3GPP Release 19における5GCの高度化技術概要 —コアネットワークと端末—
- #5GE&6G
- #3GPP
- #コア & OAM
林 悠眞(はやし ゆうしん)
阿部 元洋(あべ もとひろ)
村上 雅英(むらかみ まさひで)
土尻 俊輔(どじり しゅんすけ)
本田 舜(ほんだ しゅん)
6Gテック部
あらまし
3GPP Rel-19は,5G-Advancedにおける最終的な統合フェーズとして位置づけられる.特にCT Working Groupの観点では,Rel-19は新規アーキテクチャや機能拡張を目的とするReleaseではなく,Rel-17およびRel-18において導入された各種技術を現実の運用・サービス提供が可能な形に収束させることを主眼としたReleaseである.
本Releaseでは,Energy Saving,非地上系ネットワーク(NTN),AI/MLといった要素が,NASおよび5GCの制御,サービス継続性,マイグレーション・災害対応といったCT Working Groupの責務と強く結び付けられ,ネットワーク設計上の前提条件として明確化された.本稿では,Rel-19におけるCT Working Groupの主要成果を,TS/TRの観点から概説する.
01. まえがき
3GPP(3rd Generation Partnership Project)*1 Release 19(以下,Rel-19)は,5G-Advancedの進化において「技術を拡張するフェーズ」から「運用を成立させるフェーズ」へと明確に舵を切ったReleaseである.
Rel-15からRel-18にかけては,RAN(Radio Access Network)*2・コアネットワーク*3を問わず新機能の導入やその適用領域の拡大が主軸となっていたが,これらの機能は必ずしも大規模運用,災害対応,長期的なネットワーク進化を前提として設計されていたわけではなかった.
一方,Rel-19においては,CT(Core Network and Terminals)*4 Working Groupは,NAS(Non-Access Stratum)*5プロトコル,5GC(5G Core Network)制御,サービス継続性の観点から,これまでに導入された機能群を「現場で使える形」に収束させる役割を担った.本Releaseは,Rel-20以降の6G検討に向けた準備段階としても重要な意味をもつ.
本稿では,Rel-19におけるCT Working Groupの主要成果を,TS(Technical Specification)/TR(Technical Report)の観点から概説する.
- 3GPP:各国の標準化機関により設立された移動通信の仕様を検討,策定するプロジェクト.
- RAN:3GPPにおいて,コアネットワーク(*3参照)と端末の間に位置する,無線レイヤの制御を行う基地局などで構成されるネットワーク.
- コアネットワーク:移動通信システムの構成要素であり,登録制御,セッション制御,サービス制御などを司る.移動端末は無線アクセスネットワークを経由してコアネットワークにアクセスする.
- CT:3GPPにおいて,コアネットワーク内,および移動端末とコアネットワーク間のプロトコルの仕様化を行っているグループ.
- NAS:UE(*6参照)とコアネットワーク間でやり取りされる制御プロトコル.登録,認証,モビリティ管理,セッション管理などを担う.
02. Rel-19の設計思想
2.1 システム全体のエネルギー利用効率を考慮した設計
Rel-19においてエネルギー利用効率化は,RANの省電力手法にとどまらず,コアネットワークおよびNAS制御を含むシステム全体の前提条件として整理された.
UE(User Equipment)*6の動作状態制御,省電力遷移,Paging*7や接続性維持といった要素は,CT Working Groupが規定するNASの振舞いと不可分である.
QoS(Quality of Service)*8,Network Slice選択,課金とエネルギー指標を結び付ける枠組みが整理されたことで,CT Working Groupの立場では性能が出るかではなく,エネルギー制約下でサービスが成立するかが評価軸として設定された.
Rel-19は,NASや5GC制御がエネルギー利用効率を考慮した制約条件を内包して設計されることを前提とした最初のReleaseととらえられる[1].
2.2 AI/MLの前提化と責務分離
Rel-19におけるAI/ML(Artificial Intelligence/Machine Learning)*9は,CT Working Groupの視点では高度な最適化手法ではなく,ネットワークの一構成要素として整理された.
AIMLE(AIML Enabler)により,MLモデルの登録・配布・更新といったライフサイクル管理が5GCの制御モデルとして明確化され,NWDAF(Network Data Analytics Function)*10を中心とした分析結果の提供との役割分担が整理されている.
また,Rel-19ではネットワーク側のみで動作するOne-sided AIのみが,より細かく仕様を議論する項目として確定され,UEとネットワーク双方が協調するTwo-sided AIはRel-20以降の課題とされた.
