
docomo EVERYDAY森林クレジットの課題をDXで解決─「森かち」が描く脱炭素の未来
持続可能な社会に貢献するNTTグループ各社の取組みを表彰する「NTTグループ サステナビリティカンファレンス2025」が開催され、12回目となる今回は、世界各国から過去最多となる169件の応募がありました。
そのなかから最優秀賞に選出された、NTTドコモビジネス(旧社名:NTTコミュニケーションズ)と住友林業の共同開発による、森林由来J-クレジットの創出・審査・取引を包括的に支援するプラットフォーム「森かち」の担当者に話を聞きました。
NTTドコモビジネス株式会社
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部
スマートインダストリー推進室 担当課長
藤浪 俊企
NTTドコモビジネス株式会社
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部
スマートインダストリー推進室 主査
小笠原 正人
- 所属は記事公開時のものです。
森の価値を活かす新プラットフォーム
──施策の概要をお聞かせください。
藤浪:脱炭素への意識の高まりとともに、企業間で温室効果ガス(GHG)の排出削減量や吸収量をクレジットという形にして取引きする「カーボンクレジット」の活用が近年、盛んになっています。森林価値創造プラットフォーム「森かち」は、森林由来のカーボンクレジットの創出や審査、取引を包括的に支援し、名前通り森の価値を高めることを目的としています。
(出典:林野庁公表資料をもとにNTTドコモビジネスが作成)
森林クレジット※1は、生物多様性や水源の涵養(かんよう)機能の維持・復元につながるなど、二酸化炭素(CO2)吸収以外の環境価値の高さも注目されてきました。ところが、削減・吸収したCO2を売買できる日本の制度「J―クレジット」における認証量は、森林大国にもかかわらず太陽光発電などほかのクレジットと比べて少量にとどまっています。
- 森林保全管理などの取組みによる温室効果ガスの吸収量をクレジットとして、国などが認証する制度。
理由は、クレジットを生む創出者にとって手続きが煩雑だったり、審査機関の数が限られていたりするからです。購入者にとっても自社の要望に合うクレジットを探すのに手間がかかります。創出者、審査機関、購入者、これら三者の困りごとを解決するため、「森かち」ではさまざまな機能やサービスを提供しています。
森林の伐採、造林、保育といった施行履歴などのクレジット認証・発行に必要となる書類をデジタル化し、地理情報システムに紐づけるのもその一つ。審査機関では、紙の書類から対象森林の位置を把握するだけでも大変な作業ですが、この仕組みなら審査や管理が容易になります。
また、クレジット販売ページでは創出地域や森林の状況などの情報を見やすく提示しているため、購入者はクレジットの価値をしっかりと理解し、比較することが可能です。
同プラットフォームを構築できたのは、当社NTTドコモビジネスが持つ情報通信技術だけでなく、森林経営などで培った住友林業の豊富な経験・ノウハウがあればこそ。こうした細かな課題にまでメスを入れたサービスは、ほかではなかなかありません。
重ねた議論は100回以上、想いが同じだったので、乗り越えられた
──リリースまでどのような道のりだったのでしょうか。
藤浪:まだ企業によるGHG排出量算定もあまり浸透していなかった2019年に、当社が持続可能性に関する事業検討を開始し、私たちの前任者が1枚の紙に構想をまとめたことがはじまりです。
その構想を手にさまざまな企業と情報交換するなか、NTTと協業検討をしている住友林業にたどり着き、1年以上かけ、商用化に向けビジネスの中身やシステム開発に取組んできました。
──どんな苦労がありましたか。
藤浪:道のりは平坦ではありませんでした。事業収益の振り分けやシステムの提供条件など、重ねた議論はこれまで100回以上。現場の思いは同じでも、各社にはそれぞれ異なる思惑と制約があります。
小笠原:それに、林業に関して私たちは門外漢。ですがシステムを提供するのみの従来の仕事と異なり、本施策は両社でゼロからつくり上げていくものです。「知らないところはお任せで」では使い手に寄り添った開発はできません。
そこで、森林クレジットのいろはや林業特有の言葉、森林の持つ力についても一から学びました。人の営みがどれだけ木や森に支えられてきたのか、住友林業の方々の熱い話には何度も心を揺さぶられました。
決してチームにゆとりがあったわけではありません。コアメンバーは私たちを含めて5人。サービスの検討から営業やマーケティング活動などを、この人数でこなしていく必要がありました。一つの山を超えると息つく暇もなく、すぐ次がやってくる。そんな状態がもう1年以上続いています。
それでも乗り越えてこられたのは、住友林業の方々も含め、皆が同じ方向を向いていたから。森林の循環を守っていくことがネットゼロ※2をめざすためだけではなく、私たちの暮らしを持続させるためにとても大切なものだと、検討を進めるなかで肌で感じていたからだと思います。
- GHG排出量を削減するとともに、発生したGHGを植林や森林保全活動などの取組みで吸収・固定することによって、活動全体の排出量が差し引きゼロになっている状態。
「森かち」の未来。CO2吸収以外の価値提供へ
──「森かち」の今後の展望をお聞かせください。
藤浪:現在はCO2吸収の価値のみを対象としていますが、今後は生物多様性保全や水源の涵養、土砂災害防止など森林が有する多面的機能も定量評価し、さらにその効果をクレジット化して取引きできるプラットフォームに「森かち」を発展させていきたい。
CO2吸収だけでなく、そのほかの機能も
定量評価・取引きできるプラットフォームへの発展
2025年1月より、生物多様性の
定量化に関する実証実験を開始
ネイチャーポジティブ※3のそれぞれの側面を数値化できれば「うちは水資源に頼っているから」「生物多様性にネガティブなインパクトを与えているから」と、事業に合わせたクレジットの選択ができるようになります。
- 日本語訳で「自然再興」といい、生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること。
海外のカーボンクレジットなど比較的安価なクレジットでも、CO2排出量削減・吸収のみに目を向けると同じような価値があります。ですが、ちょっと待ってくださいと言いたい。脱炭素の表面だけをただなぞるのではなく、地球本来の持つ力を活かした環境価値やそこから生まれる人の営みにも、できればきちんと目を向けてほしいのです。
森かちではCO2吸収の価値にとどまらず、森林が持つさまざまな環境価値の活用や、創出者と購入者の交流を促す仕組みを提供することでも、地域創生に貢献していきたいと考えています。