居眠り新入社員が子どもの未来を変える!起業して「もじソナ」を開発

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起業して「もじソナ」を開発

今回は2025年6月1日にドコモの社内新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」からスピンアウトした企業、株式会社Nankaをご紹介!株式会社NankaのCEO森分さんは、読み書きが苦手な子どもたちを支援するサービス「もじソナ」を開発・提供しています。実は森分さんも読み書き困難「ディスレクシア」の当事者。森分さんの新入社員時代を振り返ると、さまざまな困りごとがあったそうで、当時の苦悩やその苦悩からどのようにしてこの事業が生まれたかをインタビューさせていただきました!
株式会社Nankaコーポレートサイト
「もじソナ」サービスサイト

入社当初は『居眠り新入社員』と呼ばれていた

──どのような新入社員だったのでしょうか?

森分さん:入社当初は、一番必死で勉強する時期ではないかと思っています。でも私は研修資料のマニュアルやお客さま資料を読んでいると、記憶が飛ぶように寝てしまっていました。前日にしっかり寝て、カフェインなどで対策をしても、初期配属の鬼課長が横に居ても、必ず寝落ちしていました。
当時は居眠り新入社員なんて自虐ネタにしていましたが、心のなかではなかなか一人立ちができず、一生懸命になればなるほどうまくいかない自分を責める日々でした。
会議でも大変でした。資料を読み上げる場面では、文字を追うことはできますが、途中から自分が何を言っているかわかっていない。メールも、読み落としだらけで「注意力が足りない」って何度も指摘されていました。
「自分は他の同期みたいに活躍するのは到底ムリだ」と思っていました。

ディスレクシアという特性との出会いと起業の決意

──その困り事は何が原因だったのでしょうか?

森分さん:これらの困りごとは、「ディスレクシア」という脳の特性によるもので、個人の問題ではなく、特性にあったアプローチを知っていれば解決できることがわかり、さらに同じように苦しんでいる人がたくさんいる社会課題であることを知りました。
たまたま自分は周りの環境の良さもあり、何とかやってこられましたが、この特性で自分の可能性を閉ざしている人を見過ごしたくない。そんな使命感が生まれました。
自分と同じような困りごとを抱える人たちの才能が特性によらず社会に羽ばたけるよう、読み書き困難の支援の課題をテクノロジーで解決したいと進み続け、ついには起業という道を選びました。

インタビューの様子

──昔から、読み書きが困難という特性はありましたか?

森分さん:学生のころは、意気揚々と教科書、問題集を開いて勉強開始するものの、一時間後にはよだれとみみずのような字でぐちゃぐちゃになったものができあがっていました。高校に入ってもページを開いてはよだれでダメにする作業を繰り返していました。国語や英語の成績がずっと低く、夏休みの英語の宿題は一度も提出せずに逃げ回っていました。でも、逃げ回れば逃げ回るほど、『やる気がない』『努力が足りない』と自分を責めていました。
テストでも辛い思い出があります。周りの子がページをめくる「バサバサ」という音が怖くて仕方なかった。「遅れないように読まなきゃ」と焦って読もうとすればするほど、内容が頭に入ってこない。結局読み直すことになり、余計に時間がかかって、勝手にパニックになっていました。
今振り返ると、これらは全部「読み書きに時間がかかる」という特性からでした。ディスレクシアのある人は、脳内で自動で進むはずの作業(形を見分ける、どこで区切るか決める、音や意味を組み立てるなど)を、手作業のように一つずつ処理しており、その結果脳が早い速度で消耗、脳からの「休もう」という合図が眠気という形で出てしまうのです。でも当時は、その特性に気づくことすらできませんでした。人よりできないことへの恐怖感は、子どもの頃からずっと抱えていて、ひたすら押し殺していました。でも、それが当たり前になっていて、疑うことすらできませんでした。

──読み書き困難「ディスレクシア」はどんな特性ですか?