これはCT Working Groupの観点から,自律制御を既存NAS設計と矛盾なく成立させる最小条件を確定させたものと位置づけられる[2].
2.3 NTNを前提としたコアネットワーク・NAS制御の確立
Rel-19におけるNTN(Non-Terrestrial Network)*11は,RAN技術そのものよりも,コアネットワークおよびNAS制御としてNTNをどう扱うかが,CT Working Groupにおける中心的論点であった.
gNodeB*12 on Satellite構成やNG Removal*13を含む接続モデルの整理により,NTNは特殊構成ではなく,5GS(5G System)*14における正規のネットワーク配置の1つとして再定義された.
また,Broadcast,Multicast,PWS(Public Warning System)*15といったサービスは,CT Working Groupが規定するサービス成立条件として,NTN環境下で再整理されている.IoT NTNにおけるStore & Forward*16機構やIoT向けPWSも,さまざまな制約下でNAS/5GCがどのように振る舞うかを明確化した成果である[3].
- UE:ユーザ端末.3GPP仕様向け無線インタフェースを介したネットワークサービスへのユーザアクセスを可能にする.
- Paging:ネットワークが待受状態のUEを呼び出すための信号処理.
- QoS:サービスごとに設定されるネットワーク上の品質.使用帯域の制御により遅延量や廃棄率などの制御が行われる.
- AI/ML:モデルの学習・推論・配布・運用を支援するための3GPPの仕組み.
- NWDAF:ネットワーク内データを分析し,統計・予測・AIモデルを提供するNF(*24参照).
- NTN:衛星やHAPS(High Altitude Platform Station)などの非地上系媒体を利用して,通信エリアが地上に限定されず,空・海・宇宙などのあらゆる場所に通信エリアが拡張されたネットワーク.
- gNodeB:5Gの無線方式に対応した無線基地局.
- NG Removal:衛星上にgNodeBを搭載する構成などにおいて,通常のNGインタフェースを介した接続モデルを見直す検討.
- 5GS:5GCに接続する無線アクセスネットワーク,および通信端末で構成されるネットワークシステム.
- PWS:災害・緊急情報を配信するシステム.
- Store & Forward:即時通信が困難な環境(NTNなど)で,一時的にデータを蓄積し,後で転送する方式.
03. コアネットワークにおける運用性の強化(CT Working Group主導機能)
3.1 加入者データベース移管の高度化
Rel-19では,5GSにおける加入者データベース移管が,EPC(Evolved Packet Core)*17における加入者データ移管で用いられていた仕組みを発展させる形で,CT Working Group主導で体系的に拡張された.
EPCでは,HSS(Home Subscriber Server)*18間の加入者データ移管時に,SLF(Subscription Locator Function)*19/DRA(Diameter Routing Agent)*20における経路制御やRESET手順を用いて通信継続性を確保していた.一方,クラウドネイティブ*21化により,5GSではUDR(Unified Data Repository)*22/UDM(Unified Data Management)*23の再配置やデータ移行が前提となる中,NASおよびNF(Network Function)*24間制御の一貫性確保が重要課題となっていた.
Rel-19では,UDRによる差分同期および変更通知,UDMによる移行状態管理,NRF(Network Repository Function)*25における通知の拡張,AMF(Access and Mobility Management Function)*26/AUSF(Authentication Server Function)*27における再同期手順が整理され,移行中・移行後においても各NFが最新の加入者情報を参照しながら継続的に通信制御を行うことが可能となった(図1)[4].
3.2 5G NR Femtoに対するCT Working Groupの扱い
5G NR(New Radio) Femto*28やローカル5Gに関しても,Rel-19ではCT Working Groupが中心となり,商用5GSにそれらをどのように収容するかが規定された.
5G NR Femtoやローカル5Gは,CAG(Closed Access Group)*29を用いたアクセス制御を前提とし,Rel-19ではUEのセル選択,登録,接続制御,ならびにUDR/UDM・NEF(Network Exposure Function)*30における情報管理が整理されている.
これにより,5G NR Femtoやローカル5Gが例外的存在ではなく,5GSの通常運用の一部として扱えることが仕様上明確化された.ドコモは,本仕様の明確化推進のために,各Working Groupで対応を行い,CT Working Groupではラポータ*31を務め,仕様の明確化推進に大きく寄与した[5].
