
docomo EVERYDAY通信インフラの災害復旧を支える「Miiマップ」の開発
災害時、通信インフラの復旧を支える保守担当者向け地図システム「Miiマップ」。
今回は、基地局の障害情報を反映するのに時間がかかっていたことを解決するために、全国100件以上の現場の声を拾い、開発を推進した社員2名に話を聞きました。

サービスマネジメント部
オペレーションシステムBX担当
染谷 隆雄

サービスマネジメント部
オペレーションシステムBX担当
大西 健太
※所属は取材時のものです。
基地局の故障状況をリアルタイムで表示できるMiiマップ誕生
──施策の概要をお聞かせください。
大西:気候変動の影響で災害が甚大化しやすい現代、被災時に通信が絶たれたことで安否や連絡先がわからず、混乱が広がるケースが見受けられます。災害時、通信インフラをいかに早く復旧するか。その課題に向けてドコモでは2022年、通信インフラの保守担当者向け地図システム「Miiマップ」をリリースしました。
「Miiマップ」とは、全国にある基地局の故障状況をリアルタイムで表示する機能に加え、現地の被災状況や気象情報、保守担当者の手持ちの情報などをレイヤーとして重ねあわせて表示する地図システムです。この開発により、2024年元日の能登半島地震と9月の奥能登豪雨の際には、復旧支援が速やかに行えるようになりました。
全国から100件以上寄せられた声を形に
──どのように開発を進めていきましたか。
染谷:私と大西さんがいまの部署に来たのが2021年4月。それ以前に使っていた旧マップは、いくつかの課題を抱えていました。一つは、基地局の障害情報を表示するのに15〜20秒かかってしまうこと。迅速さが何より求められる災害時に、これは大きな問題でした。
もう一つは、基地局の障害情報以外の情報を追加するには、その都度、開発費がかかってしまうこと。東日本大震災以降、次々に起こる甚大な災害に会社も大きな危機感を抱くなか、これら2つの改善のため私たちは配属後、すぐに動きはじめました。
大西:基地局の復旧にあたる現場では、表示の遅さ以外にどのような課題を抱えているのか、その解決にどんな機能や手段が必要なのか、まずは全国から意見を吸い上げました。
染谷:私はこれまでシステム開発や技術開発を担当してきたため、保守の現場でどんなやりとりがされているのか、あまり知る機会がありませんでした。そのため、「基地局近辺の道路状況を作業者同士で共有するため、写真を撮り、メールで送り、最後はパワーポイントの資料をつくらなくてはいけない」など、開発畑の身からするとはじめて知ることばかり。業務を地図上で完結するにはどうしたらいいかなど、全国から寄せられた100件以上の意見を検討しました。
大西:刷新のため行ったのは、日立ソリューションズ地理情報システム「GeoMation(ジオメーション)」との連携です。これにより、広域災害が発生して多数の基地局に障害が発生した場合でも、5秒以内で表示が可能になりました。また、新しい情報を追加で地図上に表示させるのにわずらわしい開発もいらず、保全部門の担当者が自ら追加できるようになりました。
苦労の末にたどり着いた。現場からの感謝の声
──形になるまで、苦労したことは?
染谷:肝は現場での使いやすさです。ですから、使い手の声を拾い上げることが最優先事項でした。しかし当時、私たち開発側と保守の担当者の間にはいくつかの部署があり、直接やりとりをする機会が少なく、現場の声を拾いにいくのは立場上やや難しい面がありました。
ですが、ここをおざなりにしてしまうと基地局の復旧が遅れ、情報不足により場合によっては人の命が危険にさらされます。すべては被災者と、危険な災害現場に身を置く作業者のため──。そうした使命感を胸に、関係する部署に趣旨を説明し、協力をお願いしていきました。
大西:ドコモの使命の一つは、被災地の基地局をいかに早く復旧させるか。事業者側にどんな都合があろうと、私たちがどんな部署だろうと、携帯電話の利用者には関係ありません。紆余曲折を経て、2022年4月に同マップを本格リリースし、来るべく災害に備えました。
──そして2024年元日、大きな地震が能登を襲いましたね。
染谷:表示スピードに加えて最も評価されたのが、避難所と電波障害の情報を地図上に重ね合わせる機能でした。人の集まる避難所のそばの基地局が停波しているなら、率先して復旧にあたらなくてはなりませんが、それさえわかれば復旧の優先順位が付けられるし、移動基地局車を送り込む計画もすぐに立てられるからです。
一方で、道路状況の不透明さや保守をする作業者の位置がわからないなど、地震のあとには新たな課題も浮かび上がりました。そこで半年ほどかけ、昨年7月にこれらの問題を解消。その約2か月後に発生した奥能登豪雨では、作業者の安全管理の面でもこの追加機能が活躍しました。
──度重なる災害での活用において、現場からはどんな声が届きましたか。
大西:改善点を聞くため現地へおもむくと、聞こえてくる大半は感謝の声でした。
染谷:「これがなければどうなっていたかわからない」「助かったと心から礼をいいたい」。こうした言葉に「やった」と心のなかでガッツポーズをとりました。リリースまで大変な道のりでしたが、くじけずに歩き続けて本当によかったなと。
もしものときのために、普段から利用して磨き上げる。
──今後の展望についてお聞かせください。
染谷:災害時だけでなく、平時の計画的な故障・保守対応にMiiマップを利用できるのではと考えています。保守の人材も不足しているいま、業務の効率化を図ってコストも削減できるし、さらに普段から利用することで災害時にスムーズに扱えるようになる。今年以降に本格的に動き出せればと思います。
大西:機能を磨き上げていくことも重要です。近年、災害は広域化・激甚化しています。そのためにどんな機能が必要か精査し、具備していきたいですね。30年以内に80%の確率で南海トラフ巨大地震が起こるとされています。被災時、Miiマップのおかげで迅速かつ効率的に復旧・支援活動を進めることができた状態にまで持っていければ。やるべきことは、まだまだ残されています。