3.2 ユーザスループット・容量増大のための新技術

「LTE-Advanced Release 13標準化技術概要」目次

3GPPではユーザスループット・容量増大のための新技術を策定している。Release 13仕様での新たな特徴の1つは、アンライセンスバンドを活用する技術が策定されたことである。

  1. LAA

    近年、データ通信量の急増により事業者専用に割り当てられた周波数(ライセンスバンド)がひっ迫しつつある。通信事業者の中には、無線局免許が不要な周波数帯(アンライセンスバンド)を用いて、ライセンスバンドがひっ迫しているエリア周辺でデータオフロードにより品質改善に取り組んでいるところもある。そこで、アンライセンスバンドを用いた容量改善の需要に応えるため、3GPPでは、5GHz帯のアンライセンスバンドを従来のライセンスバンドと組み合わせてCAの下りリンク専用SCell(Secondary Cell)※13として利用し、それらの同時通信を行うなど、上記オフロード技術と比較してアンライセンスバンドのさらなる有効活用を促すLAA(Licensed-Assisted Access)技術が策定された。さらに、既存の無線LANや他オペレータLAAなど、他システムと同一周波数上で公平に共存するための技術検討を行ったうえで、Listen-Before-Talk※14に基づくチャネルアクセス技術や、アンライセンス周波数上で効率的なデータ送受信を行うための信号構成などが策定されている。なお、Release 14では、アンライセンスバンドをLTE CAの上下リンク両方でSCellとして利用するための策定検討が行われており、さらなる機能拡張が期待される。

  2. LWA

    アンライセンスバンドを用いたユーザスループット・容量増大技術として、LTEと無線LANの無線を束ねるLTE-WLAN Aggregation(LWA)が策定された。通信事業者の中には、無線LAN経由のインターネット接続を提供しており、すでに設置された無線LANアクセスポイント※15を利活用して高速化を図る。LWAは、LTE基地局と無線LANアクセスポイントが物理的に異なる装置の場合、および同じ装置内に実装された場合の両方のシナリオに対応している。

  3. CA高度化
    1. LTEキャリア数の上限拡張

      LTEキャリアを最大5つ束ねて同時通信を可能にするCA機能は、Release 10で初めて策定され、Release 12に至るまでさまざまな高度化が行われてきたが、キャリア数の上限は5のままであった。一方、各周波数帯の組合せごとに規定されるCAの、実際のLTEキャリア数がその上限に近づいていったことや、前述のLAAで、100MHz超の周波数帯域が利用可能な5GHzアンライセンスバンドの利用を想定していたことなどを背景に、CAで同時利用可能なLTEキャリア数を拡張し、より高いピークデータレートを達成できるようにすることが求められていた。これを受け、Release 13では同時利用可能なLTEキャリア数の上限を32まで拡張することとなった。

    2. PUCCHの新規フォーマット規定と新機能導入

      従来のCAでは、上り制御信号をPCell(Primary Cell)※16のみで基地局に送信できたが、同時利用可能なLTEキャリア数の増大に伴い、PCellが扱う上り制御信号の増大が課題として挙げられた。これを解決するため、大容量の上り制御信号を収容できる新規PUCCH(Physical Uplink Control CHannel)※17フォーマットなどが策定された。また、PUCCHペイロード※18を拡張するだけではPCellへ負荷が集中することを考慮し、負荷分散も踏まえたソリューションとして、PUCCHをSCell上で送信できる機能も併せて導入された。本機能は、CA時に利用するLTEキャリア数にかかわらず適用できる汎用的な機能であり、LTEキャリア数が今以上に増大した時だけでなく、マクロセル※19のエリアにスモールセル※20を重畳したヘテロジニアスネットワーク※21でのCAの品質向上への貢献にも期待ができる。

  4. DC高度化

    異なる2つの基地局から同じQoS(Quality of Service)が要求されるデータを同時に受信する、DC(Dual Connectivity)がRelease 12仕様で策定されたが、下りデータのみ同時受信に対応していたため、Release 13では上りデータにおいても異なる2つの基地局に同時送信する仕様が策定された。また、基地局間で時刻同期をしていない非同期DC運用において、基地局間のSFN(System Frame Number)※22および無線サブフレーム※23単位で局間誤差を端末から報告させる仕組みを実現した。Release 12では、ネットワーク側で局間誤差を何らかの仕組みで把握することを前提としていたが、Release 13で端末から報告させる新たな仕組みが導入されたことにより、ネットワーク側で計測することなく、局間誤差を把握することができる。

  5. AAS

    基地局において、無線信号の送受信機能とアンテナを一体化させたAAS(Active Antenna System)の仕様検討は、実現性検討(Study Item:Release 11xA訓2)、仕様検討(Work Item:Release 12xA訓3)を経て、Release 13にてRF(Radio Frequency)※24仕様策定が完了した。AASでは、装置の小型化のほか、送受信機能—アンテナ間の同軸ケーブルが不要となることで、ケーブル損失低減による電力効率の向上が期待される。

