ドコモと東大病院による社会連携講座「健康空間情報学」の第二期共同研究を開始
-医療現場への適用に向けて研究を継続-
<2013年8月28日>
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
東京大学医学部附属病院
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下、ドコモ)と東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)は、2009年9月から4年間にわたり、社会連携講座「健康空間情報学」(以下、健康空間情報学講座)を東大病院22世紀医療センター内に設置して、携帯電話等のモバイル情報機器を活用した医療情報環境の構築に関する共同研究を行ってまいりました。
本研究で得られた成果を発展させるとともに社会へ導入していくことを目的として、2013年9月1日から2016年8月31日までの3年間、健康空間情報学講座を継続し、第二期の共同研究を開始いたします。
第一期(2009年9月〜2013年8月)の研究においては、主に5つのテーマで医療支援システムを共同開発し、その有効性について検証してまいりました。
「2型糖尿病患者の自己管理支援システム」は、健康機器で測定した健康データや食事内容・運動内容等をクラウドサーバに送信すると、自動で健康指導アドバイスがフィードバックされ、異常値が測定された場合は医師に通知されるシステムです(文献1、2)。本システムを利用した臨床試験を実施した結果、患者の生活習慣の行動変容を通じて、糖尿病診断の重要な基準である「HbA1c」の値が有意に減少するというデータが得られ、糖尿病患者の継続的な療養指導、セルフケアに有効であることを確認いたしました(文献3)。
また、「クラウド型モバイル12誘導心電図システム」は、救急車内で記録した心電図をモバイル端末からクラウドサーバへアップロードすることで、循環器専門医師が遠隔で心電図を診断し、専用治療設備のある病院へスムーズに搬送することができるシステムです(文献4)。本システムの利用により、心筋梗塞患者の処置までに要する時間について従来の30%の短縮効果が得られたことを確認し(文献4、5)、患者の救命率および予後の向上に貢献できるものと考えております。
このような成果を踏まえ、第二期(2013年9月〜2016年8月)の研究では、各システムのさらなる効果検証を進めるとともに、実際の医療現場に導入するための仕組みの構築に向けて取り組んでまいります。
ドコモと東大病院は、健康空間情報学講座を通じて、先端的なICT(情報通信技術)、モバイル情報機器、臨床医学の融合を実現し、時間的・地理的なハードルを越える医療を具現化する医療環境の実現を目指します。そのために質の高い臨床試験を実施し、開発したシステムの有効性を臨床的エビデンスとして確立してまいります。
なお、第一期の研究成果および第二期の研究方針は別紙のとおりです。
別紙 第一期の研究内容・成果および第二期の研究方針
1. 「携帯電話を活用した2型糖尿病患者の自己管理支援システム」による臨床効果に関する研究(文献1、2、3)
内容 | 健康機器(血圧計・体重計・歩数計・血糖値計)の測定データや食事内容、運動内容などを患者が携帯電話からクラウドサーバに送信すると、自動で分析された日常的な健康アドバイスがフィードバックされ、異常値が測定された場合は自動的にデータが医師に通知される環境を構築した。 本システムによる糖尿病自己管理支援に関する医学的な効果を確認する。 |
第一期の成果 | 54名の糖尿病患者に本プログラムを適用した臨床試験を実施し、3か月間使用することによって、糖尿病診断の国際基準である「HbA1c」の値が有意に低下することが確認できた。 |
第二期の方針 | 測定データの入力と可視化を主眼とした研究から、患者本人の自己管理意識を強化し、糖尿病治療の継続性を向上する研究へ発展させる。また、第一期より大規模な臨床試験を実施し、医学的有用性を確認する。 |
<イメージ>
2. 「遠隔での心電図診断を可能とするクラウド型モバイル12誘導心電図システム」による治癒成績向上に関する研究(文献4、5)
内容 | 救急車内で記録した心電図をスマートフォン・タブレットからクラウドサーバにアップロードできる、低コストで導入可能なシステムを開発。 循環器専門医が遠隔で診断して専用医療設備のある医療機関に搬送できる環境を構築した。 本システムによる救命率および治療成績の向上への有用性を研究する。 |
第一期の成果 | 救急医療現場において、医療機関と連携した実証試験を行い、50例を超える急性心筋梗塞の患者搬送に適用した。ドクターカーからの心電図伝送により、搬送先医療機関の最適化が可能となり、詰まった心臓の血管に必須となるカテーテル治療を施すまでの時間について30%の短縮効果が得られるなど、生命予後にも影響する大きな成果が得られている。 |
第二期の方針 | 救急医療現場における搬送について、複数医療機関における運用上の有用性に関する研究を行う。 |
<イメージ>
3. 「携帯電話を用いた外来患者案内システム」による患者満足度向上に関する研究(文献6)
内容 | 携帯電話の位置情報を検知し、病院に近づくと携帯電話から診療受付ができる機能や、待ち時間情報の提供、順番が来たことのお知らせなど、モバイル環境を活用した病院外来の利便性向上について研究する。 |
