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冬になると雑木林では葉が落ち、昆虫たちの姿もなくなります。しかし、そんな季節だからこそ、夏の間は目に付かなかった繭は見つけやすくなるのです。冬の野山へ繭探しに出かけてみましょう。
繭とは昆虫が蛹になるときに体内から出す糸もしくは独特の分泌物によって作られる蛹の部屋です。繭には外敵から蛹を守る役割のほか、紫外線カットや防かびなど中の蛹を安全に保つ効果があります。
繭を作る昆虫は蛾の仲間が大部分を占めますが、蛾以外でも甲虫や蜂の仲間などさまざまな昆虫が繭を作り、その形や色、模様も多様性に富んでいます。繭を作る場所は、木の枝や葉に作る種類と地面に降りて土中や落ち葉の中に作る種類に分けられます。
それではまず、雑木林へ行ってみましょう。そして、木々の枝先に注目してみます。すでに落葉しているはずなのに、不自然に残っている葉があれば、それは繭かもしれません。
冬の雑木林で最も目立つのはウスタビガの繭です。ウスタビガは卵で越冬し、春に孵化した幼虫が繭を作るのは6月から7月です。成虫は晩秋から初冬に出現しますので、冬に見つかる繭は抜け殻です。ウスタビガの繭は緑色で夏は葉の色に溶け込んで見つけることが難しいのですが、冬は緑色の抜け殻繭が残っているのでとても目立つのです。
このように目立つためか全国各地でさまざまな呼び名があります。図鑑では「やまかます」と呼ばれるとされています。これは繭の形がわらで作った袋の一種であるかますに似ていることに由来します。一方、東北地方では、主に「やまびこ」と呼ばれています。
ウスタビガと同じように冬に抜け殻繭を見つけることができるのが、ヤママユやクスサン、クワコなどです。また、雑木林に行かなくても都会の公園や街路樹で見つけることができる繭もあります。殺風景な冬の野山ですが、その中にも昆虫たちが作った繭という芸術品が息づいているのです。
冬 = 卵
卵は幼虫のエサであるコナラなどの枝に数個ずつ産みつけられますが、繭の表面に産卵されていることもあります。運がいいと、冬に卵付きの抜け殻繭を見つけることができます。
春 = 幼虫
春、福島県平野部では4月ごろに幼虫は孵化します。コナラなどの葉の裏にいることが多く、終齢幼虫は葉と同じ緑色で見つけるのはとても難しいです。
夏~秋 = 蛹
初夏に繭を作るとその中で蛹になります。蛹のまま夏を越し、福島県平野部では11月ごろから羽化します。
秋 = 羽化
繭には長い柄があり、繭上部は平らで完全にふさがれていません。繭の下部には、水抜きのためとも言われる小さな穴があります。羽化する際、繭の上部から頭の部分を出してしばらくじっとしていることがあります。成虫のオスは羽が茶色~黒褐色で触角はくし状で大きく、メスは羽が黄色で触角は細い棒状です。
クスサン
網目の繭を作るので中の蛹が見えます。冬の抜け殻繭の中には蛹の抜け殻が見えますが、時間が経つと、蛹の抜け殻もなくなってしまうことがあります。卵は幼虫のエサとなるクリやクルミなどの木の幹に数十個ほどかためて産み付けられ、若齢幼虫は集団生活をします。そのため、一本の木を丸坊主にしてしまうこともあります。
ヤママユ
繭は緑色でエサとなるコナラなどの葉を巻き付けているので、なかなか見つけられません。しかし、冬の抜け殻繭は、葉が落ちた枝に色あせた繭だけがぶら下がっているので見つけやすいのです。抜け殻繭には繭上部に大きな穴がありますが、ネズミなどの天敵に襲われて繭の横などに穴が開いている場合もあります。
クワコ
野生のカイコと呼ばれていて、クワの枝に抜け殻繭がぶら下がっています。長さ3cmほどのふわふわした柔らかい繭です。作ったばかりの繭は黄色ですが、すぐに色あせて冬は白くなっています。
イラガ
長さ1.5cmほどで卵型の堅い繭です。白地に黒い模様があります。幼虫はカキやサクラ、ヤナギなど多くの植物を食べます。冬の繭の中には蛹になる直前の幼虫が入っていて春に蛹になります。幼虫には毒がありますが、繭は無毒です。
ヒロヘリアオイラガ
イラガの繭を押しつぶしたような形です。公園や街路樹のケヤキやトウカエデ、サクラなどの幹に繭はあります。繭の表面には幼虫時代の毒棘が付いていることがあるので要注意です。穴の開いた前の年の繭も残っています。
執筆者
三田村敏正(コクーンワールド福島)
コラム提供
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