医師に患部の痛みを伝える マッサージの痛気持ちよさ 激辛料理の刺激 レスラーのビンタの威力 多様な人にパーソナライズされて伝わる 人間拡張基盤で痛覚を共有

痛みを共有する技術が拓く、解り合える世界

CEATEC AWARD2025で「経済産業大臣賞」を受賞し大きな話題を呼んだ技術がありました。それはPaMeLa株式会社(以下、PaMeLa)とドコモが共同で開発した「痛みを共有する技術」です。この技術がめざしているのは、誰かが抱えている目に見えない痛みを可視化し、共有することで、「人と人が解り合える豊かな社会」をつくること。本記事では、この技術が生まれた背景や相手に痛みを共有する仕組み、今後の展望や社会に提供していく価値について、開発に携わる担当者の言葉とともに紐解きます。

言葉では伝わらない痛みの共有に挑む新技術

私たちは普段、主に言葉でコミュニケーションをとっています。しかし、「痛み」のような主観的な感覚を、相手に伝えるのはとても難しいことです。その壁を突破したのが、ドコモの「人間拡張基盤®」と、PaMeLaが持つ、痛みを脳波から測定する技術を掛け合わせることで生まれた、「痛みを共有する技術」です。
ドコモは、言葉などでのこれまでのコミュニケーションでは、伝えたくても伝えることが難しかった感覚や感情などを相手に共有し、真に解り合える世界の実現をめざして、「FEEL TECH®」を推進しています。その核となるのが、「人間拡張基盤®」です。これは、人の動作や感覚などをデータとして扱い、相手に合わせて変換し、共有するというドコモオリジナルの基盤技術です。これまでに実現した動作共有、触覚共有、味覚共有に加え、今回新たに痛み共有に挑むことで、ドコモは新しいコミュニケーションの可能性を追求しています。
この技術開発の出発点には、展示会などの場で繰り返し寄せられてきた声があったと、開発担当者は語ります。
「今までの展示会などで、『共有しにくい痛みという感覚を、どうにかして他者に伝えることはできませんか』という声をたくさんいただきました。このようなニーズがあるなら、ぜひ取組みたいと思い、開発をはじめました。」
開発にあたって意識したひとつが医療現場での活用です。診察の際、医師は、患者が感じている痛みについて、「どのくらい痛いのか」「動かすと痛みは変化するのか」などの情報をもとに、その痛みを理解します。違う人間同士である以上、言語だけで正確に伝えることは難しいからこそ、新しい技術が人と人をつなぐ架け橋になるのではないか。そんな未来の可能性を見据えて開発に着手しました。

痛みを「情報」に変える技術の仕組み

  1. 計測する(PaMeLaの技術)
    まず、人の額に小さな電極を貼り付けます。そして、熱刺激を与える装置を、腕に装着し、熱刺激で痛みを与えることでその人がどれくらい痛みを感じているかという「痛みの度合い」を数値で表し、客観的に比較できる情報として整理します。
  2. 変換する(ドコモの技術)
    ここがこの技術の最大のポイントです。同じ痛みでも、感じ方は人によって千差万別です。「Aさんのレベル5の痛み」が、「Bさんにとってはレベル10の激痛」に感じられることもあります。そこでドコモの「人間拡張基盤®」で、AさんとBさんそれぞれの「痛みの感度(感じやすさ)」のデータを事前に取得しておきます。そして、「Aさんが感じているこの痛みは、Bさんにとってはこれくらいの刺激だ」という風に、個人差を補正して変換するのです。
  3. 共有する(ドコモの技術)
    伝えたい相手に合わせて変換されたデータを共有します。グラフなどの視覚的なインターフェースや実際に身体で体験できるアクチュエーションなど、相手が理解しやすい形、求める形での共有が可能です。これらのステップにより、言葉では伝えきれなかった痛みを、相手も自分ごととして理解できるようになります。
CEATEC2025の会場の様子

痛みの共有が広げる価値と可能性

本技術はCEATEC AWARD2025にて「経済産業大臣賞」を受賞しました。受賞をきっかけに技術の存在を知る人が増え、社会実装に向けた議論も前へ進みはじめています。
なかでも、当初から活用を見込んでいた医療領域からは、多数の反響が寄せられました。
担当者は次のように語ります。「反響が特に大きかったのは医療領域でした。遠方から来場した医療関係者や、痛みに困っている方から、『このような技術を待っていた』という切実な声が寄せられました。」
診断や治療方針の決定において、痛みの把握は極めて重要な要素でもあります。本技術によって患者の痛みを医師自身の感覚に合わせて共有できるようになれば、医師は状態をより正確に理解し、診断の精度向上や、一人ひとりに合わせた最適なケアにつなげることが期待されます。
一方で、人の身体にかかわる医療領域では、求められる水準も高くなります。だからこそ、技術の精度や安全性、運用面を一つひとつ積み上げながら、医療現場での実用化に向けた検証を段階的に進めていきます。
また、本技術は、医療以外の場面にも応用の可能性があります。たとえばスポーツ領域では、選手の痛みを共有することで、コンディションや限界の把握を支え、ケガの予防やトレーニングの最適化に活用できるはずです。担当者は次のように語ります。
「さらに将来的には、身体的な痛みだけでなく、心理的な痛みの共有にも取組んでいきたいと考えています。伝えたくても伝えることができなかった感覚が伝わる世の中になり、新しいコミュニケーションが生まれ、よりお互いのことが解り合えるような豊かな世界につなげたいです。」
この技術は、個人の「主観的な感覚」にとどまっていた痛みを、他者と解り合えるかたちへと変えるものです。ドコモは、痛みの理解を深め、一人ひとりに寄り添う技術として未来へつなげていくために、これからも挑戦を続けていきます。

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