6Gに向けたNFVの進化:新機能と将来への展望
- #5GE&6G
- #ネットワーク
Afaf Arfaoui
Kostas Katsalis
Joan Triay
ドコモ欧州研究所
久野 友也(くの ゆうや)
中島 佳宏(なかじま よしひろ)
クラウドデザイン室
あらまし
5Gのデータ通信量,通信端末数,スループット,レイテンシの要求条件を満たすため,5GアーキテクチャではNFVとクラウド技術を利用し,これにより複雑化したネットワークの構築と運用を効率化して高い信頼性を実現してきた.一方で,6Gでは新しいユースケースや要件が規定され始めており,これに伴い通信事業者ネットワークもNFVとともにさらなる進化による新たな飛躍をめざしている.
本稿では,非地上ネットワーク(NTN)装置やパブリッククラウドなどの新しいインフラストラクチャ,モバイルネットワーク内でコンピュートリソースを利用し,特に新規ユースケースとして期待されているAI/MLを動作させるインネットワークコンピューティング,VMとコンテナを超えた新しい仮想化テクノロジなど,NFVの進化を解説する.そして,これらの進化を組み合わせた新しいNFVによって,インフラストラクチャの制約に対処しながら,そのリソースを最大限に活用し,VNF・TCAとアプリケーションの要件に最適な仮想化ソリューションを使用できるモバイルネットワークの未来を紹介する.
01.まえがき
5Gから6Gへの移行に伴い,モバイルブロードバンドおよび低遅延接続を中心とした接続性を拡張する技術トレンドは,ユビキタス通信やAI間の知識の共有という新しいタイプの接続,没入型体験の通信といった多様な通信をめざす方向へと転換している.5Gは,高速大容量(eMBB:enhanced Mobile BroadBand*1)を中心にしつつ,超高信頼・低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communication)*2および大規模マシンタイプ通信(mMTC:massive Machine Type Communication)*3によって新たなモバイルネットワークの基盤を築いてきたが,6Gは物理,デジタル,生体の各領域をシームレスに統合することを構想しており,極めて大きい通信容量と高い信頼性を必要とする.
これらの要件は,6Gが単に5Gの能力を拡張するだけでなく,エンド・ツー・エンドのオートメーションやデジタルツイン*4といったAIベースの新たな運用手法を実現する必要があることを示している.
6Gでは,高い持続可能性,信頼性,適応性も重要である.ネットワークはエネルギー効率が高く,リソースを動的に再構成でき,カーボンフットプリント*5を最小化するよう設計する必要がある.また,6Gにおいても重要インフラや機微なデータ交換を支えるため,セキュリティやプライバシーに関する厳格な要件が引き続き求められる.加えて,AIをネットワーク管理の中核に組み込むことで,予測的かつ自律的な運用と最適化が可能となり,自律的なヒーリング*6やコンテキスト*7認識型の通信が実現される.
本稿では,6Gに向けてNFV(Network Function Virtualization)*8がTelco Cloudへ進化する要件と,それに向けた技術的特性について解説し,6Gの世界観に触れる.
- 高速大容量(eMBB):高速大容量を必要とする通信の総称.
- 超高信頼・低遅延通信(URLLC):低遅延かつ,高信頼性を必要とする通信の総称.
- 大規模マシンタイプ通信(mMTC):超大量のマシン型通信.人間による通信操作を介在しない機械通信の3GPPにおける総称.
- デジタルツイン:現実空間のありとあらゆるものの位置や形状,各種センサ情報などをデジタルの仮想空間にリアルタイムに再現したもの.
- カーボンフットプリント:該当の設備を設置するために排出される温室効果ガス(GHG:GreenHouse Gas)の総量.
- ヒーリング:ハードウェア障害やVM(*64参照)障害が発生した際に,正常なハードウェア上にVMを移動または再生成することで通信ソフトウェアとして正常な状態に復旧する手続き.
- コンテキスト:ネットワーク機能やアプリケーションが個々の端末やクライアントを扱う際に用いる,各端末,各クライアントに特有の情報.
- NFV:通信事業者ネットワークのネットワーク機能を,仮想化(*31参照)技術によって汎用ハードウェアから分離する原理.
02.6Gに向けたNFV Telco Cloudの概要
ITU-R(International Telecommunication Union-Radiocommunication sector)*9 IMT-2030(International Mobile Telecommunications-2030)*10[1]に従えば,6Gには多様なユースケースと要件があり,このような高度なユースケースを支えるための機能的要件として,6Gはテラビット/秒級のピークデータレート,ミリ秒以下のレイテンシ,および極めて高いエネルギー利用効率をもつネットワークの実現が求められている(図1).
また,カバレッジ*11の拡張も重要な要件であり,6Gは非地上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)*12を用いて5G時代の各種接続性の課題を解消し,世界規模での可用性を確保することが期待されている.
さらに,決定論的ネットワーキング(DetNet:Deterministic Networking)*13,通信とセンシングの統合(ISAC:Integrated Sensing and Communication)*14,および通信と分散型知能の統合も注目されている技術である.
これらの6GのビジョンとNFVの関係を図2に示す.NFVは,6Gのビジョンに向けて,オーケストレーション*15とManagement plane*16に「NFV Telco Cloud」を導入した.これはNFV-MANO(Management and Orchestration)*17アーキテクチャの進化形で,基盤とアプリケーションを分離するプラットフォームレベルのサービスを提供することにより,モバイルネットワークとクラウドプラットフォームの機能差を解消し,クラウドの技術でモバイルネットワークを実現することを目的としている.
NFV Telco Cloudは,モジュール型で宣言的かつ自動化されたオーケストレーションサービスが想定され,通信事業者がネットワーク機能だけでなく,AI駆動型アプリケーションやエッジアプリケーションもモバイルネットワークとして展開できるような機能を保有している.主要な技術要素として,宣言的API(Application Program Interface)*18,リソースコントローラ*19に基づくプラットフォーム,データ・アズ・コード*20,AI駆動の可観測性およびセキュリティが挙げられる.これらの技術がNFV Telco Cloudに取り込まれることで,モバイルネットワークのコスト効率,柔軟性,持続可能性を高め,モバイルネットワークとNFV Telco Cloudは,将来にわたってテレコムイノベーションを牽引し続けることができるようになる.
