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「どじで間抜けでおっちょこちょい」のイメージを持たれることの多いタヌキ。しかし実際には、環境に合わせて生活様式を変えることのできる順応性の高い動物だ。私たちにとってもなじみの深いタヌキの生活をのぞいてみよう。
タヌキはさまざまな場所を休み場所や繁殖場所として利用する。主な場所としては、森林内では土穴や樹洞、岩の隙間、やぶなど、市街地周辺では民家の軒下や物置小屋の隙間、土管、側溝などが挙げられる。ただし、こうした休み場などの前に足跡などの新鮮な痕跡がない限り、タヌキが利用しているかどうかについては断定が難しい。
日本で生活していると、「信楽焼の狸の置物」や「昔話に登場する化ける狸」、そして「狸寝入り」など、実に多くの「狸」と出合う。しかし、実際の動物としての「タヌキ」はというと、夜行性が強いこともあり、なかなかお目にはかかれない。そのため、タヌキとその他の動物を混同してしまう人も少なくない。
タヌキは、東アジアに自然分布しているイヌ科の哺乳類で、日本では北海道にエゾタヌキが、本州・四国・九州にホンドタヌキが生息している。周辺に緑地があまりないような市街地から山奥まで生息環境の幅はとても広いのが特徴。食物も市街地では残飯、森林では昆虫やミミズや果実など、それぞれの環境で最も得やすい食物を中心に利用している。
タヌキは哺乳類には珍しい一夫一妻の動物。春先に交尾をし、その約2カ月後に出産を迎える。オスも子育てに参加し、メスが授乳で忙しいときには餌を運び、メスが採餌に出かけた際には子守りをする。梅雨が終わるころには、子どもたちも外に出ることが多くなり生活する術を学んでいく。食欲の秋を迎えると、厳しい冬に備えてタヌキたちは丸々と太る。その分出る量も多くなるため、「ため糞場」と呼ばれる共同トイレには山のように糞が積もる。そして、秋が深まるころには子どもたちも大きく成長し、新天地を求めて次第に親元から離れていく。
今でこそ各地に生息するタヌキだが、かつては毛皮目的で乱獲され個体数が激減した時代がある。現代においても毎年10万頭以上もの命が交通事故により失われている。なじみ深い一方で目にする機会の少ない動物だからこそ、その存在を感じ大切にしていきたい。
タヌキの足跡は4つの指球と爪痕および掌球が残ることが多い。アカギツネも類似した足跡を残すため、歩行パターンも併せて読み取る必要がある。
タヌキは前足と後足が重ならないことが多く、足跡はジグザク状に残ることが多い。一方で、アカギツネは前足と後足が重なり直線状に歩くことが多い。ネコは爪痕が残らないため区別しやすいが、足跡サイズの近いイヌとの区別は難しい場合がある。
タヌキは人間と同じようにトイレを持つが、流すわけではないので、そこには糞がたまっていくことになる。夏は糞虫の影響で消失することもある。一方で、秋季から春季の糞は分解されにくいため、雪解けが始まる晩冬から初春にかけてはため糞場が見つかりやすい。
他にもため糞をする動物がいる。ハクビシンの場合、ねぐらで形成されることが多く糞の獣臭も少ないため区別できる。アライグマもため糞をする場合があり、形状や色調のみでの区別は難しいが、ねぐら周辺で形成されることが多いという点でタヌキとは異なる。
執筆者
關 義和(玉川大学農学部環境農学科教授)
コラム提供
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