第一期の成果 | 東大病院における実証試験を通して、中待合室への呼び出しから診察室入室までの時間が、従来の112秒から47秒へと59%短縮し、患者にとっては待ち時間の有効活用が図られ、医療機関にとっても患者のスムーズな案内により診療の円滑化が図れることが確認できた。 |
第二期の方針 | 本研究は実証のステージを終え、複数の医療機関への導入に向けた事業展開をドコモにより実施中。 社会実装により浮き彫りとなる課題について、さらなる研究を行う。 |
<イメージ>
4. 「スマートフォンを利用したモバイル個人医療健康情報環境 smartPHR」の臨床応用に関する研究(文献7)
内容 | 患者の既往歴、病名、検査所見、服薬状況や血圧、体重、歩数等の医療情報を患者本人のモバイル機器で管理する、個人医療健康情報プラットフォームを開発。透析医療等への臨床応用を検討する。 |
第一期の成果 | 血圧、体重、血糖値を入力して管理するスマートフォン向けアプリケーション「my健康手帳」をGoogle PlayTMにて2013年5月から提供。 「my健康手帳」では測定値の機器連携登録および手動登録に対応し、測定結果を出力して診察時に提示することも可能。 |
第二期の方針 | 新たに透析患者向けのPHRアプリ等を開発することで、様々な慢性疾患における測定値の自己管理支援を促すことにより、smartPHRを利用して病状の進行を抑制する効果について研究を行う。 |
<イメージ>
5. 「服薬管理支援システム」を利用した臨床効果を確認するための研究(文献8、9)
内容 | 服薬状態を医療者と患者が情報共有できるモバイル環境を活用した服薬支援システムを開発。「薬の飲み忘れ防止」に対する臨床効果を研究する。 |
第一期の成果 | 病院からの処方情報、薬局からの調剤情報、そして開閉により服薬状態を検知する新開発無線薬箱から得られた情報を一元管理し、医療者・患者がともに情報共有できる画期的な服薬支援システムを開発。 |
第二期の方針 | smartPHR(my健康手帳)および電子お薬手帳等と連携し、実運用上の服薬継続率向上効果について研究を行う。 |
<イメージ>
参考 社会連携講座の概要
- 講座名称
健康空間情報学講座(英語名称:Department of Ubiquitous Health Informatics)
- 担当教員
藤田 英雄 特任准教授、脇 嘉代 特任助教
- 設置期間
2013年9月1日〜2016年8月31日(3年間)
- 協力講座
医療情報経済学、循環器内科学、糖尿病・代謝内科
- 共同研究先
NTTドコモ ライフサポートビジネス推進部
<文献>
- 脇嘉代. 携帯電話を活用した2型糖尿病患者の自己管理支援システム“DialBetics”. 日本糖尿病学会出版 糖尿病 第54巻臨時増刊号 2011年4月25日発行 P. S-198
- 脇嘉代, 藤田英雄, 内村祐之, 荒牧英治 & 大江和彦. ICTを利用した2型糖尿病患者の自己管理支援システム DialBetics. 医療情報学連合大会論文集 32, 534-537 (2012).
- Waki, K. et al. DialBetics: smartphone-based self-management for type 2 diabetes patients. Journal of diabetes science and technology 6, 983-985 (2012).
- 藤田英雄 et al. プレホスピタル心電図伝送によるSTEMI(ST上昇型心筋梗塞)診療変革の試み:モバイルクラウド心電図. ICUとCCU 36, 886-890 (2012).
- Takeuchi, I. et al. Initial experience of mobile cloud ECG system contributing to the shortening of door to balloon time in an acute myocardial infarction patient. International heart journal 54, 45-47 (2013).
- 大前浩司, 内村祐之, 脇嘉代, 藤田英雄 & 大江和彦. 携帯電話を用いた外来患者案内システムの実証実験および実用化に関する考察. 医療情報学連合大会論文集 32, 358-359 (2012).
- 内村祐之 & 藤田英雄. モバイル機器を活用した医療健康情報環境の構築. 電気学会論文誌 132, 381-386 (2012).
- 早川雅代 et al. 携帯電話により処方情報と服薬情報を統合した服薬支援システムの開発〜外来患者のアドヒアランス向上をめざして〜. 医療情報学連合大会論文集 30, 614-617 (2010).
- Hayakawa, M. et al. A Smartphone-based Medication Self-management System with Realtime Medication Monitoring. Applied clinical informatics 4, 37-52 (2013).
- 「Google Play」は、Google Inc.の商標または登録商標です。
報道発表資料に記載された情報は、発表日現在のものです。仕様、サービス内容、お問い合わせ先などの内容は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。