    • (a)運用観点における特徴

      運用観点では、複数アンテナ間での信号振幅・位相を調整することにより、メインビーム方向を水平/垂直方向に変更することができ、より柔軟なエリア構築が可能となる。さらに、メインビーム方向の異なるマルチビームを形成することで、同一装置で複数セルのエリア化が可能となる。

    • (b)仕様観点における特徴

      仕様観点では、従来の基地局向けのRF仕様とAAS向けのRF仕様では、以下の2点が大きく異なる。

      1. 規定点※25の違い:従来仕様では1つであり、送受信機能とアンテナの境界点であるコネクタを規定点としていた。一方AAS仕様では、2つの規定点が設けられている。1つめは、コネクタ(AAS仕様ではTABコネクタ(Transceiver Array Boundary Connector)と呼ぶ)である。2つめは、アンテナからの電波放射空間上に設けた規定点である。ただし後者の適用は一部特性に限られ、またそれを用いた仕様では、アンテナの放射特性も含めた規定(以下、OTA(Over The Air)※26規定)が制定され、アンテナも含めた基地局トータルでの特性評価が可能となっている。
      2. conducted規定(送受信機能部からアンテナへの入出力信号の特性規定)での規定単位の違い:従来は1コネクタ当りで無線特性規格を規定していたのに対して、AASでは1TABコネクタ当りの規定に加え、一部規格では複数TABコネクタ総和での規定も存在する。
        さらにRelease 14ではすべてのAAS RF規定をOTAで規定するWork Itemの議論が開始されており、基地局トータルの特性担保や試験の簡素化などが期待される。
  6. EBF/FD-MIMO

    AAS技術の進歩に従って、MIMO(Multiple Input Multiple Output)※27送信アンテナ数増大や、アンテナ・RF回路の校正精度の向上がより改善されている。Release 13仕様では、基地局において最大16のアンテナを水平および垂直方向に平面配置した状態を想定し、水平および垂直方向のプリコーディング制御を実現する技術(EBF/FD-MIMO:Elevation Beam Forming/Full Dimension-MIMO)を策定した。この技術は、形成されるビームの指向性※28が直交座標系内で3次元に制御されるため、3次元プリコーディングなどと呼ばれる。加えて、MU(Multi User)-MIMO※29伝送における同時多重レイヤ数の増大や、TDD(Time Division Duplex)※30システム運用を想定した、上り伝搬路推定用の参照信号の容量拡大技術などが策定された。

  7. 上り干渉抑圧合成受信器

    Release 13では上りリンクにおいても、受信機に搭載されている複数の受信アンテナを用いて、隣接セルからの干渉波到来方向に対してアンテナ利得の落込み点を向けることで、干渉電力を抑圧し受信品質を改善する技術が策定されている。

  1. SCell:CAにおいてPCellに加えて無線リソースを提供するセル。
  2. Listen-Before-Talk:端末がデータを無線上で送信する前に、他の端末がデータ送信を行っていないかを事前に確認する仕組み。
  3. 無線LANアクセスポイント:無線LAN端末がネットワークに参加するために接続する管理ノード。接続した配下の端末の通信を仲介する。携帯電話における基地局に相当する。
  4. PCell:CAにおいてUE-NW間の接続性を担保するセル。
  5. PUCCH:上りリンクで制御信号を送受信するために用いる物理チャネル。
  6. ペイロード:通信データのうち、ヘッダなどを除いた本来通信したいデータ本体。
  7. マクロセル:主に屋外をカバーする半径数百メートルから数十キロメートルの通信可能エリア。通常、鉄塔上やビルの屋上などにアンテナが設置される。
  8. スモールセル:送信電力が大きいマクロセルと比較して送信電力が小さいセルの総称。
  9. ヘテロジニアスネットワーク:電力の違うノードがオーバレイするネットワーク構成。従来の基地局に対し、より送信電力の小さいピコ基地局、フェムト基地局、Wi-Fiなど複数テクノロジーが混在、連携、統合化したネットワーク。
  10. SFN:親局や中継局で用いる電波の周波数を同一にして構成したネットワーク。
  11. サブフレーム:時間領域の無線リソースの単位であり、複数のOFDMシンボル(一般的には14OFDMシンボル)から構成される。
  12. RF:無線通信に使用される周波数、または無線信号の搬送波に使用される周波数。
  13. 規定点:基地局RF仕様が規定されるポイント。
  14. OTA:アンテナからの電波放射空間上/アンテナへの電波受信空間上に規定点を設け、アンテナからの放射特性/アンテナへの受信特性も含めた規定および測定方法。
  15. MIMO:複数の送受信アンテナを用いて信号の伝送を行い、通信品質および周波数利用効率の向上を実現する信号伝送技術。
  16. 指向性:アンテナの放射特性の1つで、アンテナからの放射強度(あるいは受信感度)の方向特性のこと。
  17. MU-IMO:同一時間周波数において、複数ユーザに対してMIMO伝送を行う技術。
  18. TDD:上りリンクと下りリンクで、同じキャリア周波数、周波数帯域を用いて時間スロットで分割して信号伝送を行う方式。

3.3 ネットワーク運用経験を踏まえた機能改善

本記事は、テクニカル・ジャーナルVol.24 No.2(Jul.2016)に掲載されています。

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