図3は,NFV Release 6で考慮されているNFV Telco Cloudサービスを構成する3つのアーキテクチャブロック(図3左)とそれらによって管理されるアプリケーション・インフラストラクチャ*21(図3右)を示している.
・Telco Cloud Orchestrationサービス:複数のTCA(Telco Cloud Application)によって提供されるモバイルネットワーク全体(ネットワークサービス)の監視や管理,トポロジ*22管理,ネットワークサービスとインフラを含むエンド・ツー・エンドの自動化に関連し,宣言的インテントベースのアプローチでネットワークサービスの制御や管理を行う.
・Telco Cloud Platformサービス:TCAのライフサイクル管理(LCM:Life Cycle Management)およびOAM(Operations, Administration, Maintenance)*23制御を行う.
・Telco Cloud Infrastructureサービス:ハードウェアや仮想リソースなどのインフラに関連するLCMおよびOAM制御を行う.
- ITU-R:電気通信分野における国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU)の無線通信部門で,無線通信に関する国際的規則である無線通信規則の改正に必要な検討,無線通信の技術・運用などの問題の研究,勧告の作成および周波数の割当て・登録などを行う機関.
- IMT-2030:ITUにおいて標準化されている国際移動通信システム.IMT-2000(3G),IMT-Advanced(4G/LTE),IMT-2020(5G)などがこれまでに標準化されており,IMT-2030は2030年ごろに標準化完了予定.
- カバレッジ:基地局当りのUEとの通信を行うことができるエリア(セル半径).カバレッジが大きいほど設置する基地局数を低減できる.
- 非地上ネットワーク(NTN):衛星やHAPS(*54参照)などの非陸上系媒体を利用して,通信エリアが地上に限定されず,空・海・宇宙などのあらゆる場所に拡張されたネットワーク.
- 決定論的ネットワーキング(DetNet):ネットワーク上で極めて低いパケット損失率と遅延時間(ジッタ(*85参照))でデータフローを転送する技術.
- 通信とセンシングの統合(ISAC):無線を利用したデータ通信と物体検知などのセンシングを統合し,移動通信ネットワークによって通信およびセンシングのサービスを提供可能とするコンセプト.
- オーケストレーション:アプリケーションやサービスの運用・管理を自動化するために,必要なリソースやネットワークの接続を管理・仲介する技術.
- Management plane:保守管理用プレーン.通信装置の運用をするための制御信号を転送するためのプロトコル.
- NFV-MANO:仮想化(*31参照)環境におけるハードウェアリソース,ソフトウェアリソースなどのVNF管理機能とオーケストレーション機能を提供する仕組み.
- API:ネットワークを構成するコンポーネント(*55参照)が提供するソフトウェアの機能を他のプログラム,システムから利用できるように切り出したインタフェース.
- リソースコントローラ:仮想リソースを管理制御する機能部.
- データ・アズ・コード:さまざまなデータをソースコードと同じように扱い,バージョン管理や自動テスト,継続的インテグレーションを行う開発アプローチ.
- インフラストラクチャ:アプリケーションを実行するのに必要な物理的もしくは仮想的なデータセンタやサーバ,ネットワークなどの総称.
- トポロジ:機器の位置関係やネットワーク構成.
- OAM:装置やネットワークの運用,管理,保守を支援する機能やシステム.
03.6G対応の進化に向けてNFVで検討中の主要技術
NFV Release 6では,NFVI(NFV Infrastructure)*24を拡張・進化させるために,ネットワーク到達性,装置の位置や可搬性,分散型リソース,リソース多様性といったさまざまな要素が考慮されている.これらの検討においては,新しいインフラリソースの設置場所(例:NTN向けのデータセンタ),種類(例:SmartNIC*25,メタサーフェス*26),供給源(例:クラウド・ハイパースケーラ*27)といった多様なインフラの要素が将来のモバイルネットワーク開発において重要になってきている.
TCAの観点では,サーバレスアプリケーション*28やWasm(WebAssembly)*29,MicroVM(Micro Virtual Machine)*30,その他の仮想化*31形態が検討されており,関連するユースケースと,それに伴うNFV Telco Cloudの進化も進められ,各種モバイルネットワークの特性に合わせてさまざまな仮想化技術を収容できることが重要になってきている.
以下では,NFVの進化のために検討されている技術を8つ述べる.
3.1 インネットワークコンピューティング
(1)概 要
拡張現実(XR:Extended Reality)*32やホログラフィック通信*33,AI/ML(Artificial Intelligence/Machine Learning)*34のリアルタイム処理などの遅延要件の厳しい高度なサービスは,今後ユーザの需要が高まると予想される.これらで使用されるアプリケーションに対して,データ生成源(例:モバイル端末,ARグラス)が十分なコンピュート*35リソースを備えていない場合や,必要な計算処理をすべて中央クラウドに依存することでレイテンシが増大する場合,インネットワークコンピューティングのパラダイムは,これらのケースでの厳しい遅延要件を満たす解決策として注目されている.
インネットワークコンピューティングは,集中的な計算処理をネットワーク全体に分散させることを目的とする.ネットワーク機器(例:スイッチ)は,従来のタスクに加えてデータ処理を実行できる.さらに,計算能力の補強としてCPU,SmartNIC,GPU(Graphics Processing Unit)*36,DPU(Data Processing Unit)*37などの計算・アクセラレータ*38リソースを活用することや,TCAと並行してアプリケーションの処理タスクをネットワークに展開することも想定されている.これにより,データは生成源に近い場所,あるいはネットワーク内の経路上で処理され,インフラリソースの利用効率を高めたり過剰なトラフィックを抑制したりするだけでなく,事業者に新しいビジネス機会を提供できる可能性もある.
(2)アーキテクチャ
NFV Telco Cloudでは,既存のオーケストレーション機能が拡張され,ネットワークリソースとコンピュートリソースを統合的に管理することでインネットワークコンピューティングを可能にする.これにより,NFV Telco Cloudはレイテンシ,帯域幅,計算能力を同じレイヤとして総合的に考慮し,アプリケーションを配置できる(図4).
