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慶應大蟹江教授「SDGsがこれからのビジネスの道しるべになる」

慶應大蟹江教授「SDGsがこれからのビジネスの道しるべになる」

最近メディアでよく取り上げられるSDGs。持続可能な社会を実現するための目標に、企業はどう向き合えばいいのでしょうか。慶應義塾大学の蟹江憲史教授に聞きました。

目次

1.コロナ禍で持続可能な社会を目指す機運が広がっている

最近、テレビや新聞などさまざまなメディアでよく取り上げられているSDGs。国際連合加盟国が、持続可能でより良い世界の実現に向けて掲げた17の目標・169のターゲットのことで、2030年までの達成を目指しています。それに対して企業はどう向き合い、どう取り組んでいけばいいのでしょうか。日本におけるSDGsの第一人者、慶應義塾大学の蟹江憲史教授にまずは今、SDGsに注目が集まる理由を聞きました。

慶應義塾大学 蟹江憲史 教授
慶應義塾大学
蟹江憲史 教授

「SDGsは2015年の国連総会で全加盟国が合意し、今年6年目を迎えました。過去5年間で、認知が徐々に広がってきています。さらに、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行によって現代社会の脆弱性があらわになったことも、SDGsが改めて注目されるきっかけになったのではないでしょうか。他にも、気候変動が原因と考えられる災害の多発もあり、経済成長重視の価値観やライフスタイルへの疑問を持つ人が増えていることも影響しているでしょう」

つまり、社会情勢や価値観の変化によって、人々の意識が変わり、持続可能な社会を目指す機運が広がっていることがSDGsに注目が集まる大きな要因になっていると言えそうです。

「近年、日本で食品ロス削減やレジ袋有料化などの法律が成立したのも、人々の意識の変化が影響していると考えられます。とりわけ今の10代・20代は生まれてからアメリカ同時多発テロ事件やリーマンショック、東日本大震災といった大きな出来事を目の当たりにし、さらには相次ぐ水害、パンデミックといった脅威とともに過ごしてきました。この状態を放置していると地球環境や人類社会は取り返しのつかないことになると、自分ごととして強い危機感をもっているのです」

SDGsはまさにそのような地球規模の危機を想定して、人類の社会を持続可能なものにするための目標です。SDGs採択から最初の5年は、まずは多くの人がこの目標を認知することが大きなポイントでした。しかし、2020年から2030年までの10年間は、いよいよ“行動の10年”となります。世界全体でゴール達成に向けた取り組みがますます加速していくことになります。

2.近江商人の「三方よし」はSDGsにもつながる

持続可能な社会を目指すためには企業もSDGsに目を向けなければなりません。SDGsへの取り組みが広がるなか、企業はどう向き合っていけばいいのでしょうか。

「まず、企業にとってSDGsは、今後の長期的ビジョンを考えるうえでの指針となります。SDGsは国連の全加盟国が合意した、未来の社会の姿を示すものです。つまり、SDGsについて知ることは、これから先の世界を予測することにつながります。自社の事業や日本・世界のビジネスがこれからどうなっていくのか、未来に向けて自社をどう舵取りしていけばいいのかを考えるためのヒントが得られるのです」

とはいえ、企業の経営者の中にもSDGsという言葉はまだピンとこない、あるいは自社の事業とは縁遠いものと感じている人は少なくないでしょう。しかし、実はSDGsが掲げている理念は、日本企業にとってそれほど特別なものではない、と蟹江教授は言います。

「SDGsが目指している内容は、多くの日本企業が昔から企業理念として掲げているものと通じるところがあります。たとえば、近江商人の経営哲学として知られる『三方よし』という言葉です。これは、売り手・買い手・世間、それぞれにとって利益があるのが良い商売だという考え方です。

つまり、自社の利益だけを考えるのではなく、地域や社会全体の繁栄を考えるという姿勢を、日本企業は古くから持ち続けてきました。その考えはまさにSDGsとシンクロします。SDGsについて詳しく知れば、実は自分たちがこれまでやってきたことに近い、と感じる会社は少なくないと思います」

蟹江教授は、企業がSDGsに取り組むための第一歩として、自社の理念や事業とSDGsとの結びつきを整理し、紐付けることを推奨しています。

「自社で行っていることを改めて棚卸しして、SDGsが掲げる17の目標、169のターゲットとどのように結びつくのかを整理しましょう。その際に大事なことは1つの目標やターゲットだけに注目するのではなく、バランスを意識すること。SDGsは17の目標すべてを合わせて、一体となっています。