森分さん:ディスレクシアというのは、知能には問題がないのに、読み書きが苦手になってしまう学習特性です。日本では約7~8%、つまり約10人に1人の割合で存在すると言われていますが、認知度はとても低いという現状があります。欧米では認知度が8〜9割に達している国もありますが、日本では多くの人がその存在を知らず、適切な支援を受けることができずにいます。

インタビューの様子

──この課題は当事者だけではなく、保護者や先生にも大きな影響を与えていそうですね。

森分さん:日本では「読み書きは誰でもできるもの」という意識が強いため、特性に気づかないまま、延々と読み書きの練習をさせている家庭もあります。子どもは苦しくて、親も成果が出ないから苦しくて、悪循環に陥ってしまいます。ある保護者の方は、教科書や問題集の拡大コピーを取るためにコンビニに行き、コピーを取るのに何十分もかけたり、費用をかけたりしています。親の立場で考えてみてください。子どもの面倒をみるだけでなく、家事や仕事もあります。頻繁にこのような対応を取るのは大変だし、精神的に堪えるものもあります。
ある子どもは「学校でも失敗、家に帰っても失敗で、僕には居場所がない」と話していました。適切な解決策がわからないと、せっかくの善意の支援も子どもを追い詰める結果になりかねません。子ども自身も苦痛に感じているのです。
先生の立場でも状況は大変です。特性が分かったとしても、忙しい中で個別の対応には限界があります。ルビ振り、拡大コピー、試験時間の延長などの配慮はありますが、どれも対症療法的で、根本的な解決には至らない。「その場で何とかできることをやっているだけで、効果的で続けられる方法がない」というのが現場の課題です。

──見落としがちですが、とても大きな社会問題ですね。

森分さん:目に見えない課題だから実体が掴めなくて、保護者の方々も子どもがどれだけ悩んでいるかを理解できずにいました。でも、適切な支援で子どもの状況がガラッと改善する様子を見て、課題の深刻さと解決の可能性を同時に実感しました。

「もじソナ」はディスレクシアの課題を解決するサービス

──「もじソナ」はどのようなサービスでしょうか?

森分さん:「もじソナ」は、読み書きが苦手な子どもたちの支援の課題を根本から解決するために開発されたサービスです。ディスレクシアの人が抱える読み書き困難の原因は、脳の構造で「音と文字の行き来が難しい」ことだと言われています。「もじソナ」は、読み書きでの文字のやり取りを全部「音」で代わりをするというコンセプトで作られています。
サービスの仕組みはシンプルです。まず、学校や塾で使っている普通の教材をタブレットで撮影して取り込み、AIが教材の内容を解析してくれます。子どもは、文章をタップして読み上げをしながら学習を進めて、答えは音声入力で答えることができます。つまり、「読む」「書く」という文字ベースの学習を、「聞く」「話す」という音声ベースの学習に変えます。

耳で読む 声で書く 学習支援サービス「もじソナ」

──このアプローチのすごいところは、今使ってる教材をそのまま活用できることなんですね。先生方は忙しいから、新しい専用教材を準備したり、個別につきっきりで支援したりするのは難しい現状がありますが、今ある教材に「もじソナ」が使えることで、先生方も取り入れやすくなって、打ち手がない現状を大きく変えられる。従来のサービスの組み合わせで解決することは難しかったのでしょうか?

森分さん:従来の支援サービスですと、読み上げ機能、書き込み機能や提出機能がそれぞれバラバラに存在していて、複数のツールを使いわける必要がありました。しかし、これらはすごく煩雑で、支援する側の負担も大きくなっているのが実情です。「もじソナ」は、必要な機能を一つのアプリにまとめることで、効率的な学習環境を提供します。

──実証実験の結果はいかがでしたか?