アーキテクチャは標準化された宣言的APIを提供し,インネットワークコンピューティングアプリケーション提供者がインテントに基づいてリソースを要求できるようにする.例えば,「アプリケーションAのために,データ経路上でレイテンシ1ms以下となるようGPUリソースを割り当てる」や,「AIアプリケーションAをデータストリーム*39Dと同じ場所に配置し,推論時間を5秒以内に保つ」といった要求ができる.その後,Telco Cloud Orchestrationサービスがこのインテントを具体的な配置戦略やリソース割当に変換する.
さらに,Telco Cloudアーキテクチャは,リソース状態を報告するインタフェースを公開し,アプリケーション提供者が計算負荷や処理遅延,ネットワーク状況に関するリアルタイム情報を受け取れるようにする.これによりアプリケーション提供者は,スケーリング*40,移行,負荷分散といったClosed-loop*41の意思決定ができるようになる.
インネットワークコンピューティングを実現することで,NFV Telco Cloudは動的かつ分散型のデータセンタとして機能し,安定した性能でサービスを提供でき顧客体験を改善する.また,低遅延コンピューティングサービスにより通信事業者が収益化を図ることができ,さらにネットワークリソースを効率的に活用することでコストも削減できる.
3.2 ハイブリッドクラウド
(1)概 要
モバイルネットワークの拡張や新しいアプリケーションの収容に伴い,仮想リソースやクラウドリソースの需要は増大している.従来利用されていたオンプレミス*42のプライベートクラウド*43ソリューションは,この増大する需要に対応するには不十分であることが明らかになってきた.その結果,通信事業者は,パブリッククラウド*44とプライベートクラウドのリソースを統合してエンド・ツー・エンドのネットワークサービスを展開する「ハイブリッドクラウド戦略」を検討し始めている.この戦略は大きな利点をもたらし,特にパブリッククラウドを選択肢に加えることで,ストレージやコンピューティングリソースが利用しやすくなる.
(2)課題と検討されている実現方式
しかし,この環境のオーケストレーションには独自の課題を伴う.パブリッククラウドのサービスプロバイダはそれぞれ専用の監視ツールでパブリッククラウドを監視保全しており,通信事業者がもつ現状のプライベートクラウド用の監視ツールでは,それらとの連携ができないため,通信事業者がネットワークサービスやパブリッククラウドを含めてシステム全体を統一的に俯瞰することは難しい.そのため通信事業者は,エンド・ツー・エンドでネットワークサービスとインフラの監視やパフォーマンスの分析を行うパブリッククラウド専用の監視システムが必要となり,パブリッククラウドとプライベートクラウドでそれぞれ異なるシステムを個別に構築する必要性が出てくる.その結果,パブリッククラウド基盤を用いてTCAをデプロイ*45する際には,重要な相互運用*46性やバージョン依存性の問題に直面する可能性が高くなる.
これらの課題に対して,NFV Telco Cloudアーキテクチャは,NFVの標準参照点*47を再利用しつつ,それらをより抽象化して任意のパブリッククラウド管理システムに仲介できるよう検討している.ETSI(European Telecommunications Standards Institute)*48 GR NFV-EVE 023[2]では,ハイブリッド環境で誰が何を制御するか,すなわち事業者のNFV Telco Cloudとパブリッククラウドの管理システムの役割分担を明確化している.NFV Telco Cloudは,Telco Cloud Infrastructure,TCA,Telco Cloud Platformの各レイヤにおいて物理ネットワークやサービスメッシュ,アプリケーションレベルのネットワークといった各ネットワークの接続性を提供しており,NFV Telco Cloudはそれらの管理をNFV Telco Cloudとパブリッククラウドとで柔軟に分離することができる.また,Telco Cloud Platformの既存APIのプロファイリング*49を行うことで監視制御の統一化ができ,通信事業者のNFV Telco Cloudによってオンプレミスで構築されたプライベートクラウドとパブリッククラウドとのハイブリッドクラウドでの管理システムの分割と,統一したオーケストレーションを実装できる.
さらに,このアーキテクチャはAIを活用したClosed-loopを検討しており,ネットワークの状況が変化するたびに,TCAの再配置,スケーリング,フェイルオーバー*50を決定する構想を含んでいる.
これらの課題を解決するために,接続性の課題を解決することはNFV Telco Cloudにとって不可欠である.パブリッククラウドとプライベートクラウドの間のトランスポートネットワーク*51はTelco Cloud Infrastructureの一部として扱われ,NFV Telco CloudのManagement planeは,パブリッククラウドへのサービスのインスタンシエーション*52の一環として,トランスポートネットワークの接続要求やコンフィグ設定,ネットワーク監視を行う.
NFV Telco Cloudは,宣言的インタフェースを通じて配置,遅延,規制要件といったインテントを表現し,オープンソースのプロファイリングを行い,さらにLCM/OAM制御におけるClosed-loopを取り込むことで,通信事業者にハイブリッドクラウドを制御するための仕組みを提供する.
3.3 NTN
(1)概 要
5G Advancedで導入予定のNTNは,引き続き6Gにおいてもエリアの広域化や信頼性の向上を実現するために重要な役割を果たす.衛星,無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)*53,高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)*54におけるネットワーク装置は,既存の地上インフラを補完し,ユーザ密度が低く,山間部,砂漠,海洋などネットワークインフラが到達困難な地域におけるカバレッジ問題を解消し,ブロードバンド接続を提供できるようにする.これにより,世界規模でのユニバーサルサービスが可能となり,災害救助にも貢献する.また,人口密度の高い都市部では,需要が地上ネットワークの容量を上回る場合に,一時的にネットワーク容量を増加させるために前述の装置を役立たせることもできる.
6Gにおいては,NTNは単にバックアップ的な存在ではなく,ネットワークアーキテクチャに統合される主要コンポーネント*55として扱われている.衛星ネットワークは大規模なカバレッジとブロードキャスト能力を提供,HAPSは成層圏から空・海・陸上に向けて通信サービスを提供することで離島や山間部,海上をエリア化できる.これらの組合せで,災害時やインフラ不在地域でも高信頼な通信が確保される.
