あなたと医療を変えていく。

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地域の医師不足、災害現場における高度治療の難しさなど、いまの日本は“いつ・どこにいるか”で受けられる医療に差があります。こうした課題を次世代のテクノロジーで解決しようとしているのが、東京女子医科大学 先端生命医科学研究所の村垣善浩教授。脳神経外科医として難易度の高い脳腫瘍の手術を手掛け、数多くの命を救ってきたトップクラスの名医です。

村垣教授は、これまでIoTを活用した次世代手術システムの導入を推進するなど、医療現場を変革してきたイノベーターでもあります。現在ドコモとの協創で、5Gを活用して遠隔から治療を支援するソリューション「モバイルSCOT」の開発を牽引しています。そんな村垣教授にイノベーションへの想い、そして未来の医療をどのように変えようとしているのか、詳しくうかがいました。

YOSHIHIRO MURAGAKI
村垣善浩
モバイルSCOT

YOSHIHIRO MURAGAKI

村垣善浩

東京女子医科大学先端生命医科学研究所副所長
東京女子医科大学大学院医学研究科先端生命医科学系専攻
先端工学外科学分野教授

神戸大学医学部卒業後、東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科、米国ペンシルバニア大学病理学教室を経て、脳神経外科医として脳腫瘍などの執刀を担当。現在はAI・IoTなどを活用した次世代手術システムや医療機器の開発にも携わる。

イノベーションは
「人と人とのつながり」で生まれる。

――医療とテクノロジーを融合させることで、医療現場を変えてきた村垣先生ですが、イノベーションを起こすために大切なことは何だとお考えでしょうか?

村垣教授:医療とテクノロジーのように、異なる分野の融合で生まれるイノベーションには、それぞれの分野に属する人たちが同じ目標を持つことが大切だと考えています。私の場合、医師としての目標は、患者さんのためになることをする、ということ。協創相手の企業にも、同じ気持ちで、同じ方向を向いていてほしいです。自社の利益のためだけに動くと良い協創にはなりません。

――分野は違っても同志になれることが重要ということですね。同志になるために必要なことは何だと思われますか?

村垣教授:コミュニケーションを密にとることではないでしょうか。「モバイルSCOT」のプロジェクトではドコモと“志”でつながることができたので、イノベーティブなソリューションを創り出せたのだと思います。また、東京女子医科大学は多様な大学から医師が集まっていることもあり、イノベーションや先端医療を取り入れることに積極的な風土があります。そうしたマインドをドコモと分かち合うことができました。

村垣善浩教授

――プロジェクトに携わる人たちそれぞれのパーパス(存在意義)や、プロジェクトのゴールが明確だったということですね。

村垣教授:はい。「モバイルSCOT」のプロジェクトでは、遠隔の医療支援における5Gの役割や必要性を検証しなくてはなりませんでした。それにはトライアンドエラーを重ねる必要がありましたが、ドコモは通信のプロなので、迅速にプロジェクトを進めることができました。ドコモのメンバーのみなさんは、ネットワークを広げて世の中の役に立とうという想いが強かったので、めざすゴールに向けて同じ熱量で走ることができました。

――お話をうかがっていると、世の中を変えるイノベーションを起こすためには、人と人が想いでつながることが大事なのだな、と感じます。

村垣教授:そうですね。特にドコモは「人と人をつなぐこと」が得意だと感じました。コミュニケーション能力が高く、世の中に役立つことはもちろん、楽しいことをしたいという熱量が強いと思います。人と人がつながると、結果的に人の役に立つものを生み出すことができます。お互いの領域の情報を交換しながらよりよい社会を作っていく、というドコモのスピリットに共鳴する部分が多かったですね。

「モバイルSCOT」で場所を問わず、
最高峰の手術を受けられるように。

――では「モバイルSCOT」とは、どのような医療ソリューションなのか教えてください。

村垣教授:「モバイルSCOT」とは、手術に必要な情報をネットワークで一元管理した「スマート治療室(=SCOT)」をモバイル化したものです。

モバイルスマート治療室

村垣教授:トラックに搭載したスマート治療室「モバイルスマート治療室」と、パソコンやタブレットなどのデバイス経由でスマート治療室に指示を送れる「モバイル戦略デスク」の2つタイプがあります。

――2つのタイプはどのような機能を持つのでしょうか?

