コラム:イノベーション創発への挑戦

日米で異なるデジタルとAIへの理解度

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あなたの会社の社長が「2017年度はデジタルに取り組む」と新年度の方針発表で述べたら、どう理解するだろうか。

日本企業の多くの従業員の理解は「紙の会議資料がなくなって決済処理も電子化だな」とか「部門別管理会計では満足せずプロダクト別管理会計も導入するのかな」といったレベルだろう。

では「人工知能(AI)で当社を変革する」と言ったら、どう理解するだろうか。「当社の受付がロボットになる」そして「業務の多くがコンピューターに置き換わる」という類にならないか。

最近、デジタルとAIという2つの言葉の理解が米国と日本でズレていると感じる。そして、そのズレが日本にとってはかなりマズイ状況になっている。

日本では、デジタルと聞くと業務の電子化やIT(情報技術)化だと感じるだろう。米国においては、デジタルの意味はもっと深い。顧客接点の変化に対応できるように組織をIT化し、その上で顧客利用を観測し、その満足度を最大化できるように従来の商売のやり方や営業基盤を変えるという響きをもつ。AIはデジタルを支える自律化、最適化のための技術であると認知されている。

消費者と企業との接点は、店頭やマスメディアから離れ、スマートフォン上の人気サービスに移ろうとしている。消費者がどのように承認と企業ブランドを認知し、関心を持ち、購入に至るかの行程が変化している。

企業間取引も製品納入からサービス提供に変換しつつある。顧客企業を製品ではなく、ITによる機能提供で満足させるという戦略転換が注視されている。

  • デジタルの意味とそれがもたらす変革

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    例を示そう。米ドミノ・ピザは15年にデジタルにかじを切り、本社ビルに勤務する従業員700人のうち、300人がエンジニアとなった。注文方法充実化や発注データ解析による営業効率化を推進、売り上げはライバル企業を上回っている。音声を認識するAIを採り入れ、17種類の注文方法に対応している。今後も技術の経営を続けると宣言している。

    米IT大手、シスコシステムズのジョン・チェンバース会長は昨年の2016年にこう述べた。

    「デジタルでない企業は退場させられる。5000億個の機器から得られるデータの活用基盤を作るのは難しくない。難しいのは、この基盤を使って顧客がどのように利益をあげられるかということを常に考える企業文化に変えることである。当社はそのための組織を実現するために、機器販売の41%の営業担当を変更し、経営陣もこの2年で40%も変わった」

    米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)の2016年の投資家向け事業活動報告はもっと強烈だ。

    「GEは社内のIT部門を刷新した。ビジネス部門ごとにITを構築する形から、共通の基盤を中心にするという考え方だ。ここ最近でGEが学んだことがある。それは、企業が行い、現在も続いているIT業務のアウトソーシングは、今日においては負け犬の戦略であるということだ」

    「今後、GEの新入社員は全員、コーディング(プログラムを書く作業)を学ぶことになる。社員全員がソフトウェアを書く(プログラミングする)ことになるとは考えていないが、社員全員がこのデジタルの世界で何ができるようになるのかを理解することは欠かせない」

    AIという言葉が世界的ブームだと考えて漠然と予算処置をとった科学技術振興や企業の研究開発は危うい。デジタルの意味を正しく理解すればAIはブームではなく必然だと分かる。

    ぜひ職場で議論してほしい。「デジタルの意味は何か。その世界で何ができるようになるのか」

ドコモのイノベーション創発を牽引してきた栄藤氏による2017年4月20日の日経産業新聞「Smart Times」を翻案したものです。

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