NTNでは,衛星やHAPSなどの装置の内部にコンピュートリソースを保有することも検討されており,NFV Telco CloudがそれらNTNのリソース管理機能を取り込むためには,アーキテクチャを大幅に更新する必要がある.ETSI GR NFV-EVE 023[2]とETSI GR NFV-IFA 054[3]ではどちらも,今後のNFV Telco Cloudのネットワークが地上エリアを超えて,空と宇宙,海洋のセグメントを含む超分散ネットワークになるという構想が検討されている(図5).
(2)課 題
NTNをNFV Telco Cloudに統合するためには,複数の課題を解決する必要がある.
・第1に,地上とNTN間の遅延やリンク特性の差異を吸収し,シームレスなサービスを保証するための標準化APIと,衛星およびHAPSゲートウェイ*56,ペイロードプロセッサ*57,HAPS間や衛星間のリンクなどのNTNリソースと地上のリソースを統一的に制御するため,装置差分を隠蔽した抽象化したモデルが必要となる.
・第2に,動的なネットワークトポロジ(例:移動するUAVや低軌道衛星)を管理できるよう,Telco Cloud Orchestrationサービスを拡張する必要がある.
・第3に,周波数利用,干渉管理,規制上の制約といった側面も考慮して運用の自動化を行わなければならない.
これらの解決により,NFV Telco Cloudが動的で多様なインフラストラクチャを統一的かつ効果的に管理できるようになる.
(3)インテント駆動型制御
新しいNFV Telco Cloudでは,NTNをインフラストラクチャリソースとして取り込み,インテント駆動型の管理APIを通じてそれらを制御可能にすると想定されている.例えば,「特定の地域で緊急時に最低限のレイテンシを保証しつつ接続を確保する」といった要求を宣言的に記述でき,Telco Cloud Orchestrationサービスはその要求を解釈し,衛星リンクと地上リンクの組合せや動的ハンドオーバ*58の調整を支援することで,所望のQoS(Quality of Service)*59を満たす.
(4)異なる複数のドメイン間をまたいだリソース制御の協力
地上や海洋,宇宙などのドメインを管理する各Telco Cloud Orchestrationは相互に連携することで,異なるドメイン間でリソース制御の連携ができるようになる.これは,移動したり広範囲にサービスを提供したりすることでサービスが複数の管理ドメインや通信事業者のドメインをまたいでしまうNTNにとって,カバレッジ,遅延,サービスの可用性などの要因に基づいてリソース割当てをネゴシエートする必要があるため,必要不可欠な仕様となる.
インタフェース,ディスクリプタ*60,およびオーケストレーションロジックを強化することで,NFV Telco CloudはNTNをシームレスに組み込むことができ,地上,空中,海上および宇宙の接続をカバーする統合プラットフォームを提供できるようになる.NTNをTelco Cloudの一部として取り込むことで,6Gは真にグローバルでフォールトトレラント*61なネットワークを提供できるようになる.
3.4 軽量仮想化技術とサーバレスアプリケーション
(1)軽量仮想化技術
通信事業者は,衛星や航空機を利用してネットワークを拡大し,エンドユーザを広範囲にカバーすることを期待しているが,NTNはインフラリソースに大きな制約のある環境である.通信事業者にとって,これらのインフラストラクチャを最大限に活用することが必要不可欠であり,TCAにより軽量な仮想化技術を活用することが検討されている.これらの軽量仮想化技術は,ネットワーク機能だけでなくXR/AIワークロード*62などに対応するインネットワークコンピューティングにおいても必要とされる可能性がある.リソースの利用効率という観点で必要なだけではなく,通信事業者のネットワーク機能の保護の観点から,異なるテナントに属するアプリケーションコンポーネント間の通信を高レベルで分離し保護するためにも軽量仮想化技術が必要である.
Unikernel*63,Wasm,MicroVMなどはこれらを実現する軽量仮想化技術の方法であり,この技術を使用して仮想化されたアプリケーションのデプロイを容易にするために,NFV Telco Cloudは,既存のVM*64とコンテナ*65用に仕様化されたVNFD(Virtualized Network Function Descriptor)*66とインタフェース仕様を拡張することをめざしている(図6).ETSI GR NFV-EVE 025[4]は,軽量仮想化技術と従来の仮想化技術のトレードオフ(分離,パフォーマンス,起動時間など)を分析し,軽量仮想化技術を用いた新しいアーキテクチャを構築するための技術的な課題を分析している.
(2)サーバレスコンピューティング
サーバレスコンピューティングは,クラウドプロパイダが要求に応じて仮想リソースを提供し実行する形式であり,仮想リソースの作成や運用管理をクラウドプロバイダに移譲する運用形態である.サーバレスコンピューティングモデルに関しては,ETSI GR NFV-EVE 025[4]において,NFV Telco Cloudアーキテクチャに新しい機能部として,ランタイムソフトウェア*67とイメージをオンボードして再利用できるリポジトリ*68が導入されている.NFV Telco Cloudは,軽量仮想化技術ベースのTCAのインスタンス*69化,更新,およびロールバック中にリポジトリを使用でき,必要に応じて強制再起動やロールバックを実行するためにTCAの監視も行っている.
フレームワークにサーバレスアプリケーションを導入するために,NFV Telco Cloudにおいては既存仕様を拡張している.例えば,サーバレスアプリケーションディスクリプタは,既存のVNFDに基づいて構築され,トリガ条件,スケーリングしきい値(デプロイするインスタンスの数を制限する)などが追加できる.なお,サーバレスアプリケーションパッケージは,Wasmベースのアプリケーションのようなランタイムソフトウェアを参照することもできる.
このようにして,NFV Telco Cloudは,適切な実行環境を事前に設定し,リソースプール*70を事前に割り当て,ランタイムソフトウェアとTCAが必要とするソフトウェアやコンポーネントなど依存関係を事前にインストールすることで,高速なデプロイを可能にする.
3.5 RIS
(1)概 要
再構成可能インテリジェントサーフェス(RIS:Reconfigurable Intelligent Surfaces)*71は,6Gにおける無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)*72の進化を支える革新的な技術である.RISは,多数の再構成可能素子*73で構成された受動的あるいは半能動的なサーフェスであり,入射する電波を動的に制御し,反射・屈折・吸収の特性を自在に調整できる.これにより,無線伝搬環境そのものを最適化することが可能となり,以下のような利点が得られる.
