再生可能エネルギーが変える通信の未来。全国に広がる「グリーン基地局」

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東日本大震災をきっかけに、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用する「グリーン基地局」の開発が始動。多くの試行錯誤を経て実現し、災害対策と脱炭素社会への貢献をめざす取組みが全国へと広がっています。今回は、この取組みを中心となって進めた社員に話を聞きました。

中村さま

クロステック開発部
エネルギー技術開発
中村 祐喜(写真右)

震災をきっかけにはじまった「グリーン基地局」

──施策の概要をお聞かせください。

中村:いまや私たちの生活にはスマートフォンや携帯電話が欠かせません。その電波を送受信する基地局を、再エネで稼働させる「グリーン基地局」として整備し、全国に広げていく取組みです。具体的には、基地局の電力供給を太陽光でまかない、余った電力は大容量のリチウムイオン電池に蓄えるというものです。

きっかけは、2011年に発生した東日本大震災。当時、東北地方を中心に停電によって基地局に電力供給ができず、長時間電波を出せなくなりました。この対策として、電力会社に頼らない自前の電源を持つ必要があるということで、本施策がはじまったのです。

グリーン基地局
津慈局(徳島)

ゼロからの挑戦と試行錯誤の日々

──どのような経緯ではじまったのでしょうか。

中村:当時エネルギーを研究する部隊は新しくできたばかりで、私を含めほとんどの人が初心者でした。ですが、みんな新しい使命に燃えていました。どんな発電方法とどんな電池の組み合わせが理想的な電力を生み出すか、試行錯誤を重ねた結果、太陽光発電とリチウムイオン電池の組み合わせに決まり、震災発生の同年2011年、横須賀の研究開発拠点で検証がはじまりました。

震災はそれまでの価値観を大きく揺るがすものでした。ドコモとしても、ただ電力を買って電波に変えて供給すればいい、という発想を変換しなくてはいけません。研究そのものには、基本的に反対意見はありませんでした。

しかし、「すぐに切り替えましょう」という話にはなりません。ソーラーパネルとリチウムイオン電池を基地局に設置して無線機に電力供給するために、十分な技術検証が求められました。

──なぜでしょうか。

中村:実績がない装置や電力制御をいきなり使えば、何らかのトラブルが起こる可能性があるからです。まずは1年間、無線機の隣に代用装置を置き、そこに供給する形で実証に取組みました。試験期間、何事もなければ装置を切り替えていいよと。蓄電池の充放電の制御やソーラーパネルとの連携制御などをその代用装置で試しては特許を申請して、学会で発表する。2013年の間はその繰り返しでした。

1年間の試験期間を終えた2014年、代用装置から実際の無線機に発電電力の供給を切り替えて、電力会社からの電力の購入量がゼロの数値になったとき、感激もひとしおでした。それまでは商用電源で動いていた基地局が、ようやくソーラーパネルだけで動くようになったのです。「電源を切り替える」という、物理的にはほんの少しの動作です。ですが、2012年から研究開発を進め、実現に至るまでに2年を要しました。

苦難を超えて、カーボンニュートラルへの追風。

──どんな苦労がありましたか。

中村:当時、再生可能エネルギーや脱炭素への取組みは、社会全体で義務として求められていたわけではなく、あくまで企業が自主的に判断して取組むものとされていました。環境保全や災害対策の重要性は理解されていたものの、「どこまで広げるべきか」という新たな課題が生まれました。コスト面での負担をどこまで許容すべきかという議論もあり、年によってはグリーン基地局がほとんど構築されなかったこともあります。

風向きが変わったのがここ数年です。政府が2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現という目標を掲げ、環境経営への社会的認知と理解が一気に進みました。加えて、ソーラーパネルやリチウムイオン電池の価格低下という追い風もあり、昨年だけでグリーン基地局は46局も増加。通信業界でドコモが先を行くこの取組みは、低迷の時期をなんとか乗り越え、こうして今日まで続いています。

──災害対策に加え、ドコモがこのような取組みをする社会的意義は何でしょうか。

中村:基地局は24時間休むことなくみなさまの通信を支えていますが、そのためには膨大な電力が必要です。ドコモでは年間約30億kWhの電力を消費し、その7割近くを基地局が使用しています。そのため基地局の電力削減という取組みは、温室効果ガスの排出を削減する効果が大きい。社会全体のカーボンニュートラルに向け、大きな意義があると感じています。

社会情勢が変化、再エネ活用の挑戦は続く

──今後の展望をお聞かせください。

中村:2024年度末時点で、グリーン基地局は全国332局まで広がりました。ゼロからはじまり、たくさんの人たちの協力で社会に実装されていくさまを振り返ると、研究者冥利(みょうり)に尽きます。
そしてこのグリーン基地局の研究開発を出発点に、次なるステップとして2016年にはじまったのが、電力の需給バランスに応じて電力使用を調整する「デマンドレスポンス」の研究開発です1。再エネの活用をさらに広げるための新たな挑戦として、自然な流れで取組みが進んでいきました。
まだまだ歩みを止めることなく、再エネ活用の取組みを世界に広げていきたいです。

最近では、グリーン基地局の技術は経産省の事業「二国間クレジットの取得等のためのインフラ整備調査事業」(2024年度)2に採択され、フィリピン国内の基地局へ技術適用に向け、検討が開始されました。

施策がはじまった当時とはずいぶん社会情勢も変わりました。一方で、十数年という長い期間同じプロジェクトが続いてきたのは、社会がそれを必要としてきたからです。もちろん、これから先もそうだと自負しています。

AI(人工知能)の駆使により膨大な電力が世界で必要とされる今後、消費電力の削減はもはやドコモだけの課題ではありません。基地局だけでなく今度はデータセンターなどの通信設備にどうやって再エネを効率よく届けるか、やらなくてはならないことはまだ山積みです。

  1. 「デマンドレスポンス」の研究開発について、詳しくは「蓄電池で未来を切り開く-ドコモが挑む災害対策と脱炭素社会への道のり-」をご確認ください。
  2. 「二国間クレジットの取得等のためのインフラ整備調査事業」(2024年度)について、詳しくは経産省ホームページでご確認ください。
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