村垣教授:専門医が不足している地域や大規模災害の現場へ、5G接続した「モバイルスマート治療室」を派遣することで、遠隔にいる専門医からの的確な指示や助言による高精度の診断や高度な治療ができるようになります。また、「モバイル戦略デスク」は、遠隔にいる専門医が5Gで手術のデータを取得し、リアルアイムで手術や治療を支援するソリューションです。

5G接続した「モバイルスマート治療室」の図

災害現場などへ「モバイルスマート治療室」を派遣し、「戦略デスク」へ5G接続することで、専門医師からの的確な指示や助言のもと、遠方にいながらも高い精度の診断や高度な治療が可能に。また、「戦略デスク」のモバイル版の開発も。パソコンやタブレットなど、携帯できるサイズに小型化し、専門医師が出張先や移動中でもスマート治療室への支援をリアルタイムに行うことを可能にします。

――「モバイルSCOT」は医療にどのような変革をもたらすのでしょうか?

村垣教授:「モバイルSCOT」によって、オペ室だけではなく、どこでも手術できるようになります。これまで手術はオペ室で行うという固定観念がありました。しかし、医師が遠隔にいると緊急手術に間に合わないですし、災害救急の現場はそもそも専門医が駆けつけられないことがほとんどです。その点、「モバイルSCOT」なら、専門医がどこにいても手術や災害救急を支援できます。

モバイル戦略デスク

――患者さんは病院内の手術室にいなくても、高度な医療を受けられるということですね。

村垣教授:その通りです。災害現場では、救命医はさまざまな手術をしなければなりませんが、「モバイルSCOT」で難しい判断や高度な手術をサポートできれば、助かる命が増えるはずです。また、最近はリモートワークが浸透し、地方に住む選択をしやすくなりましたが、医療の地域格差により健康のことが心配で移住をためらう人もいるでしょう。でも、もし「モバイルSCOT」で都市部と同じ医療が受けられるとしたら、住む場所の選択肢も増えるはずです。さらに、世界中に専門医が少ないような珍しい病気も、遠隔で支援することができれば手術を行えます。

モバイルスマート治療室

――国内外どこにいても高度な医療が受けられるというのは、暮らしの安心感につながりますね。

村垣教授:そうですね。いままでは手術の情報はオペ室にしかなく、術者は監督兼選手としてすべてをコントロールしないといけませんでした。しかし「モバイルSCOT」によって、遠隔の手術が可能になるので、監督と選手の役割を分けることができます。手術における監督業がはじまりますので、術者(選手)の実力だけに左右されていた手術のレベルアップにつながるはずです。

5Gの高精度な手術映像だからこそ
判断に自信が持てる。

――「モバイルSCOT」の通信には5Gが使われていますが、なぜ5Gが必要なのでしょうか。

村垣教授:5Gなら遠隔でも、ほぼオペ室にいるのと同じ情報量で遠隔で支援することができます。実はこれまでも遠隔からの医療支援は行われてきました。ただ、内視鏡や顕微鏡、手術の場面など、情報量が限られているので、自信を持った判断が極めて難しいんです。緊急であっても、いかに普段と同じようなチーム力で手術をするかが重要なので、そのためにはたくさんの情報が必要です。それには、大容量かつ低遅延でデータをやり取りできる5Gがなくてはなりません。

モバイルスマート治療室

――データの不足がないからこそ、手術における意思決定がしやすいということですね。

村垣教授:はい。基になるスマート治療室は手術中のデータを計測する20機器をネットでつないでいます。取得したデータは一元化されて端末に表示されるので見やすいです。また4Gと比べると、映像がより鮮明です。データが届く時間もほぼ遅れがないので、リアルタイムで手術の様子を把握できます。

――「モバイルSCOT」で医療の未来が変わると実感されていますか?

村垣教授:確実に変わると思います。特にトラックに搭載された「モバイルスマート治療室」を目にしたとき、災害救助の現場における医療の在り方が大きく変わるだろうと感じました。たとえるなら、はじめて携帯電話を触ったときのような感覚と驚きです。それまで電話は固定が当たり前でしたが、テクノロジーによって携帯できるものへと変わりましたよね。通信技術によって遠隔で高度な手術や治療ができるというのは、それと同じくらいの大きなイノベーションだと思っています。

村垣善浩教授
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