・カバレッジ拡張:遮蔽物の多い都市環境や屋内においても,電波を反射・屈折させることで通信範囲を広げられる.
・スループット向上:信号の到達経路を動的に最適化することで,受信品質とデータレートを向上できる.
・エネルギー効率:低消費電力で環境制御が可能であり,ネットワーク全体のエネルギー効率を高める.
・干渉制御:電波を意図的に方向付け,不要な干渉を軽減できる.
(2) RISの抽象化/仮想化とインテントに応じた構成
RISは物理層*74を制御する技術であるが,RISを効果的に活用するためには,再構成可能素子を仮想的なリソースと見立てて管理制御することも必要となるため,NFV Telco Cloudと密接に統合させる必要がある.ETSI GR NFV-EVE 023[2]では,RANを1ホップ*75近くまで拡張する新しい種類のインフラストラクチャとしてRISを導入することを提案しており,RISのオンボーディング*76フローを示している(図7).OSS(Operation Support System)*77はRISをNFV Telco Cloud内の物理リソースインベントリに登録し,物理リソースマネージャはそのインベントリを更新し,Telco Cloud Orchestrationサービスに通知する.これにより,Telco Cloud Orchestrationサービスは,他のリソースプールと同様にRISのアドレスを指定できる.
RISは抽象化/仮想化できるため,クラウドリソースとして扱うことができ,その無線動作(ステアリング,吸収,増幅など)は上位レベルで制御でき,インテントを表現するために使用できる.一方,RISを制御する詳細なパラメータはNFV Telco Cloudによって隠蔽される.
Telco Cloud Infrastructureサービスは,詳細な要求(RISの構成素子制御)ではなく抽象度の高い要求を受け取り,RISコントローラーを介してRISをプログラミングするための具体的なアクションに変換できる.通信事業者はTelco Cloud Platformサービスを活用することで,TCAとRISの関連付けを記録し,リソースの予約やパフォーマンスの監視が可能となる.さらに,ネットワーク条件の変更に応じて,TCAを他のRISに再構成したり再割当てしたりすることもできる.
NFV Telco CloudがRISリソースを仮想化し,ネットワーク機能の一部として扱えるようにすることで,例えば「このエリアで高信頼・低遅延を保証する」といったインテントに応じてRISを動的に構成できる.
3.6 アクセラレータ
通信事業者は,ネットワーク機器の通信速度の向上に合わせてコンピュートの処理速度も向上させている.また,新しいタイプのアプリケーションの需要に対応するために,アクセラレータ(SmartNIC,AIプロセッサ,DPU,FPGA(Field Programmable Gate Array)*78など)をインフラストラクチャに組み込み,Telco Cloud Infrastructureサービスを拡張・進化させようとしている.これらのアクセラレータは,アクセラレーションテクノロジを活用して高性能な処理を実現する.
特にDPU,SmartNIC,FPGAは,Telco Cloud Infrastructureサービスに統合される主要なコンポーネントである.ETSI GR NFV-EVE 023[2]によると,DPUはネットワーク,ストレージ,およびセキュリティタスクをホストCPUからオフロード*79する目的で機能する.一方,SmartNICやFPGAはスイッチやルータなどのネットワーク機能を実現する高機能なNICやカードであり,NFV Telco Cloudが,仮想ネットワーク管理と同様に利用できるようにアクセラレーション機能を抽象化することで,他のリソースと統合的に管理できるようにする必要がある.
3.7 eBPF
Linux OSにおいて,プログラムが動作するメモリ空間は,カーネル空間とユーザ空間に別れており,カーネル空間はメモリ,CPU,ネットワークなどのハードウェアリソースへ完全にアクセスできる一方で,信頼性の最も高いコードのみが実行される.対するユーザ空間は,通常のアプリケーションが動作する領域であり,ハードウェアへのアクセスは制限されている.ユーザ空間で動作するアプリケーションがハードウェアリソースへアクセスするには,カーネルの「システムコール」APIを介して要求を行う必要がある.しかし,開発者は新たな機能を実装するために,より高い柔軟性をOSに求める場合があり,eBPF(extended Berkeley Packet Filter)はこの要求に応える新たなメカニズムとして登場した.
eBPFは,カーネル空間でバイトコード*80をロード・実行することを可能にすることでこの柔軟性を提供した.Linuxカーネルモジュール(LKM(Loadable Kernel Module))も同様の柔軟性を提供し得るが,カーネルのリビジョン更新*81ごとに適応が必要であり,互換性の破綻やカーネルクラッシュを引き起こす可能性があるため,維持管理が困難である.eBPFは,カーネルバージョン間での移植性を有するため,こうしたカーネルクラッシュや非互換性のリスクを低減する.
eBPFの動作においては,プログラムはまずLLVM(Low Level VM)などのツールを用いて記述・コンパイルされる.カーネルへロードされる際,検証器(verifier)がプログラムの安全な実行を保証し,問題があれば拒否する.この検証は,仮想マシン内でeBPFプログラムを実行し,その実行パスをトレースすることでカーネルクラッシュを引き起こす問題がないことを確認する一連のチェックによって行われる.検証通過後,eBPFプログラムは,JIT(Just-in-Time)コンパイルによりマシン固有の命令セットへ変換され,システムコール,ネットワークイベントなどの特定のイベントによりトリガされるフックポイント*82に付加される.状態の記録やユーザ空間アプリケーションとのデータ連携には,キー・値ペアによる「マップ」が用いられ,マップへのデータ保存・取得にはカーネルが定義する「ヘルパー関数」が利用される.
eBPF技術は,Telco CloudにおけるTCA導入を促進するためにも活用が期待される.主な適用例として,以下の2点が挙げられる.
①ネットワーク機能関連処理への適用:TCAが配置されるユーザ空間へのパケット転送は,仮想化技術に応じて多大なオーバヘッドを伴う.eBPFを用いることで,ネットワークインタフェースに直接紐付けられ,パケットを受信・前処理を行うプログラムとしてTCAの一部をカーネル内に配置でき,この課題の克服に寄与する.
