つなぐを支える人 vol.2基地局の設置を
実現し、
通信エリアをつくる人
「つながってあたりまえ」を支える人たちの仕事と、その裏側にある想いに迫るインタビューシリーズ「つなぐを支える人」。
前回は、全国のネットワークづくりの方針や、品質改善の判断軸をつくる人たちの仕事を紹介しました。今回は、株式会社ドコモCS首都圏本部ネットワーク建設推進部で「置局」業務に携わる平井 学(ひらい まなぶ)さんに話を聞きます。
置局とは、ネットワークの計画をもとに基地局を設置する場所を探し、そこからどのような通信エリアをつくるかを考える仕事です。どれだけ通信品質を改善する計画があっても、実際に基地局を設置できる場所がなければ、その計画を形にすることはできません。実際には、候補地の条件や所有者との交渉によって、当初の想定どおりに進まないこともあります。
そうした街の現実と向き合いながら、平井さんは何を見て、どう判断し、よりよい通信環境へ近づけているのか。その工夫と想いを聞きました。
改善の目的を見定め、現地で次の一手を探す
平井さんたちの仕事は、ネットワークの計画を担う部署から、「このエリアの通信品質を改善したい」という計画を受け取るところからはじまります。計画には、改善したいエリアと、その目的が示されています。
まずは既存の基地局や周囲の建物などを地図で確認しながら、新たに基地局を設置する候補地を探していきます。
Q.候補地を考えるとき、平井さんが大切にしていることは何ですか?
平井:
まずは、そのエリアを「何のために改善するのか」をきちんと理解することです。
電波そのものが届きにくい場所なのか、通信量が多くて一時的に混雑している場所なのか。それによって、必要な対策も変わります。
計画担当から私たちに依頼が来る段階で、改善したいエリアと、その目的は整理されています。私たちは、その目的を実現するために、どこに、どのような基地局を設置すればよいのかを考えます。
ただ、理想的な場所に基地局を設置できるとは限りません。だからこそ、限られた条件のなかで、どうすれば少しでも「100点」に近づけられるかを考えています。
最初に考えた候補地で十分な改善が見込めなければ、別の場所も探します。基地局を設置すること自体が目的ではなく、改善したいエリアで、計画の目的をどこまで達成できるか。それを大切にしています。
Q.地図やデータだけではなく、実際に現地へ行くことも大切にしているそうですね。
平井:
そこは自分なりにこだわっているところです。
私は、地図上での確認はあくまでスタート地点だと考えています。
今は地図やシミュレーションのツールも豊富なので、机に座ったまま確認できることは増えました。でも、人の流れや街の変化、建物の状況など、現地へ行って初めて確認できることもあります。
現地へ行くのは、地図で考えたことの「答え合わせ」をするためだけではありません。地図にはないプラスアルファの情報を取りに行く感覚なんです。
たとえば通信の混雑を改善するためなら、実際に混雑する時間帯に行って、人がどこに集まり、どちらへ流れているのかを見ることもあります。他社がどんな場所に、どんな工夫をして基地局を設置しているのかを見ることも勉強になります。現地には、地図を見ているだけでは得られない情報がたくさんあるんです。
一人で決めず、チームでよりよい対策を考える
候補地が見つかると、次はその土地や建物の所有者に、基地局を設置できないか交渉します。設置への了承だけでなく、必要な設備を置くスペースや、電力・通信回線などの条件も確認します。
設置の見通しが立つと、その場所からどのような電波を届ければ、計画されたエリアを改善できるのかを具体的に考えていきます。平井さんたちが担うのが、アンテナの種類や向き、角度、使用する周波数などを決める「エリア設計」です。
Q.エリア設計を考えるとき、平井さんが大切にしていることは何ですか?
