EXPO2025特集③
AGC×ドコモ 電波の障害物だった窓が通信基地局になる。大阪・関西万博でも活用される「ガラスアンテナ」の可能性

ガラスアンテナ※1は、AGC株式会社(以下AGC)とドコモが共同開発した革新的な技術です。窓の室内側に貼り付けた特殊なガラスが基地局として機能し、屋外を通信エリア化することが可能となります。従来の基地局設備よりも景観に溶け込みやすく、省スペースで設置できることから2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)でも採用されました。特集第3回では、万博の通信容量確保を支えるガラスアンテナが誕生した経緯とその可能性をご紹介します。
- AGC製品名:WAVEATTOCH®。製品情報はこちら
をご確認ください。
窓ガラスの枠を超えた発想がもたらした、通信インフラの革新
「窓にアンテナを搭載できないだろうか」
ガラスアンテナの共同開発は、2017年頃にAGCのアイデアがドコモに持ち込まれたことがきっかけで始まりました。AGCは窓ガラスの製造販売という従来の枠を越え、窓という“場所”に新たな価値を創出する可能性を模索していました。その過程で注目されたのが、車載用のガラスアンテナ技術でした。

自動車にはラジオやテレビ、GPSなどの電波を受信するためのアンテナが必要です。従来はポール状やアンテナが主流でしたが、デザイン性を高めるためにリアガラスやフロントガラスに組み込まれるようになりました。AGCはこの技術の最先端をゆくメーカーで、その応用を検討していました。
そして、車載用のガラスアンテナ技術を窓に応用するという発想は、ドコモが抱える課題を解決する糸口となりました。その課題とは、特に都心部で通信基地局やアンテナの設置場所を確保するのが難しいということです。通信品質を維持するには基地局が不可欠ですが、適切な場所が見つからないケースや、景観上の理由で設置が困難なケースが多かったのです。
もし、窓をアンテナとして活用できれば、通信基地局の設置場所を見つけるハードルが下がり、景観問題も解決しやすくなります。この発想は、窓という空間に新たな価値を与えるとともに、都市部の通信インフラ整備に画期的な解決策をもたらすこととなりました。
現場の感覚を取り入れた、スピード感のある開発
AGCは建築ガラス アジアカンパニー 日本事業本部通信事業開発部、ドコモは無線アクセスネットワーク部と現場に近い部門同士の主導で共創したことで、ガラスアンテナの開発は現場のニーズを直接取り入れながらスピーディーに進みました。当初は既存の窓ガラスの内部にアンテナを埋め込む方式が検討されましたが、これでは新築時しか導入できず、多大な手間がかかることから断念。そこで、後付け可能なガラス製アンテナを窓の内側に貼り付ける方法が採用されました。設置時の実用性を考え、ケーブルの見た目にも配慮し、作業工程を通常の屋上アンテナ設置作業時の同等以下に工夫することで、作業員への負担も最小限に抑えています。

一方で、開発には困難も伴いました。ガラスは電波を反射・減衰させやすい素材であり、通信品質を低下させる要因となります。通信基地局としての機能を発揮するため、電波を妨げる要因を徹底的に排除する改善が重ねられました。

そして2019年、ついに4G LTE回線によるガラスアンテナの実用化に成功。世界で初めて※2、「窓の基地局」による通信サービスの提供を開始しました。従来は電波の障害物だったガラスが共創によって電波を発射できるようになり、新たな価値を生み出したのです。
4G LTE回線での実用化後も、技術はさらに発展を続け、より難易度の高い周波数帯への対応にも挑戦。2021年にはドコモの5G帯域、2022年には各キャリアが使用可能なマルチバンドへも対応を実現しています。
- AGC、ドコモ調べ
強みが最大限に発揮された大阪・関西万博
大阪・関西万博では、NTTパビリオンにガラスアンテナが導入されています。景観やスペースの制約があるなか、シミュレーションで通信容量の強化が必要となったポイントにガラスアンテナの導入を計画。屋内設置で景観に溶け込みやすく、工事の規模が比較的小さくて済むため、ピンポイントでの容量増強を実現することができました。

パビリオンの建設途中での導入だったため、構造的にガラスアンテナを設置可能か、配線はどのように通すかなどの検討では難しい局面もありましたが、通信容量の増強にこだわり、お客さまに快適な通信環境を届ける準備が整いました。
ガラスアンテナが拓く、通信の新たな可能性
ガラスアンテナはその特性を活かして各地で実装が進んでいます。例えば、多くの人が行き交う渋谷スクランブル交差点では、テナントの窓を利用することで5Gエリアの拡大を実現しました。また、古い建物が多く、景観への配慮が求められる京都でも、増加する観光客の通信需要に対してガラスアンテナが効果を発揮しています。今後もAGCとドコモが共同で技術をアップデートしながら、ガラスアンテナを通信基地局の標準的な選択肢として定着させ、省スペース・省コストで持続可能な通信エリアの構築を進めていく予定です。
あらゆるものが通信でつながる未来に向けて、ガラスにとどまらずさまざまな場所へのアンテナ設置の可能性を探り、お客さまに快適な通信環境を提供するための技術開発に取り組んでまいります。