②可観測性(Observability)への適用:eBPF以前,Kubernetesの可観測性・セキュリティツールでは,監視対象のPod*83ごとにサイドカーコンテナ*84をデプロイするモデルが用いられていた.より効率的な手法として,Podが必要とする可観測性機能を単一のeBPFベースに統合し,カーネル内で動作させることで,サイドカー利用に伴う追加リソース消費を抑制できる.
3.8 DetNet
6Gネットワークにおいては,従来の「ベストエフォート型通信」では対応できない,新しい種類のサービスが増加している.その代表例として,産業用オートメーション,遠隔手術,自動運転,XRなどが挙げられる.これらのユースケースは,遅延,ジッタ*85,パケット損失率といった通信品質に関して極めて厳格な保証を必要とする.このような要件に応えるために,DetNetの概念が不可欠となる.
ETSI GR NFV-EVE 024[5]によれば,DetNetは,IPネットワーク上で遅延などの時間が予測可能かつ保証された転送を実現するための仕組みであり,IEEE TSN(Time-Sensitive Networking)*86とIETF DetNet作業部会で標準化が進められている.これにより,エンド・ツー・エンドでレイテンシやジッタを制御可能とし,信頼性の高いデータ配送を保証している.
6G時代ではTelco CloudにDetNetを統合することで,以下の利点が得られる.
・ミッションクリティカル*87通信の保証:遠隔操作や産業制御などの遅延が許されない通信において必要とされるURLLCをエンド・ツー・エンドで各ネットワーク機器に低遅延となるネットワーク設定をきめ細やかに投入することで実現する.
・アプリケーションごとのQoSプロファイル*88割当て:各種サービスに異なるQoS要件を割り当て(例:自動運転とXR配信のように異なる通信要件の装置に異なるQoSを割り当てる),それぞれに適した経路を動的に確保する.
・仮想化インフラとの統合:NFVオーケストレーション機能と連携し,仮想化リソース上でもDetNetの要件を満たす.
DetNetは,ネットワークトポロジ,フロー管理,スケジューリングを高度に制御する必要があるため,Telco Cloud Orchestrationサービスはこれらネットワーク制御を実現する新しい制御プレーン*89機能を備えることが求められる.例えば,通信事業者は「アプリケーションAに対してエンド・ツー・エンドでレイテンシ5ms以下を保証する」といったインテントを宣言的に指定し,Telco Cloud Orchestrationサービスはこれを解釈し,DetNet対応のパスを設定し,ネットワークリソースを適切に割り当てるなどの制御方法が検討されている.
DetNetの導入により,6Gネットワークは従来の「ベストエフォート型」の枠を超え,完全に保証された通信を提供できるようになる.これは,6Gが産業社会や生活基盤など重要なインフラを担う上で不可欠な特性である.
- NFVI:ETSI NFVで定義された,VNFが展開される環境を構築するすべてのハードウェアおよびソフトウェアコンポーネント(*55参照)の総称.クラウドプラットフォームを構成する汎用サーバ,ストレージデバイス,ネットワークデバイス,およびそれらの物理リソースを仮想化(*31参照)するための仮想化レイヤ上のソフトウェアの総称.
- SmartNIC:スイッチやルータなどのネットワーク処理の一部または全部をオフロード(*79参照)する専用のプロセッサを搭載したネットワークインタフェースカード.
- メタサーフェス:波長に対して小さい構造体を周期配置して任意の誘電率・透磁率を実現する人工媒質(メタマテリアル)の一種で,構造体の周期配置を2次元とした人工表面技術.
- クラウド・ハイパースケーラ:AWS(Amazon Web Services),Microsoft Azure,GCP(Google Cloud Platform)など,巨大なサーバリソースをもち,グローバルに超大規模なクラウドサービスを提供する企業群によって提供されるクラウド.
- サーバレスアプリケーション:ハイパースケーラなどのクラウド提供者がアプリケーションを実行するリソースの構築や運用を行い,開発者がサーバの構築・運用・管理を意識せずコードの実行とアプリケーション開発に集中できる仕組み.
- Wasm:もともとはWebブラウザ上でネイティブアプリに近い速さで高速にプログラムを実行するためのバイナリ形式(命令セット)の仕様であり,現在では実行環境を準備することでサーバサイドなどでも利用されるようになっている.
- MicroVM:従来のVM(*64参照)では仮想的なハードウェアをエミュレートしOSやアプリケーションを含む巨大なサイズのファイルを扱っていたが,それを改善し,コンテナ(*65参照)のように軽量で高速に起動しつつ,従来のVM(*64参照)と同等の強力な分離・セキュリティを提供する仮想化(*31参照)技術.
- 仮想化:CPUやメモリなどのハードウェアリソースをソフトウェアによって論理的に分割するか,または,それらの動作を再現することで,仮想的な計算機環境やハードウェアリソースを作り出す技術.仮想化により物理リソースを論理的に分けて利用することができる.
- 拡張現実(XR):ウェアラブル端末などを用いて,現実と仮想の環境が融合する体験を提供する技術の総称.
- ホログラフィック通信:離れた場所にいる相手の立体映像をリアルに再現する遠隔コミュニケーション方法.
- AI/ML:モデルを用いて推論すること,および,推論に用いるモデルを機械学習により生成すること.
- コンピュート:仮想化基盤において計算資源を提供するマシンであり,サーバなどのこと.
- GPU:並列的な計算処理に優れたプロセッサ.並列計算を要する深層学習と相性が良い.
- DPU:ネットワーク・ストレージ・セキュリティ処理をCPUからオフロード(*79参照)するプロセッサ.機器の共通化や高速化のために次世代のデータセンタ向けのプロセッサとして期待されている.
- アクセラレータ:コンピュータ(CPU)や画像表示などの処理性能を向上させるための周辺機器や付加装置のこと.本稿では,通信用CPUの処理速度を向上させるために追加したLSIをいう.
- データストリーム:MIMO伝送などの並列伝送を行う場合の個々のデータ系列.例えば,2×2MIMO適用時の最大データストリーム数は2となる.
- スケーリング:通信ソフトウェアを構成するVM(*64参照)の処理能力がハードウェアやVMの負荷状況に応じて不足または過大になった場合に,そのVMを増減させて処理能力を最適化すること.
