テレビ中継における全国初の取組み
九州最大級の祭り「博多祇園山笠」の映像伝送を「5G SA」「5Gワイド」で無線化

毎年7月に催される「博多祇園山笠」のテレビ放送において、カメラと中継車をつなぐケーブルの敷設に危険が伴うことから、地元放送局の福岡放送(FBS)さまと協働して無線化に取組んできました。2024年の開催でついに「5G SA」と「5Gワイド」を活用した映像伝送の無線化に成功し、全国で初めてサービス提供しました。放送分野のモデルケースとなっただけでなく、5G技術全体にとっても大きな一歩となりました。
祭りの迫力を安全に届ける無線通信
福岡市では毎年7月1日から15日にかけて九州最大級の祭り「博多祇園山笠」が開催されます。1241年から続き、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている由緒ある祭りです。市内13か所に巨大な「飾り山笠(かざりやま)」が登場し、10日からは高さ約3m、重さ約1tにもなる「舁き山笠(かきやま)」が担がれて動き出します。そして12日の「追い山笠馴らし(おいやまならし)」と呼ばれるリハーサルでいくつもの舁き山笠(かきやま)が30分程度で約4kmのコースを駆け抜け、クライマックスへと向かいます。
地元放送局である福岡放送(FBS)さまは、この追い山笠馴らし(おいやまならし)の放映において課題を抱えていました。懸案となっていたのは、萬行寺(まんぎょうじ)の前に配置されるカメラです。

舁き山笠(かきやま)の迫力を真正面から撮れるベストポジションですが、カメラと放送局をつなぐ中継車が少し離れた冷泉公園(れいせんこうえん)付近にあるため、中継車からカメラに引いてくるケーブルは幹線道路をまたがなければいけません。これまでは深夜に突貫で横断歩道の頭上にケーブルを通しており、高所作業に危険が伴っていました。また、福岡放送(FBS)さまとしても新しい技術に積極的にチャレンジしたいという想いがあり、5Gを活用した無線化に向けて協働を進めてきました。

2022年の博多祇園山笠から実地での取組みがスタートしましたが、通信に遅延が発生し、放送に影響はなかったものの課題が残る結果となっていました。原因は4G回線のひっ迫です。カメラと中継車を結ぶのは5G通信ですが、実際には4G通信と設備を一部共有(NSA方式)しています。コロナ禍が明けて人流が大幅に増えたことと、当時は5G対応スマートフォンが今ほど普及していなかったために4G回線に通信が集中し、その影響がカメラと中継車の間の5G通信にも及んでいたのです。カメラスタッフが生中継で映像を収めるときには、テレビ局で挿入されたテロップに対して適切な画角になっているのかなど、自身が撮影している映像をリアルタイムに折り返してもらい調整しています。そのため、映像伝送の無線化は通信速度の変動抑止に加えて、遅延をなくすことが前提となります。2024年7月の追い山笠馴らし(おいやまならし)の映像伝送に向けては、3つの技術を導入することで通信の速度安定化と低遅延化の実現に挑戦しました。
導入技術①「5G SA」※1:5Gの上り通信を高速化
周辺の基地局の設備を更新し、5G SA方式による通信を可能にしました。前述のNSA方式とは異なり、4G回線を経由することなしに5G通信ができるようになる技術です。5G接続までの時間が短くなり、特にデータをアップロードする上りの通信速度はNSA方式と比べ大幅に向上します。※2

- 5G SAについて、詳しくはこちらでご確認ください。
- 当社が提供するNSAとのミリ波における、上りの通信速度の技術規格上の最大値比較において。また、3.7GHz帯、4.5GHz帯(Sub6)のみが提供されているエリアにおいては、下りの通信速度はNSAと比較して低下します。しかしドコモの調べでは、お客さまの使用感はSAおよびNSAともに快適であることを確認しております。
導入技術②「5Gワイド」※3:混雑のなかでも安定した通信
2024年4月にローンチされた新技術で、特定のSIMカードを保有する端末に一般ユーザーと比べ優先的にパケットを割り当てることで、モバイル通信において通信速度向上と通信安定化を提供します。今回は、萬行寺(まんぎょうじ)前のカメラと中継車のそばにそれぞれ配置されたルーターに一般ユーザーの5倍の通信容量を割り当てました。混雑のなかでも安定した通信が可能になり、通信速度の変動も低減されるため、映像の乱れやスタック(止まってしまうこと)を防ぎます。

- 5Gワイドについて、詳しくはこちら
でご確認ください。
導入技術③「docomo MEC®」※4:低遅延化でリアルタイム性を向上
データの通信に必要なサーバーやデータの保管に必要なストレージを、ユーザーと物理的に近い位置に配備する仕組みです。現在普及が進んでいるクラウドのサーバーよりも通信距離を短くできるため、低遅延化に貢献します。本件では映像伝送だけでなくカメラスタッフの音声連絡の伝送にも対応するため、高精度なリアルタイム性が必要でした。

- docomo MEC®について、詳しくはこちら
でご確認ください。
現場の状況に合わせた最終調整
単に技術を導入するだけではなく、現地には高低差や遮蔽物の影響があるため、その状況に合わせた調整も重要です。5G通信を送受信するためのルーターの位置を歩測で探りながら、電波強度が最大になるように基地局のアンテナ角度を調整。実際に、ルーターの位置を調整した後で通信速度は2倍近く向上しました。

シミュレーションを重ねて迎えた当日も必要な通信速度を維持し、カメラスタッフからは映像の乱れもなく、遅延についても全く気にならなかったという評価をいただくことができました。
映像伝送の成功で高まる5G通信への期待
5G SAと5Gワイドによる映像伝送としては、全国で初めてサービス提供した案件でした。追い山笠馴らし(おいやまならし)で成功したことで、他のケースでも映像伝送の無線化が導入され始めています。
また、本件は5G技術のさらなる進歩への足掛かりとしても大事な意味がありました。5Gは「高速大容量」「低遅延」「多数端末との接続」という特徴を持っており、さまざまなサービス、産業を革新すると期待されています。特に5G SAは4Gを活用するNSAとは異なり、5Gのみのシンプルな構成のネットワークであり、5G SAならではのサービスを提供可能です。そのための技術のひとつとして期待されているのが「ネットワークスライシング」です。

ネットワーク上で仮想的に通信を分割(スライシング)し、サービスごとに専用の回線を作る技術です。実現すれば自動車の自動運転や鉄道無線には低遅延の回線、IoT端末には多数同時接続に向いた回線といったように、同時にさまざまな通信の品質要求へ対応可能になります。映像伝送の無線化で導入された3つの技術にはネットワークスライシング実現の基盤技術としての側面もあり、放送分野にとどまらない可能性を秘めています。
今後も、日々の通信品質の改善はもちろんのこと、さらなる通信技術の開発によって、より快適な社会の実現に貢献してまいります。
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株式会社NTTドコモ九州支社
ネットワーク部 ネットワーク計画
移動無線計画担当 主査古川 隆一
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株式会社NTTドコモ九州支社
ネットワーク部 ネットワーク計画
移動無線計画担当坂本 順平
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株式会社NTTドコモ九州支社
ネットワーク部 ネットワーク計画
移動無線計画担当馬場﨑 公平
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株式会社ドコモCS九州
ネットワーク運営事業部
エリア品質部 エリア品質技術佐藤根 隆太
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株式会社NTTドコモ中国支社
スマートライフ部 コンシューマ営業担当 主査
旧所属:FBS福岡放送 技術(出向)上野 和剛
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NTTコミュニケーションズ株式会社九州支社
第一ソリューション&マーケティング営業部門井上 あずみ