たとえば、事業の生産性のアップに貢献できるような取り組みでも、実はそれによって大量の廃棄物を出してしまうなど、他の項目にとって悪影響があるのでは意味がありません。経済的なメリット、環境や資源の問題などを含めた持続可能性、雇用の多様性や働きがいなど多様な視点から考えることが大切です。

手間のかかるプロセスかもしれませんが、SDGsの視点から会社や事業を見直すことで、これからの社会における自社の存在意義と、事業活動が目指すべき到達点がより明確になり、持続可能な経営へつながっていくことでしょう」

3.SDGsを経営に取り入れ、成果を上げる中小企業も

SDGsに取り組むことによって、企業は、自社と社会との関係を再確認することができます。加えて、蟹江教授は企業がSDGsに取り組むメリットとして、新しいビジネスチャンスにつながる可能性があると言います。

「企業は多くの場合、自社の現状を元にして物事を考えます。そのため、今こういう状況だから、次はこういうアクションをするといった発想になりがちです。一方で、SDGsは未来の目標です。そのため、経営にSDGsの視点を取り入れると、現状からではなく目標をベースとした発想を促されます。

すると将来、自社が理想とするあるべき姿を実現するために、どうすればいいか懸命に考えるようになります。これが新たなアイデアやイノベーションにつながるのです。SDGsへの取り組みは、日本企業が未来に向けて大きく変わるチャンスだともいえるでしょう」

実際に今、SDGsに基づいた価値観を重視し、新しい発想のビジネスで業績をあげている中小企業が日本でも現れています。

「たとえば、スーパーで賞味期限切れになった食品を集めて家畜の飼料にし、育てた家畜の肉を卸している会社があります。この会社は雇用の多様性にも力を入れていて、離職率も非常に低くなっています。ほかにも、既存の流通では排除されてしまうような形の悪い野菜などを、直接農家から仕入れて消費者に届けている企業、太陽光発電の電力で印刷を行うユニークな印刷会社なども注目されています」

かつては、こうした事業は、手間やコストがかかり、ビジネスとして成立させるのが難しいとも言われてきました。しかし、現代では技術が進化し、消費者の意識も変わったことで、経営的にもうまくいく事例が増えてきたと蟹江教授は言います。

「最近は、会社やブランドの理念に共感して、ファンになる消費者が増えています。そのような顧客は多少価格が高くなったとしても、共感する企業の製品・サービスを選ぶ傾向があります。持続可能な社会の実現を目指すためのアクションを行い、共感を集めることが企業の経営の安定化につながるケースも少なくありません。実際にSDGsを掲げることによって取引先やファンを拡大させている企業は増えつつあります」

4.今、中小企業がSDGsに取り組めば、他社との差別化が図れる

企業にとって、SDGsに取り組むことはイノベーションの創出や経営の安定化を促します。しかし、大企業でSDGsの取り組みが進む一方、中小企業ではまだまだ認知が十分ではないと蟹江教授は言います。

「SDGsは義務ではないので、取り組まなくてもペナルティはありません。よって、多くの中小企業ではまだ優先順位が低いものとされ、取り組みが進んでいない面があります。しかし裏をかえせば、今SDGsに積極的に取り組む中小企業は他社との差別化を図れます。

また、企業が持続可能性や社会的責任を重視するかどうかは、対外的な評価にも影響するようになるでしょう。世界では、すでにアップル社やフォルクスワーゲン社などのように『持続可能性を重視する企業と取引をする』と宣言する企業も現れています。地方自治体でも、地元企業のSDGsの取り組みを登録・認証し、積極的にサポートする動きが始まっています」

さらに、中小企業にとって大きな課題である人材確保の面でも今後、SDGsへの取り組みが影響してくると言われています。

「今の若い世代は、企業の価値観や社会貢献に対する姿勢などを重視して、就職する会社を選ぶという人が増えています。そのため、今後中小企業が優秀な人材を集めるためにも、SDGsの取り組みは大きな鍵となるでしょう」

最後に蟹江教授に、SDGs達成のために、中小企業に期待することを語っていただきました。

「SDGsというと国連の取り組みという印象もあり、中小企業の経営者にとっては、一見自分たちのビジネスとは関係ないと感じられるかもしれません。でも実は、SDGs達成のために中小企業ができることはたくさんあります。日本経済を支えているのは中小企業ですから、その役割と責任は大きいでしょう。

コロナ禍で社会が大きく変化している今こそ、長期的な視点に立ち、将来にわたってビジネスを継続していくための取り組みを始めていただきたいと思います。SDGsはそのための最高の道しるべになるでしょう」

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