開発のきっかけは
偶然の出会いから
目的地を告げるだけで、あんしん安全に自動運転で移動できる自動運転車いす。この開発は、自動運転車いすのプログラム開発を行う久留米工業大学の教授とドコモの社員の偶然の出会いから始まった。
協力を申し出ていたドコモはほどなくして教授から「行き先を伝えるだけで目的地に連れて行ってくれる自動運転車いすをつくってみたい」と相談を受けることになる。そこでドコモは、「ドコモAIエージェントAPI®※」の活用を思いつく。
※「ドコモAIエージェントAPI®」とは
音声・テキストユーザーインターフェースをパッケージ化した対話型AIのASPサービス。
https://www.docomo.ne.jp/biz/service/ai_agent_api/
こうして「ドコモAIエージェントAPI®」を搭載した自動運転車いすの実証実験が福岡空港で行われた。お客さまが「搭乗口に行きたい」と言うと、車いすが自動運転でその場所まで連れて行ってくれるのだ。
本当に必要とするお客さまに
ご利用いただくために
こうして始まった久留米工業大学との開発プロジェクト。大学側は介護施設や病院での利用を想定して、お客さまの声をリサーチしていた。
ドコモでは教授と定期的にディスカッションする中で、お客さまの「人に動かしてもらう車いすは怖いことがある」、「確実に安全じゃないと自動運転車いすには乗りたくない」といった安全性にかかわる声が多いことを知った。
そこで上がったのが、5Gを活用した自動運転車いすの遠隔操縦。コンセプトを「“人が見守る”自動運転車いす」と掲げ、自動運転を行いながらも、何かの不具合で車いすが動かなくなってしまったり、利用者が不安な表情をしたら遠隔地から人がコミュニケーションを取り、安全な場所まで遠隔操縦で動かすなどの対応をするのだ。
あんしん安全の実現のためには、
5Gが有効
遠隔操縦は高速・大容量、低遅延であることが必須だ。なぜならわずか1秒でも高画質映像や操作信号の遅延があれば、めざすあんしん安全は実現できないからだ。5Gを活用して車いすを動かすのであれば、それを制御するシステムも必要となる。
担当者は奔走した。社内で多くの人に声をかけると、ドローンの映像を遠隔で見たり制御したりする技術が活用できそうだとわかった。そして、社内のラボで実験。すると、モニターには鮮明な映像が映り、遠隔操縦でスムーズに自動運転車いすが動いたのだった。
なんとしてでも
実証実験を
成功させたい
そこから実証実験の場は屋外へ。期待を胸に実験を行うと、待っていたのはラボでの実験とは全く違う結果。屋外の通信環境は常に電波が最適とは限らない。携帯電話を動かすのと、自動運転車いすを正確に動かすのは訳が違うのだった。
「何としてでも実証実験を成功させて、実用化へ一歩近づくんだ!」。そんな想いを強く持って、そこからあんしん安全な自動運転車いすを使えるようにするための戦いが始まった。
その数、およそ100名。
大勢の力の結晶
一番の課題は自動運転車いすの情報を遠隔操縦者とやり取りする際の通信の遅延だ。
その課題を解決するために、実にたくさんの人がプロジェクトにかかわることになった。担当者は関係部署にプロジェクトの説明を行い、実証実験成功のための手助けを求める。利用するアンテナの角度やビットレート※の調整を数えきれない程繰り返し、電波状況の改善に取組んだ。
このために東京から北九州市内の現場に足を運んだ者もいれば、泊まり込んで対応にあたる者もいた。5Gを支える各方面のプロたちが実証実験の成功に向けて力を合わせた。その数ざっと約100名。教授も納得のあんしん安全な状態が生み出されたのだ。
※単位時間あたりに転送または処理されるビット数。
想いがカタチになり、
実用化へ
こうしていろいろな人の力を集結して、実用化へ前進している自動運転車いすの共同開発。今後はネットワーク環境に応じて自動的にビットレートの調整を行えないかなど検討していく。実証実験が成功したのは、本当に必要としているお客さまに使ってもらいたい、というドコモ社員の想いがあったからこそ。諦めず突き進む教授の熱い想いもドコモ社員の士気を高めた。お客さまがあんしんして自動運転車いすで外出する日はそう遠くないはずだ。