- Closed-loop:運用の自動化の仕組みであり,人手を介することなく,ネットワークや装置の状態変更に対して対処を行い,ネットワークや装置を自動で制御し続ける仕組み.
- オンプレミス:企業がシステムを構成するハードウェアを自社で保有し,自社で保守運用すること.
- プライベートクラウド:企業・組織が社内でクラウド環境を構築し,社内の各部署やグループ会社に提供するクラウド形態を指す.一方利用・提供する人の範囲が限定されず,オープンに提供されるクラウドサービスはパブリッククラウド(*44参照)と呼ばれる.
- パブリッククラウド:企業や個人など不特定多数のユーザが利用できるクラウドコンピューティングサービス.
- デプロイ:アプリケーションとその実行環境を配置・展開し,利用可能な状態にすること.
- 相互運用:複数のサブシステム・装置・機能部などが,標準化やデファクトなどの決められた仕様やインタフェースによって接続し,システム全体として正しく動作すること.モバイルネットワークにおいては,さまざまなベンダの製品やソリューションを組み合わせて呼処理機能部,保守機能部,仮想化基盤などが3GPPやETSI ISG NFVによって規定された仕様に準拠し接続することで,特定のサブシステム・装置・機能部間やモバイルネットワーク全体が機能することを意味する.
- 標準参照点:標準化で規定された特定の機能部間のAPIやインタフェースのこと.
- ETSI:欧州電気通信標準化機構のこと.
- プロファイリング:新規に仕様を規定するのではなく既存の仕様を再利用し,規定されたユースケースや情報フローの実現のために,各仕様のパラメータの使い方を規定し最適化する仕様化の方法.既存仕様を再利用することで多様な装置を再利用できるようになり相互接続性が高くなる.
- フェイルオーバー:システムに障害が発生した際に自動的に冗長化された待機システムに切り替える仕組み.
- トランスポートネットワーク:無線アクセスネットワーク(*72参照)とコアネットワークを接続するネットワーク.または,それぞれのネットワーク内の装置間を接続するネットワーク.
- インスタンシエーション:VM(*64参照)やコンテナ(*65参照),軽量仮想化技術によって動作する通信アプリケーションを生成することを意味する.物理マシンへのVMやコンテナ,軽量仮想化技術のインストール,仮想ネットワーク設定,VMやコンテナ,軽量仮想化技術の起動,その他各種設定の投入を経てソフトウェアが起動され,利用できる状態にする一連の動作を指す.
- 無人航空機(UAV):ドローンなどのように人間が搭乗せずに遠隔操作や自動プログラムで飛行する航空機の総称.
- 高高度プラットフォーム(HAPS):地上約20kmなどの成層圏に位置し,地表から見て静止または旋回する飛行体.人工衛星のように通信局としての運用が期待される.低高度であることから,片道伝搬時間0.1ms程度の低遅延性や端末直接通信の容易さが利点として挙げられる.
- コンポーネント:システムを構成する部品.NFVにおいてはNFVO(NFV Orchestrator),VNFM(VNF Manager),VIM(Virtual Infrastructure Manager),CISM(Cloud Infrastructure and Service Management),VNFなどの各機能部のことを指したり,VNFの中のVNFC(VNF Component)を指したりすることがある.
- ゲートウェイ:プロトコル変換やデータの中継機能などを有し,デバイス間の通信を可能にする中継デバイスやノード機能.
- ペイロードプロセッサ:衛星に搭載された観測データや通信データを処理・管理するコンピュータシステム.
- ハンドオーバ:通信中の端末が,移動に伴い基地局やセルをまたがる際,通信を継続させながら基地局を切り替える技術.
- QoS:ネットワークにおいて,パケットにマーキングして優先的に処理するなどの方法により,通信品質を適切に管理するための技術.音声通話などにおいて通話が途切れないようにデータ転送よりも優先するなどの処理を行う.
- ディスクリプタ:仮想化においては,アプリケーションが動作するために必要なリソースや運用方法などを特定の仕様に基づいて記述したテンプレート.NFVにおいてはTCAを動作させるために必要な情報が記載されている.
- フォールトトレラント:障害が発生してもシステム全体が停止せず,機能を維持できる能力.
- ワークロード:CPU使用率などのシステムの負荷の大きさを表す指標.特にパブリッククラウドの分野では,クラウド上で実行されるOSやアプリケーションコードなどを含めたシステム自体を表すこともある.本稿では後者の意味で用いる.
- Unikernel:特定のアプリケーションの実行に必要な最小限のOS機能だけを組み合わせて1つの仮想マシンイメージにしたアプリケーションとOSが一体化した軽量仮想化技術.不要な機能が排除されることで,高速な起動,低メモリ使用量,セキュリティリスクの向上が可能となる.
- VM:物理計算機の内部にソフトウェアによって仮想的に構築された計算機.
- コンテナ:ホストOS上に専用領域(コンテナ)を作成し,その中で必要なアプリケーションソフトウェアを動作させるコンピュータ仮想化技術.
- VNFD:VNFの機能や振舞いを定義するテンプレート.
- ランタイムソフトウェア:コンテナや軽量仮想化技術を実行するためのソフトウェア実行環境.
- リポジトリ:コンテナや軽量仮想化技術で実行するソフトウェアが管理されたファイルサーバやバージョン管理システム.
- インスタンス:生成されたVMやコンテナのようなソフトウェアが動作する実態のこと.VMやコンテナをハードウェアにインストールし,仮想ネットワークの設定を行い,VMやコンテナを起動してそこにソフトウェアを起動し,各種設定を行って使用可能となった状態を指す.
- リソースプール:大量のハードウェアを束ねて,それぞれのハードウェアが保持するリソース(CPU/メモリ/HDDなど)の集合体としたものであり,これを基にさまざまな仮想マシンが作成可能となる.
- 再構成可能インテリジェントサーフェス(RIS):メタマテリアルと呼ばれる波長に対して微小な構造体を平面的に配置し,反射波の方向やビーム形状を任意に設計できる反射板.
- 無線アクセスネットワーク(RAN):コアネットワークと移動端末の間に無線基地局などを配置し,無線レイヤを制御するネットワーク.
