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社労士に聞く、中小企業の経営者や人事労務担当が知っておくべき法改正とは?

社労士に聞く、中小企業の経営者や人事労務担当が知っておくべき法改正とは?

近年、働き方改革のもと労働環境に関わる法改正が続いています。そこで、中小企業の経営者や人事労務担当が備えておくべきことについて、社労士の佐佐木由美子氏に聞きました。

目次

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1.中小企業を取り巻く、近年の法改正の傾向

近年、働き方改革のもと、人事や労務関連の法改正が続いています。人手不足に悩む中小企業にとって、法改正にどう対応するかは大きな課題です。そこでまず、中小企業を取り巻く近年の法改正の傾向について、グレース・パートナーズ株式会社代表で、社労士の佐佐木由美子氏にお話を伺います。

「近年、相次ぐ人事や労務関連の法改正の背景にあるのは、働き方改革です。日本の生産年齢人口が減っている状況で、女性や高齢者にもっと社会で活躍してもらうため、より柔軟で、魅力的な職場をつくる必要があると国は考えています。そのため、女性活躍推進法や、育児・介護休業法の改正、同一労働・同一賃金の義務化などで、労働環境の改善が進められてきました。今後も順次、すでに大企業に適用されている改正法の中小企業への適用が予定されています」

今年の4月からは、これまで大企業に義務付けられていた、パワハラ防止施策や女性活用に向けた行動計画の策定、情報の公表などが、より小規模な企業にも適用されるようになります。

さらに、同じく4月から順次、改正育児・介護休業法が施行され、10月からは従業員101人以上の企業に短時間労働者への社会保険適用が拡大されます。来年4月からは、中小企業においても月60時間超の時間外労働の法定割増賃金率が50%以上になるといいます。

「これらは人手不足のなか、厳しい経営環境に置かれている中小企業にとって、すぐに対応するのは難しいかもしれません。ただ、これらの改正は、あくまで多様な人が働きやすい職場をつくるためのものです。『良い人材が採用できない』『定着しない』といった中小企業が抱えがちな悩みの解決につながるものと、前向きに捉えて積極的に取り組んでいただきたいと思います」

2.育児・介護休業法の改正で、男性従業員の育休取得がスタンダードに

ここからは、佐佐木氏が中小企業への影響が特に大きく、早めの対応が大事だと考える三つの法改正について詳しく伺います。まずは、4月から段階的に施行される育児・介護休業法の改正です。

「この法改正は従業員数を問わず、すべての会社が対象になります。4月の段階では、育児休業を取得しやすい雇用環境整備や、妊娠や出産を申し出た従業員への個別周知や育休取得の意向確認が義務化されます。そのうえで10月に、今改正の目玉である出生時育児休業、通称『産後パパ育休』が施行されます」

育児・介護休業法の改正で、男性従業員の育休取得がスタンダードに

「産後パパ育休」は、子どもの出生後8週間以内に4週間まで、2回まで分割して取れる制度です。また、労使協定(従業員代表と使用者の間で交わされる書面による協定)を結んでいれば、従業員と会社の合意に基づき、育休中に一定の日数、働くこともできます。この「産後パパ育休」は、従来の育休制度と合わせて利用することもできるといいます。

「人事担当者はまず、法律に沿った形で就業規則を見直し、場合によっては新たな労使協定を結ぶ必要があります。さらに、制度の説明会を開くなどし、男性従業員のみならず、全従業員に周知を徹底する必要があるでしょう。

いずれにしろ、育児・介護休業法は男女の従業員の育休取得を強力に後押しする制度です。これまで中小企業において、男性従業員の育休取得がなかなか進まない課題がありました。しかし、経営者や人事担当者のみなさんには、これを機に意識を変え、育休は誰もがとって当たり前だという環境を整えるために、努力していただきたいと思います」

3.早めの準備が必要な「社会保険適用拡大」

続いて佐佐木氏が、中小企業の経営に最も大きなインパクトを与えるのではないかと指摘するのが、パート従業員などへの社会保険適用です。現在、従業員数501人以上の企業が対象となっていますが、今年の10月からは従業員数101人以上の企業にまで拡大されるといいます。

「パート従業員も社会保険に加入することになれば、法定福利費が上がり、中小企業の経営に大きな影響を与えることになります。そのため、できる限り早いうちに準備を進めたほうがよいと思います」

この制度変更に対する会社の対応としては、3つのステップがあると佐佐木氏は言います。まず、従業員数が100人前後の会社は、現在の厚生年金保険の適用対象者数をきちんと把握し、自社が対象となるかどうかを見極めます。続いて、改正内容と社会保険の加入について会社としての対応など社内の加入対象者へ周知します。さらに、必要に応じた個別面談など、従業員とのコミュニケーションが重要だといいます。

