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フィジカルAIの社会実装を加速する
「Bilateral Edge Platform™」の仕組み

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フィジカルAIのメリットと課題

現在、日本では少子高齢化に伴う深刻な人手不足を解消する手段として、ロボット活用の動きが加速しています。しかし、従来のロボットは、決められた動作を正確に繰り返すことは得意である反面、状況に応じた柔軟な対応が困難です。そのため、導入時には人間がミリメートル単位で厳密に動作を教え込む必要があり、ロボットの仕様に合わせて工場のレイアウトを大規模に刷新するなどの手間がかかります。こうした制約が、従来のロボット導入における高いハードルとなっていました。

そこで注目されているのが、ロボット向けの生成AI「フィジカルAI」です。フィジカルAIを搭載したロボットは、従来のような厳密なプログラミングや設計を介さずとも、遠隔操作による少量の模範動作を学習させることで、環境のわずかな変化を自律的に吸収できます。具体的には、遠隔操作の軌跡とカメラ映像を学習し、実行時はカメラ情報から状況を判断して適切な動作を行います。こうした機能により、これまで導入の障壁となっていた微調整や設備設計を簡素化できるため、導入コストの大幅な削減と、活用の場のさらなる拡大が期待されています。

従来の制御とフィジカルAIの違い

さらに、最近ではフィジカルAIのさらなる進化のために「力覚(力加減)」を理解するAIの開発が積極的に行われています。フィジカルAIが力覚を扱えるようになると、どのようなタスクが可能になるでしょうか。一例として、ネジ締め作業が挙げられます。ネジを緩すぎず、締めすぎない絶妙な強さで固定するには、視覚情報だけでなく、ロボットの手に伝わる抵抗感を感知しなければなりません。これはカメラ映像だけでは判断が難しく、力覚を備えたAIだからこそ実現できる高度な作業です。

力加減が必要な作業例

このように、フィジカルAIの運用は多くのメリットをもたらす一方、本格的な導入・運用に向けては克服すべき課題も残されています。ドコモでは現在、フィジカルAIの社会実装を加速させるため、特に以下の3つの課題に着目した技術開発と検証を推進しています。

1つ目の課題は、動作ミスへの対処です。フィジカルAIは状況に応じた柔軟な対応が可能である一方、あらかじめ決められた「ルールベース」で制御を定義しないため、人間の想定外の挙動を見せることがあります。こうした不測の事態に備え、人間がロボットの状態を常に監視し、適切にフォローする仕組みの構築が不可欠となります。

2つ目の課題は、AIの事後学習用データの用意です。フィジカルAIの精度を高めるには、成功例である「お手本データ」だけでなく、失敗からの復帰プロセスを示す「リカバリデータ」が欠かせません。しかし、現実の物理空間で失敗パターンを網羅するのは困難であり、環境の再現にも多大な時間と工数を要します。そのため、いかに効率的かつ容易にリカバリデータを収集できるか、その仕組みづくりが重要となります。

3つ目の課題は、AIが動作を決定する際の「推論」における計算処理です。AIが物体を認識し、次に行うべき動作を瞬時に判断する推論プロセスには、高い正確性とリアルタイム性の両立が求められます。現場のロボット側で処理しきれない高度な演算を、通信を介して安定かつ遅延なく実行できる仕組みの構築が必要となります。

ドコモでは、これらの課題を解決し、お客さまのフィジカルAIを含むロボット活用を支援するために「Bilateral Edge PlatformTM」を開発しています。このプラットフォームは、力覚フィードバックを伴う遠隔操作ロボットの通信を支えるほか、AIロボットの脳としての役割も担います。

以降の章では、Bilateral Edge PlatformがフィジカルAIの課題をどのように解決するかを解説します。特にAIのミスをカバーする仕組み、AIの事後学習データを収集する仕組み、AIの計算を助ける仕組みに焦点を当ててご紹介します。

Bilateral Edge Platformの位置づけと課題

1. AIロボットのミスをカバーする仕組み

AIロボットのミスをカバーする仕組みのイメージ画像

ロボットの遠隔操作の必要性と課題

現在のフィジカルAIは発展途上にあり、決して完全なものではありません。作業中のミスやトラブルは起こり得るため、AIのミスや未知の環境下での予期せぬ挙動に備え、人間がロボットを監視し、必要に応じてリカバリ(復旧)操作を行える体制を整える必要があります。

ロボットを監視・操作する手法として、現在、人による「遠隔操作」の重要性が高まっています。たとえば、コンビニでの作業中にAIロボットが作業に行き詰った際、オペレーターがAIに代わって遠隔操作を行うことで、迅速な状況の打開と作業復帰が可能になります。遠隔地からのリカバリ操作が実現すれば、1人のオペレーターで複数店舗をリモートでサポートできるため、効率的な人員配置も図れます。