- 再構成可能素子:使用する状況や目的に応じて,その機能や回路構成を後から自由に変更できる素子.ここでは電波の反射方向を制御するRISに利用されている.
- 物理層:仮想化において,実際のサーバやネットワーク機器などのハードウェアのこと.
- ホップ:グラフ内のノード間の関係を辿る際のステップ数を表す用語.具体的には,あるノードから別のノードに到達するために経由するエッジ(関係性)の数.
- オンボーディング:非制御対象を新規に導入した場合に実際にその非制御対象が制御可能な状態になるように準備すること.本ケースではRISが制御可能になるように各システムに各種設定を行うこと.
- OSS:移動体通信ネットワークの障害や輻輳を発見し,制御や対策を行う事業者向けの運用支援システム.OSSは,通信事業者が提供するサービスを利用できるように,ネットワークやシステムの障害管理,構成管理,課金管理,性能管理,セキュリティ管理などを行う.
- FPGA:アレー状に並んだセルと配線用素子で構成されている書換え可能で,論理回路を自由に設計することができる大規模集積回路.
- オフロード:システムやサービス,ネットワークの処理をアクセラレータに振り分け本来の処理を軽減すること.
- バイトコード:ソースコードとマシン語の中間の位置づけで実行可能な中間コード.マシン語と比較して高い安全性を保ちつつ,スクリプトと比較して高速に処理できる.
- リビジョン更新:バグ修正や性能改善などのソフトウェアの細かい修正を行うこと.バージョン更新が大規模な変更に対して,リビジョン更新は同一バージョン内での微調整が主な更新内容であり,更新履歴を管理することで,いつでも以前の状態に復元したり,変更内容を追跡したりすることが可能である.
- フックポイント:パケットを受け取ったときやシステムコールが呼ばれたときなど,さまざまなイベントが発生したときに,eBPFを動作させるトリガとなるポイント.
- Pod:主にKubernetesで使われる,1つ以上のコンテナとそのリソースをまとめた最小の実行単位.
- サイドカーコンテナ:Podの中でメインとなるコンテナに対して補助的な役割を担うコンテナであり,同じPod内で動作することで特定の機能を提供するコンテナ.Istioの場合,サイドカーコンテナとしてEnvoyプロキシを挿入することで,通信の送受信をサイドカーコンテナで実現している.
- ジッタ:信号などにおける,遅延時間の揺らぎ,時間軸方向のずれのこと.
- IEEE TSN:遅延やジッタの許容値を超えずに配送されることが要求されるデータストリームを扱うためにIEEEで規定された一連の規格,あるいは,それらを基に構築されるネットワーク.
- ミッションクリティカル:サービスを継続的に提供できることが極めて重要であり,障害などによる中断が許されない,あるいは非常に大きな損害になり得るシステムを指す.
- プロファイル:特定の機能やサービスを実現するために必要な設定の集合.
- 制御プレーン:サービスを実現するために各種装置を制御する処理の総称.ここではNFV Telco Cloud内における制御フローを指す.
04. 未来のインフラストラクチャの姿
6Gの進化は,単なる通信速度や帯域幅の拡張にとどまらず,物理・デジタル・生物の各領域をシームレスに統合し,AIによる知識の共有や没入型のサービスが実現できる通信環境を目標としている.Release 6[3]で定義された新しいTelco Cloudアーキテクチャは,通信事業者が次のことを可能にすることで,このビジョンを実現する上で重要な役割を果たす.
・インテリジェントな配置決定とエンド・ツー・エンドのLCMのために,NTNのモビリティとダイナミックに変更されるトポロジを運用管理することで,NTNによって提供される高度に分散されたインフラストラクチャを管理する.
・各シナリオに最適な仮想化形式(各種脅威に対するセキュリティの向上,DetNetの実現,高速処理,サーバレスアプリケーションなど)を使用して仮想化されたTCAの管理をサポートすることで,仮想化レイヤを拡張する.
・RISなどのリソースを使用して無線伝搬環境を動的に形成する.RISは,サービスのデプロイと最適化のためにコンピューティングとネットワーキングとともに動作する管理対象リソースとして扱われる.
・TCA間およびサイト間リンクのDetNetのサポートを有効にすることで,新世代のアプリケーションの厳しい遅延要件に対応する.
・プライベートおよびパブリックのクラウドリソースを一緒に使用して,高速な展開,動的なスケーリング,サイト間での高速フェイルオーバーを実行することで,ネットワークの回復性を向上させる.
・SmartNIC,GPU,DPU,およびFPGAの機能を抽象化することで,Telco Cloud Infrastructureサービスの一部として管理できる.
05. あとがき
本稿では,6Gに向けたNFV Telco Cloudの進化として検討されている新しい技術と,それに伴って想定される運用形態の変化について解説した.
これらの技術は,Telco Cloudを単なる通信基盤から,知的で自己最適化可能な未来のインフラストラクチャへと進化させる.
6Gに向けたNFVとTelco Cloudの発展は,事業者に新しい収益機会と運用効率を提供するだけでなく,社会全体に安全で持続可能な通信環境をもたらすものである.今後も6Gに向けてNFVは,「人と環境に真に寄り添う通信プラットフォーム」を目標にTelco Cloudを進化させていく予定である.
文献
- [1] ITU-R IMT-2030:“IMT towards 2030 and beyond (IMT-2030).”
- [2] ETSI GR NFV-EVE 023 V6.1.1:“Network Functions Virtualisation (NFV) Release 6; Evolution and Ecosystem; Report on new infrastructure resources for NFV,”Sep. 2025.
- [3] ETSI GR NFV-IFA 054 V6.1.2 draft:“Network Functions Virtualisation (NFV) Release 6; Architecture; Report on architectural support for NFV evolution,”Jun. 2025.
- [4] ETSI GR NFV-EVE 025 V0.0.9 draft:“Network Functions Virtualisation (NFV) Release 6; Evolution and Ecosystem; Report on Serverless and other application virtualization forms in NFV,”Aug. 2025.
- [5] ETSI GR NFV-EVE 024 V0.0.7 draft:“Network Functions Virtualisation (NFV) Release 6; Evolution and Ecosystem; Report on latency aspects and new communication technologies for NFV,”Jul. 2025.