未来の取組み

「空飛ぶ通信基地局」HAPS。世界初の実証実験が描く未来

INDEX

ドコモは、いつでも、どこでもつながる世界の実現をめざし、さまざまな取組みを進めています。その一環として、通信インフラが整備されていないエリアや災害時でも高品質な通信を可能にする非地上系ネットワーク:Non-Terrestrial Network(以下NTN)の多様なソリューション提供に挑戦しています。なかでも特に注目される高高度プラットフォーム:High Altitude Platform Station(以下 HAPS)について、世界初となる実証実験に成功。今回は、実験の内幕と、その成功の先にある通信の未来についてご紹介します。過去2回にわたり連載記事として、HAPSの概要情報や現在地について、詳しくご紹介していますので、あわせてお読みください。

  • HAPS連載第1回(いつでも、どこでもつながる。空から通信を変える「HAPS」とは)はこちら
  • HAPS連載第2回(成層圏を攻略せよ。次世代の通信プラットフォーム「HAPS」の現在地)はこちら

社会実装に向けた一歩。ケニアでのHAPS実証が示す可能性

NTNは、人工衛星や無人航空機などを活用し、上空から広範囲に通信を提供する技術のことです。ドコモでは静止軌道衛星(以下GEO)、低軌道衛星(以下LEO)、そしてHAPSといったさまざまなNTNソリューションを通じて、いつでも、どこでも、あらゆる状況下でもつながる通信環境の実現をめざしています。そのなかでHAPSは、高度約18km以上の上空の成層圏を、数か月にわたって無着陸で飛行できる無人機に通信装置(ペイロード)を搭載し、地上の携帯電話機やIoT機器と直接通信できる次世代技術です。衛星に比べて地上との距離が近いため、低遅延で大容量の通信ができ、災害時の緊急通信手段としても大きな期待が寄せられています。
ドコモは、このHAPSの社会実装に向けて6年以上前から研究開発を進めてきました。総務省や、情報通信分野を専門に研究する国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT(エヌアイシーティー))のプロジェクト参画を通じて実績とデータを積み上げ、スカイツリーからの通信実験、セスナ機を用いた上空通信など、段階的な実証を重ねてきたことが着実な前進につながっています。
そして今回、日照条件や気象特性が実験に適していることから選ばれたケニアにて、HAPSと携帯電話機間の直接的なデータ通信の実証試験を実施。商用運用を見据えたレベルの装置を用いて、無事に通信を確認することができました。今後のHAPSの本格的な実装に向けた重要なステップをクリアできたことは、大きな意義のある成果といえます。

地上アンテナ装置視察の様子

地上約18km以上を飛ぶHAPS機体と携帯電話機との世界初のデータ通信に成功

2025年1月~2月にかけてSpace Compass社とケニアで実施した本実験では、AALTO社が開発・運用するHAPSを高度約18km以上の成層圏で飛行させ、HAPSと地上の携帯電話機との間で直接データ通信を行いました。実験では、地上の LTE基地局から発信された電波を、地上のアンテナ装置につないでHAPSに搭載した通信装置へ中継し、地上の携帯電話機に届ける仕組みを構築。さらに、HAPSから地上の特定エリアに向けて電波を集中的に送る「ビームステアリング技術」も実装されました。その結果、地上アンテナ装置からHAPSを経由した携帯電話機への通信で、4.66Mbps以上の通信速度を確認。HAPSが旋回しても、狙ったエリアで安定的な通信速度を提供し続けられることが実証されました。これにより、HAPSから中継された電波が地上の携帯電話機で正常に受信できることが確認されました。高度約18km以上の成層圏を飛行するHAPS機体を用いて、地上の携帯電話機との間で無線によるデータ通信が行えたのは、世界で初めての成功事例です。

ケニアでの実証実験の概要図

「世界初」という成功の裏にある試行錯誤

実験を進めるなかでは、数多くの課題に直面しました。とくに困難だったのは、成層圏という極低温・低気圧の過酷な環境で、通信機能が安定して動作するかどうかを実地で検証する必要があったことです。地上の設備で完全にこの環境を再現することは難しく、「実際に飛ばしてみなければわからない」ことも多く、トライアンドエラーを繰り返しながらの実証となりました。加えて、地上アンテナ装置が、高度約18km以上を飛行するHAPS機体を正確に追尾し、通信リンクを維持できるかどうかといった、これまで机上でしか想定できなかった技術課題についても、現地での実験を通じて一つひとつ検証を重ねました。また、機体の開発・運用を担うAALTO社が英国の企業であることから、国際的なパートナーと英語で円滑に技術的な認識をすり合わせていくことにも苦労がありました。
こうした多くの試行錯誤を経て実現した今回のケニアでの実証実験は、HAPS機体を用い、地上の携帯電話機との間で無線データ通信を実現した世界初の成功事例となりました。商用化を視野に入れた通信装置の有効性に加え、AALTO社による2か月以上にわたる長時間飛行の実績から、HAPSの飛行性能についても高い信頼性が確認されました。

実証実験を統合管理するためのシステムー ELVIS(Electronic Launch and Vehicle Integration System)

HAPSの商用化で、通信の未来を変えていく

私たちは研究開発において、単なる技術の探求にとどまらず、社会実装を常に見据え、世の中の仕組みを大きく変えるような新しいサービスの創出をめざしています。HAPSの取組みもその一環であり、まだ何も形がない段階から開発をはじめ、数々の実証実験とデータを積み上げてきました。そして、ようやく商用化への道がはっきりと見えるまでに至りました。

HAPSが実現する未来像は、たとえば災害時の通信確保、混雑する大規模イベントでの通信補強、さらには船舶・建設現場・遠隔医療といったインフラの届きにくい領域への通信提供など、多岐にわたります。
また、この挑戦をグローバルに展開できているのは、宇宙統合コンピューティングを先導するSpace Compass社や、エアバス社のHAPS技術を継承するAALTO社といった世界的なパートナーとの連携があるからこそです。ドコモ単独では成し得ないスケールのプロジェクトに取組めていることは、開発者としても大きなやりがいにつながっています。

HAPSの機体が格納されているAALTO社の施設視察の様子

今回のケニアにおける実験成功は、大きな意義を持つ成果です。しかし私たちにとっては、2026年の日本国内での商用化、さらにはGEO/LEOなど他のNTNネットワークとの連携を視野に入れた、あくまで次のステップへの通過点にすぎません。
これまでに前例のない挑戦であるからこそ、今後も多くの未知の課題に直面することが予想されます。まずは今回の実験で得られた知見をもとに、通信装置の改良、日本国内での追加試験、新たなアプリケーションの実証など、段階的な取組みを進めていく予定です。
また、HAPSの本格運用に向けては、国内の電波法や航空法などの関連制度の整備も不可欠です。関係機関と連携しながら、制度設計への働きかけや協力も積極的に行っていきます。
ドコモは、お客さまがご利用になる場所に応じて、携帯電話機が地上ネットワーク、HAPS、GEO/LEOのいずれかで自動選定し、いつでも、どこでもつながる通信環境の実現に向けて、今後も取組みを進めていきます。

なお、本成果の一部は、NICT(エヌアイシーティー)の「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業」の委託研究(JPJ012368C07702)により得られたものです。

このページのトップへ