNYA KUROSE
サービスイノベーション部
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