遠隔操作でロボットを繊細に制御するためには、フィジカルAIと同様に力加減が感じられる操作環境が不可欠です。たとえば、ロボットが感じている硬さや抵抗が、遠隔地にいる操縦者の手元にも伝わらなければ、人は適切な力加減の調節ができず、意図せず過剰な力をかけ、ネジや部品を破損させてしまう恐れがあるからです。

しかし、ここで大きな課題となるのが「通信遅延」です。力覚フィードバックを伴う遠隔操作において、わずかな通信の遅れは制御の不安定化を招き、重大な危険に直結します。操作と反応のズレが共鳴することで、ロボットに激しい振動が生じたり、ズレを過剰に修正しようとして急発進・急停止が発生したりするなど、思わぬ事故を誘発しかねません。従って、力覚を伴う高度な遠隔操作を安全に実現するには、極めて低遅延な通信基盤が必須となります。

ドコモの課題解決方法

Bilateral Edge Platformでは、無線通信特有の通信遅延という課題を解決するために、ドコモの5Gネットワーク(この技術の詳細についてはNTTドコモテクニカルジャーナルをご参照ください)に加えて、独自の遅延補償技術を使っています。これにより、あたかもその場にいるかのような手触りや抵抗感を伴う遠隔操作をあんしん・安全に利用することが可能です。

たとえば、屋外で果物の収穫を行うロボットが、直射日光などの環境要因によって農作物を正しく認識できなくなったと仮定します。その際、遠隔地のオペレーターが即座に操縦を引継ぎ、対象物を傷つけない繊細な力加減で収穫を行うことができます。AI制御から遠隔操作へシームレスに切り替えることで、ロボットや農作物への被害を未然に防ぐとともに、作業の中断を回避します。

現在は日本国内での運用を想定していますが、将来的には多様な通信技術とBilateral Edge Platformを組み合わせ、国境を越えたロボットの遠隔操作にも挑戦します。これにより、海外拠点のオペレーターも活用した運用が可能となり、国内の労働力不足を補う持続可能な体制構築が期待できます。

2. AIの事後学習を促進する仕組み

AIの事後学習を促進する仕組みのイメージ画像

AIの作業失敗時の学習における課題

作業中にAIのミスや予期せぬ挙動が発生した際、その原因となった動作を改善しなければ、AIは同じ失敗を繰り返してしまいます。こうしたミスや作業の行き詰まりは、その都度オペレーターの遠隔操作によるリカバリ対応を発生させ、結果として作業効率の低下を招きます。そのため、これらを未然に防ぎ、減らしていく仕組みが必要になります。

こうしたミスを改善する手法として「事後学習」が挙げられます。事後学習とは、事前学習済みのAIを特定の作業に特化させるために行う追加の学習です。これを実施することで、ロボットが実際に稼働する現場の環境や設備の状況に、より的確にAIを適応させることができます。

事後学習の実現には、これまでに蓄積していた作業の成功データだけでなく、失敗状態からの復帰手順を示す「リカバリデータ」が欠かせません。AIに対して単に失敗という結果を提示するだけでなく、正解に至るまでのプロセス(リカバリ手順)をセットで学習させる必要があるためです。

しかし、ここでフィジカルAI特有の大きな課題があります。それは、サイバー空間のみで完結するAIとは異なり、現実の物理空間でAIに失敗を経験させ、そのデータを収集するには、意図的に失敗を誘発する環境を自ら構築しなければならないという点です。

たとえば、降雨による高湿度下で、掴んだ物体を滑らせて落としてしまうミスを想定します。この事後学習用データを取得するために環境を整えようとすれば、雨天を待つか、人為的に高湿度状態を作り出す必要があり、多大な時間とコストを要します。事後学習を円滑に進めるためには、学習に不可欠なリカバリデータを、安全かつ簡便に収集できる仕組みが求められています。

ドコモの課題解決方法

Bilateral Edge Platformでは、AIのトラブル発生時に行われた遠隔操作のログを記録し、そのまま事後学習用のデータとして活用できます。これにより、リスクを伴う失敗シチュエーションを意図的に再現する必要がなくなります。日々の業務のなかで、人間が遠隔操作によって安全にトラブルを解決するプロセスそのものが、AIを成長させるための貴重なデータへと自動的に変換されるためです。

