音楽フェスの熱狂を、通信で支える
SUMMER SONICのネットワーク対策

世界のトップアーティストが集う夏の音楽フェス「SUMMER SONIC」は、東京と大阪の2都市で開催されています。そのうち関西エリアで開催される「SUMMER SONIC大阪」は、2024年に会場をそれまでの舞洲から千里万博記念公園へと移しての開催が決定しました。新たな会場となった千里万博記念公園は、大規模な音楽フェスの開催実績が少なく、数万人が一日中滞在するようなイベントに対応した通信環境の整備が不十分でした。そのためドコモでは、2024年から2025年にかけて、来場者が快適にスマートフォンを使えるよう、さまざまな通信対策に取組みました。本記事では、そうした対策の背景と具体的な取組み内容についてご紹介します。
数万人が快適に集える通信環境を再設計
2024年のサマーソニック開催以前、会場となる千里万博記念公園は、大規模フェスで数万人の来場者が快適に通信できるインフラが十分に整っているとはいえない状況でした。また、機材設置にあたっては景観への配慮が求められるほか、電源やケーブルの確保方法など、多くの課題が浮かび上がってきました。
2024年のサマーソニック大阪の開催が千里万博記念公園に決定してからは、半年以上かけてイベント主催者と打ち合わせを重ね、会場レイアウトや人の流れをふまえた通信環境の改善に取組みました。
そして開催に向けては、
- 屋外既設基地局へマルチユーザMassive MIMOの導入
- 電波角度の調整によるエリアチューニング
- 現場と本部が連携したリアルタイム運用
という3つの対策を実行し、来場者が快適に通信を利用できる環境の実現をめざしました。

- 屋外基地局にマルチユーザMassive MIMO を導入
マルチユーザMassive MIMOとは、複数のユーザーと同時に通信できるMassive MIMO技術を搭載した無線装置です。
通常の基地局は広範囲に電波を発信し、エリア全体をカバーします。これに対し、マルチユーザMassive MIMO は個々のユーザーの位置に合わせて電波をピンポイントで届けられるため、同時に多くの人が利用する場所でも効率的に通信できるようになります。
今回、関西ではじめて屋外にこのマルチユーザMassive MIMO を導入したことで、通常の約2倍の通信容量を実現。フェス当日も通信トラブルはなく、安定した接続環境を提供できました。
- 混雑状況に応じて電波の角度を調整
人気アーティストのステージやフードエリアなど、人が集まる場所は時間によって変わります。そこで、基地局のアンテナの向きを調整し、電波の向きをリアルタイムにコントロール。まるでスポットライトを当てるように、必要な場所へピンポイントで電波を届けるように工夫しました。 - 現場と本部が連携しリアルタイム運用
イベント当日は、現地のドコモスタッフが各ステージに常駐して、通信状況を計測。必要であればすぐに本部へ連絡し、きめ細かく基地局の設定を調整しました。本部では通信データをリアルタイムで監視し、通信の偏りをいち早く察知しながら、終演まで安定した通信を支えました。
2025年は、5G対応エリアの増加など、さらに工夫を重ねた
2025年の開催に向けて、ドコモは2024年の経験をもとに、移動基地局車などを活用して設備容量を2.1倍に増強し、入場口や物販エリアなど混雑時でも快適な通信を提供することを通信改善取組み宣言※として掲げ、さらなる通信対策を実施。特に開場待ちの列や駅からの導線など来場者の滞留が多い場所の通信品質向上に向け、周辺基地局の5G対応を進めるとともに、景観に配慮した臨時基地局の設置場所の見直しを行いました。さらに、現場の状況に応じたアンテナの角度を調整して通信エリアを最適化し、電波の向きを細かく制御できるマルチユーザMassive MIMO技術の活用によって通信容量を大幅に拡張。4Gと5Gをバランスよく使い分けることで、混雑による通信の偏りや不安定さを抑える仕組みも整えました。
- 「2025年度 ドコモの通信改善 取組み宣言」についてはこちらをご確認ください。


通信は、技術を超えて、体験を支えるインフラへ
近年、スマートフォンを通じて写真や動画を共有したり、電子チケットで入場したり、キャッシュレス決済を行ったりと、日常的に多くの通信が発生しており、一人ひとりの通信量も年々増加しています。そうしたなかで、大規模イベントにおいて安定した通信環境を提供するためには、現場の状況をていねいに観察し、変化に応じて柔軟に対応していく姿勢が欠かせません。
千里万博記念公園で実施したサマーソニック大阪の対策は、まさにその実践の場でした。今回の取組みを通じて、来場者にとって快適な通信環境を整えるには、どの程度の容量設計が必要かという具体的な指標を得ることができ、今後の他会場での設計にも応用できる大きな手がかりとなりました。実際の通信環境も安定しており、最繁時に通信が集中したAIR STAGE付近においても419.6Mbps以上を確保し、来場者が快適に利用できる状態を維持できました。
さらに、今回関西ではじめて屋外の既設基地局に導入したマルチユーザMassive MIMO も、今後は他の屋外イベントでの通信対策に役立てていく計画です。
ドコモは、こうした通信対策を単なる技術対応にとどめず、イベント来場者が「つながっていてあたりまえ」というあんしんを届ける基盤として位置づけています。今後も、この活動をさらに発展させ、通信を社会に役立つ価値として広く提供し続けていきます。
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株式会社ドコモCS関西
ネットワーク運営事業部
エリア品質部 大阪エリア品質吉田 有花