Changing worlds with you. #04

EMI TAMAKI 玉城絵美 人間拡張基盤™

誰かの動作や感覚をリアルタイムでダウンロードして自分に同期させるSF映画の世界で起きていたことが、いま現実のものになろうとしています。ネットワークで人間の感覚や動作を拡張する「人間拡張」。これを実現するために必要な人間の筋肉の動きなどの情報を取得する「センシングデバイス」と、そのセンシングデータを最適化して物理的運動に変換するプラットフォームをドコモが開発しました。

このプラットフォームにより、体格が違う相手の動きでもダウンロードすることができ、たとえばプロスポーツ選手の身体の動きのデータを自動調整し、子どもにダウンロードするということも可能になります。

共創のパートナーは、身体動作の伝達装置を開発するH2L株式会社。開発までの足跡や現在地、そして未来のことについて、キーパーソンであるH2L代表取締役社長の玉城絵美さんと、ドコモの石川博規氏が語ります。

EMI TAMAKI 玉城絵美 H2L創業者 琉球大学

人間とコンピュータの間の情報交換を促進することによって、豊かな身体経験を共有するBodySharingの研究と事業開発に従事。
2010年 東京大学大学院で博士号取得、総長賞受賞。
2011年に手の動作を制御する装置PossessedHandを発表し米Time誌が選ぶ50の発明に選出。
2012年 H2L株式会社創業。
2020年より5Gと連携した遠隔での体験共有システムを多数提案。

HIRONORI ISHIKAWA 石川博規 NTTドコモ 6G-IOWN推進部

博士(工学)。
6Gに向けた実用化研究を担当し、主に人間拡張プラットフォーム開発に従事。

人間拡張技術の実現へ
ドコモがめざす
コミュニケーションの新境地

――人間拡張技術の開発に取組まれることになったきっかけについて、教えてください。

玉城:私が高校生の頃、病気で入院したことがありました。予定していた家族旅行に行けず、そのときに「誰かが代わりに旅行して、自分はその人の身体を借りるようにして一緒に旅行できたらいいのに」と思ったんです。あいにく、それを実現できる商品がなかったので、自分で作ろうと考えました。それが人間拡張技術開発のきっかけです。その後、大学院でロボットや人間の手の仕組みを研究。H2Lという会社を起業して、人間とコンピューターをつなぐインターフェースの開発を本格的にスタートしました。

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石川:ドコモは、6Gの通信技術をどのような場面で活用すればユーザーのみなさまに喜んでいただけるかを模索するなかで、H2L社の存在を知りました。6Gになると人間の反応速度を超えた1ms(1秒の1000分の1)の遅延でデータ通信ができるようになります。その特性を何に活用したら良いのだろうと考えたときに、たどり着いたのが人間拡張技術だったというわけです。人間拡張技術の実用化にあたり、遠隔で動きを共有する際に6Gの「低遅延」という性質が付加価値になるのではと考え、共創を提案させていただきました。

――人間拡張技術とは、どのような技術なのでしょうか?

玉城:人間拡張技術には、さまざまな種類があります。ひとつ例に挙げると、「自分の能力以上の能力を出すための技術」です。握力や腕力を遠隔で伝えることで、自分の能力では持ち上げられなかったものを持ち上げられるようになります。

石川:今回のドコモのCMで、綾瀬はるかさんが流暢にピアノを弾いています。CMでは「スキルをダウンロードできる時代」をテーマに、少し先の未来に実現できそうな「自分のスキル以上の能力を出すための技術」を表現しました。

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玉城:CMではプロピアニストの動き(スキル)をセンシングデバイスによってデータ化し、綾瀬さんの手元につけたデバイスに電気信号を送って腕の筋肉を動かす……という、スキルをダウンロードすることに関する一連の流れを描いています。現時点で、CMで描いたようなレベルの「人間拡張」は難しいですが、2030年頃には実現をめざしたいなと思っています。

石川:私が考える人間拡張技術とは、新しいコミュニケーションのかたちを実現するための技術です。動作はもちろん、感情や感覚を相手と共有することで、映像や文字情報だけでは理解できなかった情報を共有できるようになります。それによって、これまで成し得なかったコミュニケーションができるようになり、相互理解が促進されると考えています。

玉城:コミュニケーションの充実は大きなポイントですね。人間拡張技術によって、「身体的能力のアップ」「時空を超えたコミュニケーション」を実現できます。メタバース(仮想空間)のアバター同士で熱い握手を交わすというようなことも可能になると思います。

石川:そうですね。もちろん人間同士のコミュニケーションも含めて、相手と自分の感覚の齟齬がなくなると、ストレスなくやり取りができて、社会がより良い方向に進むと思うんです。たとえば、何か習い事をするときに、頭で考えてうまくいかないことってありますよね。でも、身体の動きや力加減などの固有感覚を伝えることができれば、いろいろなことができるようになるはずです。それがひいてはウェルビーイングに繋がるのではないかなと考えています。

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玉城:いま現在は、固有感覚を伝えるための通信やインターフェースを開発していますが、ゆくゆくは温かさや柔らかさも伝えていきたいと思っています。そうなるとそこに肉体が存在しなくても、時間や空間を超越したリアルな感覚で人間同士がコミュニケーションできるようになり、さらにありとあらゆる感覚を経験できるようになることで、人間を幸せにすることができると考えています。

「伝える」から「伝わる」に。
動作と感覚を翻訳する
プラットフォームの存在

――人間拡張技術は、どのような技術に支えられているのでしょうか?