森分さん:教育現場での実証実験では驚くような成果が見られました。普段つまらなさそうに授業を受けていた小学6年生の男の子が、「もじソナ」を使うととても楽しそうに勉強しはじめました。最初、小学3年生レベルの内容からはじめましたが、全問正解し、最終的には小学6年生のテストも解けるようになりました。立ち会っていた校長先生より「彼はできる子だったのですね」とコメントをいただき、とても感動したことは今でも覚えています。
この子はIQ検査で境界知能の判定が出ていて、学校側から特別支援級への進学も推奨されていました。でも、読み書きの支援があることで本来の学習能力が発揮されることが分かり、教育委員会でも進路の再検討が始まったそうです。

インタビューの様子

別の実証実験では、やる気がなさそうに机にうつ伏せていた子どもが、「もじソナ」のプロトタイプを触ると、目を離した隙に問題を解き終えていた経験もしました。やる気がないように見えるが、読み書きが苦手なだけで、勉強ができて実はやる気もある、「もじソナ」の支援があれば本来の実力が発揮できることが分かりました。終わった後は「こういう機能があったらもっとよくできる」「もっと『もじソナ』をこうしたらいい」とすごく積極的に意見も出してくれ、二度も驚かされました。
これらの実証実験の結果は「もじソナ」が、彼らにとって価値があったと本当に実感できた瞬間でした。
保護者の方々からの反応も大きかったです。「お金をいくらでも払う」という声が数多くありました。これまで塾や学習教材などをいろいろ試してきた保護者にとって、「もじソナ」が本当に必要な「読み書きの支援」に特化していることへの期待の大きさが伝わってきました。実証実験で、最初は不信感を持っていた保護者も、普段ではありえない子どもがスラスラ問題を解く様子を見て、子どもがひとりで困難に立ち向かっていたことを理解し、涙ぐまれていたケースもありました。
スピンアウトへの決意が固まったのも、実証実験での子どもたちの変化を目のあたりにした時です。「docomo STARTUP」に参加した当初は、正直、ここまで社会に必要とされているサービスであることは理解できていませんでした。
でも、プロトタイプが完成して、リアルな子どもたちの変化、保護者のリアクション、先生方の期待感を目のあたりにして、確信が生まれました。
このメンバー、このタイミング、このサービスなら、読み書き困難の社会課題を解決できる。実証実験のタイミングで、自分たちがやらなければという気持ちになりました。

Nankaがめざす未来

──今後はどのような展望をお持ちでしょうか?

森分さん:Nankaがめざす今後の事業展開としては、読み書きの特性を持つ子どもたちの支援からはじめ、子どものときだけでなく一生サポートできるような事業をめざしています。読み書き困難の特性は一生付き合っていくものです。学生だけではなく、社会人の学びや就労環境、就職の支援へとつなげていきたいと考えています。学習の効率化という点で「音」を活用した学習には大きな市場が眠っていると感じています。オーディオブックみたいにコンテンツを提供するだけではなく、「学び」をいかに効率化していくかという点で、特性の有無にかかわらず新たなサービスを追求していきたいと考えています。
グローバル展開も重要な戦略の一つです。アメリカやイギリスではディスレクシアへの認知度が8〜9割に達しています。しかし、日本と同じようにディスレクシアの認知度が低い国も多く存在します。私たちが直面した課題は全世界の子どもたちが直面しています。その子どもたちの困りごともいち早く解決できるよう、事業を世界中に展開したいと考えています。

docomo STARTUP

「docomo STARTUP」は、ドコモグループ社員のアイデアを事業化するためのプログラムです。不確実性の高い領域に対し、アイデアの検証を行い、事業化をめざします。
新規事業の成功確率は1000分の3(センミツ)と言われており、検証を進めるなかで事業化を断念・撤退することの方が多いですが、同時にチャレンジしなければ成功もあり得ません。
「docomo STARTUP」では、事業化にこだわりながら、チャレンジする人を最大限応援します。
「docomo STARTUP」についてさらに知りたい方は、ぜひこちらもご覧ください!
公式HP:https://startup.docomo.ne.jp

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