3.3 災害および障害時におけるサービス中断の最小化によるサービス継続性の強化(MINT Phase 2)
MINT(Minimization of Service Interruption)*32 Phase 2は,Rel-19におけるCT Working Groupの思想を最も端的に表すアイテムの1つである.
通常は5Gのみローミング*33可能なUEに対し,災害時に限ってEPS(Evolved Packet System)*34 VPMN(Visited Public Mobile Network)*35への接続を特例的に許可することで通信断を最小化する(図2).
つまり,UEはNAS制御を通じてVPMNの災害状態および障害状態を理解し,VPMNとHPMN(Home Public Mobile Network)*36間の合意がある場合にのみForbidden VPMN List*37を無視して接続を行うようになる.
Rel-19では,この平時・非常時の振舞いの差分が明確に定義され,CT Working Groupの設計思想の1つである「いかなる状況であってもサービスを止めない」制御が具現化された[6].
3.4 Satellite利用を前提としたCT Working Group機能整理
衛星通信利用時のPWS,Store & Forward,Optimized Media Routing*38,LoSePLMN(Loss of Serving PLMN)*39,ATSSS(Access Traffic Steering, Switching and Splitting)*40 Phase 4などの機能は,いずれもCT Working Group観点では,衛星通信の制約下でもサービスを成立させるための制御として位置づけられた.
特にATSSSにおけるMultipath QUIC*41の適用は,衛星通信の不安定性を前提にしたトラフィック制御モデルとして重要である[7].
- EPC:LTE無線アクセスを含む各種無線アクセスシステムを収容できるコアネットワーク.
- HSS:3GPP移動通信網における加入者情報データベースであり,認証情報および在圏情報の管理を行う.
- SLF:加入者データの移行先データベースを特定する機能.
- DRA:実際に加入者データを転送する機能.
- クラウドネイティブ:オンプレミスではなく,クラウド上での構築運用を前提として設計されたシステムやサービスを指す.
- UDR:加入者データを格納するデータベース機能.
- UDM:加入者情報の管理および認証関連データの提供を行うNF(*24参照).
- NF:コアネットワークを構成する論理的な機能単位.
- NRF:NFの登録・探索・通知を管理する機能.
- AMF:UEの接続管理や移動管理を担うNF.
- AUSF:UE認証処理を実施するNF.
- 5G NR Femto:屋内や限定エリア向けの超小型の5G基地局.
- CAG:特定のユーザのみ接続可能な小規模セル(例:Femto)へのアクセス制御方式.
- NEF:5GCで規定されたネットワーク機能の1つ.3GPP規定外の外部サーバやアプリケーションなどへのAPIを提供する.
- ラポータ:Work Itemのような検討対象項目に対して,進捗の管理,議論のとりまとめ,議論結果をキャプチャしたテクニカルレポートのエディタなどを務める3GPPの役職.
- MINT:サービス中断を最小化する枠組み.災害時の接続制御などを含む.
- ローミング:利用者が契約している通信事業者のサービスエリア外でも,提携事業者のサービスエリア内であれば,契約している事業者と同様のサービスを利用できる仕組み.
- EPS:LTEのコアネットワークシステム.
- VPMN:ローミング先のネットワーク.
- HPMN:契約している自国の通信事業者ネットワーク.
- Forbidden VPMN List:接続を禁止する訪問先ネットワーク(ローミング先)のリスト.
- Optimized Media Routing:NTN端末同士の通信において,不要な地上網経由を避けて最適なルートを選択する機能.
- LoSePLMN:UEが現在接続しているPLMNとの接続を喪失した状態,またはその状態に対応する識別・制御の枠組み.
- ATSSS:複数アクセス間でトラフィックを制御する仕組み.
- Multipath QUIC:複数経路を用いたQUIC通信の拡張技術.
04. 仕様収束をめぐる議論・対立とRel-20/6Gへの橋渡し
前述のとおり,Rel-19は「既存機能をどの条件で運用可能とみなすか」を詰めるReleaseであった.そのため,CT Working Group 1では新規機能の追加そのものよりも,制御機能の適用範囲やローミング時の整合性が主要な議論の対象となった.
特に,connected mode*42におけるSOR(Steering Of Roaming)*43の一部であるSOR-CMCI(Steering Of Roaming Connected Mode Control Information)*44をoptional化する提案は,UEベンダ側が実装自由度の拡大を志向したのに対し,オペレータ側はローミング環境での一貫した制御性への影響を懸念した.実際の会合では本件をドコモにとっての重要事項と位置づけ,GSMA(Global System for Mobile communications Association)*45への問合せにまで発展したが,最終的にoptionalとして整理された.