玉城:H2Lでは、腕や手の筋肉の動きを検出する筋変位センサや、データ化した人の動作や感覚をアバターやロボット、あるいは他者へ伝えるためのデバイスなどを開発しています。

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石川:ドコモは人間拡張技術のうち、人間とネットワークをつないで、遠隔で身体の動きを共有するための通信技術とプラットフォームの開発を担っています。データ化した人の動作や感覚を共有するためには、データを出力先のデバイスに合うように変換しなければいけません。そこで、ドコモとして通信だけではなく、我々は基盤とも呼んでいる「プラットフォーム」の開発に着手しました。クラウドにデータをアップロードすることで、データを翻訳できるようになります。たとえるなら、伝える相手の母国語に翻訳する(英語→日本語など)ように、筋肉や脳波などのデジタルデータを、別の人やロボットに合わせた動きのデータに変換するイメージです。

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玉城:ヒューマンインターフェースを作ったからと言って、すぐにロボットやアバターと繋がれるわけではありません。ちなみにロボットは世界に何万種類もあります。そのときに大きな役割を担ってくださるのが、ドコモのプラットフォーム技術です。プラットフォームがあることで、あらゆるロボットやアバターと相互に繋がれるようになります。

石川:H2L社のヒューマンインターフェースにドコモのプラットフォーム技術が加わることで、相手に合わせたデータに変換し、ダウンロードできるようになります。たとえば、大人のプロテニスプレーヤーの素振りの感覚を子どもに伝えようとしても、骨格や体格が違うので、うまく伝わりません。それを相手の能力に合わせて変える方法として、双方の身体能力を比較しながら動作を伝える方法があります。プラットフォームではそれに必要な技術が搭載されています。

プラットフォームと繋がる
パートナーを増やしたい。
本気で世界初に挑む
ドコモの技術者たち

――玉城さんは、ドコモが開発パートナーとして加わって以降、人間拡張技術のブレイクスルーや前進を実感した点はありますか?

玉城:たくさんありますね。なかでも一番すごいなと思ったのは、人間拡張技術という世界でも類をみない新技術に対して、一緒にグイグイ挑戦してくれるところ。研究からビジネスまで一気通貫で見通していらっしゃるので、とても頼もしいです。石川さんをはじめ、ドコモ社のみなさんは人の幸せを本気で考えていているのだなと感じます。技術面ですとやはりプラットフォームをいちから開発してくださったのは、ブレイクスルーだったと思います。通信に関しては、ドコモ社は通信のカバーエリアが広いので、遠隔での人間拡張技術には欠かせない通信の信頼感があります。

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石川:ありがとうございます。ユーザーのみなさまに価値あるものを提供したいという想いの強さは、ドコモのカルチャーかもしれません。私は、人間拡張技術に大きな可能性を感じています。いまはデジタル空間では匿名で活動することが、一般化しましたし、メタバースもトレンドです。最終的に人はリアルとリアルの結びつきを欲するようになるのではないか、と私は考えています。自分たちがリアル空間に存在する以上、リアルとリアルの繋がりは避けられないものです。そのときにリアルに存在する人間をセンサで測定し、サイバー空間で翻訳して、リアルに戻すという技術は求められていくはずです。

――今後、人間拡張技術をどう発展させていきたいとお考えでしょうか?

石川:まずは人間拡張のプラットフォームに接続するセンサや、そこにあるデータを物理的運動に変換するデバイス技術を持つパートナー企業を増やしたいです。それによって新しいイノベーションも加速すると思います。そう遠くない未来には、感情を伝えられるようにもしたいですね。6Gの時代になると、リアルタイムで繋がれるようになるはずです。プラットフォームに動作や感覚のデータを溜めておいて、好きなときにダウンロードできるようになるかもしれません。そのスキルを売買するビジネスもはじまるでしょう。

玉城:人間拡張技術は、いろいろなパートナー企業が繋がることで、新しい価値を創造できると思っています。ロボットであれば、ヒューマノイドロボット、工業用ロボット、ペットロボット……など、可能性は無限です。ヒューマンインターフェースがそうしたロボットと自由自在に繋がれるようになる日をすごく楽しみにしています。そして、さらに各企業のユーザー同士が繋がることで、世界は大きく変わると思います。

玉城絵美教授

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