複雑化するネットワーク故障にAIで挑む。
世界最大級規模のデータを用いた
ドコモの「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」
毎日、何気なく使っているスマートフォン。その裏側では、全国100万台以上ものネットワーク装置が、24時間365日、休むことなく動き続けています。お客さまの、“いつも快適につながる”という日常を守るために、今、ドコモのネットワーク技術は、AIという新たな力とともに進化を続けています。2026年3月にスペインで開催された世界最大級のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2026」。そこで反響を呼んだのが「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」です。今回は、ネットワークの安定運用を支える技術と、その開発にかけたエンジニアたちの想いをご紹介します。
複雑化するネットワーク故障に対応するために
ドコモでは以前から、ネットワークの監視や分析、復旧対応を自動化するシステムを導入してきました。しかし近年、5Gの普及や次世代技術への進化に伴い、ネットワークの構造は驚くほど複雑になっています。
これまでの自動化システムは、対処方法が明確な故障に対してはあらかじめ決められた手順に従って対応することができました。しかし、複数の装置が連鎖して不具合を起こすケースや、目立った警報が出ないまま通信が不安定になるケースなど、対処方法が明確でない複雑な故障も発生します。その場合は、大量のデータを収集・分析し、複数名の熟練エンジニアの経験と判断によって要因を特定しなければなりません。そのため、人手による対応がサービス影響時間の長期化につながるという課題がありました。こうした現場の課題を解決し、より迅速な復旧を実現するために、複雑な分析や対処案の提示をAIが行えるようにする「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」の開発がスタートしました。
基盤構築に4年。エンジニアの知恵を宿したAI開発
爆発的に増え続ける膨大なデータと複雑化したネットワークを支えるには、人間の能力を補完・拡張した仕組みが必要であることは明白です。開発チームは“熟練エンジニアの経験知を備えた、ドコモ独自のAIシステムを作る”という想いのもとで一致団結、試行錯誤の挑戦を開始しました。
最初に立ちはだかったのは、データの壁です。メーカーの異なる100万台以上のネットワーク機器から集まるデータは、形式がバラバラで、そのままではAIに読み込ませることができません。エンジニアたちは、AIに正しい学習をさせるために不要なデータを取り除き、ひとつの形式に整える「クレンジング」という作業を実施。約4年もの歳月をかけて積み重ねることで、ようやく分析の土台となる統合データ基盤を築き上げました。
さらに難航したのが、熟練のエンジニアが何を根拠に判断しているのかという「暗黙知」のデジタル化です。彼らの思考プロセスを一つひとつ紐解き、AIが理解できる論理へと落とし込んでいくために、現場へのヒアリングや過去のトラブル対応の履歴の分析を繰り返し実施。熟練者の視点を徹底的に言語化し、AIへ地道に反映し続けることで、ついに現場の知恵を宿した「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」が完成しました。
「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」の革新的な技術
「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」には、高度で複雑なネットワークを安定して稼働させるための3つの革新的な技術が投入されています。
1:ベンダーの垣根を超えた「統合データ基盤」
基地局からコアネットワークまで、メーカーの異なる100万台以上のデバイスから発せられる膨大なデータを一つの基盤に集約。形式がバラバラの情報をAIが扱える形に統合したことで、ネットワーク全体の状態をリアルタイムで、一元的に分析・可視化することを可能にしました。
2:「ネットワーク構成(トポロジー)」による要因推定
ネットワークの接続関係を、仮想空間に再現し、たとえ警報が出ない故障が起きたとしても、周辺の通信状況から「どこに問題があるか」をAIが即座に推定します。
3:生成AIによる「最適な対処方法」の提示
原因を特定した後、AIが過去の対応履歴や学習したマニュアルの知見から、最適な復旧手順を提案。機器の再起動や、設定の変更といった具体的な対処方法をAIが即座に提示することで、経験の浅いエンジニアでも熟練者に近い判断が可能になります。
これらの技術により、たとえ複雑な通信障害が発生しても、AIの解析によって復旧時間を大幅に短縮することが可能になりました。また、トラブルの予兆をいち早く検知して、その影響を未然に防ぎ、万が一の際もAIが瞬時に復旧への道筋を示すことで、お客さまが「つながらない」と感じる時間を最小限に抑える。こうした積み重ねが、日々のあたりまえの通信をより強固なものにしています。
AI技術でめざす、通信トラブルを未然に防ぐ未来
「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」は、2026年3月にスペインで開催された世界最大級のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2026」で発表されました。ブースには世界各国の通信キャリアやベンダーが数多く来場。ネットワーク運用の完全自律化に不可欠な「AIエージェント」を、すでに商用規模のデータで実装・運用されている事実に驚きの声が上がりました。開発チームは、会場での対話を通じて、世界の多くの事業者が同じような課題を抱え、AIの活用を模索していることをあらためて実感。そんななか、ドコモが示した「熟練エンジニアの知恵を宿したAIが、現場のエンジニアを支える」というアプローチは、これからのネットワーク運用のあり方を示す具体的なヒントとして、世界中の専門家から強い関心を集めました。
現在、この技術は一部現場に導入され、ネットワーク監視や故障対応の現場で活用されはじめています。今後は、エンジニアの知恵を借りながら、その精度をさらに高め、トラブルを未然に防ぎ続ける技術へと進化させていく計画です。
AIという最新の技術に、現場で培われた知恵を載せる。手法は変わっても、快適で高品質な通信サービスを提供したいというドコモの想いは、いつの時代も変わりません。すべては、お客さまへ“つながることが、あたりまえ”という日常を届けるために。ドコモの挑戦はこれからも続いていきます。
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株式会社NTTドコモ
サービスマネジメント部 オペレーションシステム部門
OPSストラテジー担当竹下 恵
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株式会社NTTドコモ
サービスマネジメント部 オペレーションシステム部門
OPSストラテジー担当鈴木 将友
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株式会社NTTドコモ
サービスマネジメント部 オペレーションシステム部門
OPSソリューション担当今井 識
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株式会社NTTドコモ
サービスマネジメント部 オペレーションシステム部門
OPSソリューション担当稲垣 由朋