テレマーケティングにおける架電タイミング最適化技術
- #データ/AI活用
周 成(しゅう せい)
劉 冠吟(りゅう かんぎん)
サービスイノベーション部
尾﨑 諒介(おざき りょうすけ)
プロダクト戦略部
あらまし
近年,インターネット広告をはじめ,顧客との接点が多様化してきている.しかしながら,顧客へのテレマーケティングは依然として重要な手段であり,その効果を最大化するためには,特に最適なタイミングで顧客に電話をすることが望まれる.そこでドコモは,顧客の在宅状況などを推定し,電話に出やすいタイミングを特定する「架電タイミング最適化技術」を開発した.本技術により,顧客の受電率が高くなる最適なタイミングで架電することで,商品・サービスの案内が可能となり,顧客満足度の向上とともに,テレマーケティングの機会損失の削減に繋げることが可能となる.
01.まえがき
近年,インターネット広告の普及に伴い,顧客との接点が多様化してきている.しかしながら,現状においても電話営業(以下,テレマーケティング*1)は,依然として重要な役割を果たしている.メールやアプリなどの一方的な広告配信に比べ,対人による双方向のコミュニケーションであるため,顧客の反応をそのまま把握することが可能であり,サービス品質や応対のPDCA(Plan-Do-Check-Act)*2を加速できる.このように顧客との接点の多様化が進む中でも,テレマーケティングは顧客との接点を有効活用するために欠かせない手段となっている.
ただし,テレマーケティングには課題が存在する.主な課題として,最適なタイミングで顧客に架電することの難しさが挙げられる.例えば,顧客が移動中や仕事中など,電話に出にくい状況にある場合,突然の電話は顧客に不快感を与えかねない.さらに,何度も電話をかけることで顧客が電話に出る確率(以下,受電*3率)が減り,営業機会の損失に繋がる.
そこでドコモは,顧客の在宅状況などを推定し,電話に出やすいタイミングを特定する「架電タイミング最適化技術」を開発した.本技術により,顧客の受電率が高くなる最適なタイミングで架電し,商品・サービスの案内を効果的に行うことが可能となり,顧客満足度*4の向上とテレマーケティングの機会損失の削減に繋げることが可能となる.
本稿では,開発した架電タイミング最適化技術について解説する.
- テレマーケティング:電話を用いたダイレクトマーケティングの手法.
- PDCA:計画・実行・評価・改善を繰り返すことで,目標達成をめざすサイクル.
- 受電:電話を受ける行為.
- 顧客満足度:顧客が購入した商品やサービスについて,どれだけ満足しているかを示す指標.
02.架電タイミング最適化技術
本技術の目的は,最適なタイミングで顧客にテレマーケティングを行うことにより,受電率を高めることである.
これを達成するために,日常の活動パターンから顧客の在宅状況を推定する.在宅状況を推定する理由は,顧客が自宅にいる場合に受電率が高くなるためである.多くの人は外出時には電話に出づらく,忙しい時間帯には対応できない可能性が高い.
さらに,オペレータ*5の過去の架電履歴*6も活用することにより,各曜日・時間帯での受電状況から電話を受ける可能性が最も高いタイミングを高い精度で推定する.
顧客の在宅状況や日常の活動パターンの予測には,docomo Sense[1]が提供している滞留点*7推定結果(行動履歴)を活用している.滞留点推定では,位置情報利用の同意がある顧客を対象に,顧客が滞在した場所・時間(滞留点情報)を推定することが可能である.架電タイミング最適化技術では,顧客ごとの滞留点情報から自宅に滞在する日時のパターンを特定し,曜日や時間帯ごとの自宅滞在確率*8を推定している.自宅滞在確率は,直近1カ月間に顧客が各タイミングで自宅に滞在した頻度をカウントすることで算出される.例えば,ある顧客が7月の1カ月間で,月曜日の8時台に4回の行動パターンが観測され,そのうち2回が自宅滞在であった場合,その曜日と時間帯の自宅滞在確率は50%となる(図1).
また,オペレータの過去の架電履歴を用いて,曜日や時間帯ごとの受電確率を算出している.受電確率は,ある特定の時間帯において,オペレータがかけた電話のうち,顧客が実際に応答した割合である.ただし,顧客単位での架電履歴は少数であり,曜日や時間帯ごとの受電確率を正確に算出することが困難であるため,全顧客の集計データから,顧客ごとの確率ではなく全顧客の受電確率を算出している.図2に示すとおり,曜日や時間帯によって受電確率が大きく異なることが分かる.
上記で述べた自宅滞在確率と受電確率を平均してスコア化したもの(タイミングスコア)が,各曜日・時間帯での顧客の受電確率となる.このスコアを参照することにより,電話を受ける可能性が最も高いタイミングを予測することができる(図3).
- オペレータ:テレマーケティングの電話を通じて顧客対応を行う担当者.
- 架電履歴:テレマーケティングを実施した履歴.
- 滞留点:物や人が一時的に留まっている場所や位置.
- 自宅滞在確率:顧客が自宅にいる確率.
03.有効性の検証
本技術の有効性を検証するために,実際の架電によるA/Bテスト*9を実施した.評価は,一律にタイミングを決めて架電する従来手法と,本技術で提供する,電話を受ける可能性が最も高いタイミングで架電する提案手法のそれぞれにおいて,受電率および通話時間の2つの評価指標*10に基づいて行われた.その結果,提案手法では,受電率が従来の1.6倍に改善された.また顧客との通話時間も従来の1.32倍に延びたことで,より多くの情報提供が可能となり,サービスの説明を充実させる機会が増えた(図4).
これらの結果は,最適な架電タイミングを選定することが,顧客とのコミュニケーションにおいて効果的であることを示している.これは,顧客が落ち着いた環境で電話を受けることができ,通話時間を確保することができたためと考えられる.これにより,顧客満足度の向上につながり,また,テレマーケティングの機会損失の削減に繋がることが期待できる.
- A/Bテスト:2つの異なる方法やデザインを比較して,どちらがより優れているかを判断するための実験方法.
- 評価指標:物事の良し悪しを数値で表すための尺度.
04.あとがき
本稿では,架電タイミング最適化技術の概要やその有効性について解説した.本技術は,テレマーケティングにおける受電率の向上と通話時間の延長を実現することで,顧客とのコミュニケーションを円滑にし,顧客満足度を向上させることが可能である.さらに,受電率を高めることで,テレマーケティングの機会損失の削減に繋げ,結果としてオペレータの稼動効率を向上できる.今後,本技術の精度をさらに向上させ,より最適な顧客体験の提供に繋げていく予定である.
文献
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[1] NTTドコモ:“顧客理解エンジン「docomo Sense」.”https://ssw.web.docomo.ne.jp/marketing/strengths/sense/