その結果、膨大な工数やコストをかけることなく、現場の状況に即したAIの迅速かつ継続的なアップデートが可能になります。ドコモのBilateral Edge Platformは、単なる遠隔操作の基盤にとどまらず、現場の知見をAIにフィードバックし続ける「自律成長型」の運用環境を提供します。

3. AIの計算を助ける仕組み

AIの計算を助ける仕組みのイメージ画像

AIの動作の推論における課題

フィジカルAIを搭載したロボットが人間のようにスムーズに動作するためには、「高度な判断」を現実世界の変化に合わせて「リアルタイム」に実行しなければなりません。たとえば、コンビニ弁当の製造ラインにおいて、形や向きがバラバラな食材をロボットアームで盛り付ける工程では、ベルトコンベア上を流れる食材のわずかな位置の変化や重なり具合をカメラで瞬時に捉え、最適な掴み方をリアルタイムで計算し続ける必要があります。もし推論に遅延が生じれば、アームの反応が食材の動きに間に合わず、盛り付けミスや食材の損傷、さらには製造ライン全体の停止という致命的な事態を引き起こします。そのため、フィジカルAIを十分に動かすのに必要なコンピューティングリソースをリアルタイムに利用可能な場所に用意する必要があります。

リアルタイム性を最優先する場合、外部との通信を介さないロボット本体(端末内)で処理を完結させるのが理想的です。しかし、近年のフィジカルAIモデルは巨大化の一途をたどっており、膨大な計算能力を必要とするため、ロボット単体では増大し続ける計算負荷に対応しきれなくなるという課題があります。

一方で、高性能な計算資源を確保するために動作の推論をクラウドで行う手法もありますが、今度は通信遅延がボトルネックとなります。クラウドとの往復で生じる遅れが、物理的な動作に不可欠なリアルタイム性を損なってしまうという、別の問題が生じます。

もちろん、オンプレミスサーバーを利用して十分な計算資源とリアルタイム性を両立させるアプローチも考えられます。しかし、これを農業現場などの屋外環境で稼働するロボットに適用する場合、サーバーの設置スペースなど、物理的な制約が運用上の大きな障壁となります。

ドコモの課題解決方法

推論時における「計算能力」「リアルタイム性」「モビリティ」を担保するため、Bilateral Edge Platformでは「docomo MEC®」を活用しています。MEC(Multi-access Edge Computing)とは、ネットワークの「エッジ(端=デバイスの至近)」でデータ処理を行う仕組みです。従来のクラウドでは、演算を担うサーバーがロボットから地理的に離れた場所に設置されていたため、大幅な通信遅延が避けられませんでした。これに対しdocomo MECでは、AIの計算処理を実行する高性能なサーバーを、ロボットから物理的に近い通信網内に配置します。これにより、大規模なAIモデルの推論に必要な計算資源を十分に確保しつつ、通信遅延を最小限に抑えたリアルタイムな制御が可能となるだけでなく、屋外運用におけるモビリティ(機動性)の課題も解決できます。

docomo MECによって計算能力とリアルタイム性の両立を実現

まとめ

本稿では、5G Evolution & 6Gおよびdocomo MECを基盤とし、力覚対応ロボットの活用を支援するBilateral Edge Platformを取り上げ、その特長のなかでもフィジカルAIの社会実装を加速させる3つの仕組みを紹介しました。人による遠隔監視・操作によってAIの不安定さを補完し、その際の操作データを事後学習に活用することで、高品質な学習データを容易に収集できます。さらに、推論処理をdocomo MEC上で行うことにより、ロボット側のモビリティ(機動性)を損なうことなく、高度な計算能力の確保とリアルタイム性の維持という相反する課題を同時に解決します。

今回はフィジカルAI向けの機能に焦点を当てましたが、Bilateral Edge Platformの可能性はそれだけにとどまりません。力覚フィードバック情報を記録し、仮想世界(バーチャル空間)で再現することで、エンターテインメントや高度な職業訓練への応用も期待されています。次回以降は、この仮想世界に向けた展開についても詳しく紹介する予定です。

ドコモはBilateral Edge Platformを通じて、お客さまが安全かつ快適にロボットを活用できる未来を実現してまいります。

主な対外活動

<リリース>

<Web発信>

<出展・イベント対応など>

  • MWC barcelona 2026(2026/03)
  • docomo business Forum’25(2025/10)
  • docomo business Forum’24(2024/10)
  • docomo Open House’24(2024/01/17-18)
  • docomo Open House’23(2023/02/02-03)
  • docomo Open House’22(2022/01/17-19)
    ほか

問い合わせ先

モバイルイノベーションテック部 ソリューション技術担当
6g-usecase-ml@ml.nttdocomo.com
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