「社会保険に加入すれば医療保険が手厚くなり、将来自分が受け取れる年金が増えるわけですから、パートで働いている多くの方は喜ぶでしょう。その会社で『安心して長く働ける』という安心感にもつながると思います。

ただ、社会保険に加入して手取りが減ることを嫌がったり、自分はあくまで夫の扶養の範囲内で働きたいと考えたりする方もいます。説明不足や誤解から、場合によっては従業員が辞めてしまうことにもなりかねないので、丁寧な対応が必要です」

このように従業員の意向も踏まえながら話し合い、必要に応じて労働契約を見直す作業を、9月末までには行う必要があると、佐佐木氏は言います。

「当然ですが、従業員が多ければそれだけ準備の時間がかかります。よって、社内の状況把握は今すぐにでも始めたほうがいいでしょう。また、社会保険に加入すべき人がしていない場合は罰則があり、6か月以下の懲役、又は50万円以下の罰金に処せられることもあります。

仮に社会保険の調査があったとき、加入すべき従業員が加入していないことが発覚すれば、最大2年までさかのぼって社会保険料を支払わなくてはならなくなります。2024年には51人以上の企業も対象になるので、なるべく早めに準備しておくことをおすすめします」

4.「残業代の割増率アップ」に備え、働き方の見直しを

もう一つ、佐佐木氏が、早めに対策を進めたほうがいいというのが、2023年4月に適用される残業代の割増率アップです。これまで労働基準法では月60時間超の残業については、割増賃金率を50%以上とすることが定められていました。中小企業においては適用が猶予され、25%以上でよいとされていたのですが、2023年4月からは大企業と同様に50%以上となります。

「人事や総務の担当者としては、法律に合わせて就業規則や賃金・給与規定を変え、給与システムの割増率を変えるだけですから、作業としてはシンプルです。ただ、残業の割増率がこれまでの2倍になることは、経営者にとっては頭の痛い問題でしょう。

「残業代の割増率アップ」に備え、働き方の見直しを

そもそも、1か月で60時間を超える残業があること自体が問題です。36協定でも、本来は1か月45時間以内、年360時間が上限という原則があります。特別条項を締結するにしても、その範囲に労働時間を削減する努力が大切です。長時間残業が常態化している場合は、工数の見直しや生産性向上を図る取り組みを、今年一年かけて行うべきでしょう」

5.法改正をきっかけに、気持ちよく働ける労働環境の整備を

中小企業がまず取り組むべき三つの法改正への対応について、解説してもらいました。ただ今後も、企業の人事や総務担当が考慮すべき法改正は続くでしょう。最後に、それに対して適切に対応するためのアドバイスをいただきました。

「人事労務に関わる法制度自体は、基本的に大企業と中小企業を区別するものではありません。ただ法改正の内容によっては、リソースの少ない中小企業ではすぐに対応しづらいものもあります。そのため、まずは大企業から施行が始まり、その後、中小企業に適用されるケースが多いのです。中小企業は、大企業が法改正に対してどのように対応しているのか、その動向を参考にしながら、準備しておくとよいでしょう」

また、人事労務担当者は日頃から、法改正に関わる情報の入手を心がけ、早めに対応を進めることが大切だと佐佐木氏はいいます。

「時間がないなかで効率的に情報を取得する方法として、ニュースや新聞、人事総務関連の専門雑誌、社労士が発信しているSNSやメルマガなどをこまめにチェックすることをおすすめします。

働き方改革関連の法改正に関しては厚労省がリーフレットやパンフレットを出していますし、最近は解説動画が作成されているので、それらを参考にするのもよいでしょう。また、人事労務系のデジタルツールを使っていれば、システムの法改正対応予定など法改正についての情報を早めに案内してくれるはずです」

最後に、中小企業の経営者や人事担当者に対してメッセージをいただきました。

「今はコロナ禍ということもあり、多くの中小企業が厳しい経営環境にあります。なかでも最大の悩みが、『いい人が採用できない』『いい人が辞めてしまう』といった“人”に関わる問題です。私もよく相談を受けますが、この問題を解決する一番の方法は、やはり人が喜んで働きたくなる環境を整備することに尽きると思います。

実は中小企業のなかにも、人事労務面で大企業以上に先進的な取り組みをされているところもあります。そのような会社は、その取り組みをしっかりと社外にアピールした方がよいでしょう。また、そうした事例を広く共有して、中小企業全体の働き方改革につなげていくことが大事だと思います」

※取材を行った2022年3月時点での情報です

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