平井:
ここでもいちばん大事なのは、最初の計画の目的です。
設置候補の場所から、どういうアンテナを使って、どの方向へ、どのくらいの角度で電波を出せば、改善したいエリアに届くのか。それをシミュレーションしながら考えていきます。
ただ、理想のアンテナを必ず置けるわけではありません。建物によってはスペースが限られていたり、大きな設備が置けなかったりすることもあります。
その場所の条件のなかで、いかに理想の通信エリアに近づけるかを考えるのが設計です。
Q. 設計案は、一人で決めるのではなく、チームでも確認しているそうですね。
平井:
そうですね。置局には、100パーセントの正解がないと思っています。自分では「これがいい」と思っていても、ほかの人の意見を聞くと、「確かにその方がいいな」と気づくことがあります。
担当者がまとめた設計案は、次の工程へ進める前に「エリア審議」という会議でチームに共有します。そこで「なぜアンテナはこの向きなの?」「北側にも電波を出せるんじゃない?」と意見を出し合うんです。経験だけでなく、「実際に現地を見たらこうだった」「この場所はこういう人の流れがある」といった情報も持ち寄る。一人で正解を決めるのではなく、いろいろな考えを取込んで、より効果的な対策に近づけていくことを大事にしています。
理想に近づくために、別の方法を粘り強く探す
都市部では、すでに多くの基地局が設置されており、新たな基地局に適した場所を見つけるのは簡単ではありません。複数の候補地を検討しても、所有者の意向や設備条件などによって、当初の計画を見直さなければならないことがあります。
Q.思い描いたとおりに進まないときは、どのように考えていますか?
平井:
まずは、今ある条件のなかでできる方法を探します。アンテナの種類や設置位置を変えたり、既存の基地局の電波も活用したりして、設計の工夫でどこまで改善できるかを考えます。
1つの場所だけでは難しければ、小さな基地局を複数の場所に設置して、1つのエリアを分担してカバーする方法もあります。
それでも十分な改善が難しい場合には、計画担当者に「もう1局必要です」と相談することもあります。その際は、どのような候補地を探し、なぜ難しかったのか、これまでに検討してきたことを整理して伝えます。
改善が必要だとわかっているエリアですから、方法が見つからないからといって、そのまま終わらせたくはありません。まずは、自分たちでできる限りの方法を探すようにしています。
Q. 通信環境を改善するだけでなく、今ある通信環境を維持する仕事もあるそうですね。これまでで、特に難しいと感じるのはどんな仕事ですか?
平井:
今ある基地局を撤去しなければならないケースです。
大規模な再開発や建物の建て替えなどによって基地局が使えなくなる場合、その基地局がカバーしていたエリアを維持するため、新たな基地局を期限までに用意しなければなりません。
代わりとなる基地局の設置が間に合わなければ、それまで通信を使えていた場所で、つながりにくくなる可能性があります。期限が決まっているなかで、候補地を探し、交渉を進めるのは、かなりプレッシャーがあります。
「つながってあたりまえ」を維持するのは、本当に大変です。それでも、期限に間に合わせられたときは、「守れたな」という手応えがあります。そこに、この仕事のやりがいを感じますね。
現場を見た先に、使う人の姿を思い描く
今回の取材で、平井さんが繰り返し語ったのが「現地を見ること」の大切さでした。
Q. そこまで現地を見ることにこだわるのは、なぜですか?
平井:
実際に現地へ行くと、人がどこに集まり、どのようにその場所を利用しているのかが見えてきます。通信環境がよくない場所では、「ここをどうにか改善したい」という気持ちも強くなります。
それに、現地を見ると「ここの通信環境がよくなったら、お客さまが快適に使えるようになるだろうな」と、改善した先の姿を具体的に想像できるんです。
自分が関わった基地局が実際に建つと、「これ、自分も関わった基地局なんだな」と実感します。そのエリアにも、自然と愛着が湧きますね。
最終的には、通信環境がよくなった街で、お客さまが快適に使っている姿を想像しながら仕事をしています。
地図で仮説を立て、実際に現地へ行き、そこで得た情報からもう一度考える。理想どおりにいかなければ、仲間の知恵も借りながら別の方法を探す。
平井さんの置局の仕事は、基地局を設置する場所だけでなく、その先で通信を使うお客さまの姿まで見据えています。