さらに,NTNを前提としたサービス成立条件の整理も,単純な適用範囲拡張ではなかった.実際の会合では,PWSのNTN/EUTRAN-NTN(IoTを含む)への適用が議論されたが,ドコモはETWS(Earthquake and Tsunami Warning System)*46のような公共性の高い機能については,メッセージサイズの規定などの既存地上系と同等の成立条件をどこまで要求するかを慎重に見極める必要があるとして議論延長を打診し,最終的にRAN Working Groupを含めて検討を行い,その結果ドコモが指摘した懸念点が解消される形で合意された.
このようにRel-19自体は6G技術を直接導入するものではない.しかし,CT Working Groupが主導して確定させた制御モデルなどは,Rel-20以降の6G議論における初期条件となる.
6Gにおいて新たな無線・アーキテクチャが登場したとしても,CT Working Groupが担うべき運用成立性の考え方は継続されると考えられる.
- connected mode:UEとネットワークの接続が確立されている状態.
- SOR:ローミング時において,ホームネットワーク(HPLMN)がUEに対し,特定の訪問ネットワーク(VPLMN/VPMN)へ接続させるよう制御する仕組み.
- SOR-CMCI:HPLMNがUEに対しSORを実行するためにどのタイミングでConnected状態(通信中状態)からIdle状態(非通信状態)に移行するかを制御するための情報.
- GSMA:ローミングルールの策定をはじめとした,さまざまなモバイル業界の活動を支援・運営する,世界最大の移動通信関連の業界団体.移動通信事業者と中継事業者や端末・装置ベンダ,ソフトウェアベンダなどの関連企業が参加している.
- ETWS:地震や津波などの緊急情報を通知する仕組み.
05. あとがき
3GPP Rel-19は,CT Working Groupの観点から見れば,5G-Advancedを「技術を拡張する段階」から「運用を成立させる段階」へ移行させたReleaseである.本稿で述べたように,Rel-19ではエネルギー利用効率の向上,AI/MLの導入に向けた基盤整備,NTNの本格利用を見据えた制御機能の整理に加え,加入者データベース移管,MINT,Femto対応など,実運用を支える多くの機能が仕様化された.このように,Rel-19は個別機能の追加だけでなく,5Gシステム全体の運用性・継続性・拡張性を高めるための仕様収束が進められた点に大きな特徴がある.
また,仕様策定の過程では,実装自由度と運用要件のバランス,ローミング環境における制御の一貫性,NTNを含む新たな利用環境でのサービス成立条件などについて活発な議論が行われた.これらの議論を通じて,CT Working Groupは将来のネットワーク運用を支える制御モデルや設計指針を明確化したといえる.
今後,3GPPではRel-20において6G検討が本格化する見込みであり,AIネイティブなネットワーク運用,高度な自律制御,地上系・非地上系ネットワークのさらなる統合など,新たな技術課題への対応が進められると考えられる.その中でもCT Working Groupには,新たな技術を導入するだけでなく,それらを実際の商用ネットワークで安定的かつ継続的に運用可能とするための制御方式の確立が求められる.今後も運用性・サービス継続性・相互接続性の観点から,6G時代に向けた仕様検討が進展していくものと期待される.
- [1] 3GPP TS29.566 V20.0.0:“5G System; Energy Information Function Services; Stage 3,”Jun. 2026.
- [2] 3GPP TS24.560 V20.0.0:“Artificial Intelligence Machine Learning (AIML) Services - Service Enabler Architecture Layer for Verticals (SEAL); Protocol Specification; Stage 3,”Jun. 2026.
- [3] 3GPP TS23.041 V20.0.0:“Technical realization of Cell Broadcast Service (CBS),”Jul. 2026.
- [4] 3GPP TS29.504 V20.0.0:“5G System; Unified Data Repository Services; Stage 3,”Jun. 2026.
- [5] 3GPP TS29.503 V20.0.0:“5G System; Unified Data Management Services; Stage 3,”Jun. 2026.
- [6] 3GPP TS24.301 V20.0.0:“Non-Access-Stratum (NAS) protocol for Evolved Packet System (EPS); Stage 3,”Jun. 2026.
- [7] 3GPP TS24.193 V20.0.0:“5G System; Access Traffic Steering, Switching and Splitting (ATSSS); Stage 3,”Jun. 2026.